フィンランドが遊びにくるのは珍しいことじゃない。 紅茶を入れてはいどーぞ、と差し出す。 「ありがとうございます。すみません急に。」 「ううん、アリシアとシーランドは元気?」 「はい。あいかわらずシーくんがアリシアを引っ張り回してます。」 それはまた元気そうだ。マリアちゃんとガヴィくんは?聞かれて元気だよーと答える。 「今日も二人でドイツ引っ張って公園行っちゃった。」 「あれ、イタリアさんは?」 「居残りー。」 仕事の電話が入るはずなのだ。だから、家を空けるわけにはいかなくて。問題は、いつかかってくるかわからないこと。俺は三時間くらい後って踏んでるんだけど。 「だから、フィンランドが遊びに来てくれて助かったよ〜」 だって暇なんだもん! 頬杖をつくと、くすくすとフィンランドは笑った。 「ドイツさんが子供たちと遊ぶのかあ…あまり想像できませんけど。」 「俺はスウェーデンが子供たちと遊ぶ方が想像できないよ!」 だって怖いじゃん!と言ったら、フィンランドはううん、と困ったように笑って。 「でも、スーさん、子供たちの前だとすごくいい笑顔するんですよねえ。」 僕が見たことないような顔を簡単に! そう訴える声に、わかる!とその手を取った。 「ドイツもさあ、簡単に笑うんだよね!幸せって顔で!ずるいよねえ子供って!」 俺たちがめちゃくちゃがんばったってそんな顔しないくせにさ!子供たちがいる、っていうそれだけで、あんな風に優しく笑うんだもん! ねえ!と二人で言い合って、笑う。 「でも、わかっちゃうんですよねえ、その気持ち。」 「ねえ。かっわいいもん、子供たち。」 大事な大事な小さな天使たち。もうほんと、何にも変えられないくらいにかわいい! 「ちなみにフィンランド、スウェーデンと子供達とどっちが大事?」 「そりゃあもちろん、両方、ですよ!」 だよね!とくすくす笑い合って。 「ただいまー。」 「あれ、帰ってきた。」 玄関からの声に、立ち上がると、お邪魔しますですー。と元気な声もついてきて。 「…今の。」 「シーくん?」 フィンランドと顔を見合わせていたら、なんだかぞろぞろ歩いてくる気配。 「ただいま、ママ!」 走ってくるマリアや、ガヴィを抱き上げたドイツ、まではいいんだけど。 「あ、パパ、ママいたです!」 「えっ、スーさん!?シーくん、アリシアまで…どうしたの?」 後ろから歩いてきた、フィンランド一家の姿にぱちぱち瞬く。 「…どしたの?」 「帰ってくる途中で会ったんだ。フィンランドを迎えにきたところだったみたいだからな。」 あ、そういえばフィンランド来てるってドイツにメールしたっけ。 「みんなでお買い物して帰ろうって、パパが。」 「今日パパ仕事早く終ったですよー!」 「…そっか。ありがとう。スーさんも。」 「ん。」 うれしそうなフィンランドの表情。よかったね。と小さく笑って。 「母さん」 「ん?なあに?ガヴィ。」 視線を合わせると、はい。と渡される、花束。 「え、俺に?」 「綺麗だったから。お土産。一人にしてごめんなさい。」 「やっぱりママがいないとつまらないねって。帰ってきたの。」 お仕事終るの待ってるから、終ったら遊ぼう? ガヴィとマリアの言葉に、しばし瞬いて。 「…ああもう大好き…!」 二人をぎゅう、と抱きしめた。 戻る . 「え、えへ?」 怒ったー?甘えた、許しを請う母さんの声を聞きながら、廊下に座り込んだ姉さんと、どうしようか。どうしようね、とひそひそ。 去年、ケイたちの家に、仕事の父さんは置いて遊びに行ったときに、ゲームセンターに行ったのがばれたのだ。行こうって言ったのは母さん。じゃあって、仕事でいなかったイギリスさん以外のケイの家の三人を加え、六人で行って。 今日までヒミツだったのは、怒りそうっていうのと、一応母さんは仕事で行ったから。案の定、父さんは眉を寄せて。 ちなみにばれたのも母さんがきっかけだ。プリクラが落ちてなんだこれは。って。 「怒るかな、パパ。」 「…うーん…」 たぶん、だけど。予想した答えを思いながら、部屋の中をこっそりのぞく。 「…仕事は」 「ちゃんと終わらしてから行きました!」 「…なら、怒らん。日本も一緒だったんだろう?」 「うん!よかった〜」 ほら。なんだかんだいって父さんは、母さんに弱い。 苦笑していると、じゃあ、えと、と母さんが続ける。 「えとね、じゃあ、また行ってもいい?今度は、ドイツも一緒に。日本ちもみんなで!」 「…日本に承諾は。」 「とったであります!ええ、是非って!」「ならよし。」 「わあい!マリアー!ガヴィー!今度ドイツが一緒にプリクラ撮ってくれるってー!」 「おいこらちょっと待てイタリア!なんだそれは!」 「ヴェー!いーじゃんかあ!」 騒ぐ二人に、瞬いていたら、肩をたたかれた。 「姉さん?」 振り返ると、なぜだか目をきらきらさせている。 「ママの手助けしよう」 「え?」 「だって、パパも一緒にプリクラ撮りたいもの。みんなでピンクのハートとか!」 それはちょっと俺も遠慮したいなあ… 「それにほら。」 シューティングゲーム、対決してくれるかもよ? 言われて、それは母さんに加勢しないと、と立ち上がった。俺と母さんの同点一位で終わったシューティングゲーム、ドイツがいたらぼろ負けしてただろうなあと母さんがこぼしてから、是非父さんともしてみたかったのだ! 