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今日は、フランスさんのところで世界会議。…とはいっても、属国の僕は参加しなくていいらしい。だから、資料用意したりお茶用意したりと、お手伝い。
アメリカが完全に僕の存在をスルーしたのはもういいけど…慣れてるし…日本さんなんかは頭を下げてくれたのはいいけど、きっと名前は覚えられてない。困った顔してた。もー…。

「おいこらアメリカ!」
廊下を歩いていたらそう響いた声に、またか、とこっそり思った。
最近はましになってたはずなのに…怒ってたり焦ったりしてるとまだ間違うよね、イギリスさん…
ってそうか、こっちではどうなってるかわからないんだっけ。思いながら、怒鳴りはじめてしまったイギリスさんにどうやって違いますって言おう、とタイミングを探していた。もー…今度は何やったんだよアメリカー…イギリスさんかんかんにさせるのだけは上手いんだから全く…
あの、と声をかけるけど聞いてくれないイギリスさんに弱り果てていたら、後ろからぐい、と肩を引かれた。
「わ!」
「おいおいイギリス、自分の育てた子の区別くらい付けようぜ?」

声にはっと振り返る。…フランスさんだ。
ぱちん、とウインクされて、瞬く。
「何だよフランス、ケンカなら買うぞ?」
いらいらした声に慌てて前を向いたら、両肩にぽん、と手を乗せられた。
「こいつはカナダだぞ?」
「…ん?……あっ!」
やっと気づいてくれたらしい。ごめんなカナダ、とすまなそうに言われて、いえいえ、と首を横に振る。
「慣れてますから…」
「なれ…っておいイギリス…おまえ何回間違えたんだよ…」
「ごめんな…ってああ!アメリカ!」
イギリスさんの大声に振り返れば、ん?と首を傾げたアメリカがいた。…よりによってなんで似た色のスーツ着てくるかな、もー…。
「ほんとにごめんな、カナダ!こらアメリカおまえなあ!」
隣を通る時に謝って、そのまま走っていってしまう姿を見送る。
「まったく…あいつもなぁ…」
声にはっと気づいて、あの、ありがとうございました!とフランスさんにお礼を言う。
「うちの子困ってたら助けるのは当たり前だろ?」
当然のことをしただけだよ、と頭を撫でられた。…子供じゃないんだけどな。でも。触れる体温がなんだか嬉しくて、甘受する。
「でも、フランスさんよくわかりましたね?」
僕とアメリカは本当によく似ているから。だから、長いこと一緒に暮らしてきたイギリスさんさえ、ああやって間違えるのに…。
この人が、僕と過ごした時間はまだほんの少し、のはずなのに。
「わかるさ。」
だって、全然違うじゃないか。
そんな風に言われて、思わず彼の顔を見上げた。
「カナダはカナダ、アメリカはアメリカだろ?見間違えたりするもんか。」

…ああ。この人は。
じわりとにじんだ視界に、おい、と焦ったフランスさんの声。
「す、すみません、大丈夫です…」
そう言って笑って見せて、涙を拭う。
同じことを言うんだ、そりゃあそうか。だって、彼は。フランスさん、だから。
世界中の誰が見間違ったって、俺は間違えないからって、そう頭を撫でてくれた、彼と同じ人だから。
驚いた顔をしているフランスさんに、すみません、ともう一度謝ると、困ったように笑って、またくしゃくしゃと頭を撫でられた。優しい手に、擦りよる。
「おいフランス!会議開始の時間だぞ。」
遠くから聞こえたドイツさんの声に、温かい感触が離れて残念で思わず声を上げそうになった。すぐに口を閉じたから、気づかれてない、たぶん。
「残念、時間切れだな。」
じゃ、また後で、と投げキッスされて、はい、また後で、と手を振った。

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