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何でこう女性向けの小物ってたくさんあるんだろうな…
「はー…どうすっかなー…ん?」

ふと視線をあげた先に、知り合いの姿。…へえ、はあ、ふーん…おもしろそうなそれに近づいていって。


「ふむ…こちらもいいが…こっちも…似合うだろうしな…」
「ヴェースト!」
「うお!?」
弟の姿に後ろから首絞めにかかるが、くそうびくともしやがらねえ!

「なんだ兄さん…」
嫌そうに振り返りやがって…兄をなんだと思ってやがる。
「そりゃあこっちのセリフだぜ!何してんだ?こんなとこで。」
ファンシーな店の店先。ピンクとオレンジの髪留め見てるのがちょっと、いやかなり!浮いている。

「あー…その」
何だ?言いづらそうに。
「その…だな。飲み会が長引いて連絡しないまま朝帰り…」
ははーん…それでイタリアちゃん怒らせたわけか…だからお詫びの品選んでたと。

かわいらしい髪留めだ。鮮やかなオレンジもファンシーなピンクも、イタリアちゃんによく似合うだろう。
「ふうん。なるほどねえ…。」
髪飾り、か。…確かになあ。

「…ちなみに。」
「あ?」
「どちらがイタリアに似合うと思う?」
……こいつここでどんだけ悩んでたんだろうな…俺に聞いてくるとは思わなかった…
「あー…こっちがイタリアちゃんで、こっちは、マリアのちびだな。」
「ふむ。参考にさせてもらう。」
明らかにほっとした彼に、よかったなあとしみじみ思った。



ふらふらと歩いていると、もう一人見つけた。
「お。スペイン!」
呼ぶと、んー?と振り返るチョコレート色の頭が振り返る。ってうわ。
「おまえなんだそれ…」
すげー量の食材を抱えている。…まあ赤いその食材が大半なのは、いつものこと、だが。

「いやー。飲み会長引いてロマーノ怒らせてもうてん。で。」
「おまえもかよ…。」
も?と首を傾げる彼に、ヴェストに会った。と言えば、そっかー。と納得の声。

「それで、餌で釣ろうって?」
「言い方があれやけど…ロマーノには一番効くからなあ…。」
今日からしばらく三食パスタやでー。だそうだ。困った顔しながらも、楽しそうな表情。
それを指摘すると、でれっと崩れる顔。…やべ、聞かなきゃよかった。

「やって〜好きな人が俺の作った料理おいしそうに食べてくれることほどうれしいことはないで!」
ロマーノよう食べるしな!作りがいあるわ!って…はいはい一生やってろ!

でもまあ、それもあるかもな。料理か。
思いながら、スペインの、語り出すと延々止まらなくなる『ロマーノ語り』からとりあえず逃げることにした。



「おーい。プロイセン。」
呼ばれて、振り返る。手を振るのは、金髪の美丈夫………。
「…おまえも、怒らせたくちか?」
「も、ってことは、スペインとかに会ったんだな?」
こっくりうなずくと、いやー思いのほか怒っちゃってなー。お兄さん大失敗。と頬をかく姿。
その腕には、大きな、目がくるっとしたかわいらいい熊のぬいぐるみが抱えられている。…似合わない。

「…それが、プレゼントか?」
「そうだよ?」
「…年考えろよ?」

相手だってそこそこの年だ。なのにこんな大きなぬいぐるみって…。
そう思っていたら、わかってないねえ。ってわざとらしいため息。何だよ!

「女の子はいくつになっても、かわいいものが大好きなんだよ。」
特にカナは。ふわふわした触り心地のものが大好きだから。
くす。笑うフランスは、とてつもなく甘い表情をしている。
ふうん。…喜ぶ、のか。そんな子供っぽいもの、でも。
確かに、その大きなぬいぐるみは、かわいい。もふもふしてそうだし。うん。

「それにこれ抱えてるカナ、っていうのがいいんだよな!超かわいい。」
「ベタ惚れだなあ。…かつて浮き名を流した男とは思えない。」
あっちへこっちへ。お前は何人に声かけるんだって、そっちに呆れたものなのに。
今はただ一人のためだけに、こうやって目立つぬいぐるみ買って帰るほど、べた惚れなわけだ。

「うん。俺のカナダだから。」
にっこり笑って言われた言葉、にごちそうさま、となんか胸焼けするほど甘ったるい気分になった。



4人目を発見。こっちに気付いて振り返ったイギリスに、おまえもかよ。と声をかけると、は?と目を丸くした。

「何がだ?」
「さっきから、飲み会長引かせて怒らせた奥方様への貢ぎ物選んでるやつにばっか会うからだよ。」
言ってやれば、あー。と、居心地悪そうな顔。図星かよ。ったく。どれだけ飲んでたんだこいつら。
呆れながら、その手の中のものを見る。
…ブックカバー、だ。あんまりかわいくは、ない。どちらかというと、男が持っていてもおかしくない、青いブックカバー。

