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迎えたパーティ本番の日。
変なことすると、彼に迷惑かかっちゃうわよね、と気合いを入れる。綺麗にしないと。できるかぎり。
高く結った髪に、ドレスと同色の髪飾りをつけたら完成、だ。

用意できましたか、と外からかかる声に、今行きます、と返事をして。
鏡で最終チェック。…よし。
ドアを開けばきっちりと燕尾服を着込んだオーストリアさんの姿。…やっぱかっこいいなあ…
「大丈夫ですよ。」
思いながら声をかける。…あれ、反応がない。
「?オーストリアさん?」
「あ、いえ。…行きましょう。」
慌てたように先を歩く彼に不思議に思いながらはい、と後を追いかけた。


まあそりゃあ当たり前といえば当たり前なんだけど、何の問題もなくパーティーは終わって。
イタちゃんとかドイツとか、知り合いも多かったからそんなに緊張しないで済んだし。彼の仕事の手伝いも、ちょっとはできたんじゃないかなあ。…たぶん。橋渡しとか。会話の緩衝材とか。うん。
そう思いながら帰り道を歩いていたら、ありがとうございました、と隣から声。

「何がですか?」
見る。なんか感謝されるようなこと、した?
「先ほどのパーティーですよ。…かなり助かりました。」
あなたがいなかったらこれほどうまくはいかなかったでしょうって…
「あれくらい、当たり前ですよ。」
ふつうに、お手伝いをしただけ、だ。あれくらいイタちゃんでも、というかイタちゃんの方が得意かも。しゃべりが達者だからあの子は。それに引き替え…なのはドイツの方。
…じゃなくて。

「あれだけうまくいったのは、オーストリアさんががんばったからですよ。」
知っている。今日のために前調べをだいぶしていたのを。だから。
ね?と笑って見せると、彼はしばし呆けたように立ち止まって。

「オーストリアさん?」
「…あなたがいてくれてよかった。」
そう、思いまして。柔らかい、うれしそうな、でも困ったような笑顔。
思わず息を飲んだ。…そんな風に言われるとは、思ってもみなかった。
「ああ、けれど、ダメですね。…あなたについ頼ってしまってしまいそう、ですよ。」
ずっと一緒にいるわけではないのに。…頼るのが癖になってしまいそうです。あなたがいてくれるのは、心強いのですが。
困ったようにそう言う彼に、心が軋む。
ずっと一緒にいるわけではないって、そう、思ってるんですね、貴方は。
「…すみません、困らせるつもりはなかったのですが。」
忘れてください。…寂しそうな笑顔に、咄嗟にその手を、掴んだ。
びっくりしたように、大きく見開かれる目。自分が映るのが、見えた。息を、吸い込む。


「ずっと一緒にいます!」
「!!」
「私でよければ!ずっと!」
怒鳴るみたいな勢いで叫んで。
ぱちぱちと、瞬くオーストリアさんに見つめられて、やっと正気に、戻った。

「…め、迷惑じゃ、なかったら、ですけど…。」
え、えへ。
…って今更遅いかなあ…。思いながら愛想笑い。
けれど彼は、小さく息をはいて。
…ああ。そう。笑うなら、その笑顔がいい。
困っていても、何でもいいから、楽しそうな笑顔の方がいい。

「貴女は、もう少しおとなしい女性かと思っていましたが。」
「う。」
すみません…と謝る。叫ぶことはなかったよなあ、うん…反省。
「…赤が似合う情熱的な人でもあるんですね。」
よく似合っています。そのドレス。この髪飾りも。
そう言いながら触れられた髪に、ふらりと倒れるかと、思った。がんばって耐えたけど!


帰りましょうか。そう言って、歩き出す。
踏み出した足に、かつんと当たる、何か。
「…あれ。」
見れば、きらりと光る金属の。
「あ…!」


『鍵のかけら』を手にいれた!



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