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「簡単だろう?」
「はい。…でも…。」
「簡単じゃないこともやってみたい、か?」
こくん、とうなずくケイに、イギリスは苦笑した。やっぱり。

「それはまだ早い。こっちも準備終わってないしな。…それに。」
「それに?」
イギリスが視線を向けるのは、ドアの外。
「これ以上籠りっ放しだと、怒られそうだ。」
「…そうですね…。」

子供達のうち、魔法のセンスがあったのは、ケイだけだった。まあ魔法が使えないまま一生を終わる、のは問題ないのだけれど、さすがに暴走させたりしたら危ないから。
だから、最低限のことは、と始まった魔法の勉強時間。ケイは飲み込みが早いし、とても制御が上手だ。だから、ついついいろいろ教えたくなってしまって。

その状態に、ふてくされている人物が。
「…なんでケイだけー…。」
「姉さん、そう怒らないで。」
「だって!…だってずるいじゃない…。」
半泣きの表情でそう言われて、らしくなく、ケイが焦る。姉に限らず、女性に泣かれる、なんてシチュエーションがあまり無いものだから、本当に困ってしまうのだ。

「…じゃあ、エリ。」
そんなエリの頭を撫でたのは、イギリスで。
「エリには、政治を教えてやろう。エリだけに、だ。」
「…ほんと?」
ちら、と見上げてきた彼女に、ああ、とうなずくと、ぱっと彼女の表情が輝いた。
「今日はもう遅いから、明日から、な。ノートと筆記用具を用意しておくように。」
「わかった!絶対だからね!」
嬉々として部屋に走って行く彼女を見送って、悪いな、とケイに声をかける。
「いえ。…僕は母さんに教わることにしますから。」
大丈夫ですよ。そう笑う彼は、本当に母親そっくりで。

「ところで父さん。」
「ん?」
「そろそろまずそうですけど。がんばってくださいね?」
「は?」
じゃあおやすみなさい、と去って行く息子を瞬いて見送ると、後ろから、くん、と服の裾を引かれた。
「ん?日本?」
「………。」
振り返るが、日本は俯いたまま何も言わない。…どうしたんだ?
そして、なんだか機嫌が悪いっぽい。

「…日本?」
「……最近。子供達に構い過ぎじゃないですか。」
ぼそり。やっと呟かれた言葉に瞬いて。
…ついにやけた頬が見られたら絶対機嫌急降下する!と慌てて顔を隠した。


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それは、ハロウィンの朝のこと。
「では。」
「イギリスと日本を驚かせよう大作戦、」
「開始!」


「Trick or Treat!」
がさがさがさ!と上から逆さまに現れた娘の姿に、おやまあ。と日本は苦笑した。
猫娘の娘の姿はかわいらしいけれど、木の枝に逆さまにぶら下がっているから髪型がぐしゃぐしゃでもったいない。

「あまり危ないことしてはいけませんよ、エリ。」
「〜っ!もー!ちょっとは驚いてよ〜!」
「ふふふ。まだまだですよ?」
くすり、と余裕の笑みを浮かべた母親に、あーあ。とエリはため息をついた。



「Trick or Treat!」
おどろおどろしい声が響く。
がたがた、がた。音が鳴る。
書類をを見ていた視線を、ちら、と上げたイギリスは、音とともに何もないのに部屋の中を飛び回りだした本を確認し、ぱ、と手を軽く振った。
途端に宙でぴたりと動きを止める本。もう一振りされた手に従うように、もとの位置へと戻って。

「甘いぞ、ケイ。」
菓子は日本がなんか作ってたからもうちょい待ってろ。

書類を書き進める手を止めもしないその対応に、窓の外にいたケイはこれ以上なく悔しい思いをした。




「あら。ケイまで、ですか?」
「ああ。まあ、まだ甘いけどな。」
子供達がハロウィンにはこうやっておどかしてくるようになってからしばらく経つが、この2人は、一度も驚かされてはくれない。
子供達が年々むきになっているのも知っていたが、それもかわいいなあと思う親馬鹿っぷりで。
さあ今年はどうかと思ったのだけれど、また両親に軍配が上がったようだ。

「イギリスー日本ー!」
「ん?あー…あいつか…」
「もうひとりのお化けが来たようですね」
2人は聞き覚えのある声に苦笑した。アメリカがこうやっておどかしにくるのも、毎年のことだ。

