(ギルド開設) 「ええっと…、ペン、は…。」 「ここですよ。はい。」 差し出されたそれに、びっくりして、瞬き数回。 「あ、ありがとうございます、日本、さん。」 「いえ。筆記用具、すぐ出せるようにしておいた方がよさそうですね。」 「ですねえ。」 カウンターの上に、即席のペン立てを作る。 そこにペンを数本、入れて。 真新しいそれは、古い内装にあまり、合わないかもしれない。そう思って笑った。 もともとは、宿屋だったらしい。ここは、受付カウンター、で。カフェも兼ねていたという。 今はもう持ち主もいないここを、ただで貸してくれると言われたときは本当に驚いたけれど。 「けど、4人じゃ、広すぎますよねえ。ここ。」 「確かに。」 軽く10人前後は泊まれるここは、4人では、広すぎる。 けれどここが、出発地点、だ。 私たちの、『ギルド』、の。 ちら、と隣りを見る。てきぱき働いているのは、日本さん。 イギリス、という青年と、同い年くらいに見えるのに、何か、とんでもないものをその身に宿しているようだ。 つい、さん付けしてしまうのは、たぶんそのせい。力の差を、感じ取ってる。無意識のうちに。 「…まあ、とんでもない、のはこの街も同じか。」 「…とんでもない、というところは同感ですよ、ハンガリーさん。」 言われて、やっぱりわかります?と聞くと、ええ。としっかりうなずかれた。 オーストリアさんの故郷だというこの街は、いろいろとおかしい。 多すぎる魔獣被害。街に、魔術師は少ないというのに、感じる、強い魔力。 そして、街、全体に張り巡らされた、大きな魔法陣。 害をなすものではないでしょう、という、日本さんの見立てだけれど。 そして、何より不思議なのが。 この、どうしてか感じる、懐かしさ、だ。 こんな街に見覚えはない。なのに。 何故か、とても、ほっとしてしまう。 竜族としての本能が知らせてくる。 この街は、『家』だと。 …そんなわけはないのに。私の出身は、正真正銘竜の国。ここから遠い、場所。なのに。 「…わからないことだらけ。」 「そうですねえ。…でも。」 この街に暮らすみなさんの手助けをしようというのはきっと、間違ってないと思いますよ。 そう言う日本さんに、そうですね。と笑う。 知り合いも何人か。街の人達にも顔を覚えられてきた。 度重なる魔獣被害に、オーストリアさんは昔から、ギルドを作ろうと思っていたようで。 そこに、やってきたイギリスと日本さんが、協力を申し出てくれたのだ。 ここにはきっと、守らなければいけない何かがある、と。 そして、まあ紆余曲折あって、ここに4人でギルドを作ることになったのだけれど。 「…がんばりましょうね。」 「もちろん!」 そう言って笑い合ったところで、遠くから聞こえてきた、だーかーらー!というイギリスの声に、またか、と視線を向ける。 「何でそうなるんだよオーストリアは!」 「ですから、あなたの考え方が違うんでしょう!」 ギルドの方向性、についての大論争。…初めて会ったときから、相性はよくなかったような二人だけれど、最近は一日一回はこうやって、怒鳴り合いはじめてしまう。 「…仲がいいのか悪いのか。」 「いいんじゃないですか?全力で喧嘩できるというのは。」 「…そうかもしれないですね。」 彼のおどけた声に、くすくす笑いながらうなずいて。 「じゃ、そこそこで止めに行きましょう。」 「ですね。」 おしゃべりはそこまでにして、片付けを再開した。 まだ、ギルドは、始まったばかり。 戻る . 「……なにこれ。」 「えー。なんかよーわからん石像?」 「を、買ってこいなんて言ったわけないでしょ!」 元の場所に返してらっしゃい!そう指を突きつけると、やってロマーノがあ。とスペインはふくれて。 その背中に声をかけるように、スペインこのやろー!と怒鳴る声。 