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「はいどうぞ」
「ありがとうございます。」
コーヒーを受け取って、となりに座る彼女を見る。
「そういえば…エリとケイは、ベアトリクスに会うのは…」
「はじめてですね。」
「あ、やっぱり。」
「仲良くなれますかね?」
「どうかなあ。あの子人見知り激しいから。」

ちら、と視線を向ける先を、同じく眺めて。


「ねえ!」
呼びかけられた声に、ベアトリクスは視線を向けた。
腰に手を当てた金髪の少女。…知らない人、だ。今日遊びに来ている日本さん、の子供、だろう。たぶん。

「…何ですか。」
小さな声で尋ねると、それおもしろい?と指さしてくる。
指の先には、ついさっきまで読んでいた本。
…聞いてどうするんだろう。
思いながら、はい、とても。と返したら、彼女は少し怒ったような顔をほころばせて、うれしそうに笑った。

「?」
「そうよね、それおもしろいわよね!」
「え、あ、はい。」
隣に座り込んでくる彼女に思わず瞬いて。
「最後まで読み終わった?」
「あ、はい。前に一度。」
今日は読み直しているだけだから。そううなずくと、続きうちにあるけどまた貸そうか。と一言。

「ほんとですか!?」
「もちろん!それで是非感想を聞かせて!」
「はい!」
勢いよくうなずくと、手を差し出された。優しい笑顔。
「私、エリ。」
「ベアトリクスです。」
「よろしく」
「はい!」




「あら。仲良くなったみたい。」
「ほんとですね。…ああ。」
「え、なに?」
「ベアトリクスちゃん読んでるの、イギリスさんのとこの小説でしょう。」
「え、…ああ、そうね。」
「エリは、イギリスさんのとこのお話大好きなんですよ。とくにああいうファンタジーが。」
「…なるほど。趣味の合致、か。」
「ですね。」


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呪文は何でもいいんだ。
大事なのは、誰かを喜ばせたいっていうその気持ち。何のために、どうしてそうしたいのかをはっきりさせること。そうじゃないと失敗するからな。…普通すぎませんか?それ。そんなもんだろ。魔法なんて。要は信念の問題なんだから。…その理屈でいくと、父さんは母さんに私利私欲のために魔法かけたから元に戻せなくなっあ痛っ


はたかれたりなんたりしながら、教えてもらったのは、小さな奇跡を起こす魔法。
本当は、魔法というほどのものじゃないらしい。奇跡が起こるものじゃなく、起こすものなのはもとから、だから。
でも。僕にはそれで、十分だ。


家族で僕の家に遊びに来ている今がチャンスだと思う。マックスは姉さんとゲーム対戦に夢中だし。パズル系強いんだよなあ姉さん。今日こそ勝つってマックスが叫んでたけど、まだまだ連敗記録は積み重ねられてるみたいだし。

「ベアトリクス」
「はい?」
きょとんと本から顔を上げた彼女に、魔法、見せてあげますよ。と笑う。
途端に輝き出す表情。彼女がファンタジーが大好きなのは知っている。父さんに会う度、魔法を見てみたいと、思っていても言い出せなくて、きゅ、と服のすそを強く握りしめていたのも。さっきだって。
だから。

「ちょっと歩きますけど。」
手を差し出すと、大丈夫です!とうれしそうな返事が返ってきた。


「大丈夫ですか?」
「はい。…どこまでいくんですか?」
「…そうですね、このあたりでいいかな。」
辺りを見回して、頷く。日も沈んで、周りは暗い。
「前を見ていてください。」
こくん。うなずく彼女が、綺麗な瞳を前に向ける。
深呼吸ひとつ。起こすのは、ほんの小さな奇跡でいい。
状況とタイミングさえ失敗しなければ、誰にだってできる。簡単なんだ。父さんの言葉を思い出して。心を落ち着かせる。
「いきます。…3、2、1、」
ゼロ。言うと同時に、力を込める。
そのとたんにふわり、と目の前を舞う、光。
「わあ…!」
歓声に導かれるように、さあ、と光が溢れる。

