|
「じゃあ、オーストリアさん。」 そう言って彼を振り返る。 今日は、独立する日。今、このドアを出て行けば、今まで通りには戻れない。 でも。後悔はしていない。 だって。 「がんばってください。私もできるだけ、助けますから。」 「はい!がんばります!」 任せてください、と拳を握ったら、頼もしいですよ。と一言。と苦笑。呆れてるな、これは。 こほん、と咳払いして、す、と彼を見る。 「オーストリアさん。」 「はい?」 「今日までお世話になりました!」 ありがとうございました。きっちり頭を下げて。 「こちらこそ、ありがとうございました。」 その声を聞きながら、顔を上げて、笑う。 「最後にお願いがあるんですけど。」 「?ええ。何でもどうぞ。」 力になれることなら。そう言われて、息を大きく、吸う。 「私、すっごくがんばりますんで、一人前になったら、私のことお嫁さんにしてください!」 「……はい?」 「言っときますけど、冗談じゃないですよ、本気ですから。…あなたが好き、です。」 ねえ。オーストリアさん。 独立しようと思ったのは、このままじゃなにも変わらないと思ったから。何か変化をつけなきゃって思った、から。 彼のそばにいるだけじゃ、満足できないのなら、彼のもっともっと近くに行きたいのなら、自分で、行動を起こさなくちゃ! でも、離れてくだけ、じゃ、意味ないから。それだけじゃ、だめだから、ちゃんと、自分の気持ちを伝えてから行こうってそう決めて。 ……笑ってみせてるけど、実は、心臓ばくばくだし手は震えてるし、もう逃げ出したくて逃げ出したくて仕方がない。 けど。逃げないで、いられるのは。 ねえ、そんな顔赤くしないでくださいよ、オーストリアさん。 私の気持ちを受け取ってくれるのではないなら。 期待、しちゃいますよ? 「…あなたには敵いませんね。」 やれやれ。そう彼は笑って。 ふわり。甘い香りに、抱きしめられる。 ぱちんと思わず、瞬いて硬直、した。 「私は、いますぐ、でも構いませんよ?」 挙式の用意が少々間に合いませんが。 そう言いながら、囁くように好きです、と言われて、何も言えなくなって静かに目を、閉じた。 そのとき、きん、と小さな金属がぶつかるような音と。 扉が開く、音がした、気がした。 |