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洗濯物を取り込んで部屋に戻ると、真剣な顔で机に向かう子供たちの姿。
「何してるの?」
「あ、ママー!」
振り返ったシー君が笑う。向かい側のアリシアは、じっと机にかじりついたまま。
手元には、鮮やかな色の正方形の紙があって。

「オリガミしてるんですよー!」
「オリガミ?」
「はい!日本とケイに教えてもらったんです!これももらったんです!」
ほら!と示してくれたのは、たくさん入った折り紙の束。またお礼言っとかないとなあと苦笑したら、できた。とちいさなつぶやき。
「ママ。」
アリシアが差し出してくるそれをうけとる。細かいところまできっちり折られたそれは、なんというか、スーさんの血を感じるなあ…。

「これはなあに?鳥?」
「ツル、だって。」
へえ。呟いて、その黄色いツルを撫でた。このままインテリアとして飾ってもいいかもしれない。
「ママにあげる。」
「え、いいの?」
尋ねると、こくん。とうなずく彼女。まだたくさん、あるから。そう言うとおり、たしかに机の上には他にも大量にいろんな作品が並んでいた。
ちょっと端がはみ出てたりするのは、シー君のかな。きっちり綺麗なのはきっと、アリシアが折ったんだろう。
小さな作品を笑いながら見て。

「あ、これ綺麗。」
ふ、と手にとったのは。花の形をした、淡い紫色の折り紙。とても綺麗に折られている。端まできっちりしてるとこを見ると…アリシアかな?
けれど二人は、びっくりしたように顔を見合わせて。
何故か突然笑い出した。
「え、何?」
「あははは!ママー、それ、誰が作ったと思うですか?」
「え…アリシアじゃないの?」
尋ねると、彼女は笑いながら首を横に振って。
「違うよ。」
「じゃあ…シー君?」
シー君の方を見れば、違うですよーと楽しげに笑う。
「え、じゃあ、日本さんの見本…?」
今度は二人そろって首を横に。えー…じゃあ…誰?
「もうひとり。」
「うちには、いるですよね?」
子供達の声に。ぱちんと瞬く。もうひとり…って、つまり!

「夕飯、」
「おひゃあああ!」
いきなり後ろからかけられた声に、びっくりして声を上げてしまった。
「…なじょした。」
振り返ると、スーさんがエプロン姿で立っていて。
…もうひとり。この家で。
つまり、この僕が、綺麗だと思った折り紙を作った、のは?

「わーいご飯ですー!」
「お兄ちゃん、手、洗わないと。」
「なじょした。顔、赤ぇぞ。」
ぱたぱた駆けていく二人を横に、頬に手を伸ばしてくる彼に、ななな何でも無いです!と思わず叫んだ。


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「もうどうしましょうスーさぁん!」
泣き出す寸前みたいな顔をしている彼女を前に、とりあえず落ち着け。と頭を撫でた。

巻き込まれたんです、と少し落ち着いたフィンランドはつぶやいた。
イタリアさんの家に遊びにいったら、なんかポーランドくんが来てて、二人で出て行くところで、ちょうどいいからフィンランドもおいでよ!って満面の笑顔のイタリアさんに手を引かれて。
で、行き着いた先はちょっと風邪引いてるのか、体調悪そうなイギリスさんのところで、で、なんか気付いたら。

「こうなってたんです…。」
縮こまってそう呟く、彼女、そう彼女の体はいつもよりずっと小さく、華奢だ。
もともと、たしかに直線的、ではなかったけれど、それよりずっとずっと、曲線的な体つき。
…女性になってしまったのだと、泣きながらフィンランドが来たときは、さすがに驚いた。
女性用の服はイタリアに借りてきたのだという。
「ほんと、どうしましょう…。」
戻れないかもしれない、らしい。ぐず。と鼻をすすった彼女にハンカチを差し出して。
…少し、考える。

確かに最初にフィンランドを見たときは驚いた。けれど。
もともと、女房のつもりだった。フィンランドの方が違ったみたいだから、ああ勘違いしてたんだなってそう思って。
けれど、ずっと一緒にいてくれた。友達として。…それから、恋人、として。
もちろん一緒にいられないときだってあった。けれど、それが終れば、また隣りにいてくれて。
最近は、シーランドも一緒だから、まるで家族のようで。だから。

いつ言おうかと思っていたことだ。
…これは、いい機会だと、思う。
それに、こんな状態のフィンランドを、放っておけるわけがない。
よし。小さく一度うなずいて。

「スーさん、どうかしたんですか?」
首をかしげた彼女の肩に、ぽん、と手を置く。
「こ。」
「へ?」
「俺んちにこ。俺が守っがら。」
だから、うちに来ればいい。ずっと言いたかった、言葉。やっと伝えられた。
けれどフィンランドは、困った顔。

