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ふふん、と鼻歌を歌いながら歩いていると話し声が聞こえた。
そういえば、今日スペインさんが遊びに来るって言ってたっけ。昔から仲がいい二人は、よくお酒を飲んだり、フランスさんの料理を食べたり、何もなくてもしゃべってる。
邪魔するつもりはないのだけれど、挨拶しとくべきかな、と通り過ぎようとしていた足を止める。

「そういやフランスって歌上手い子がタイプってほんまなん?」
聞こえてきた特徴ある言葉に、え。と、思わず息を殺した。

こそ、と中をのぞく。きらきらした楽しそうなスペインさんの笑顔が見えた。…こっちには気づいてないみたいだけれど…。
「どこから聞いたんだか…」
「まあええやん。で?」
どうなん実際。そう尋ねられて、後ろ姿しか見えないフランスさんは、肩をすくめた。
「好きだよ。…特にラブソング歌われたりするとたまらないねー。」

によによしてそうな声。…そうなんだ。思いながら、ふと思い出してしまう言葉。
『カナダがこんなに歌上手だったなんて…もっと早くに知りたかったなあ。損した。』
そう言ったのが誰か。…フランスさんだ。今目の前で好きな子の仕草とか話してるこのフランスさんだ。
「確かに、ええよなあ。」
「だろう?」
楽しそうな声に、息を飲んだ。
それって。…それって、僕もそういう対象に入ってるって、期待していいってこと…?
体を引いたら、植木鉢に足があたって、がたん、と音が立ってしまった。
「!」
「ん?」
ぱっとこっちを振り向く視線に、あわあわしながらす、すみませんぶつかっちゃって、と笑顔を浮かべてみせる。
「おー。カナダ。元気そうやね?」
「はい!こんにちはスペインさん!」
何とか誤魔化してじゃあ急いでるんで、と頭を下げて、ぱたぱたと走り出す。
…フランスさんの表情さえ見てる余裕なんて、なかった。
顔が熱くて、心臓がどきどきして、今日はもう眠れそうになかった。



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