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「でもそういう意味ならオーストリアとかエストニアとかの方が」
「えー!エストニアはまだしもオーストリアー?」

きゃあきゃあと盛り上がる一角を発見してどうしたの?と声をかける。
「あ、リトー」
「レジーナとな、男の中で誰がかっこいいかって話してるんやしー。」
「でもポーが眼鏡男子の魅力わかってくれなくてー!」
「へ、へえ…。」
ああそう…思わずため息。

うちの一人娘、レジーナは、完全にポーランドだ。容姿もワガママさも瓜二つ。いやパワーアップしてると言っても間違いではない。
口調もポーのが移りつつあるし、呼び名も直らなかった。ポーランドのことはポー、俺のことはリトと呼ぶ。その上他の人たちを平然と呼び捨てにするのだ!何人か怖いんだけどなあ。思いながら、出会わないことを祈る。きっと怒られるのは、俺だ。


「でもなーフランスとかもかっこいいと思わん?」
「わかる!料理上手だしね!でも私あの人苦手ー。あとは…ドイツは?」
「ああいうタイプはイタリアの担当分野やし!」
「あはは!ポーそんな顔するくらいイヤなん?」
楽しげな会話に、少しだけ、いやうん。素直に言うとかなり渦巻く、黒い感情。
「…かっこよくなくて悪かったですねー…」
さっきから飛び交う名前に、自分のものがない、という事実が。ちょっと拗ねたい気分にさせて。
小さく呟いたはずの言葉は、けれど二人の耳にしっかりと届いていたようで。

「何言ってるん?」
きょとんと首を傾げたポーの声に、いや、何でもない、と慌てて笑顔を取り繕う。

「だからさ、気にしな」
「一番かっこいいのはリトに決まってるし!」

自分の言葉を遮る、二人の揃った大きな声に、ぱちんと、瞬く。なー。ねー。顔を見合わせてうなずき合う二人。
なんだか、胸に熱いものがこみ上げてきた。
両手を思い切り伸ばして、二人を腕の中に抱きしめる。
「わ!」
「いきなりなんなん!?」
非難の声に、ごめん、と笑いながら謝って。
「…二人とも大好きだよ。」
そう囁いたら、当たり前やし!と答えが返ってきた。


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「リトー!」
家に入ろうとしたところで後ろから呼びかけられて、思わず深くため息。
なぜならそう俺を呼ぶ唯一の人物がポーランドで、かつその声がとても楽しそうだったからだ。ポーランドが楽しそうなときはだいたい俺はろくな目に遭わない。

それでも振り返ると、あーあーまた女の子の格好しちゃって…
「リト!」
がばり。抱きつかれて、ポー、とたしなめるように声をかける。
「あのね…またそんな、かっ、こうで…?」
口を閉ざした原因は、違和感。
なんだろう。いつもと、違う。抱きついてくるポーランドの感触、が。
まず、腕が回る位置が違う。いつもより低い。
そして。
体に回る手が、細い、ような。
その上。
……ええとあのーそのー。なんて言ったらいいのか。
こう、ふにっとしたものがあたっているような気が、するのは、気のせいですか?

「リト?」
何ぼーっとしてるんよ?とにょ、と顔をのぞきこんでくるポーランド。…思わず、尋ねる。
「ポーランド…だよね?」
「…変なリト。俺が俺じゃなかったら誰なん?」
眉をひそめて言われて、ですよね。とうなずいて。なんだかちょっとほっとして。
「そんなんどーでもいいしリト!聞いてー!」
「はいはい何?」
「俺なー!」
にこにこ笑ったポーランドは、そこまで言って一度背中に回していた手を離して、自分の着ていた服の襟元に手をかけて。
「女の子になったんやし!」
そのままがばっと開いた。その下に見えるのは、細身の男性であるはずのポーランドにあるはずのないふくらみ…って!

「うわあああ!?ちょ、何やってるの!」
「だって見せるのが一番早いってハンガリーが、」
「いいから!いいから隠して!」
わあわあと大騒ぎして、とりあえず話を整理するために、ポーランドをうちの中に入れることにした。



はいどーぞ。彼…彼女?ご所望のココアを出せば、にこにこ笑顔。テーブルの下で足が揺れる。
自分の分を持ったままその向かい側の椅子に座って、深く、一度ため息をついた。
「それで、ええと…話をまとめると。」
そこで一度口を閉ざす。深呼吸しないと、負けてしまいそうだった。何かに。
「つまり、イタリアさんが女の子になったのをいいなあって言ったら、イギリスさんのとこに連れていかれて?なんかわからないけど気付いたら女の子になってて?で?」
戻れないかもしれない、と。
最後まで言い切ると、そうやし。としっかりうなずいてくれました。この子は。
ははは、と乾いた笑い声をたてて、ぐったりテーブルにつっぷす。

「…現実から目をそらしたい…。」
「なんで?かわいいと思わん?」
「かわいいから問題なんだってば!」

ばんっと思わずテーブルを叩いたら、いきなり何なん!びっくりするし!と目がまんまるになる。
ああもうほら!そんな表情までかわいいから!
もともとポーランドは無防備すぎるんだ。女の子の格好してみたりとか、人見知りするくせに誰にでも言いたい放題するから、後が怖いし!
その上女の子になっちゃったってそれどーすんの!?いつ誰に狙われたっておかしくないってちょっと
「ポー聞いてる!?」
「リトうるさいしー。」
その上本人この調子だし!こっちは心配してるんだってば!

