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「ああ!」
「へたくそー」
「なにおう!もう一回だ!」
盛り上がる一角に、知り合いの姿を見つけて苦笑。

隣のイギリスさんの袖を引いて、あれ、と指す。この大混雑の中では、声より、ジェスチャーの方が伝わるだろう。
彼は、きょとんと指の先を見て、額に手を当て、深くため息をついた。
そこには、エリやサラにがんばれ!と応援されながら金魚掬いをするアメリカさんの姿。
ああでも、そんなに乱暴にしたら…ほら破れた。
「ああー…」
残念そうな声が上がる。

フランスさん一家がやってくる今日、近くでお祭りがあると知ったのは、つい昨日のこと。
その話をしたら、行ってみたい、という話になって、浴衣を出して、みんなでやってきたのだ。そのときには、何故かアメリカさんが加わっていたけれど。
その後、最後の花火は一緒にみようと約束して、ばらばらになったわけで。

「私欲しかったのになあ、金魚…」
エリの残念そうな声を聞いて、イギリスさんと顔を見合わせる。
「…行くか。」
「ですね。」
苦笑して、まだがんばっている三人のもとに歩き出した。
「私、金魚掬いはかなり得意ですよ」
「お、勝負するか?」





「おいしーい」
むぐむぐ食べるカナダから、一口分いただいて食べる。
「…甘い。」
「まあ、砂糖の固まりですからねえ。」
でもやっぱり、夏祭りといえば、綿菓子はかかせませんよ。
そう言いながら、うれしそうに白い雲のようなそれを食べるのは、意外と甘党のケイ。

「おいしーい!パパ、もう一個食べていい?」
「リリーそれもう2個目だろ?」
楽しそうな子供の声に、呆れて言い返して。
まったく。いつのまにか俺の周りに集まっていた大食漢達に、苦笑。
自分の作ったものでないとしても、楽しそうに食べるのを見るのは、好きだ。

「あっりんご飴発見!」
「え、あれ何?おいしそう!」
ぱたぱた走って行く子供たちに、ついて、待ってよーとカナダまで走っていくから、思わず苦笑した。
「パパ早く!」
「はいはい…。」


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「よっと」
じゅわ、とフライパンからあがる炎に、わあ!とあがる声に、フランスは楽しそうに笑う。
子供たちの素直な反応があると、パフォーマンスのやりがいがある。まだ小さな4人は目をきらきらさせていて。

「ま、もーちょいかかるんだけどな。遊んでおいで。できたら呼ぶから。」
そう言えば、子供たちは走り出して。
「いいのか?放っておくと自慢の庭ぐちゃぐちゃにされるかもしれないぞ?」
フランスが隣にそう、声をかけると、イギリスは子供のやることだろ。と返し。

「それにエリもケイもしっかりしてるから大丈夫だ。」
あらそう。自信持っちゃってまあ。
思いながら、食材を持ってきてくれたカナダと日本に、気付いて笑いかけた。



秘密の場所があるんですよ、とケイは言った。

「イギリスさんも日本さんも知らないの?」
「はい。…子供しか入れないので。」
「すっごくきれいなの!行こう?」
にこにこ笑うエリに、サラとリリーは顔を見合わせてから、うなずいて。

がさがさと、木々の間にできた小さな隙間を通る。これは確かに子供しか通れなさそうだ。
しばらく進むと、前方から、光。
顔を出すと、そこには、木々で囲まれた小さな空間があった。白い小さな花が咲いている。

「わあ…!」
高い木に周りを囲まれているから、少し暗い。けれど、上から光が射し込んでいて、神秘的な場所みたいだ。
「すっごーい!」
「綺麗ねえ。」
そうはしゃぐサラとリリーに応えるように、さあ、と風が吹き抜けた。舞い散る、白い花びら。

「あの花びらキャッチできたら、願い事が叶うんだって!」
エリの声に、きゃあ、とかわいらしい三人がはしゃぎだして。

それを、少し離れた位置でケイがながめる。
その肩に、ふわり、と吹く風。肩に乗る小さな人。
妖精と呼ばれるそれは、普通の人には見えないから、ケイは前を向いたまま、小さくつぶやく。
『ケイ』
「こんにちは。…あまりいじわるしてあげないでくださいよ?」
『あら。簡単に願いが叶っちゃおもしろくないじゃない。…あのリリーって子上手ね…』

