「今日誰と遊んでたの?」 なんだか楽しげに帰ってきた娘にそう尋ねると、母親譲りのかわいらしい笑顔を浮かべて。 「えっとなー、ウクライナとベラルーシとロシアやし!」 出た名前に思わず、せめてさん付けして!と心の中で絶叫した。 「え、ええっと、仲、いいの?」 「うんー。みんないいやつやし。お菓子とかくれるんよ!」 ベラルーシはたまに怖いけどー、いろいろ手伝ったらすごい仲良くしてくれるんやしー。 笑いながらぱくぱくともらいもの、だというお菓子を食べるレジーナ。 …なんというか…確かにポーも、すごいなあと感じることはよくあった。あのスウェーデンさんに真っ向から意見したりとかできたし。すぐ隠れちゃったけど。それは人見知りが激しいからで。 …つまり…その…なんというか、唯一の弱点、とでもいうべきか、その『人見知り』をあまりしないレジーナは、なんというか… 最強、なんじゃないかとは、前々から思っていたけれど。 まさかすでに、あの北の恐ろしい方々と接触していたとは…! どうりでロシアさんにこの間会ったとき、レジーナちゃんによろしくとか言われたわけだ…!(そのときは正直脅しだと思った。) その上、ベラルーシとまで仲良し、だって…!?そんなの、本当に難しいのに! …この年でそれって、将来…。 「…ねえレジーナ。他にも友達ってたくさんいるの?」 おそるおそる尋ねると、きょとんとした後、レジーナは、笑った。…どこか艶やかな、女王の笑み。 「会ったことある人はみいんな友達やし!」 でも一番はポーとリトだから安心しろし! 心底楽しそうな娘の姿に、これは確実に母親以上、になるな、と笑うしか、なかった。 戻る . 家に帰ってくると、家の中がどピンクで、わー…と思わず呟いた。 「あ!お帰りリト!どうこれ、ポー喜ぶと思わん!?」 にっこり笑うのは、我が家の女王様。…いやうん。お花とか、布とか、紙とか、復元可能なものばかりでやってくれてるのはとても助かる。うん。 ただなんか、ちょっと、なんというか落ち着かないというか…。 けれど。 「…喜ぶだろうね。ものすっごく。」 目に浮かぶのだ。彼女がとてもうれしそうに笑うのが。だから。 それならまあ仕方ないよなあって思ちゃうわけだけれど。 「リトって、ポーにとことん甘いよね!」 「…自覚してます。」 自覚ついでに、両手に下がっているのは、ポーランドの大好物の材料ばかりだ。 「誕生日、おめでとう、ポーランド。」 「おめでとー!」 帰ってきたところの彼女に、ぱあん!とクラッカーを鳴らすと、目を丸くした後で、うれしそうにありがと!と笑った。かわいい。 「うわー!すごいし!ピンク!」 「私すっごくがんばったんだから!」 「レジーナ!!」 がばあ。と抱きしめる彼女に、ほら喜んだ。とくすくす笑う。レジーナは、ちょっと恥ずかしそうに、でもうれしそうにそのハグを受けて。 と思っていたらがば!と顔が上げられる。くんくん。鼻を動かす彼女が犬みたいだなあと思う。 「いい匂いする!」 「はいはい。もちろんポーの大好物ばっかり用意してますよー。」 しかも彼女の好みの味付けで、だ。味付けしていたら、レジーナがえー。と言ったこともあったけれど、今日は母さん優先。と言えば、こくんとうなずいてくれたから。 もちろん、甘い甘いケーキもスタンバイ済み。もっと食べたいし!と言い出すことも考えて量も多めだ。 「…っリトー!」 「うわあ、何!」 びっくりした。こっちにまで抱きついてくるとは思わなかった。 「大好きやし!」 にぱあ!と心の底からの笑顔! 好みど真ん中以外の何者でもないそれに思わず、ぎゅーと強く抱きしめた。 戻る . 「ええと、その…。」 「なあにー?あ、そーだ一緒にお茶しよーよ!」 …なんというか…ポーを強力にした感じの女の人3人くらいに囲まれてるんだけど…どうするべきか…。 「えっと、連れが待ってますので…。」 「ええいーじゃなーい!」 いやよくないんですよ。仕事がポーの方が早く終わってるから、すでに待たせてる、し。絶対機嫌悪くなってるし。 ああもう、待ち合わせの公園すぐそこなのになあ…! そう思ってため息をついていたら、ぐぐ、と腕を引かれた。 「ね?行きましょ?」 「いや、だから…。」 ふわり。突然、目の前に踊る、金色の髪。 「だめやし!リトは俺のやしー!」 そう、3人との間に割り込んではっきり言ったポーは、きっと3人をにらみつけて、その後すぐにぴゅーと俺の後ろにまわった。 ぎゅうう、と服を握りしめる手の感触と、ぽかん、とした顔をする目の前の女の子たち。前もあったなあ。こういうこと。言いたいことは主張するくせに人見知りなんだから…。 でも、その一言はこの上なくうれしくて。 「…そういうことなんで。行こうか。」 声をかけると、俺の後ろからひょっこり顔をだして、女の人たちに向かって、べーと舌を出した。 その後、彼女を連れて、その場所を離れる。 やっと訪れた待ち合わせ場所。 むすう。とふくれた彼女に、ごめんって、ポー。と謝って。 「…リト遅いし。」 「うん。」 「なんか、女の子に囲まれとるし。」 「うん。ごめんね。」 くしゃくしゃ、と頭を撫でると、のど渇いたし!とお姫様の一言。 「はいはい。何飲みたい?」 「…アイスティー。」 「ちょっと待ってて。すぐ戻るから。」 そう言って、彼女を公園のベンチに座らせてその場を離れた。 さて、早く戻らないと。 そう思って、結構急いで戻ってきたつもりなのに、見えた状況にひくり、と頬がひくつく。 「ね、僕と一緒にケーキでも食べにいかない?」 「えー…。」 「すっごくおいしいとこ知ってるんだ。おごるよ?」 「う…。」 ポー…気持ち揺れてるの俺にはばればれだからね…っ!? 初対面の男相手だから、ちょっとびくついてるけど、ケーキって聞いた瞬間にぴく、と反応した。この距離から見てわかるってことは、つまり。 「あ、ケーキ好き?じゃあ、」 ほら。あの男もわかってるし!もー! 「フェリクス!…バルシュキ買ってきたよ?」 「!!」 手に持った袋を示すと、猛ダッシュでこっちへきた。 そして、俺から紙袋をとって、俺の後ろに回り込んだ。 ぎゅう、と服を掴む手の力が、さっきより強い。…どうやらちょっと怖かったらしい。 よしよしと頭を撫で、ナンパ男を一睨み。彼は、すぐにその場を立ち去った。 まったく。ポーに手を出そうなんて…許すわけないのに。 「さあ、ポー。…立ったまま食べないの。」 袋を開けて口に運ぶポーに呆れてそう言うと、寄る眉。 「どうしたの?」 「…リトの作ったやつの方がうまいし。」 小さく呟かれるのは、…なんともうれしい言葉で。 同時に、記憶の引き出しを引っ張り出す。バルシュキの、用意。…あったっけ? 「じゃあ、もう帰る?買い物は?」 「…リトがもうどっか行かないなら、行くし。」 きゅう、と服のすそを掴む手。…ああもう、ここで抱きしめたらポー、怒るかな…? 「行かないよ。約束する。」 優しくえば、なら、行く、とうなずくポーに、思わず微笑んだ。 戻る |