「ロマーノ!」 「おまえが悪いんだろ!」 怒鳴り声が響きはじめてそこそこ経ったなあと思いながら、ミネストローネの味見をする。ん、ちょっと薄いか。 両親の口喧嘩なんて、我が家では日常茶飯事。小さい頃は、それが原因で飯の時間が遅れたりとかしたけど、作れるようになってからはその問題も解決。 ついでに。 「いーかげんにしなさい二人とも!何でそうかっとなって相手の話聞こうとしないの!」 ぴしゃっと二人の間に落ちた雷。 イザベルが、間に割って入ったのだ。横目でそれを見ながら、塩をふりかける。 「でもロマーノが、」 「だってスペインが、」 「でももだってもありません!お父さんは、もっとお母さんの気持ち考えてから言いなさい!お母さんも!あんまりかっとならないでちゃんと話聞く!」 わかりましたか!?はい… 揃った返事に小さく、笑う。さすがイザベル。タイミングぴったり。喧嘩の終了と同時にミネストローネも完成だ。 「ほら、ご飯できたから食べよ。おなかいっぱいになったら喧嘩する気分もどっか行くで。」 声をかけると、両親は顔を見合わせてため息一つ。 「悪い。」 「ごめんな。」 うんうん。ちゃんと謝り合うのも大事なことだ。 「まったくもう…」 仕方ない人達なんだから。呟くイザベルに笑いながら、彼女の分のミネストローネを渡す。途端に緩む表情。…実は、彼女がこうやって喧嘩の仲裁をするのは、おなかが空いている証拠だというのはさて。何人が知っている事実だろう? まあ、もうちょいの間俺だけでええよなと思いながら、笑った。 戻る . 「なんでこんなうまい店知ってるんだよ」 「え、イタちゃん情報?」 …ヴェネチアーノか。なんか納得。 久しぶりにスペインと二人で、デート、だ。 本当は子供たちも誘ったんだけど、邪魔しちゃ悪いしって逃げてった。 こっちはなんか、久し振りすぎて何話していいかわかんないんだけどなちくしょー! デート、なんて。本当に久し振りすぎる。 最近子供たちがずっとそばにいたから。 だけど、…まあ、ええいと歩き出してみれば、体が覚えてるもんだ。緊張はほぐれて、普通に話せるようになって。 「ロマーノ、手つなごう」 「調子に乗るな!」 そう返すのに、ええやん、ほら。と大きな手のひらを伸ばされると、そこに手をおいてしまう。やっぱり不思議だ。温かい魔法の、手。 「よーし、じゃあ行こか。」 「どこ行くんだよ」 「んー…そうやな。海の方行こか。」 きゅ、と握られた手をそのままに、歩き出した。 ついた、海辺の公園で、ロマーノ。なんか知らないけど真剣に呼ばれた。 なんだよ。返すと。 俺に向かって差し出されたそれに、ぽかん、と彼を見た。 「…何だ、これ。」 「指輪。」 そりゃあ見ればわかる、けど。 こんな、ビロードの入れ物に入った、細くて綺麗なシルバーリング、もらう理由が、ない。 だって、結婚指輪は常に、左手につけたまま、だし。 「んー…そういえばちゃんと言ったことなかったなあって思って。」 何が、だ。主語を言え主語を。 「ロマーノ」 「何だよ」 呼ばれて返す、いつものやりとり。 柔らかく、笑った。表情に、どきりとして。 つないだ手を引かれる。近くなる距離。額をこつん、と当てられる。 「ずっと、俺の隣にいてください。」 子供らも大きくなって、いつか家を出て行ってしまうかもしれへんけど。…俺は、ロマーノと、ずっと一緒におりたい、から。 そのまっすぐな言葉に、じわり、と視界がにじんだ。 「もー…泣かんといて?」 「だっ、だって、おまえが、」 「うんうん。俺が悪いな。ごめんな。」 ぎゅう、と抱きしめられる。変わらない、腕の強さ。 「…なんで、今なんだ?」 「ちょうど、十年目やし…形にしとこうと思って。」 俺がロマーノ好きな証、だそうだ。 馬鹿。…んなの、とうの昔からずっと、知ってる。 「なーロマ。答え聞かせて。siって言ったって?」 「…なんでオッケー前提なんだよ」 「えっあかんの!?」 慌てて顔を上げた彼に笑って、耳元で小さく、喜んで、と言ってやった。 指輪は、今度こいつの分も買ってやろうと、思う。 戻る |