「…貢ぎ物?」
「…まあな。」
…そうか、まあこいつの奥方って日本だもんな。あんまりかわいらしいものとかつけているイメージは、ないかもしれない。
「髪飾りとかぬいぐるみとかにはしないんだな。」
「…日本が実際使うものの方がいいだろ。」
あいつは、髪はゴムでくくるだけだし、ぬいぐるみはいらないだろうしな。だと。
…実益のあるもの、な。ふうん。確かに、いらないものをプレゼントしてもらっても困るしな。

「だからブックカバー?」
「ああ。」
「にしても、無地の青って。愛想なさすぎないか?」
「これに少し和柄の生地使って、刺繍入れればいい。」
…ああ。そう言えばこいつの特技だっけ。
なるほどな、それで世界に一つだけのプレゼントの出来上がりってわけだ。

「…ま、俺には無理だな…。」
「何か言ったか?」
「いや?…あー…そうだな。日本は愛されてるなあって言った。」
わざとらしく言ってやると、顔がぼんっと音を立てそうに真っ赤になった。ちょっとおもしろかった。



で。さらにもう一人発見。

「おまえも参加してたのか!?」
「は?何の話です?」
…どうやら、おぼっちゃんだけは違うらしい。なんかほっとした。オーストリアまで参加してたらなんか、イメージ、が。

「じゃあ何やってんだよ?こんな花屋の前で。」
「……妻にお土産を買っていって何がいけないんですか?」
「…あ、そ。仲がお宜しいようでなにより。」

睨みつけてくる視線に、やれやれ、と肩をすくめて。
店の中を眺める。色とりどりの花々。鮮やかで美しいそれにふうんと呟いて。
ふと気付く。彼が見ていた花、は。

「…切り花、なんだな。」
「やはりあなたもそう思いますか。」
ではやはり、こちらにしましょう。そう何か勝手に納得したオーストリアが手に取ったのは、小さな鉢植え。これは見たことがある。秋になると小さな花が咲くやつ。
「俺は何も言ってないんだけどな。」
「うるさいです。」
…ったく。ただきっかけが欲しかっただけだろうに。
たしかに、切り花より、根生えてるやつの方が喜びそうだと思ったのは思ったけれど。
まあ、俺には関係ないけど。っていうか、どこよりも長く一緒にいるくせに、まだなんかそういう遠慮とかすんのな。いい加減にしろって怒鳴りたくなる。


「で?」
「は?」
「貴方はここで何をしているんですか?」
「!…べっつに。」
慌てて視線を反らすと、はああ。とため息。

「わかりやすい嘘ですねえ。」
呆れた視線に、むっとして。
「大方誰かに送るプレゼントでも、どうしようかと悩んでいたんじゃないんですか?」
「…う。」
声が詰まる。…図星だ。

「でしたら、その方に何が欲しいか聞いてみるのが早いと思いますが。…まあ、花なら、当たり外れがあまりないと思いますが。」
そう思ったからここに来たのでしょう?って…そんななんか、全部お見通しですみたいに言われると何も言い返せなくなる。…全部当たってる。
「まあ、好きになさい。」
そう言って、余計なお世話していったオーストリアは、花の会計を終らせて、歩き出して。

「ああ、そうそう。」
「何だよまだなんか、」
「彼女を司るのは、その、オレンジリリーですよ。」
「〜〜!!」

今度こそ本当に。
何も言えなくなった。





ばさり。放り投げるように渡された花束を慌てて受け取って。
鮮やかな黄色。オレンジリリーのその色に目を丸くして。

「…やる!じゃあな!」
そのまま歩き去ってしまいそうな後ろ姿を慌てて呼び止めた。

「プロイセンさん!」
歩みを止める、きれいな銀髪。赤い瞳が、こちらを見る。
本当にきれいな人だ。いつも思う。

「あの、ご飯食べていきませんか?」
「…兄は?」
出張中でいません。そう答える。お花のお礼もしたいし。…それに。

「実は、プレゼントでケーキとか料理とか、食べ物をたくさんもらってて…一人じゃ食べきれないんです。」
もしよかったら、手伝っていただけませんか…?
みなさん、お兄さまと一緒だと思って二人分贈ってくるんですもの!
困っているのだとそう、言外に告げると、しばらく考えてから、しゃーねーな、と戻ってくるその人に、ほう、と息を吐く。よかった。まだ彼と一緒にいられる。…あら、一緒にいられるのがどうしてこんなにうれしいのかしら?

