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「あー…やっと終わったあ…」
「ふふ、お疲れですか?エリ」
「とっても!」
ママの言葉にそう返すと、くすくすと笑い声。笑わないでよ、自分だってくたくたのくせに!
ずっと準備してた会議が終わり、ただいまそれで使った資料を持って帰るところ。でも、いつもの道のりがなんだかとても長い!そして資料は重い!

「もう少し持ちましょうか」
「半分ずつにしてあるんだからいいの!」
ママだって疲れてるんだから、と抱え直すと、ひょい、と伸びてくる腕。
「じゃあその七割引き受けてやるよ。」
声に、見れば曲がり角からパパとケイが歩いてきたところで。男性陣に軽々と、七割とかいいながら八九割くらいとられていく資料に、ありがとう、と素直にお礼を言う。実を言うと、ちょっと腕が痺れてきてた。
「ありがとうございます。イギリスさんも、もう?」
「ああ、帰れるぞ。」
「あ、じゃあ全員そろうんだ。」
随分久しぶりな気がする。それは、今日の会議の準備に追われていたからかもしれないけれど。

じゃあなに作ろうかなあ。考えていると、たまには外食とかどうですか?とケイの声。
「外食?」
「母さんも姉さんもお疲れでしょうし。たまには、いいんじゃないですか?」
「それは確かに…何か食いたいものあるか?」
パパの言葉にはい!と手は上げられないので声だけ上げる。

「はい!お寿司!」
「わかったわかった。じゃ、打ち上げってことで、どうだ、日本?」
「ええ。もちろんいいですよ。」
ママの笑顔に、思わず笑みがこぼれる。
「やった!」
「ただし。そのまま反省会に移行は嫌ですからね。仕事の話禁止で。」
「異議なーし!」
わいわいと歩いていけば、疲れもふっとぶくらいに楽しいんだけれど。


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「あー…。」
温泉につかってイギリスさんが上げた声が、なんだかそのまま水に溶けそうな声だなあと思っていたら、やばい。溶けそう、と彼が言うのが聞こえて、思わず笑った。


二人きりで旅行なんて、久しぶりかもしれない。
『せっかくの結婚記念日なんだから。』
『二人きりでどうぞ?』
さあ行った行った、と若干追い出されるように、送り出してくれたのは子供達。
旅行の予約とかも準備も、会議中に終らせてしまったらしく。何も知らないまま昨日までいたこちらはなんというか、本当に申し訳ない気分になるのだけれど。
楽しんできて。それが一番のお土産だから、と言われてしまえば、ありがとうございますと、言うしかなくなって。

こっちのことは気にしないで。1泊旅行分くらいどうにかしますから。任せてくださいと、そう言う二人は、とても頼もしくはあるんだけれど…少し。だけ。寂しい気分になる。手が掛からなくなるというのは。

「何考えてる?」
「…子供たちのことを。」
正直に言うと、あー…とあがる声。
「ちょっと前までちっさかったのになあ。」
いつのまにあんなにでかくなったんだか。そう苦笑する彼に、そうですねえと呟く。
「でもまあ、それはそれで楽しいんだけどな。」
こうやって贅沢もさせてもらってるわけだし。そう言われてしまうとまあ、そうなんですけど…。

「うりゃ。」
いきなり顔に水をかけられてびっくりした。
「ちょ、何するんですか!」
「いや?あんまり日本が子供たちのことばっか考えてるから。せっかくの旅行なんだ、楽しもうぜ?」
「…はい。」
「あと、」
「はい?」
「…。」
口ごもる彼に、首を傾げると、ふい、と視線が逸らされた。

「…俺は、」
「はい。」
「あと二十年でも、三十年でも、おまえと離れる気、ないからな!」
子供たちが家から出て行ってしまっても、ずっと。
そう、顔を真っ赤にしていう彼に、しばらく瞬いて。
小さく、はい、とうなずいて。

水中に沈めておいた手で、ぴゅ、と水鉄砲を飛ばした。
「うわ!」
よし、イギリスさんの顔に命中!
「日本!」
「さきにやったのはイギリスさんでしょう?」
言い返して、くすくす笑う。

「それと」
「?」
「私は一生と言わず二生でも三生でも、離れる気ありませんので。」
覚悟してくださいね?と言ったら、ぽかんとしたイギリスさんの顔がすごくおもしろかった。