「…いやでも、そんな頻繁に遊びに行ったらご迷惑かかりますし…。」
………。なんだか言いたいことがうまく伝わっていない気が、する。
どうしたら伝わるか。しばし考えて。
「スーさん?」
ああそうか。と思いついた。ちゃんと、省略せずに伝えればいいのかもしれない。

「おめ、俺のとこに嫁にこ。」
「はあ。………へっ、え、えええええええ!?」
見事に真っ赤に染まった顔はとてもかわいかったけれど。
そのあと、赤くなったままうつむいて、瞳をうるませて、それでも小さくこくん、とうなずいたその表情は。
もう一生忘れられないだろうと思った。



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「フィンランドさん、ちょっと頭上げてくださいね。…はい。オッケーです。」
「ありがとうございます。…すみません。」
「いえいえ。私のでよければいくらでも貸しますよ。」
にこ、と笑った日本さんがつけてくれたのは、髪留めだ。

四つのサムシングのひとつ、サムシングボロウ。何か借り物。日本さんが、結婚式のときにつけていた髪留めを借りることにした。
青いものは、花束のリボン。古いものは、昔から持っていたネックレス。新しいものは、この間スーさんと買いにいった、イヤリングだ。
幸運を招くお守り。…少しでも二人に、幸せが訪れますように、と。願いを込めたおまじない。

「ママ、とっても綺麗ですよ!」
わああ、と声を上げるシーくんに、ありがとう、とお礼を言って。
「すみません、日本さん。シーくんまでお願いしてしまって…。」
「平気ですよ。エリとケイはイギリスさんが見てくれてますし。」
にこ、と微笑んだ彼女は、二児の母、という感じがする。おかあさん、の雰囲気だ。
僕もいつかこんな風になれるのかな、とちょっと考えて、それが持つ意味に気付いてうわあ、と思わず顔を赤くした。

「ママ?顔赤いですよ?」
「いやいやいやうんなんでもないから…。」
あはは、と笑って。
…実はそのー。スーさんとは、していない。
結婚するまでは、ダメだって。彼がそう言うから。
だからその。たぶん今日、が。
あああああもうやめようやめよううんこんなんこと考えてると顔あっついし!
ぱたぱた手であおいでいると、こんこん、とノックの音。

「シーくんが出るですよー!」
ぱたぱた走っていくのを見送ると、失礼します、とネックレスに触れる手。
「ちょっとずれてましたので。」
「すみません…ありがとうございます。」
「いえいえ。…綺麗ですね。」
「そんなこと。」
「本当に。…おめでとうございます。」

静かなひとことに、はい、ということしかできなくなってしまった。
そこへ、戻ってくる足音。
「パパが来たですよー!」
うわわ、と思わず慌てた。


僕を一目見るなり、立ち止まったまま何も言わなくなって、しまったスーさんに、困ってしまって、に、似合いません、かね?と困ったように笑う。
日本さんたちは、また後で、と出ていってしまって、二人きりだ。
「…いんや。めんげぇ。」
一言だけ。たったひとことだけだけど、それがうれしくて。笑うと、やっと彼が、近づいてきてくれた。

「…うめえこと言えねえげど。」
「はい。」
「…天使、だ。」
触ったら消えそう、らしい。おそるおそる伸びてくる手に、消えたりなんかしませんよ、と笑って。
触れる手。大きな手だ。いつも僕の手を引いてくれる、強くて大きな手。
「ほら。消えないでしょう?」
見上げると、ため息とともに力の入っていた体が緩んだみたい。あ。ちょっと笑った。
「…夢みてぇだない。」
「…本当に。」

結婚式、だって。誰のって、言いたい。この間リトアニアとポーランドのがあったところだから、特に。
僕とスーさんの、だなんて。本人達が一番信じられない。
ずっと一緒にいた。本当に、ずっと。
そりゃあ一緒にいられないときももちろん、あったけれど。…心はいつもそばにあると、そう思って、いた。
それは、彼も同じだと信じている。
そうですよね?と思いを込めて見上げると、こつん、とあてられる、額。
感じる熱。ああ、きっと。…きっと同じ気持ちで、いてくれている。

「…フィン。」
「はい。」
「俺と、ずっと、」
「います。…一緒に、います。約束します。…あなたに。」
これから誓うのが神ならば、その前に。…他でもない、あなたにそう言っておきたくて。
もしかしたらスーさんが言いたかったことと違うかもしれない。ただ、伝えておきたくて。
まっすぐに見ていた目が、少し驚いたようにまぶたの向こうに消えて、小さく、笑った。