ひゅ、と呼吸が、消えた。
これは…僕も想定してなかった。まさか、ここまでとは。
目の前を舞うたくさんの光。
蛍だ。蛍の、群れ。
呼んだ奇跡は、タイミング、だけ。飛び立つその瞬間を、合わせた。それだけの魔法。
こんなに、たくさんの蛍が現れたのは、運だ。
目の前に広がる光に、自分でも驚いて。
きゅ、と左手を握る小さな手。
見ると、泣きそうな、けれど思わず息をのむほど美しい、笑顔。
「ありがとう、ございます。すごく、きれい…。」
その言葉だけで本当に、けっこう大変だったのとか誘うに勇気がいったとかそんなの、すべてふっとんでしまうくらいに、十二分だった。


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※不思議の国のアリスパロです





「やっばい!」
遅刻だ!と声がして、はっと目を覚ました。いけない。寝ちゃってたみたい。
目を擦っていると、目の前を通り過ぎる影。…イギリスさんだ。さっきの声の主は彼らしい。忙しそうだなと目で追っていると。
不意に彼は、地面に飛び込んだ。

「…へ?」
ぱちぱち、瞬く。とび、こび、ましたよね今?
おそるおそる近づいていくと、あ、穴だ。人が一人入れるくらいの。…どこにつながってるんだろう?
手を伸ばしてみる、と。ぼろ、と自分のいた場所が、崩れて。
「え、きゃあ!」
そのままがくん、と、深い穴の中!


「ふあっ」
上体を起こす。気を失っていたみたいだ。怪我…は、してないみたい。
ふかふかの葉っぱの上に落ちたから、かな。
…そう、私、落ちたのよね?地面の下に。
なのにここ…森?
「どこでしょう…?」
辺りを見回す。…見覚えは、ない。まったくない。
「ど、どうしましょう…」
おろおろしていると、目の端を影が走って行くのが見えた。

「遅刻するっ!」
「あっ、イギリスさん!」
走っていくその姿に、慌てて追いかける。
「待ってください!」
追いかけながら、これなんか、知ってるなあ、と思った。何だっけ…あ、そうだ、思い出した!不思議の国のアリスだ。まるで、白ウサギを追いかけるアリスみたい!
でもアリスみたいにイギリスさんを見失うと困るんだけど…

そう思っていたら、本当に。
「…見失っちゃった…」
はああ、とため息。どーしましょう…

「ううん…」
どこかも分からない場所でひとり、困り果てていると、お困りかな?お嬢さん。と声がした。

誰、と顔を上げるけれど。…誰もいない。あれ?
おかしいなあとあたりを見回すけれど、やっぱり誰も…
「上だよ上。」
うえ?と見上げると、至近距離ににっこりと笑顔。
「きゃあああ!」
「おっと。ごめんね。驚かせたかな?」
ひょい、と降りてきたのは、金髪の美丈夫。
「ふ、フランスさん…?」
「ん?俺は、チェシャ猫。」
チェシャ猫ですか!!本当にアリスになってきた。わああ。と思っていると、それでお嬢さんは何をお困りなのかな?とにっこり笑顔。
「あ、あの…道に迷ってしまって…。」
「どこに行きたいんだ?」
「…しろうさぎ、さんのところ…。」
なんだろうなあきっと。そう当たりをつけてみる。

「うーん…あいつか…。」
…当たりでしょうねおそらく。フランスさんがこういう表情するの、イギリスさんい対してだけだ。
「見なかったな…そうだ。森を抜けたところに人がいるから、そっちに聞いてみたらどう?ここをまっすぐだから。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
じゃあね。と投げキッス一つして、彼はしゅるん、と消えた。消えた!
わああ、と思いながらとりあえず行ってみよう、と歩き出した。

ストーリー的に言うと…この先にいるのは。

「こんにちは!かわいいお嬢さん。」
カナダさんが、にこっと笑って首を傾げると、ずぼっと帽子がずれてあらら。と直しているのを見て、かわいいなあと思った。
帽子をかぶったカナダさんと、おいしそうにお菓子食べてるリリーと、シエスタの時間なのか、お菓子両手に持ったまま寝てるイタリアさん。
…いかれ帽子屋と三月うさぎと眠りネズミ、かな。

