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怒ったら怖いのってだれだと思う?マリアの何気ない一言に、二本の腕がまっすぐリリーを指した。

「ええ、私そんなに怖くないよ?」
困ったような笑顔を浮かべるリリーに、いいや怖い。マジで。と、マックスが言い、ルキーノがうなずく。
「それは二人が悪戯やりすぎるからでしょう?」
「サラからかって怒らせたり、よくしてたもんねえ。」
同情の余地なし、といった様子のまわり。
「このあいだだって…」
「そうそう!」
「え、何?」
このあいだ?と1トーン下がったリリーの声に、年長二人が焦る。
「わー!わー!」
「そ、そういうマリアはどうなん!?」
いきなり言われて、私?とマリアが首を傾げた。

「んー…パパかな。怒るとすっごい声で怒鳴るんだもん。」
「まあそうだろうな。」
妥当だ。ガヴィも?とルキーノが聞くと、俺は、父さんはそんなに怖くない。だそうだ。
「なんで?」
「怒る対象がだいたい一緒だから。」
イタリアアアア!そう怒鳴る声が、聞こえた気がした。

「ベアトリクスは?」
「…私も、お父様ですね。」
とても厳格な彼女の父。これもまあ、妥当だ。
「そうか?そんなに怖くないけどな。」
マックスの言葉に、それはお兄様が怒られ慣れてるからです。とにべもない返事。
ごほん、と咳払いひとつして、エリはどうだ?と話を変えた。
「え?そうねえ…ママかなあ。あとケイ。」
「僕ですか?」
「だって怒り方がママと同じなんだもの。」
絶対零度の笑顔で、名前呼ばれたりしたらもうほんと、血の気が引くわよ…
つっぷすエリに、それは怖そう、とイザベルが言う。

「うちは、3人とも怒鳴るからなあ。」
「怒鳴らせてるのはお兄ちゃんでしょ。」
ルキーノの言葉に、イザベルが呆れた視線を向けて。
「うちもリトが怒鳴るーでも全然怖くないし!」
楽しげなレジーナと、怒られたこと、ない。とアリシア。
「サラは?」
「うちは…リリーもだけど、ママかな。」
怒り方がリリーと一緒で、怖いのよ。サラの一言に、震える年長二人。

「そ、それは怖いなー」
「そうだなあ…」

「ところで、ルキーノ、マックス。」
「…はい。」
リリーの呼びかけに、二人の返事が揃う。
「『このあいだ』、サラに何したのか、僕に教えてくれるよね?」
ブリザードの吹き抜けそうな声に、二人はひ、と息を飲み、まわりは巻き込まれないうちに逃げよう、と退避を開始した。


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「アリシアさ、ほんとは、おしゃべりするの好きだよね?」
マリアの言葉に、黙々とフォークの本数を数えていたアリシアが顔を上げる。今日はみんなでパーティーだから、準備のお手伝い中だ。

「…嫌いじゃない、けど。」
「じゃあどうしてあんまりおしゃべりしないの?」
尋ねると、んー。と上を見上げて。
「パパが、かっこいい、から。」
「スウェーデンさん?うん、ちょっと怖いけど、かっこいいよね!」
最初会ったときは怖かったけど、しゃがみこんで頭ぐしゃぐしゃってしてくれたのがパパと一緒で、あ、いい人なんだなって思った。
あんまりしゃべらないけど、あっそっか。アリシアはスウェーデンさんのまねっこしてるんだ。
かっこいいよね。とちょっとうれしそうにアリシアは笑って。

「アリシアは、かっこいい人が好きなの?」
私もパパ大好きだけど。
ううん、と首が横に振られた。違うの?
「あ、わかった。アリシア、かっこよくなりたいんだ!」
こっくり、とうなずいた。
そっかー。パパみたいになりたいって思ってるんだね。うーん、私は無理かなあ。パパみたいには、なれそうにない。だってかっこよすぎるんだもの!
「…好きなのは、かわいい。」
「かわいいものが好きなの?」
「マリアも、好き。」
その言葉に、ダンケ、と笑う。