やれやれと声のした中庭の方へ向かうと、そこには、やはりアメリカがいた。

身長3メートルはあろうかという。

「!」
「なっ…!」
「HAHAHA!どーだ、驚いたかい?」
巨大アメリカが得意げにするのを見上げ、日本とイギリスは目を丸くしてから、同時にため息。

「驚くより呆れるぞ…」
「アメリカさん…いつのまにこんな巨大ディスプレイ持ち込んだんですか…」
ちゃんと持って帰ってくださいね。
ディスプレイの向こう側をのぞきこんでの冷静な言葉に、ケイとエリの操作するカメラにポーズを決めていたアメリカは、む、と口の端を下げた。

「君たち、少しくらいは驚いてくれよ!」
子供たちもうなずくその言葉に、日本とイギリスは肩をすくめた。


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「イギリスさん!離して、離してください!」
「はいはい。」
抱きかかえた愛しい妻がじたばた暴れるのを本気で押さえ込みながら、自分たちの部屋へと戻ってきた。
これは、すぐ戻って子供たちの回収もしないとなと思っていたのだが…どうやら難しそうだ。
まああっちは日本ほどキレてなかったからどうにかなるか、と思い直し、何が何でも俺の腕の中から逃げだそうとする彼女を、ベッドに落とし、上から覆い被さるようにして動きを封じる。
きっとにらみあげてくる強い視線を、真近で見つめ、額にキス。
「こ、こんなことで誤魔化されたり、ん、ん!」
まだ言葉の続きそうな唇を、はむようにキスをしかける。
舌をはわせて、文句を言おうと開く唇の中にもぐりこませて、ばたばたと体の下であらがう細い体を抱きしめて。

じっくりとその唇のやわらかさと中の熱さを堪能し終わるころには、もう日本の体からは、力が抜けていた。ふにゃん、ととろける彼女は、この上なくかわいい。

「ず、ずるいです…!」
「日本。ありがとな。」
ちゅ、と頬にもキスを落とすと、悔しそうなうなり声。
どうやらやっと、誤魔化されてくれることになったらしい。

「…だって、どうしてあんな、言われっぱなしにしなくちゃいけないんですか!?」
「言いたいやつには言わせとけばいいだろ。」
「でも!」
納得いきません!と言う日本に、気持ちはこの上なくうれしいんだけどな、と考える。

各国集まっての会食会。…そりがあわないのがいるのは昔からだし、そういったやつらに針でさすように何か言われるのも、よくあることだ。
だから俺は特に気にしないのだけれど。
それにかちんときたらしいのは、家族の方だった。
「失礼ですが。」
はっきりそう言った日本が、だだだどど、とマシンガントークで向こうの発言の失礼さを説き、そうよ、パパはそんな人じゃないわ、とってもすてきな人だもの。僕も同感です、と子供たちまで便乗して。
たじたじとなる相手と、なんだなんだと集まってきたギャラリーに、こりゃあだめだな、と一番ヒートアップしていた日本をとりあえず連れて帰ってきたのだけれど。
…子供たちが後はまかせて。二度とこんな台詞言えないようにしておきますから、なんてノリノリだったのもだいぶ気になるんだが…

とりあえず止まってくれた日本を見ながら、さてどうしようか、と考えていると、ぴりり、と鳴る携帯。
見れば、ドイツからメールだ。子供たち確保したぞ。…ううむ、今度何か送っておこう。
「…すみませんでした。」
「ん?」
「取り乱して…イギリスさんの仕事の迷惑になったんじゃないですか?」
ぽつん、と呟く日本に、やっと冷静になってくれたらしいと、苦笑。
「大丈夫だ。あれくらいなんともない。」
「…なら、いいんですけど…。」
それでもまだ、納得はしていなさそうだ。
…俺が悪く言われた、ということにここまで怒ってくれるとは、思っていなかった。
それほど、日本の中で俺が大きな存在だなんて、知らなかった。
それが気を抜くと、頬が勝手ににやつくほど、うれしくて。

「…日本。」
「何ですか。」
「好きだ。」
そう告げて、ちゅ、とキスを落とすと、真っ赤になった日本がばか、と呟いた。

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