見れば、風に舞う花びらをうまくつかもうとする寸前で、風に流されて残念そうな声をあげるリリー。ケイには、その風が妖精が起こしたものだとすぐわかって。

「いいじゃないですか、一枚くらい。」
『やあよ。簡単にいかないから燃えるんでしょう?』
ぷーい。とそっぽを向く彼女に苦笑して。

「ほらケイ!あなたも手伝いなさい!」
姉の呼び声に、はい、と答え、妖精と分かれて、花びらの中へ走っていった。

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「かんっぱーい!」
からん、と鳴るグラスの音。
「やーそれにしても久しぶりやなあ」
「そうだなあ。」
「おまえらが誘っても来ねえんだろ!」

のんびりと言うスペイン、フランスに、プロイセンが怒鳴る。
結婚してからというもの、二人ともめっきりつきあいが悪いのだ。

「けど、こないだはおまえがこーへんかったんやん。」
「あ、あれは…俺にも都合があるんだよ!」
「恋の?」
「ちっ…ちげーよ!何でそうなるんだよ!」
くつくつ笑うフランスに、プロイセンがくってかかる。それをスペインが大笑いして見ている。
そんな騒がしい光景は昔から続いてきたものだ。

プロイセンが久しぶりのその空気に知らずほっと息をついていると、なあなあこれ見て〜とでれでれしたスペインの声。そして目の前に差し出される携帯。

「何だよ?」
「ええから見て!」
…このパターンは、経験あるぞ。前は写真だった、けれど。
携帯を受け取って見れば。
…予想的中。

「俺の家族めっちゃかわええやろ〜!」
『俺の子分めっちゃかわええやろ!』
かつてとまったく変わらない自慢内容にはいはい、と呆れた返事を返す。変わらないというか成長しないというか…
「何々?お、ハロウィンの時のか?」
「そう!ほんまにめっちゃかわええよな〜!」
でれでれと表情が崩れている。
まあ確かに可愛いのは可愛い。写真なら。性格は見えないし。素直じゃないロマーノも、悪ガキルキーノも、何があったのか大笑いしているその姿は、とても魅力的だ。

「ふふん、それでも、うちには負けると思うけどな?」
見ろ、このキュートさを!
そうフランスが横からずずいと出してくるのは、また携帯。のぞきこむと、そこには、天使の格好をした、三人の姿。

「かっわいいだろ〜?」
「…まあそうだな。」
「だろー?」
世界一だよなあ、俺の家族は!
うれしそうな横顔に、こいつはちょっと、変わったかな、と思う。
昔は、こんなにうれしそうに語るタイプじゃなかったのに。

「何言うてるん、うちの家族が世界一や!」
「いいや、カナとうちのツインズがかわいい!」

…それでも、二人がこうやってぎゃいぎゃい言うのは、まあいつも通りで。
「うちの家族の方がかわええやろ、なあプロイセン!」
「いいや!な、プロイセン、俺の家族の方がかわいいだろ!」

二人が言ってくるのに呆れ、どっちでもいい。と思わずぼやくと、プロイセン!と二人から怒られた。



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うっそ、と、思わずつぶやいた
「ちょ、ど…ドイツ!」

叫んで、慌てて部屋を出て、階段から下を見下ろす。
「どうした?イタリア」
そう言う顔がやけに楽しそう…ってことはわざとだな!

「何あの部屋!」
「アトリエだが?」
そんなの俺聞いてないってば!思わず叫ぶ。

だって、だって、二階は、ドイツの書斎と寝室と、将来子供部屋になる部屋二つ、って言ってたはずで。
なのに、できあがった家のに二階に上がってみたら、一部屋多くて、なにこれって。何の気なしにのぞいてみたらそこは!
完全に一緒だった。ほかでもない、俺の家にあるアトリエと!
そりゃあ広さは狭いけど、絵の具でよごれてもないけど、でも。
窓の感じとか壁の色とか床の材質とか、同じ、過ぎて。

「おまえの部屋だって、あるべきだろう?」
「でも、」
俺キッチンにかなり注文つけちゃったから、それでいいかなあって思ってたのに。

「迷惑、だったか?」
困った表情に、ぶんぶんと首を振る。
「うれしいよ!すっっごくうれしい!」
「なら、それでいいんだ。」

イタリアって。優しい笑顔を浮かべる彼に、もう我慢できなくなって、階段駆け下りて思いっきり抱きつきに行くことにした。

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「ロマーノ、これどこ置く?」
「んー…とりあえず奥、だな。」
「りょーかい。」
荷物を運び込むスペインを見ながら、段ボールを開ける。
…新居っつったって。スペインの家だ。何度も何度も泊まって、俺の泊まる道具なんか全部置いてあるし。大事なものも。俺の部屋だってある。

