「髪、」 「んー?」 「切らないの?」 後ろからの声に振り返る。あっこら!って怒られた。 「髪くくってって言ったのあんたでしょ!邪魔しない!」 「はあいごめんなさーい」 前に向き直って、目を閉じる。髪に触れる細い指。…思わず頬がゆるむ。 「で?切らないの?」 「うーん、こうやってエリが触ってくれなくなるしなあ。」 「あのね!」 「まあそれはもう一つの理由、で。」 願掛けなんだ。笑いながら言うと、あんたにそんな願掛けしたい願い事なんかあるの?ってひどいなー… 「あるよ?大事な願いごとが。」 「ふーん、どんな?」 「…ヒミツ。」 えー!ずるい!という声を聞きながら笑う。 「だって口に出したら叶わなくなりそうだろう?」 「…それは…そうかもしれないけど…」 教えてくれたっていいじゃない。すねた声にだーめ。と返事をする。教えて上げるわけにはいかないんだ。ごめんね。 「はい、できたわよ。」 ぽん、と背中をたたかれて、ありがとう。とお礼。 そのついでに、離れていく指を捕まえて、白いそれにキスを落とした。 「な!」 「怒らない怒らない。」 「もー!」 真っ赤な顔を見ながら小さく、笑ってみせる。 願わくば君が、この指を俺に置いておいてくれますように。 きゅ、とその小さな左手を握りしめて 戻る . 「あああもう!」 「な、何ですか!」 いきなり上げた声に、びく、とケイが震えた。 「シャッターチャンス逃した!もう一回やんなさい!」 「いいですけど…めずらしいですね…」 サラがシャッターチャンス逃すなんて。余所見でもしてました?小さく苦笑する彼をファインダー越しにみながら、思わずちくしょう、と呟く。 「そんな言葉使ったら怒られますよ〜」 「うっさい!」 こっちはプロなのだ。逃すとかありえない! でも、ファインダー越しの、その姿は。 きりりと弓を構え、まっすぐに的を見据えるその姿は、…呼吸も何もかも忘れるくらい綺麗で。 …悔しいと思った。 やめた。と言ったら、彼は困ったような顔。 「お気に召しませんでした?」 うん。とうなずく。 弓道着に身を包んだままの彼はそうですか、と呟いて。 だって気に食わない。シャッター切ろうにも、頭真っ白になっちゃうし、それに。 もったいない、と思ったのだ。写真に残すのが。 綺麗なものは撮っておくべきだと思っていた。今もそれは信念みたいなもの。 でも。もったいないな、と思ったのだ。 この'瞬間'、を、私以外のだれか、たとえ大切なパートナーであるカメラにだって、残すのが。 私の中にだけ残っていればいい。そう思ったから。 でもなんか悔しいからそんなこと教えて上げないんだけど。 「…サラ。」 「何。」 「考えが口に出てます。」 「っ!?」 慌てて口を押さえると、ケイは楽しそうにもったいないんですか。へえ。とくすくす笑った。かああ、と頬が赤く染まる。 「なによー!」 「いえ。かわいいなあと。」 「う、うるさあい!!」 ああもう不覚…!はああああと深くため息をついた。 戻る |