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「ただいまー」
リビングへ向かうと、おかえりなさい、と振り向く父さんの姿。

「あれ、父さんだけ?ベアトリクスと母さんは?」
「夕食の買い出しです。」
なるほど。ふうんと呟いて、キッチンへ向かう。なんか飲もう。甘いもの。カフェオレでも作るかなあ。

「コーヒー淹れるけど、父さんは?」
「いただけますか。」
「カフェオレでいいか?」
「ええ。」
「りょうかーい」
コーヒーの豆をミルにかける。特有の機械音を聞きながらぼーっと部屋の中を眺める。

「そうだ、マックス。明日交渉があるんですが一緒に来てもらえますか?」
「母さんから何も頼まれてないから行けるけど。誰と?」
「ドイツです」
「げっ」
思わず声が出た。ドイツさんはまだいい。厳しいけれど、まじめな人だから。しっかりこっちの主張を聞いてくれる。
問題は。あそこの姉弟、だ。あの二人を論破するのは本気で難しい。のらりくらりとかわされて、いつのまにか、向こうに有利な条件で話が進んでいるのだ。

「後でしっかり打ち合わせしましょう。」
「…うーい」
はああ。とため息ひとつ。
明日も大変そうだ。

そう思っていると、ドアの開く音。
「ただいまー!」
「ただいま帰りました。」
「おかえりー。今日の夕飯何?」
「グラーシュ。」
「よし!」
大好物の名前を出されてガッツポーズ。明日もがんばれる気がしてきた!

「…単純ですね…」
「本当に。」
妹と父のあきれた声を聞きながら、もう二人分のコーヒーを淹れるために豆をもう一度取り出した。