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「ただいまー!」
「ただいま」
元気な声に、おかえり、と声をかける。ぱたぱたと部屋の入り口に顔を出すのは、マリアが先。

「あれ、パパ!今日早いね」
「ああ。おかえり」
「ただいま!」
挨拶を交わす二人の間から、走ってきたガヴィが顔を出した。
「父さん!約束、」
「ああ、わかってる。」
ぱっと輝く表情。手洗ってこい。一言にはあい!と二人が走り出して。

「約束って?」
机の準備をしているドイツに尋ねるけど、笑いながら秘密だ、だって。もー…教えてくれたっていいじゃんか。膨れているうちに、また元気な足音。
「今日の晩御飯はなんですかー!」
元気な声に、今日はラビオリでーすと答えれば上がる歓声。
「やった!じゃあ取り皿がいるね」
「これ運んでいいの?」
キッチンにきててきぱき手伝ってくれる二人に、ううむドイツの血だよなあとしみじみ。俺じゃこうはいかないよなあ。

「どうした?」
いつのまにか隣にいて、ラビオリ用の大皿を差しだしてくれるドイツ。何でもない。そう答えて、お皿に出来上がった料理をよそう。漂う香り。おなかすいた、とつぶやくのはガヴィだ。確かに。すっごくおなかすいた!
全部よそい終われば、運んでいってくれるドイツ。追いかけるようにテーブルへ行き、エプロンを外す。


「よし、できた!さ、食べようか?」
元気な声が返ってきて、幸せだなあと微笑んだ。


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今日の天気、晴れ。
ヴェストとイタリアちゃんが両方仕事だというから、ちびども見ててやろうか言ったらヴェストがすごい微妙そうな顔をした。なんだ!俺にだって子守くらい出来るぞ!

いい天気だから公園行きたいとマリアが言うから、連れて外にでることにした。帽子かぶっていけよ、といえば素直に走っていくちんまいの二人。
その後ろ姿を、どこか懐かしく感じながら、さあ準備するかなあと伸びをひとつ。

「あ、鳥さん」
ちち、と飛んできた黄色いのが、いつもみたいに頭の上に止まる。
「鳥さんも一緒にお散歩だね」
「そうだね!」
仲良し姉弟が二人、手をつないで楽しそうに歩くのを、ゆっくり後ろから追う。
笑う子供たちの、声。
空は快晴、絶好の散歩日和!
「…平和じゃねーか。なあ。」
「ぴ?」



ドイツ、呼ばれて振り返る。
「子供たちが心配?」
「…まあな。」
「大丈夫だよ、マリアもガヴィもしっかりしてるもん。」
そっちか。
「それに、プロイセンだって悪い人じゃないしさ。それはドイツが一番よく知ってるでしょ?」
「そりゃあまあ、そうなんだが…」
しかし。言い掛けて、やめる。
「…まあ、そうだな。」
一応あんなでも兄だ。…人となりは、イタリアの言うとおり一番俺がよく知っている。
「ね。ほら、早く終わらせて、帰ろうよ!みんなでご飯!」
「そのためにイタリア。…逃げるのも寝るのもなしだからな。」
「うっ…努力シマス。」
困りはてた顔のイタリアを見て、小さく笑い、行くぞ、と声をかけて会議場へと歩き出した。



近くの真っすぐな表情をながめる。
顔にかかる金髪をかきあげ、まっすぐキャンバスに向かう青い瞳。
思わず、ヴェスト、と呼びそうになった。それくらいに父親によく似た、顔立ち。
あいつもよく、こうやってキャンバスに向かっていた。
ずれかかった大きな帽子を上げながら、真剣な眼差しで。…ただあれは、目の前のものを見てはいなかったのだろうけど。どこか遠い、誰かを見ていた。

けれど。
「…それよりは、どっちかっていうと…」ガヴィの目は、真剣というより、何も見えていない。無我夢中、といった感じだ。芸術家の血。オーストリアがピアノ弾いてるときとかに近い。きっと、イタリアちゃんがこんな顔するんだろう。見たことないけど。
じっと見ていると、ぐぎる。とおなかが鳴った。俺じゃない。ガヴィだ。その証拠に、ぴたりと動きが固まった。ちら、とこっちを伺うような、恥ずかしそうな視線。
「…腹減ったな。なんか食いに行くか。マリア!」
花飾りを作っていた姉を呼ぶ。

「何食いたい?」
「ピッツァー!」
大きな声だ。元気でなにより。
「だってよ。いいか?」
近くにうまい店あるのは知っている。グルメなイタリアちゃんの家の二人も、気に入るだろう。
聞くと、彼はうれしそうにこくんとうなずいた。ううむ。ヴェストのこの顔は見たことないな。