「…俺もだ。おめえに誓う。」
ずっと、一緒に。

…その言葉だけでもう、本当に十分だと、思えてしまった。


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「んー!いい天気ですねえ!」
腕を伸ばすと、洗濯日和、と小さな声と、きゃん!と応えるような鳴き声。
「じゃあ、早く干しちゃおうか。」
笑って言えば、アリシアと花たまごがこくんとうなずいた。

ぴん、と伸ばして干していく。洗濯したてのいい匂いが、広がる。
白いシャツが青空にはためいて綺麗だ。
「…よく乾きそう。」
「うん。」
はい。と次の洗濯物を差し出してくれるアリシアに、ありがとー。と受け取った。
「…あとで。」
「ん?なあに?」
「公園行きたい、な。」
だめかな。おそるおそる。そんな顔で見上げてくるから、笑って、しゃがみこむ。合う、視線にぱちぱち。瞬いて。
「行こう。みんなで。」
途端に輝く表情!かっわいいなあと、頭を撫でた。
「ママーアリシアー!もうすぐご飯ですよーっ!」
シーくんの大きな呼び声に、もうちょっとしたら行く!と答えて。
「じゃ、終らせちゃおうか。」
「ぜんそくりょく。」
「わん!」
だね!とうなずいて、急いで残りを干してしまうことにした。


終らせて、ごはんーと走っていくと、フィン、と呼び止める低い声。スーさんだ。
「おはようございます。何ですか?」
「おはよう。…後で、公園行ぐって、シーと話してた。おめぇらも。」
…思わず。目を丸くした。
「…なした?」
「…親子ですねえ。」
くすくす。笑うと、彼は不思議そうに首を傾げた。


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洗濯物を運んでいると、ママ!と慌てたシーくんの声が聞こえた。
「ん?なあに?シーくん。」
「僕が運ぶですよ!置いといてください!」

両手を伸ばす彼に、大丈夫なんだけどなあ。と苦笑。
最近スーさんもシーくんも過保護だ。…妊娠、したってわかってから。もうなんか、籠入りの小鳥みたいな扱い。
別に平気なのにな。それに何もしてないと暇だし、なんだか申し訳ないし。

「大丈夫だよ、これくらい。」
「でも…。」
しゅん、としてしまった彼に、うーん、と考えて。
「じゃあ、洗濯物とってくれる?実は、かがむのちょっとつらいんだ。」
「まかせろです!」
ぱっと表情を輝かせたシーくんにかわいいなあと笑って。
さてと、と洗濯物に向き直ったところで、後ろからぬ、と伸びてくる腕。

「わ!」
「…俺も手伝う。」
「スーさん…。」
もー…だから大丈夫なのに…。
「…体、大事にしろ。フィン一人の、体じゃね。」
「はあい。」
わかってますよ、ちゃんと。でもやっぱり、過保護だと思う。僕と、この子に対して。
…まったく。これだけ生まれる前から愛されてると、生まれた後どうなるんだろうね?
こっそりと、お腹の中に問いかけて苦笑した。



「うわわわ…!」
ちっちゃいです…!目をきらきらさせるシーくんに、そうだね、と微笑む。
小さな命。たった今生まれたばかりの。
本当に、少し力を込めたら壊れてしまいそうな、でも確かに感じる、鼓動。
大人しく眠っているその子の頭を撫でる。

「女の子、ですか?」
「そうだよ。シーくんの妹。」
「いもうと…!!」
「女の子、か。」
ぼそ、と呟いたスーさんに、だっこしてみます?と腕を伸ばすと、しっかりと首を横に振られた。
「どうしてですか?」
そんなに否定されると、少し悲しい気分になってしまう。
それが顔に出ていたのか、頬に触れられた。安心しろというように。

「…怖い。壊しそう、だ。」
ぼそ、と呟かれた言葉に、ああそうか、小さな命にどうしていいのかわからないのか、とすぐに気付いた。
「…大丈夫ですよ。そうっと持てば。ね?」
笑いかけると、困ったように眉を寄せて。
でも、それからおそるおそる、手を伸ばしてくれた。
そのたくましい、頼れる腕に、頼りない小さな命を渡す。

「……っ!」
何も言いはしなかったけれど、あまり表情にも出さなかったけれど、僕には。…僕とシーくんには、スーさんがとても感動しているのが、わかった。シーくんと顔を見合わせ、笑う。
「よかったですね、パパ!」
何も言わずにこくんと、うなずく彼。それから、ぼそ、と呟いた。

「…アリシア。」
「え?」
「名前。」
どう思う?とまっすぐ見られて、考える。この子の名前。…アリシア、か。
「すっごくいい名前だと思うですよ!」
「僕も。そう思います。」

じゃあ、今日からよろしくね、アリシア。
そっと指を伸ばすと、きゅ、と握られた。

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