「うわ、それなんだ?」
彼の声にはっとする。
玄関に置きっぱなしだった、大きくて重いプレゼントの箱に、重くってまだ中を確認できてないんですけど、と言えば、彼はそれを抱え上げて。

「重っ…リビングでいいのか?」
「あっはい!すみません、ありがとうございます。」
「気にすんな。飯の礼だ。先払いで。」
そんな風に言う彼がとても。…本当に優しいなと、思った。

動くと、がさりと、花束が音を立てる。
鮮やかで、かわいらしい、花束。彼はどんな顔で、これを買ってきたんだろう?
想像するだけで楽しくて、くす、と笑ったら、リヒテン?とプロイセンさんの呼ぶ声がして、慌ててリビングへ走り出した。

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ふんふーん、と楽しそうな声がする。

「イタリアくんは本当に料理好きなんですねえ。」
笑って言えば、だって楽しいじゃない!と嬉しそうな声。
鮮やかな手つきで炒められているのは、お弁当のおかず、だ。
家族の分作りたいのだと、本人が食料大量に持ってやってきたのはついさっきのこと。
イギリスさんとドイツさんの会議が終わり次第、みんなでピクニックの予定だから。子供たちは遊びにでているし。

「はいできたよ〜日本つまみぐいする?」
「味見って言ってくださいよ。」
苦笑しながら、一口いただく。…うん、とてもおいしい。教えた私よりずっと上手だ。

「つぎは?」
「そうですねえ…では、おにぎりでも作りましょうか。」
「作る!」


楽しそうなキッチンの会話を、男二人がこっそり聞いていた。
盗み聞き、だ。まあ、ただ仕事が早めに終わって早めに帰ってきただけだが。

そうとも知らず、キッチンでは会話が弾んで。
「ドイツおいしいって言ってくれるかなあ。」
「大丈夫ですよ、イタリア君の本当においしいですから。」
というかイタリアの作ったものなら俺はなんだって美味しく食べる!とぐ、とドイツは拳を握った。

「日本のだってすっごくおいしいよ!イギリスだって喜ぶんじゃない?」
「あっ…ありがとうございます…」
「あ、日本照れてる、かわい〜」
ああもう本当にな!今すぐ抱きしめたい!とイギリスは声を抑えて叫んで。
とりあえず、もう少しだけ、弁当ができあがるまで待とう、と顔を見合わせて苦笑した。


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「遊びに来たぞー!」
声を出すと、おまえは…何だ、お祭りごとでも察知するレーダーでも付いてんのか!?と言いながらイギリスが出てきた。

「何だいそれ?」
「…まあいい。早く入れ。今日は…」
「あれ、アメリカ?」
後ろからかけられた声に振り返る。
そこには、きょとんとしてバスケット抱えたカナダと、荷物を肩に担いだフランス、リリーとサラ、だけでなく、シーランドにアリシア、スウェーデンにフィンランドの姿まであった!

「わお。大所帯だね。」
「おまえと違って前から約束してたんだよ。」
「みんなでバーベキューなんです。」
「ま、一人分なら食材なんとかなるし。食っていくか?アメリカ。」
おお!ナイスタイミングだな!俺!



「こらおまえら、肉ばっかりじゃなくて野菜も食え!」
イギリスの声に、口に肉頬張ったまま顔を上げ、ら、って誰だろう、とあたりを見回したら、同じ状態のシーランドと目があった。
むぐむぐ食べ終えて、バーベキューは肉だぞ!と言ったらそうですよ!と同意の声。シーランドだ。わかってるなあやっぱりそうだよな!と彼に手を出せば、ぱん!と打ち鳴らす音。

「…あのなあ…」
「こら、シーくん。だめだよ」
「ママ…」
フィンランドの声に、シーランドが負けかけている。む。
「食べたいもの食べて何が悪いんだ!」
「だから量を考えろって、」
「野菜食べないと、二人ともアリシアに身長抜かされるよ?」
カナダの一言に、シーランド共々ぴしり、と停止。

ぎぎ、と見やるのは、最近すごい勢いで身長の伸びているアリシア、だ。
いやでも女の子だし、とは思うけれど、親はあの、スウェーデン、だし。視線をやる。見上げる、長身。そのまま、アリシアに戻して。

「…何?」
エリとサラと話しながら食べていたアリシアが振り返る。
食べているのは、もちろん野菜で。
「…僕も野菜食べるです!」
「俺も!」
ばたばた駆けていって、日本とフランスから野菜をもらう二人を見送り、やれやれとイギリスはため息。
「単純ね」
「確かに。」
ケイとリリーに笑われてるぞー?まったく…
「しかし、すごいな、カナダ」
一言だけであのわがまま放題のヤツらを従わせるとは。そう言えば、そんなことないですよ、とはにかんだ笑顔。
「家で言ってることを言っただけですよ」

…母は強し、ということなのかもしれない。

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