小さなレディは、おなかもいっぱいでご満悦らしい。
「うまかったか?」
「うん!ね、ガヴィ!」
こくんとうなずく弟ににこにこ笑う。
その表情は、イタリアちゃんにそっくりで。
…かわいい。ぐしゃぐしゃと頭をかきまぜると、うきゃあ。と声が上がった。

「あああっ!」
突然、遠くから声。
なんだ、と顔を上げると、がば、と腕の中からマリアが消えた。
「プロイセンさん!女の子の髪の毛こんな風にしちゃだめ!」
見れば、そこにはマリアの髪を整える、えーと、フランスんとこの、息子、のほうか。
「ああもうマリアの綺麗な髪が…!」
「リリー、大丈夫だよ?」
「大丈夫じゃない!」
じゃない、…らしい。よくわからんこと言うのはフランスそっくりだなあと思っていると、よう、誘拐犯、とそのフランスの声!

「誰が誘拐犯だ。」
「そうにしか見えないけどな。よ。ガヴィ。」
「こんにちは、フランスさん。」
弟の挨拶に、あ、こんにちはフランスさんーとマリアが振り返ると動かないの!とリリーに怒られていた。
「こらリリー。あんまり困らせるなよ?」
「もうちょっと…はいできた!」
綺麗にまとめあげた髪を、満足そうに見て。
彼らはさっさと、なんかもう嵐みたいに去っていった。

「…なんだあれ。」
「いつものことだよ。」
「うん。」
しゃべっていると、おーい、と呼びかける声。見れば、大きく手を振るイタリアと、隣りにドイツの姿。もう仕事終ったのか。
「あっママ!」
「マリア!ガヴィ!」
うれしそうな表情で走っていく二人に、やれやれ俺の仕事も終わりっぽいな、と伸びをひとつ。

「さあて、帰るとするかなー。」
それに背を向けて帰ろうとしたら、プロイセンーと呼び止められた。
「ご飯食べていきなよー!」
「どうせ一人なんだろう?」
「うるせーよヴェスト!」
怒鳴りかえすと、小さい影がふたつ、おいでよ、と手招きして。

「…しゃーねーな!」
じゃあ食べにいってやるぜ!と振り返って歩き出した。

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(※人名表記が出て来ます。苦手な方はご注意ください。また、独はルートヴィッヒ・バイルシュミット、ということでよろしくお願いします)







下に降りてくると、イタリアはどこかに電話をしているところだった。
「あ、はい。…そうです、土曜日の夜。」

…ああ。レストランの予約か。すっごいおいしいから予約しないと入れないんだってー!と大騒ぎしていたのは昨日の夜だ。
行こうよドイツ。ねえお願い!そう言われて、土曜なら大丈夫だと答えたから。
はい、と電話越しに答えるイタリアと、目があった。
笑顔でオーケーの形になる右手。ちゃんと取れたよ、と主張したいらしい。苦笑して、うなずいて。

うきうきとうれしそうなその様子に、こっちまでうれしくなってくる。
単純。だが、結婚して、よりわかるようになったことのひとつだ。幸せが二倍になる。…そのことがとても、幸せだということ。まだ結婚生活を始めてひとつきも経っていないが、学ぶことはたくさん、ある。

まだ電話をしている彼女にもコーヒーをいれてやろうと、キッチンへ向かう。


「え、あ、名前ですか?バイルシュミットです。フェリシアーナ・バイルシュミット。」

思わずぴしり、と、固まった。
…何、だと?

イタリアの人としての名字は、ヴァルガスだ。それは間違いない。もちろん、兄弟であるロマーノも、同じ。
バイルシュミット、というのは、俺の名字だ。兄さんの、でもあるが、もちろん兄弟だから、で。
で。…しかし、そうか。結婚、したんだから。そうなっておかしくない、のか。

いやとりあえずそんなことはどうでもいい!
それより、何より。どうしたらいいんだろうか。イタリアが、バイルシュミットを名乗ったというその事実、が。
ものすごく照れるんだが!


「やったー!ドイツ予約取れたー…って何座り込んでるの?」
頭を抱えてしゃがみこんだ俺の前に、電話を終えたイタリアがぺたりと座り込む。
「わあ。顔真っ赤だよドイツ。どうしたの?」
どうしたもこうしたも!