ただ、なんだろう。何か、そわそわ、っていうか…うきうき、してしまう。
俺の家にあったはずのものが、どんどん、こっちに運ばれてくる。
例えば、スペインとお揃いで(スペインが勝手に!)買ったこのマグカップ、とか。
例えば、一番気に入っている本棚、とか。
俺の家にあるはずのそれが、スペインの家に増えていくのは、なんか、妙な気分だ。気恥ずかしい。
キッチンの食器棚に、マグカップを置く。…うん。なんか。…なんていうか。甘酸っぱいというか、…うん。
新婚さんって、感じ、だ。当たり前なんだけど。新婚なんだから。っていうかその事実自体がなんか、もう。

「ロマーノ?疲れた?」
奥の部屋から出て来たスペインの言葉に、まだ始めたばっかだろーが、と少し呆れる。
「平気だ。」
そう?無理せんと言ってや。…スペインの心配性。別にまだまだ平気だっての。
いくらおなかに赤ちゃんがいるからって、過保護すぎだおまえは。…昔からか。
…赤ちゃん、か。

「なあ。」
「ん?」
「子供部屋とかってさ。」
「用意してあるで〜?3つ!」
「何でだよ!」
何でまだ一人、しかわかってないのに3つ!
「えー?やって多いに越したことないやろ?」
笑うスペインに、ったく。とぼやいて。


「…腹減った。」
「んーじゃあちょっと休憩しよか。何食べたい?」
「トマト。」
「まかせとき!」
腕によりかけたる!と楽しそうなスペインに、小さく、笑った。


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「後は…。あ、カーテン。」
「それは、今度にしよう、日本。…そろそろ。」
荷物が許容をオーバーしそうだった。買い過ぎ、だ。
そうですね。と彼女が苦笑する。

二人で一緒に暮らすために、必要なものの買い出し。
引っ越し、というのはどうしても、新調しなければならないものがたくさん出る。
もちろん、昔から使っているものだって使うのだけれど。
ついでにこれも、あ、あれも、とか言ってたらそりゃあ量が増え続けるわけで。

「買い過ぎましたかねえ。」
「買い過ぎたかもなあ。」
二人で言い合いながら、困ったように笑う。次からはもう少し気をつけないと。

隣を見れば日本がいる。…今までだってそうだった、はずなのに。並んで歩くのも。…なんだか新鮮、な気が、してしまう。新婚、のパワーなのか、なんなのか。

荷物をがさごそと持ち直して、右手を伸ばす。
目指すは、日本のその、細い手。
握ると、…まだ慣れない違和感。日本はあまり、アクセサリーとかつけないから。
…左手の、薬指にある指輪が、まだ、慣れない固さを主張する。
けれどそれは、彼女が自分の一生のパートナーである、証。

「…イギリスさん。顔がにやついてますけど。」
何考えてらっしゃるんですか。不思議そうな声に、日本のことを。と言ってみると、恥ずかしそうに伏せられる視線。
やばいなあかわいいなあと思いながら、その薬指の、約束の指輪を指でなぞった。


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「あっれー…どこだっけ…。」
「どうした?カナ。」
かけられた声に、あ、と顔を上げる。

「えっと…見つからなくて。」
「何が?
「タオル、なんですけど。」
「ああ、タオルなら、こっちだよ。」
クローゼットを開く彼に、あ、そっちなんだ。と呟く。

「知らなかったっけ。」
「知らなかった、みたいですねえ。」
何度も泊まりに来ていたから、よく知っているはずのフランスさんの家ではあるのだけれど。
さすがに、一緒に暮らすとなると、知らないこともあったらしい。
そういえば、タオルとかは、いつもフランスさんが用意してくれてたっけ。
困ったように笑ったら、よく使いそうなもののリスト、作ろうか。って。

「お願いします。」
「了解。」
知らないこと。…まだあるんだな。そう思いながら、タオルを受け取る。新しくお揃いで買った、新しいにおい。柔らかい感触。

「あともうひとつ。」
「はい?」
「わからないこととかあったら、素直に聞きなさい。」
一人で悩んでないで、お兄さんに言いなさい。これからずっと、一緒に暮らすんだから。
まっすぐ指を向けられて、初めて気付いた。
そういえば、自分でしようって、しちゃってたな。
…これからは、二人、なのに。ずっと。二人なのに。
今まで一人だった、それがしみついてる。

「じゃあ、フランスさんは、気付いたらちゃんと、そうやって叱ってくださいね?」
我慢しないで、ちゃんと言ってください!
そう笑って言ったら、じゃあ言うけど。って、えっ、何?

