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「え、えへ?」
怒ったー?甘えた、許しを請う母さんの声を聞きながら、廊下に座り込んだ姉さんと、どうしようか。どうしようね、とひそひそ。
去年、ケイたちの家に、仕事の父さんは置いて遊びに行ったときに、ゲームセンターに行ったのがばれたのだ。行こうって言ったのは母さん。じゃあって、仕事でいなかったイギリスさん以外のケイの家の三人を加え、六人で行って。
今日までヒミツだったのは、怒りそうっていうのと、一応母さんは仕事で行ったから。案の定、父さんは眉を寄せて。
ちなみにばれたのも母さんがきっかけだ。プリクラが落ちてなんだこれは。って。

「怒るかな、パパ。」
「…うーん…」
たぶん、だけど。予想した答えを思いながら、部屋の中をこっそりのぞく。
「…仕事は」
「ちゃんと終わらしてから行きました!」
「…なら、怒らん。日本も一緒だったんだろう?」
「うん!よかった〜」
ほら。なんだかんだいって父さんは、母さんに弱い。
苦笑していると、じゃあ、えと、と母さんが続ける。
「えとね、じゃあ、また行ってもいい?今度は、ドイツも一緒に。日本ちもみんなで!」
「…日本に承諾は。」
「とったであります!ええ、是非って!」「ならよし。」
「わあい!マリアー!ガヴィー!今度ドイツが一緒にプリクラ撮ってくれるってー!」
「おいこらちょっと待てイタリア!なんだそれは!」
「ヴェー!いーじゃんかあ!」
騒ぐ二人に、瞬いていたら、肩をたたかれた。

「姉さん?」
振り返ると、なぜだか目をきらきらさせている。
「ママの手助けしよう」
「え?」
「だって、パパも一緒にプリクラ撮りたいもの。みんなでピンクのハートとか!」
それはちょっと俺も遠慮したいなあ…
「それにほら。」
シューティングゲーム、対決してくれるかもよ?
言われて、それは母さんに加勢しないと、と立ち上がった。俺と母さんの同点一位で終わったシューティングゲーム、ドイツがいたらぼろ負けしてただろうなあと母さんがこぼしてから、是非父さんともしてみたかったのだ!

「行こう」
「うん。」
うなずきあって、部屋の中に飛び込んでいった。
勝敗は決まったも同然だけど。だって父さん、母さんだけじゃなく俺たちにも甘いから!



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「すみません、内緒にしていて…」
ママの声を聞きながら、きゅ、とぬいぐるみを抱きしめる。
ちら、とパパの顔を見上げると、呆れたような苦笑。
「…いや、まあ、これくらいなら、別に。」
あ、いいんだ。そう思ってほっとした。怒られるかと思った。
それ、エリが取ったのか?聞かれて、ううん、マリア、と答える。2人で、クレーンゲームで取ったぬいぐるみを交換したのだ。
…まあこのうさぎさんがきっかけで、パパにばれちゃったんだけど。ゲームセンター行ったの。
だって、パパがこんなの持ってたかって言うからつい。ゲーセンでって。
怒られる前に、私が連れていったんですよ、イタリアくんと、マリアちゃんたちも一緒にってママが言ってくれたから怒られなかった。

「けど、子供だけでとかは、あんまり行くなよ。」
はあい。と、騒ぎを聞きつけてきたケイと答えて。
「あ。次は、イギリスさんも一緒にいかがですか?今度イタリアくんが、ドイツさん連れてくるって。」
「は?俺が!?」
「ええ。エリもケイも喜びます。ねえ二人とも?」
うなずいて、行こうよ、と誘う。パパが来たら、やっぱりプリクラ撮らなきゃよね、記念に。ママも嫌がるからなあ。どうやって誘い込もうかな。

「父さんは何が得意でしょうね?」
「そうですねえ…シューティングはイタリアくんとガブリエルくんの独壇場で、ドイツさんもいらっしゃいますし…」
「…俺がドイツやイタリアにシューティングの腕が劣るって?」
低い声。お。これは乗ってきそう。三人で視線を交わして。

「ガヴィとかすっごい上手だったし。」
「イタリアさんもすごかったですよねえ。」
「恐らくドイツさんはそれより上でしょうし。」
三人で続ければ、んなわけねーだろ!俺が勝つに決まってる!とおお、乗った!

