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いつもどおり屋敷の掃除をする。
ここは本当に…本当に。広いから。掃除するのも一苦労。
だけれど、オーストリアさんのためだもの、と思えば、それくらい、大したことじゃなくなる。
「…今日のお菓子は何にしようかな?」
そういえば、ドイツからもらったチョコレートがあったはず。それにしようと微笑んで、こっそりと歌を歌いながら、箒を動かす。
歌、上手になったかしら。毎日はちょっと、と勘弁してもらって、週に一回、彼の前で歌うけれど、やっぱり彼の方が断然上手で。でも楽しい。
彼と一緒に暮らせる、それだけで楽しくて、仕方ない。


廊下の掃除をしていると、一番端に見えてくるのは、オーストリアさんの執務室だ。
端っこのほうが埃溜まるのよねえと思いながら、隅まで綺麗にしようと箒の下の方を持って掃いて。

「…そうですか!…ええ、色好い返事を……ですよ。…ええ、…は盛大に……しょう。」
オーストリアさんのうれしそうな声が聞こえて、なんだろう、と辺りを見回して誰もいないことを確認してから、そっと耳をドアに当てた。こんなこと、しちゃいけないのはわかってるけど、でも。

…こっちのオーストリアさんが、こんな、嬉しそうに声を上げるの聞いたの、初めて…
だから、ちょっと、だけ。

「ええ。…もちろん……それで…。」
ドアの向こうの声はオーストリアさん一人分。…どうやら電話してるみたい。
相手は誰だろう。そう考えるけれど、わからない。どうやらドイツとかイタちゃんとかプロイセンとか、そういうよく知ってる人じゃあないみたいだけど。
「それで、その日程は。」
…それにしても、さっきから…なんの話をしているんだろう?色よい、返事?
「あなたと…一緒に…れるとは…ええ、ありがとうございます。それでは。」
かちゃ。電話を切る、音を聞いて、何だろう、と首を傾げる。
どうしよ。気になる。…でも掃除、まだ終わってない、し。でも。
「…ううん…。」
…だって、気になる、もの。掃除手につきそうにないもの。

もうちょっとだけ、オーストリアさんごめんなさい!そう思って、もうちょっと聞きやすくならないかなあ、とそっと、ドアに顔を近づける。
途端。
がちゃ。

「ふにゃっ!」
「!っ、な、…ハンガリー!?」
大丈夫ですか?聞かれて、鼻を押さえたままこくこくうなずく。
「だ、大丈夫、です。」
びっくり、したけど。ちょっと、ドアが激突した鼻は痛いけど。問題ない。そっちは。
……問題の盗み聞きしてたのは、ばれてはいない、はず…!

「えへ、えへへ…」
笑ってみせると、痕にはなっていないようですね。と一言。
「まあ、ちょうどよかった。」
「は、はい?」
「話があります。」
ただ、私は今から出かけるので、後で、になりますが。
ちら、と見上げる。…機嫌の良さそうな、表情。

「ええと。どんな…?」
「…今聞きたいですか?」
「え、あう…」
ど、どうしよ?聞きたいけど、ちょっと怖い…
…でも。
「聞きたい…かな」
気になります。そう言えば、そうですか、とうなずいて。


「縁談がきました。」
「……は、い……?」


「…だれ、の、ですか?」
思わずそう尋ねると、私のです。とさらり。
「は……?」
「まあ、政治的な観点が大きいんですが。」
そんなに驚くことでしょうか。首をかしげる彼。
「あまり強い国とはいえませんから。婚姻と同盟と。そういったことで国を強化していくのはあたりまえのことでしょう?」
…ああ、このひとにとっては、そういうこと、なんだ。婚姻って。
でも、昔。彼は、そう。私とも。…でも、けど、だって。
「ハンガリー…?」
不思議そうな声に、指を握り込んでぎゅ、と手のひらに爪を立てて。
仕方ないことなんだ。きっと。
「それと同時に、あなたの独立、も考えているのですが…。」

ああ、そうやって。彼は。私じゃない他の人と。
…暮らすんだ。


「…嫌です。」
「じ、冗談、ですよね?」