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パン、ミルク、卵、砂糖と、後野菜!
だいたい買ったかな。と息をついて帰りましょうか、フランスさん、と言おう振り返ると。

「…あれ。」
いない…。しばらく見渡せば。

あ。めっけ。女の人と話してる。…もう。またやってる…いや別にいいんだけど…いつものことだし。挨拶代わりなの知ってるし。
ああなると長いんだよなあと、ため息。
そしてあまり見ていたい光景ではないので、辺りを見回して。

楽しげに話す人々。響く子供たちの笑い声。どこかの家から漂ってくるおいしそうな夕食のにおい。
夕暮れの街はとても、柔らかい空気に包まれている。柔らかくて暖かい雰囲気に満ちている。
…それは、僕の家とは違うものだ。
明るい活気ではなくて、包み込むような暖かくて優しい空気。長い間、繰り返してきたからだろうか。
長い年月を刻む町並みを見るだけでも、その空気を感じられる。思わずほっと、息をつくような。

彼そのもの、なんだろうなって、思う。この空気はきっと。
僕もいつかはこんなふうになれるのかな。初めて出会ったそのときからある憧れは、今も変わらずに心の中にあって。

不意にとんとん、と肩をたたかれた。
「何見てるんだ?」
「フランスさん。」
挨拶は終わりました?ああ。待たせてごめんな。そんな風に会話を交わして、また街を見る。

「…綺麗ですね。」
そうつぶやくと、カナダはここ、好きだよな。と笑いを含んだ声。
「暇さえあればここから街見てるだろ。」
そうかもしれない。坂の上のここからは、通りがずっと見渡せるから。商店街や街に暮らす人々を見ているのは飽きない。

「そんなに気に入った?」
「はい。とっても。」
暖かくて優しくて。フランスさんみたいで、素敵だと思います。
そう言うと、彼はそんなに褒められたら今日はデザートつけなきゃだめかな?なんて茶化して言うから、ちょっとむっとして、彼に向き直る。
「本当ですよ。本当に、心から素敵だと思ってるんですから!」
じっと見上げると、困ったように眉が寄って、それから、あーとか言いながら視線がうろつきはじめた。

「…あー…ありがと、な。」
……あれ。もしかして。
「フランスさん照れてます?」
滅多に無い光景にきらきらと目を輝かせる。照れてるフランスさんなんてほんとに滅多にお目にかかれるものじゃない!
「いやあそんなことはないけど…。」
「じゃあこっち見てくださいよ。」
言っても、ちら、と見るだけでまたそらされる瞳に、小さく噴き出して。

「…、ほら帰ろう!」
「はあい。」
先を歩き出してしまった彼に、ちょっとだけ走って追いついて、その前にしか向けられない顔を見上げてそっと、笑った。


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