「その格好でうろつくのはやめなさい。襲うぞ?」
「………へ?」
言われて、やっと。
自分が、お風呂に入ろうと全部脱いだ後で、タオル無くて探しに来て。
裸にTシャツ一枚、っていう姿なのを、思い出して、悲鳴を、あげた。


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さてさて。
ペンを持った手を口元に添えて考える。あとは、何がいる?
「…こんなものですかね?」
「そうですねぇ。」
書いたリストをのぞき込んでくるハンガリーのために、彼女の方に向ける。

彼女と一緒に暮らすにあたって、買わないといけないものを書き出していたのだ。
もちろん、彼女の家からも持ってくるものもたくさんあるのだけれど。
人が一人。これからずっと、一緒に暮らすのならば、しっかりと揃えなければ。

「…うーん、とりあえずこれくらいしか浮かびませんけど…でもオーストリアさん」
「はい?」
くすりと笑う彼女を首を傾げる。

「そんなに完璧にしなくたって、いいんですよ。」
この量だって一度には買えないし。ちょっとずつでいいんです。揃えていくのは。火急のものから順番で。
「だって、これからずっと、一緒にいるんですから。」

柔らかい笑顔で言われた言葉、に、目を丸く、して。
思わず、顔を手で、覆った。大きなため息。

「…え、あれ、何か変なこと、言いました?」
「……あなたには敵いませんよ、本当に…。」
本当に。…ああもう、私いつか彼女に殺される気がする。心臓が、正常に機能しなくなってしまいそうだ。
こんなに、どきどきさせられていたら、いつか!
…そうなる前にどうにかしないといけないなあと、小さく、苦笑した。

まったく。…なんて贅沢な悩みだろう。


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きらきらきら。輝く瞳。それを一心に受け、どうしていいやらとため息をついた。
「ドイツやっぱり綺麗だよねえ…」
「それを俺はどう取ればいいんだ…?」
彼女がいつにも増して目をきらきらさせている理由は、俺だ。
…というかイギリス…そろそろシメるぞ…
彼が変な魔法を発動させたらしく、突然。…体が、女になってしまったのだ。

おかげでイタリアは喜ぶが、俺は大迷惑で。
…とりあえず、子供達がいなくてよかった。こんな姿、できれば誰にも見せたくない。

それなのに。

「ドイツ、どうするの?会議。」
「く…っ!」
スーツは瞬く間にイタリアが買ってきたから、あるのだが。
…絶対にからかわれるとわかっているのに行くのは、なかなか勇気が、いる…
しかし、病気で動けない、のような理由がないのに休むのは、ちょっと…
「…大丈夫だと思うけどなぁ。」
だってドイツ綺麗だもん。誰もからかったりしないと思うよ。
「…そうか…?」
「大丈夫、もしからかってきたって俺が引っ張って逃げるよ!」
俺足早いの知ってるでしょ?

優しい言葉を聞いていると、少し勇気がわいてきた。…行ってみようか。迷っていても仕方がないし。
その決意を口にしようとしたら、イタリアはいきなり、あ!だめ、やっぱダメ!と叫んだ。

「な、何がだ?」
「ドイツ行っちゃダメだよ会議!」
だって絶対口説かれるもん!ドイツはどんなでも俺のなのに!
目をつり上げた彼女の言葉にしばしぽかんとして、それから、かわいい彼女を思い切り抱きしめた。

