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「サラはいつまでこっちいるの?」
「明日」
「…短いんだね」
「急に仕事入っちゃって。」
明らかに落ち込んだ声のママと、淡々としたサラの声。…まったくもう。写真の整理の手を止めないサラに、こら。と声をかける。

「なによ?」
「伝わってないっていうか誰も伝えてないってば。」
「そうなの?」
「そうなの。ママ昨日まで仕事詰めだったんだから!」
「?なんの話?」
首をかしげるママに、実家行くよ、と声をかける

「え、あ、僕の?」
「そう。私の次の仕事先。」
「ん?え?」
はてなマークが頭の上に飛んでる表情のママに、あのね、と説明しかけたら、後ろから肩に触れる手。

「サラの仕事が動かないなら、俺たちが動けばいいんじゃないかって話だよ。しばらく家族の時間とれなかったからな。カナも問題はないだろ?実家なら。」
パパの声だ。フランスさん仕事は?バカンス申請済み。頭の上で交わされる会話に、ママどう?と尋ねて。
「もちろん、行くよ。」
優しい笑顔に、思わずサラとハイタッチ!

「なにして遊ぼうか?」
「そうだなあ…あ、じゃあまだ案内してない別荘行こうか。」
「ちょっと!私は仕事だってば!」
「南のやつか?」
「いえ、北の。」
「ああ、あのすごく景色きれいなとこな。」
「…っ私も行くのーっ!」

久しぶりににぎやかな話は続く。


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「ってて…」
あーくそ、と打ちつけた腰をさすって、自分を投げ飛ばしたやつの顔を見る。
「カエレ。」
仁王立ちしているのは、なんともまあ大きくなった熊のクマ二郎だ。
どうやら俺はこいつに嫌われているらしい。

結婚して、カナダを彼から引き離してしまったのが決定打だったらしい。
それから、こっちに来て俺の顔を見るたび投げ飛ばして「帰れ」だ。
子供たちには甘く接してるくせに。
小さくため息。


けれどまあ、こっちには切り札がある。
起きあがって、彼の顔を見る。
「…ホットケーキ。おまえの分はいらないんだな?」
「………コンカイハシカタナイカラユルシテヤル」
のしのし歩いていく姿に小さくため息をついた。
「やれやれ…甘い物好きはカナと一緒なんだよな…」
意外と御しやすい彼に小さく笑って。


一方、止めもせずに眺めていた嫁と子供たちは、荷解きや軽く掃除をしながらやりとりを眺めていた。
「いつもの、終わったよー」
「あ、終わった?」
「いつもいつも、仲良しさんだよね。」
こっちに来る度に繰り返されるやりとりだから、誰も心配なんかしていない。じゃれあいみたいなものだ。

「クマ五郎さんも、フランスさんのこと好きなのに、素直じゃないんだから」
「あら、パパの『スイーツ』、が、好きの間違いじゃない?」
「あとクマ二郎さんね。」
「そうかなぁ…あ!メイプルシロップが残り少ない!」
買いに行かなきゃ、フランスさーん、と走っていくカナダの姿に、子供たちは顔を見合わせて苦笑した。