「お茶でも一緒にいかが?」
「いえ。人を探してるんですが…白うさぎさん、みかけませんでしたか?」
「白うさぎさん?ええとねえ…。」
ふむ。と考え始めてしまったカナダさんの姿に、帽子屋さんはこうなると長いから、一杯どうぞ、とリリーが紅茶をくれた。
お礼を言って、受け取り、素直に飲む。…ちょっと甘い。
「ええっと…朝は、たしか花畑に…。」
「でも、その後は公爵夫人のところにいなかった?」
「え?あ、そっか…で、その後は…。」
この家の人達は基本的にのんびりしているから、急かさずに、ゆっくり待つのが得策だと言っていたのは、たしかサラだ。
答えはあるけどそこにたどり着くまでが長いのよねえ。特にママとリリーは。そう苦笑していたのを思い出す。


「ええと…。」
「うーん…。」
…それにしても長くないかな、とは思うけれど。
「…ヴェ…?」
「ん?あ。眠りネズミ。おはよう。」
「ヴェ〜…。」
まだまだ眠そうだ。目をこするイタリアさんに、同じ質問をしてみる。

「白うさぎ……?女王さまのお城じゃないの……?」
寝ぼけながらそう、教えてくれた。
「あ!」
「そっか!」
そうだ、ハートの女王のお城だ!答えが出てうれしいのか笑顔になった二人がうなずく。
「ありがとうございます。…紅茶、おいしかったです。」
「ほんとう?もう一杯飲んでいく?」
「いえ。急いでますので。」
「じゃあ、クッキーだけでも!」
はい!と渡してくれたそれを、ありがとうございます。と苦笑しながら受け取って、歩き出した。

ちょっと行儀が悪いけれど、歩きながら食べると、さくさくしていてとてもおいしかった。



女王のお城、らしきところにたどり着いて、そうっと、扉を開けてみる。
だあかあらあ!と声が上がる。
「俺じゃないってば!」
「いーや絶対リトやし!間違いないし!」
…ある意味いつものやりとりにちょっとほっとした。
「…何を言い争ってるんでしょう…?」
「女王が大事に置いておいたパイを、ジャックが食べちゃったんだってさ。」

いつのまにか隣に現れるフランスさん。
なるほど…ジャックの裁判、なんだ。ジャックがリトアニアさんで、ハートの女王がポーランドさん。…赤がピンクになっちゃってるけど。
そういえばこの国ピンクの家多かったなあ…
思い返していると、では証人を、とイギリスさんの声がした。いた!やっと見つけた。

「証人は…アリス!」
…アリス?アリシアのこと?
「呼ばれてるぞ?アリス。」
ぽん。と肩をたたかれてびっくりした。
「は、はい!?」
いやいや。何にも知りませんって私は!
そう困惑していると、何でこないん?と視線が、集まってくる。

「…え、え…」
「…もしかしてアリスが、食べたの?」
「えっ!?」
何でそんな話になるんですか!?
「…口の端になんかついてる。」
「パイの食べかす?」
!お茶会でもらったクッキーだ。慌てて落とすけど、それがさらに怪しかったらしく。

違います!と怒鳴っても、なんか包囲網がすでにできあがっていて。
「ふぇ、…」
泣きそうになっていると、がばっとたくさんの人が、飛びかかってきた!
思わずぎゅう、と目を閉じた。
途端に、がくん、と、世界が崩れて。



「…い、…おー…」
遠くで声がする。
「…い、ベアトリクス!こんなところで寝てたら風邪引くぞ!」
ぱちん、と目を開けると、紫の瞳。…お兄さま、ですよね?また今度は、たとえばドードーさんとか公爵夫人とか、そんなんじゃないですよね?

「…おにい、さま、ですよね?」
「お兄様ですよ。」
なんだ、寝ぼけてるのか?
ぐしゃぐしゃと頭を撫でる手に瞬いて、辺りを見回す。…見慣れた、うちの庭だ。

ああ、そうか…夢、か。
はあ、と深く息をついて。
「本読みながら寝るなよ。くしゃくしゃになるぞ?」

ああそういえば、イギリスさんからお借りした本を読んでいたんだっけ。思い出しながら、ゆっくり起きあがる。体の横に落ちていた本を拾い上げ、ぱたんと閉じる。

その題名はもちろん。


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