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「ロマーノー、大丈夫かー?」
「なんっでおまえはそんな余裕なんだよ!」
ちょっとは焦れ!怒鳴る声と、怒らんといてやーとのんびりした声が響く。
どっちが被害者かって?そりゃあのんびりしてる方。父さんだ。
だからなんでいきなり女になった本人の方が落ち着いてるんだよ!
怒鳴る声に、小さく笑う。母さんおつかれ。
朝起きたら、女性に変わっていたという父さんの、おーすっごいなあ。とのんびりした声に、
ちょっとは真剣になれ馬鹿!と言ってた母さんに、ちょっと同情してしまった。
まあ、もうみんな同じような状況だっていうのもわかっているし、母さんも心配しすぎだとは思うけど。

しかしまあ…父さん美人だなあ。すっごい綺麗だ。
小さな手。綺麗な瞳、頬。少し気の強そうなオリーブの、瞳。
…ううむ。イザベルも大きくなったらああなるのかな。

隣でじいいと父さんを見つめるイザベルを見て、まだ父さんに怒っているかあさんに、なあ、それより会議ちゃうの?と声をかけた。
「!そうだよ、会議だよ!とりあえず服、と後メイク!」
ああもう動けこらスペイン!
えーめんどい…さぼらへん?いいから行くぞ!
ぐいぐい腕を引いていく母さんが、どこか爛々としているのにあれ?と首をかしげる。

「お母さん私も行く!」
「おうイザベル!来い!」
「…なんでそんなテンション高いん?」
思わず尋ねると、イザベルがだって、と振り返った。

「だって、あんなに美人なのよ!着飾らないと損じゃない!」
ああもう想像するだけでわくわくしてきた!
目をきらきらさせる彼女に、へー…と視線を、そらした。
これは、父さんご愁傷様、ルートな気がする…。
これあれだ。綺麗な服とかバッグとか。見つけたときの反応だ。

「長くかかるぞー…。」
がんばれー父さん。そう呟いて、俺は逃げよう。とそう決意した。


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「それで?」
「…あの、その。」
「その?」
なんなんですか、イギリスさん。
そうにっこりほほ笑むママの後ろに修羅を見た。

「…いや、その…。」
仁王立ちで腕を組むママの前で正座で縮こまっているのは、パパだ。
…今は、なぜか、私のドッペルゲンガーみたいになってるんだけど。
私に本当にそっくり、なのは、どうやらパパが魔法かけるのに失敗したから、らしい。
で、それが発覚した時に、パパが口をすべらせた、『なんで日本じゃなく俺なんだ!』という一言が、今の状況を引き起こしている。

「ねえイギリスさん。私にどんな魔法をかけるおつもりだったんですか?教えていただけませんか?」
「…や、その…。」
「答えが聞こえませんよ?ねえイギリスさん。」
パパったら…隠そうとするから余計にママ怒るんじゃんか…。

「…何をしようとしたのかしらね?」
「猫耳か子供化、…だと見ました。」
ケイの言葉に、それどこからの推測?と尋ねると、父さんの好みの傾向と、今までを顧みて、ですかね。と肩をすくめた。
「たぶん母さんもわかってると思いますよ。」
「よねえ…怒ってるのって、隠すからでしょ?」
「ひとつは、そうでしょうね。…僕たちでもわかるのに、どうして父さんにはわからないんでしょうねえ。」
「さあ…。」
正座と仁王立ちの二人を見つめ、ためいきひとつ。

「…な、なんでもするんで、内容は勘弁してください…。」
頭を下げたパパの姿に、はああ、とママはため息をついて、仕方ありませんねえ。なんでも、していただきますよ?と言った。
そして…ちょっと笑った顔に、あ、わざとだ。と思った。

さらりと綺麗な、髪が流れる。ママの方をおそるおそるうかがうエメラルドは、…ああもう、なんで私から見てもかわいく見えるの!?
「…もうひとつは、怒ってるのはただのふりで、父さんがかわいいから撮影会したい、ですよね。」
なんでもしますって言うの明らかに待ってましたもん。ケイが呆れた声を出す。
「よねえ。めちゃくちゃかわいいもの。…いろいろ着せたいもんなあ。」
私の服とかサラがくれたのとかーとつぶやいたら、今すぐ持ってきてください。撮影会ですよー!と楽しそうなママの声がした。


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「…。」
「なあに?」
どうかした?甘い声に、ため息しかでない。
隣を歩くのは、絶世の美女だ。名前はフランスさん。そう、フランスさん!
朝起きたらフランスさんが女の人になってて、慌てたけどイギリスさんかなあと思ったらやっぱり原因そうで。