「行こう」 「うん。」 うなずきあって、部屋の中に飛び込んでいった。 勝敗は決まったも同然だけど。だって父さん、母さんだけじゃなく俺たちにも甘いから! 戻る . 「すみません、内緒にしていて…」 ママの声を聞きながら、きゅ、とぬいぐるみを抱きしめる。 ちら、とパパの顔を見上げると、呆れたような苦笑。 「…いや、まあ、これくらいなら、別に。」 あ、いいんだ。そう思ってほっとした。怒られるかと思った。 それ、エリが取ったのか?聞かれて、ううん、マリア、と答える。2人で、クレーンゲームで取ったぬいぐるみを交換したのだ。 …まあこのうさぎさんがきっかけで、パパにばれちゃったんだけど。ゲームセンター行ったの。 だって、パパがこんなの持ってたかって言うからつい。ゲーセンでって。 怒られる前に、私が連れていったんですよ、イタリアくんと、マリアちゃんたちも一緒にってママが言ってくれたから怒られなかった。 「けど、子供だけでとかは、あんまり行くなよ。」 はあい。と、騒ぎを聞きつけてきたケイと答えて。 「あ。次は、イギリスさんも一緒にいかがですか?今度イタリアくんが、ドイツさん連れてくるって。」 「は?俺が!?」 「ええ。エリもケイも喜びます。ねえ二人とも?」 うなずいて、行こうよ、と誘う。パパが来たら、やっぱりプリクラ撮らなきゃよね、記念に。ママも嫌がるからなあ。どうやって誘い込もうかな。 「父さんは何が得意でしょうね?」 「そうですねえ…シューティングはイタリアくんとガブリエルくんの独壇場で、ドイツさんもいらっしゃいますし…」 「…俺がドイツやイタリアにシューティングの腕が劣るって?」 低い声。お。これは乗ってきそう。三人で視線を交わして。 「ガヴィとかすっごい上手だったし。」 「イタリアさんもすごかったですよねえ。」 「恐らくドイツさんはそれより上でしょうし。」 三人で続ければ、んなわけねーだろ!俺が勝つに決まってる!とおお、乗った! 「かっこいい!がんばってパパ!」 「おう!」 だめ押しして、こっそりピースサイン。同じサインが二つ、返ってきた。 「…さっきの答えですけど。たぶん、ギタドラとか得意だと思いますよ。」 「お、ケイの担当分野。」 「父さんでも容赦しません。」 さらりとケイが言って、楽しみだなあとくすくす笑った。 「ところで母さんは、また見てるだけ?」 「ええ。」 「何で?」 「勝負になりませんから。」 どういう意味で、だろう。とちょっと思った。 戻る . 「抱っこしてみるかい?」 カナダに言われたアメリカが、慌てていたのがちょっとおもしろかった。 「いや俺は、」 「大丈夫だ。リリーはおとなしいからな」 「ほら。」 「…う…」 カナダにリリーを差し出されて、アメリカがこわごわと抱き上げるのを見る。ああ、そんな抱き方してるとこっちがはらはらする! 「もうちょっと腕回して…そうそう。」 「…わあ…」 ちっさいなあ。…ってそうか。アメリカのまわりのちびって、シーランドくらいの年のやつしかいなかったのか。 「きゃあ」 「あ、笑った。」 「リリーは度胸あるなあ…」 将来大物になるぞ。なんてフランスが言う。まだ生まれたばかりなのにな。小さく笑う。まあ気持ちは分からないでもないが。 「…リリー、で、サラ。だよな?」 「うん。よく似てるよね。」 まだ赤ちゃんのカナダのとこの双子は、今のところ本当にそっくりだ。 かわいい笑顔はカナダ似だろうなと思っていると、抱き上げていたエリが見上げてきた。くるりと大きな瞳。 うん、やっぱりうちの子が一番だ。 「リリーは、ユリの花、かい?」 「名前?そうだよ。綺麗な花の名前。」 また、強さも表す花ですね。日本が、ケイをあやしながら言う。 「サラは?」 「王女様、だよ。かわいいお姫様。」 フランスが頬を撫でると、紫の瞳が見上げる。大きな目がぱちぱちする、のは、ああ、赤ちゃんってずるいなあと思う。かわいくないわけがないのだから! 「エリとケイにも、意味があるのかい?」 リリーをカナダに返しながらのアメリカの言葉に、まあな。と答える。 「エリは?やっぱり漢字なのかい?」 「ほら、イギリスさん。」 考えたのはあなたでしょう?日本に言われて、机の上のペンと紙に手を伸ばす。 「まあ、一応、だけどな。」 恵梨、と書く。いろんなものに恵まれますように。そういう祈りをこめて。 「じゃあ、ケイは?」 「こう、だよな?日本」 啓、と書くと、あってますよ、と返事。よかった。 「ひらく、という意味があるんですよ。」 「ああ。日本は閉じこもってたもんな!」 その一言に日本は苦笑。なんというか…そうやって言えるのはおまえくらいだろうな。 「うーん…この子たちが大きくなるのかあ…。」 想像もつかないぞ。そういうアメリカに確かに。と呟く。 楽しげに膝の上でお絵描きを続けるエリや、日本に抱き上げられて眠るケイ。アメリカに慣れたのかうとうとしはじめたリリーに、フランスがあやすサラ。 どんな大人になるのだろう。どんな明日を夢見ているのだろう。 「まあ、時が過ぎれば、わかることだろ?」 「楽しみに待つしかないですね。」 その答えは、きっと、素敵なものであるはずだから。 戻る |