「…イタリア…」
なんとか、名前を呼ぶ。
「何?」
「おまえ…いつも、ああ名乗ってるのか…?」
「名乗るって?」
「…だから、その。」
名字、と。小声で言うと、ああ!とにこにこ。
「いつもはねー、フェリシアーナ・ヴァルガス・バイルシュミット、って。でも電話じゃ長いから。」
「…おまえのところは夫婦別姓が普通だろう…」
だから。というのもあるし。…人としての、フルネーム、なんて。…国同士では使わないから、知らなかったんだ。
「うん。でも、せっかくだからさ。ドイツの名前も名乗りたいなあって。」
ダメ?不安げに首を傾げる彼女に、小さく息をつく。ダメとかそんなんじゃない。不意打ちすぎて驚いただけ、だ。

「…ダメなわけあるか。」
「やった!ドイツ大好き!」
ぎゅー、と首に抱きついてくる愛しい妻の姿に、頬を緩めて、笑った。

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※独=神羅設定で、記憶がある設定、です。





「恋の話を聞かせてよ。」
マリアがそう言うから、恋の話?と笑う。
「そうだなあ…じゃあ、初恋の話をしようか。」
そう言えば、女の子たちが寄ってきた。

「昔ね、ほんとに昔。俺が、今のベアトリクスよりちっちゃかったころ。ちょっと怖い男の子がいたんだ。」
その子によく俺追い回されてさ。ほんとに怖くて泣いたりもしてたんだけど。…あるきっかけで、オーストリアさんと、ハンガリーさんと、その子と、一緒に暮らすことになって。最初はやっぱり怖くってさ。でも、一緒に暮らすうちに、優しい子なんだなっていうのがわかってきたんだ。俺がおなか空かしてたらお菓子持ってきてくれるし、ねずみ退治してくれるし。絵も練習中って言ってたけどなかなか上手で。俺がわからないこと教えてくれたり、腕引いて歩いてくれたり。…愛情表現は不器用だったけど、すごく優しくて。
でね、ずっとこんな風に一緒にいれたらいいなって思ったんだけど…

口を閉じる。少し、寂しくなりながら、微笑む。
「…戦いが、あって。その子は行っちゃうことになって。」
「え、」
「…約束したのに。戦い終わったら絶対会いに来るって言ったから。…俺ずうっと待ってたのに。」

そう呟くと、まさかそのまま、とベアトリクスとエリが泣きそうな表情になる。
「まさかそのまま三百年くらい待たされるとは思ってなかったよードイツ!」
「…悪かったな。」
明るく言うと、居心地の悪そうなドイツの表情!
しばらく前からいたのには気付いてたけど。そんな顔しなくてもいいのに。

「…え、あれ?」
「その子ってドイツさん、何ですか?」
こっくりうなずくと、なあんだ。って言われた。サラとエリとイザベルに。なあんだとはひどいなー!
「だってそれただの惚気じゃない!」
「えーだって本当だもん。」
「…よかった。幸せなお話で。」
悲しいのは、辛くなってしまいます。ほう、と息を吐くのはベアトリクス。
目元を拭う彼女に、優しいね、と頭を撫でる。
「そりゃあ幸せだよ!」
マリアが声をあげる。何故だ?ドイツが尋ねると、だって。って。

「だって、今とっても幸せだもの!」
幸せなお話じゃなきゃおかしいでしょ?って。うれしそうに笑って。
そうだね。と彼女をぎゅう、と抱きしめた。

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「そういえば、おまえ」
「ん?」
何、兄ちゃん?きょとんとした弟が振り返る。
その、胸元には、昔いつもあった十字のペンダントは、ない。

「あのペンダント、どうした?」
「マリアとシェアしてるの。」
へえ。と目を丸くする。何があったって離さなかったくせに。…俺が捨てたら泣いて怒ったくせに。
「どういう風の吹き回しだ?」
からかうように尋ねると、ふ、と大人な眼差し。その、表情に思わず、息を飲んで。

「ほら、マリア、一回危なかったこと、あったでしょう。」
「あ、ああ…」
流行病、だった。俺たちはかからなかったけれど、子供たちはみんなかかって、特にマリアは症状が重くて。
…今晩が峠です、と、そう言われた。

「あのとき、にさ。守ってくれますようにって。」
ああ、神様、お願いです。どうかこの子を連れていかないでください。そう祈って、十字のそれを、マリアに持たせたのだと、そう言った。…からかうことじゃなかったか。あのときの、悲痛な弟の顔をまだ、覚えているから。

「…悪い」
「ううん。」
それからね、御守りとしてマリアに渡すようになったんだ。そう言った。
「ずっと、俺を守ってきてくれたから。…あの子も守ってくれるよ。ドイツが出張のときとかは、返してもらってるけど。」
…たかがペンダント、なんだけどな。こいつにとっては、何より大事なんだろう。いや、こいつら、が正しい、か。

「…あいつは?」
「え、ドイツ?ドイツはね、ガヴィに『貸してる』んだって。」
あの子も無茶するから。…強くなれる御守りとして、貸してるんだってさ。
くすくす笑うヴェネチアーノに、思わずため息。

「おまえの家族…仲いいよな」
「うん!」
幸せそうな弟の姿に、まあ幸せならいいか。と頭をかいた。

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