「姉さん、スプーンとってきたよ」
たくさんのスプーンを持って歩いてきたガヴィに、ありがと、と声をかける。
「ガヴィも、好き。」
「!?…グラッツェ。」
かあ、と赤くなって顔をそらしたのがかわいくって、私もすきーと笑った。



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「そうある、エリはなんにも悪くないあるよ!」
「でしょう!」
膝の上に乗った小さな少女。パパと喧嘩したの。だってひどいのよ!と始まった話をうんうんと聞いて、頭を撫でる。
髪の色も目の色も、あの眉毛と同じだけれど、エリは、中身は全く違う。とてもかわいい。

この小さな少女の方も懐いてくれているし。ああ、本当にかわいいなあ。
頭を撫でるとくすぐったそうな表情。
「私中国さん好き」
「本当あるか?」
うん!とうなずく彼女。それはうれしい。ありがとうと礼を言って。

「そうだ!私大きくなったら中国さんのお嫁さんになるわ!」
どう?目をきらきらさせる彼女に瞬いて、それは名案あるね!と笑った。
あーあ、いつまでもこれだけかわいければいいのに!




「アメリカさんかっこいい!」
きゃー!と明るい声にぐ、と親指を突き出す。
「そうだろう!」
「すてき!結婚して!」
「あはは!サラが大きくなったらな!」

抱き上げる小さな少女。金色の髪ときらきらした瞳。かわいいサラは、赤ちゃんの頃からすればそりゃあ大きくなったけれど、まだまだ小さい。
小さい頃のカナダみたいだ。あのころカナダも、すぐいなくなるけど、かわいいかった。

今は、あんまりサラ甘やかさないでよ?とか大人ぶって見せてるけど。子供たちと同列で俺のこと扱うんだ。あまり年変わらないくせに!

「やった!…それでねアメリカさん、ほしいものがあるんだけど…」
「何だい?何でも言ってごらん?」
こんなにかわいい女の子のおねだり聞かないわけにはいかないじゃないか!



「プロイセンさんは、結婚しないの?」
…子供の無邪気な質問ってやつは怖いな…
かつてのイタリアちゃんにそっくりな顔で、きょとん、とマリアは首を傾げた。
かわいいんだけどなあ。結構辛辣なこと言うんだよな。思いながら相手がいないんだよ、と教えてやる。

「どうして?プロイセンさんかっこいいのに。」
お。わかってるじゃないか!俺様かっこいいよな!
よくわかってるじゃないかと頭を撫でる。ふわふわ、はしてないが、さらさらした髪が触り心地がいい。

「あ!じゃあ、大きくなったら私がお嫁さんになってあげる!」
どう?とにこにこ笑う彼女に、大きくなったときに相手がいなかったらな、と苦笑した。



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「かーわーいいー!」
「賢いしなあ。」

マリアはうれしそうににっこり笑った。
「そうでしょ、アスターもブラッキーもベルリッツもいい子だもの!」
「ねえ。…でも、今はプロイセンさんの家にいるんだっけ?」
「そう。ガヴィが犬だめなのよねえ。」
軽いアレルギーみたいで。今日はいないガヴィを思い出し、ため息をつくマリアの手に、すんすん、と鼻を近づけてくるブラッキーに、ああもうかわいいなあとぎゅうう、と抱きしめて。


「いいなあ、かわいいなあ。」
「イザベルも好き?犬。」
「大好き!…でもお兄ちゃんがねえ。」
あの状態だから。見やる先には、恐怖の表情で壁に張り付いたルキーノ。
「詳しく教えてはくれないんだけど、なんかトラウマあるらしいよ」
「へえ…」
だから飼えないの。だから今のうちに楽しんどく!そう言うイザベルはそっと、ベルリッツに抱きついた。


「サラのとこは?」
「うちはクマ二郎さんがいるから。」
まあたまにしか会えないんだけど。ママのとこにいるから。
言うサラの隣で、リリーが、こおんな大っきいんだよ、と笑う。
「へえ…今度会いに行ってもいい?」
「いいよ〜」
マリアとそんな会話を交わして。