はあああ、と深く息をついたら、けどさー、そんなん問題じゃなくね?とけたけた笑う声。
「はあ!?」
「だってさー。リトが俺と一緒にいたらいいだけじゃね?」
「一緒にって…あのねえ。」
俺にだって俺の都合があるんですけど。
「俺だってずっと一緒にいられるわけじゃ。」
「何で?」
声が、詰まった。…軽い調子が消えて、本気でわからないって顔をポーランドがするから。

「な、何で、って…。」
「イタリアとドイツはずっと一緒にいるし。何で俺らはダメなん?」
「それは、」
…それは?結婚したから、で。でも…あれ。そうか。いまポーランドは女の子、なんだから。つまり。ええと。あれ?
「なあ、何で?リト。」
首を傾げるポーランドを、ぱちぱちとしばし見つめて。

「ポーはさ。」
「何。」
「俺が結婚してくださいって言ったら結婚してくれるの?」
思わず尋ねると、ポーランドはちょっと嫌な顔。えっ、ダメなの!?
「ってゆーかもとからリトの意見なんか聞いとらんし!ポーランドルール発動!リトはずうううっと俺と一緒におったらええんやし!」
えー。とそう言いながら、でも思わず、頬が緩む。ああもう、そんな勝ち誇った顔しちゃって。

「ずうっと?」
「ずうううううっと!!」
やれやれ。小さく苦笑して。
「仕方ないなあ。ポーは。」
じゃあ、ずっと一緒にいようか。
そう言ったら、彼女は心の底からうれしそうな顔をした。


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「リトアニア!」
呼ばれて、振り返る。やっほーと笑っているのは、イタリアさんと、その腕の中に、小さな女の子の姿。その後ろに、ドイツさんも立っていて。
「イタリアさん、ドイツさん!こんにちは。来てくれてありがとうございます。」
「ううん。俺のときも来てもらってるんだから。おめでとうございます。」
「おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「あー。」
声を出したのは、イタリアさんの腕の中。
おめかししたマリアちゃんだ。

「マリアもおめでとうって。」
「はい。ありがとうございます。」
小さく笑って。
「それで、どうかしたんですか?」
「あ、そうだ。ドイツ、ちょっとマリアお願い。」
「ああ。」
「うー?」

マリアちゃんをドイツさんに預けて、イタリアさんが取り出したのは、ピンク色のハンカチ、だ。
「…それは。」
「ポーランドがこれだけは譲れないってさ。」
はい。と胸にさしてくれた。ありがとうございます、とお礼を言って。

絶対絶対ピンク一色にするんやし!とわがままを主張するポーランドにだめだってば無理だってばっていうか教会の壁までピンクにしようとしない!と大騒ぎしてようやっと止めて。
ぶーぶー言っていたポーランドだけれど、それは不可能に近いから。
ウェディングドレスをピンクにするのと、このハンカチでなんとか、(いやだいぶ拗ねてたけど)諦めてくれたらしい。

「どうでした?ポーランド。」
「んー…まだピンクの方がいいと思わん?って言ってたけど。」
絶対ピンクの方がいいし!リトのいけず!そう言うポーランドが脳裏に浮かんで、ははは、と笑う。
まったく。あの子ときたら。

「あ、ドイツさん。お願いしてたことの方は…。」
「問題なく準備済み、だ。」
確認して、その返事にほっとして、いろいろとすみません、と頭を下げる。
「気にするな。」
「なに?何の話?」
俺にも教えてよーというイタリアさんに、後でわかる、とドイツさんが頭を撫でて。

「それでは、俺たちはこれで。」
「あ、じゃあねリトアニア、また後で!」
「はい!」
手を振る彼らを見送って、小さく笑う。
一生に一度の晴れ舞台。…そんな拗ねたままじゃ、もったいないから。仕掛けた、悪戯。
「うちのわがままお姫様は気に入ってくれるかなあ…。」
どうだろうなあ、と苦笑して。


式が終わり、教会の入り口へと向かって歩き出す。
隣りの、ピンク色のドレスに身を包んだポーランドの手に、指輪。…ああ、結婚したんだなって、なんだか感慨がわいて来て。
さて、俺にとっての問題は、この後、なんだけど。
ぎいい、と扉が、開く。
ポーランドの足が、止まった。
ちら、と見ると、まんまるに見開かれた目。

「…ピンク一色にするんやし、だったよね?」
「…リト、」

扉の向こうは、一面のピンク、ピンク、ピンク!
地面もピンクなら、出迎える花道にいるみんなも、ピンク一色。
そして、空に舞うフラワーシャワーも、もちろんピンク!
ドイツさんにお願いして、みんなに根回ししておいてもらったのだ。

「これで満足?」
「…っ!」
尋ねると、ポーランドはぐい、といきなり腕を引いて、体勢をくずした俺の頬、にキスをした。
途端に上がる歓声。思わずかあ、と真っ赤になって。
「ほらリト!早く行くんやし!」
「ちょ、わ、あんまり引っ張らないでよポー!」


騒ぎながら歩いていく二人はきっと、これからもずっと、そのまま。


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