でも今日大事な会議だし、どうしようもないし。と、家のことを子供たちに任せて、フランスさんのスーツを買ってから、こうやって会議場へ向かっているわけで。
…フランスさんは、楽しくてたまらないらしく、笑顔を振りまいていて。…それが、すごく魅力的で…通り過ぎる人がみんな振り返ってるって、気付いてるかな…

「ほんとに、どうしたの?」
気分悪いの?それともおなか痛い?本気で心配そうな表情になった彼(女?)に、ああいえ、と慌てて首を横に振る。
「大丈夫です!ほんとに、なんでもないですから…」
「…何でもないって顔、してないけど。」
「う…」
「…」

おいで。言われて手を引かれて、そのまま、近くの公園に引っ張り込まれた。…人はまばらだ。さっきまで感じていた視線が減る。
「カナダ。」
教えて。囁くような声がまっすぐ向けられて、口を開くしかなくなる。
「…だって」
「ん?」
「フランスさん、完璧なんですもん…」
僕が側にいていいのかなって思っちゃいます。言ったら、きょとんとした表情。
それが、なんだかおかしそうに、じわり、とゆるんで。
「なんだ。そんなこと気にしてたのか。」
「!そ、そんなことって!」
ひどい、僕すっごく悩んでたのに!

「そんなこと、だよ。…カナダは誰より、かわいいのに。」
俺にとっては、世界で一番なんだから。
「だから、ほかと比べる必要なんかないの。
しかもその相手が俺だなんて、ほんとに馬鹿。」
優しく笑った彼女が、ちゅ、とくれた額へのキスがくすぐったくて。…甘くて。思わず、微笑んだ。
ああ、…いつものフランスさん、だ。
あ。もしかして僕、それが一番心配だったの、かな?いつもの彼じゃ、ないこと、が。

「あー…かわいいなあ…このまま抱いちゃいたいんだけど。」
…その言い方は、ハグ、じゃないです、よね…?
「えと、でも、女の人のまま、だと、」
「できないこともないんだけど、な?」
カーナダ。知りたぁい?小悪魔どころでなく魔王様レベルでにっこり笑った彼に真っ青になって、大慌てでぶんぶんと首を横に振った。


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はあ、とため息をついた母さんに、視線を向ける。
「ま、なるようにしかならないわよね…」
「母さん、頼むから女言葉やめて」
さっきから鏡見てるみたいなんだ!

母さんが男に変わったのはついさっきのこと。あわてて連絡をとれば、どこも同じようなことが起きているようで。
…ただ何故うちは母さんが、なのかはよくわからない。

まあそれは置いといて、とりあえずまあ着替えよう、と俺の服貸すために二階上がってきて。…で、なんというか。
俺母さんになんだなあと、目で見てわかった。だって鏡見てるみたいだ。
だから、目の色とか、口調が違うのが気持ち悪くて。

「…そう言われてもねえ。」
慣れなさい、って母さん、楽しんでるだろ…
「…とにかく、父さんの方状況確認してこようか」
「そうね」
…絶対、俺が嫌がってるの楽しんでる…


イギリスさんに電話をかけていたはずの父さんの様子を見に、一階へ向かうと、上がってくる父さんの姿を見つけた。向こうもこっちに気づいて、足を止める。

「父さん。連絡とれた?」
「、ああ、ええ。」
今なんか一瞬硬直したな。…ああ、前歩いてた母さんが俺だと思ったのか。気まずそうな表情。
父さんのいるとこまで降りて、全員で下へ向かう。今、ベアトリクスが会議の準備をしているという。

「こんなでも会議は参加しないとどうしようもないですからねえ。」
「ええ、他もそうするようで、っ!」
がくん、と父さんの体が傾ぐ。足を踏み外したのだ。とっさに手を伸ばすが、それより前に倒れかかった体を支える、片腕。

「っと…大丈夫ですか?」
「…はい、すみません、ハンガリー。」
ありがとうございます、あなたこそ腕大丈夫ですか?と言いながら立ち上がる父さん。そりゃ、片手で人一人支えるのはかなりの負担だ。けれど、母さんは笑って。

「大丈夫です!オーストリアさん軽いから!」
今なら抱き上げるのだって楽々ですよ!って母さん…
「それは言っちゃだめだろ…」
「どうして?」
そりゃあ男としてのプライドとか、いろいろあるんだって!

「あれ、オーストリアさん?」
あーあ、父さん固まっちゃった…

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