「エリのとこにはポチがいるよね?」
「ええ。かわいくって賢い子がいるわよー。」
エリがうなずく。ちっちゃくてかわいいよねー。言われてうれしそうに微笑んで。
「母さんがかわいいもの好きですからね。昔はモルモットとかうさぎとかいたらしいですけど。」
「へえ…今は?」
「たまにペットショップの前はりついてますけど…姉さんと。」
「だ、だってかわいいじゃない!」
言い返すエリに、悪いとは言ってませんよ、とケイは苦笑した。


「ベアトリクスは?動物だめ?」
「だめ、ではないですけど…」
滅多に触らないですね、と少し距離を空ける彼女に、じゃあ触ってみなよ、とブラッキーを差し出すマリア。おそるおそる、触れて。
「わあ…柔らかい」
「まあうちは、ベアトリクスが小さかったし、ペット飼おうって人がいなかったからなあ。」
「じゃあお父様に頼んだら、飼うの許してもらえますかね?」
ぱっと顔を上げたベアトリクスに、まあ、頼んでみるか、と苦笑した。


「アリシアの家も花たまごがいるもんね。」
こくんとうなずくのは、アスターの頭を撫でるアリシア。
「ちっちゃくてかわいいよね、花たまごも!」
「うん。…でも、おっきいわんちゃんも、かわいい。」
まふ、とアスターに抱きつくアリシア。ふかふか。感情をあまり表に出さない彼女が明らかに楽しそうなので、かなり気に入ってるということがよくわかる。
「いいな、パパにお願いしようかな」
「あ!もし飼ったら教えてね!」
こくん、とうれしそうに彼女はうなずいた。


「レジーナは?何も飼ってなかったよね?」
「いるよ」
「えっ何?」
「ポニー。」
さらっと言う彼女に、ポニー!馬!?とぱちぱち瞬いて。
「馬じゃないしポニーやし。」
「えっ乗れるの?」
「乗れるよ」
大人しいいい子やし!笑う彼女に、いーなあああと揃う声。
「じゃあ今度乗りに来る?」
「行く!」
揃った声に、レジーナはおかしいし!とけたけた笑った。


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「死屍累々。」
「辺り一面に死体が重なり合っていること。」
っていうか、今目の前に広がってるこの惨状のこと。
四字熟語の問題の出し合いをしていた姉の回答に、ケイは顔を上げた。

部屋中で、ぐったりしている子供たち。…まあ、テスト最終日の最後のテスト前の休み時間なのだから、こんなもんだろう。
ぴんぴんしているのは、エリとケイの姉弟と、次の教科の予習に余念のないベアトリクスくらいのものだ。
あとは、ぐったりしているか、もうやだーと愚痴っているか、で。

テストは、自分たちの親が作っている。一人一人特色の出るそれは、たとえばイタリアやカナダのように優しい人の物ならば、優しいのだが。

「もう…オーストリアさん鬼すぎる…何あのテスト…」
「あーあー、俺は忘れた。もう忘れたぞーもうあれについては返ってくるまで考えない!いくら父さんにねちねち言われたって!」
ガヴィとマックスが呻けば、もういやや帰るーとルキーノの声もして。
「帰れば?帰る勇気があるのなら、だけど」
「次の試験監督ドイツさんだものねえ。」
帰ったらどうなることやら。サラとリリーの言葉にちくしょう、と三人はぐったりして。
「パパのテストは、そんなに難しくはないけど、合格ライン高いのよねえ。」
「点低かったら、合格ライン越えられるまで再テストだし…」
「いややー!俺は遊ぶ!遊ぶんやこのテスト終わり次第!」
がばあ、と起き上がったルキーノの言葉に苦笑。だったら普段から勉強してればいいんですよ、とすげなく言うのはベアトリクスだ。

「まあ何にせよ、もうテスト開始なわけだけど。」
「げ。」
ルキーノが顔をひきつらせたのと同時に、ドアを開けたドイツの席に着け、という声が響いた。

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