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「あれ。」
はたきをかけている途中で見つけたのは、本棚の中に、一冊のクロッキー帳。ドイツの絵あるかな!?と即決で掃除は中断(もうほとんど終わってたし)、それを手に取りリビングのソファに飛び込んだ。
きちんとくくってあるリボンを解けば。

「うはー…ドイツっぽい…」
写生だ。題材は、これ庭にある木だ。気に入らなかったのか何枚も何枚も書き直して。だんだん細かくなっていく描写に、苦笑。
「そんなにきっちり描かなくても…」
でもドイツらしい。
最終的に、納得がいったのか妥協したのか、出来上がった木のスケッチを見ると、本物をできるだけ忠実に真似ようとがんばったのがよくわかった。
それ以来封印しているようで、最初のあたり以外はすべて白紙。
「ん、んー…」
見てると描きたくなってきた、い、いいかな、いいよね?こっそり戻しとけばばれないだろうし。うん、うん。
一枚めくって、筆記用具、と自分の部屋にとって返した。こないだの買い物ねときについ買ってしまったのは、自分がいつもスケッチに使う鉛筆。
くるりと回して、椅子を持ってきて窓を開け、ドイツが描いてた木をまっすぐに見る。
「…よし!」
後は、思うままに鉛筆を走らせて。



「ん…」
瞼を上げる。いつの間にか寝ちゃってたみたい、だ。シエスタの時間近かったからなあ…思いながらゆっくり体を起こす。体から滑り落ちる毛布。あれ、俺いつのまにソファに移ったんだっけ?
ぼやけた視界をなんとかしようと目をこすっていると、後ろ姿が見えた。
俺が置いたままの椅子に座る、金髪の。
「ドイツー…?」
その目は熱心に何かを見つめている。何だろ、と立ち上がると、そこには。

クロッキー帳。

「!!ご、ごめんドイツ!勝手に」
「ああ。…これ、イタリアが?」
慌てて走っていくと、クロッキーを見せられた。う、うん、とうなずく。
「全部?」
「…ごめん、結構描いちゃって…」
描いてたら止まらなくなっちゃったんだ…。クロッキー帳半分、くらい…あーあ…ごめんなさい…
「…上手だな」
「え、そうかな…じいちゃんの方が上手だし…あと兄ちゃんの絵の方が好きなんだけど」
「いや、本当に。」
「あ、ありがと…」
なんだか照れる、な。
じっと俺の絵を見つめる、ドイツ。その目は、真剣で。…な、なんかあったの、かな。

「…そうか、おまえはイタリア、なんだな…」
「え?うん。そうなんだけど、え?」

なあに?と首を傾げると、いや、と口元を手で押さえて。
「ドイツ?何か顔赤いよ?」
何照れてるんだろう。
「いや、その、」
ちら、と青い瞳が俺を見て、すぐにそらされた。
「?ドイツ?」
顔をのぞきこむと、逃げられた。何?
「…これ、もらってもいいか」
「うん。というか、もともとドイツの、だし。」
「そう、か。そうだな。」
じゃあ。と閉じて、持って行くドイツを見送って。

…あれ、ちょっと待って俺、最後のページに何描いてたっけ!?
気づいてあー!と叫んでクロッキー帳奪おうとしたら、ひょいと上に上げられた!ああもう届かない!
「だ、だめだめ!最後のページはだめ!」
「イヤだ。俺の、だろう?」
ドイツの意地悪〜!
ばたばたしても返してくれなくて。
ドイツが照れてた理由もわかった、だって最後のページには!

ほかでもないドイツの絵!

結局どれだけ言ったって、ドイツは返してくれなかった。


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