「かっこいい!がんばってパパ!」
「おう!」
だめ押しして、こっそりピースサイン。同じサインが二つ、返ってきた。


「…さっきの答えですけど。たぶん、ギタドラとか得意だと思いますよ。」
「お、ケイの担当分野。」
「父さんでも容赦しません。」
さらりとケイが言って、楽しみだなあとくすくす笑った。

「ところで母さんは、また見てるだけ?」
「ええ。」
「何で?」
「勝負になりませんから。」
どういう意味で、だろう。とちょっと思った。



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たたたん、たたん。と音がする。
「すっごいケイ早い!」
「うわああ!」
たたん、と手慣れた手つきで叩くのはケイ。
初心者丸出しでそれに挑んでいるのは、スペイン。
点差はケイの圧勝、だ。

みんなでゲーセン行ったのーすっごく楽しかった!というマリアの一言からじゃあみんなで行ってみよう!とほぼ貸し切りに近い状態にしてもらって来たのは、ゲームセンター。
向こうでは、ドイツとイギリスが決着のつかなかったシューティングゲームの再戦をしているし、その手前では、アリシアとマリアにせがまれて、以外とこういうの得意なルキーノが、ぬいぐるみをクレーンゲームで取っている。
ベアトリクスとイザベルは、レジーナとポーランドに巻き込まれてプリクラ機の中。
その他の人達も、大人も子供も結構楽しんでいるようで。

「ここまで喜んでもらえると、苦労した甲斐がありますねえ、エリ。」
「ほんと!」
書類書くのとかほんとうにしんどかったんだから!言いながら、エリは日本の隣りに座って。
「エリは遊びに行かないんですか?」
「次ルキーノとチェンジ。」
「…なるほど。」
くすくすくす。おだやかに笑う日本の姿を、エリは、しばらくじいいと見つめてから、ねえ、と言った。

「はい?」
「前から聞きたかったんだけど。」
「何でしょう?」
首を傾げる彼女に、深呼吸一度。
「…ここのゲーセンの、記録残る系のゲーム全部の一位に、だいたい二位と大差つけて、『K.Honda』って名前があるんだけど、まさか…。」
黙ってにっこりした母の姿に、思わずうわあ、と思ったエリだった。

「だからしないの?」
「…言ったでしょう?勝負にならないって。」
日本は目を細めて笑った。



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ちょこちょことついてくるその姿がちょっと、なんだか昔の弟を思い出した。
あいつもにーちゃんにーちゃんって後ろ歩いてきたなあ。

そして今は、それが二人に増えてるわけだが。
ごそ、と探したら、ポケットに飴が何個か入っていた。ちょっと思いついて、振り返る。
きょとんとしながら、空の洗濯籠(子供達のお手伝い用、あのじゃがいも手製、らしい)を持った二人に、お手伝いのご褒美だ。って、包装を剥いてそれを差し出す。

「あーん。」
一瞬きょとんとした後、はにかむような笑顔。それから、ぱくん、と食べた。おお。マリアはやるだろうなって思ったけど、ガヴィもやるのか。
うちだと、ルキーノは乗ってくるけど、イザベルは恥ずかしがって乗ってこないからなあ。

「おいしい!」
「…これ食べたことある。ルキーノにもらって。」
「ん。ここの飴うまいんだよな。」
言いながら、自分もひとつ食べて。

「ようし次水やりなー。」
「わあい!水やり好き!」
ん。いいことだ。植物を大事にするのは。と思っていたら、ロマーノさん、姉さんにホース渡しちゃダメだよ、とガヴィが呟いた。何でだ?


納得した。ものすごく納得した。
「…マリア…。」
「ごめんなさーい!」
絶対反省してないだろ、って声で、マリアが謝る。
まったく…そういや弟も、水を見るとテンションが上がるらしい。ホース持たせたら誰かに当てたくなる、と全員びしょぬれにしてくれたこのマリアと、確かに親子だってことか。
ぐっしょり濡れた服をさて着替えないとな、と思っていると、あ、パパ!とマリアの歓声。げ。と思わず顔をしかめる。

「マリア…またやったのか。」
「えへへ。だって暑いんだもの!ちゃんと水やりもしたよ?」
「それでも、人を巻き込むなといつも言ってるだろう?」
「…ごめんなさい。」
「もうしないと約束できるか?」
「はい。」

…ふうん。やっぱじゃがいもにはちゃんと、謝るんだな。それにこいつも、頭ごなしに怒る、以外にもできるんだ。ちょっとスペインに似ている。父親、の、顔なんだろう。きっと。
思っていると、タオル、と差し出された。おう。と受け取る。…ありがとうは、言えそうにない。

わしゃわしゃ髪を拭いていると、着替えを取ってくる。と言って去っていくじゃがいも。…スペインだったら、しゃーないなーって言いながら髪拭いていくのにな。3人分。
…そう思ったら、ちょっとだけ、スペインに会いたくなった。



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「はあ!おいしかったあ!スペイン兄ちゃんごちそうさま!」
料理上手だねえ、と笑うと、イタちゃんには負けるわ〜って。そんなことないと思うんだけどなあ。にこにこ笑うスペイン兄ちゃんだけど、料理の腕前は本当と思う。

「そして、イタちゃん見習って、嫌いなもんも残さず食べや。イザベル、ルキーノ。」
笑顔のままかけられた声に、ぎく、と揺れる体が二人分。
ちら、とそのお皿の中に残ったものを見ると、あれ。兄ちゃんの嫌いなものとおんなじ!
「ダメだよ、二人とも。みんな、いろんな人ががんばって育ててくれたものなんだから。」
食べないと。というと、うう、と言ってから、イザベルがフォークを取った。

「お。イザベルは偉いなあ。…それに比べてルキーノは…お兄ちゃんやのに…。」
「今食べるとこ!」
はああ。とスペイン兄ちゃんのため息と同時に、がちゃん、とフォークで突き刺して口に運ぶルキーノ。おお。扱い方慣れてる。
むぐむぐ。とちゃんと食べてごちそうさま、とそろう声。

「はい、二人とも偉いな。」
ぐしゃぐしゃ。と二人の頭を撫でる。ちょっと痛そう。って思っていたら、上がる悲鳴。
「父さん痛い。」
「力強いって!」
「おお。ごめん。」
そう、痛いんだよね。スペイン兄ちゃん力強いから。俺が小さいころもそうだった。…それにしても。
「好き嫌いかあ。」
「マリアとガブリエルはせーへんの?」
こくり。とうなずく。だってドイツが許してくれないもん。俺は、おいしいものなら何でも食べるし。

「うちはロマーノが、自分が嫌やからって甘くするからなあ…。」
三人そろってこっそり逃げ出すんやで?だって。…兄ちゃん…。
「それじゃ、片付けよか。」
「あ、手伝うよ。」
「ええよ〜イタちゃんはのんびりしとって?それか子供らと遊んだって?」
な。と笑われてしまうと、強くは言えないけど。

ほんとは、洗い物も好きだから、やりたかったんだけどな。
ドイツだったら、じゃあ手伝ってくれるかって、やらせてくれるんだけどなあ。
そうこっそり思いながら、じゃあ何して遊ぼうか!と二人に笑いかけた。


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