「あ、ロマーノ。なあロマーノ、買ってこいって言われたのこれやんな?」 人ごみの中から現れた彼に、スペインが声をかけると、その顔がひくついた。 「違う!!これの隣りにあったコート掛け!」 「なんや。そういうことは早よ言ってーなー。」 「言おうとしたらもうおまえは買ってたんだ!」 行くぞほら!ああ、待ってー。 また人ごみに戻っていく二人に、ため息をついて。 「まったく…。」 「オーストリアさん、ハンガリーさん!」 横からかかる声に、あ、カナダ。と振り返って。 ぎょっとした。 「書類入れる棚って、こんな感じですか?」 「…え、あ。うん、そうね、十分よ…。」 よかったーと笑うカナダの肩の上に、腰くらいの大きさの棚が。 軽々、とばかりに運んでくる彼に、ぱちぱち、と瞬く。 「ほかには?」 どん、とそれを下ろした彼は、にこ、と微笑んで。 「…えっと、食器用の棚が欲しいかな。」 「はーい、探してきます!」 「カナ、今度は荷車借りような?」 やっとおいついたらしい、フランスがそう声をかける。何でですか?持てるのに。持てても!借りるから!そう、声が遠のいていって。 「…これ、結構重いですよね…。」 「…でしょうね…。」 オーストリアさんと顔を見合わせ、ため息。 今日は、年に一度の、隣町のバザーの日。 ギルドにも人が増えてきたし、ということで、家財道具とかを一気に買い直すことにしたのだ。 それに全員総動員で。…案の上、うまくは進まないけれど。 ま、らしいっちゃらしいかなあ。そう思っていると、ハンガリーさあん、と遠くからまた、声。 「カーテン買ってきた!色、俺が選んじゃったけどよかったかな?」 「大丈夫よ、イタちゃんのセンスなら。」 答えている間に、ドイツが、その肩にかついだそれを、魔法陣の中に置く。転送用の魔法陣、だ。 全員戻ってきたら、一気にギルドまで運んでしまおうという算段だ。 「あとは?」 「んー…いい大きさのがあったら、カーペット、かなあ。」 「どこの?」 「受付。あ。だいたいのサイズこれね。」 メモを渡すと、じゃあ行こう、また後でね!と二人は手を振り、仲良く歩き出して。 「そろそろ、かなりの量になってきましたね。」 見下ろす魔法陣に、ちょっと乗り切らない量、だ。買い過ぎかなあ…でも、普段の価格よりずっと安いからなあ…。 「一回送ります?」 「まあ、次に日本が帰ってきたら…ああ、噂をすれば。」 見れば、ああ。本当だ。大量に日用品を買いに行った、イギリスと日本さんが戻ってくる。 「買ってきましたよ。…だいぶ溜まりましたね。」 「一回送りましょうか。」 「そうですね。では、オーストリアさん。」 「はい。」 二人は、置いていた杖を取り、呪文を唱え始める。 それを横目で見ながら、さあてこれを片付けるのは結構骨だぞーと、ちょっと思った。 戻る . 「冷静になりなさい、イギリス。」 オーストリアが、冷たく言い放つ。 「相手はドラゴンです。常識や定石が通用する相手ではない。」 「んなことわかってんだよ!」 怒鳴り返すと、なら。と、まっすぐに見つめられた。冷たい、感情を押し殺した目。 「優先順位をつけなさい。…街の住人たちを助けるので手一杯です。その後は、あれが去るまで待つしかありません。」 「けど!この街がぐちゃぐちゃにされんの黙って見てろっていうのかよ!」 「だれかを失うよりずっといいでしょう!」 大声に、思わず、たじろいだ。 すぐに、咳払いして、すみません、という彼。 ああ、そうだ。彼だって、それをよしとしているわけじゃ、ない。 相手は巨大なドラゴン。…人間の手に負える相手じゃない。 唯一、ハンガリー、なら足止めはできるだろうが、足止めだけだ。今だって、彼女やドイツ、フランス、スペインが気を引いているうちに、街のみんなを避難させるのが手一杯。 …すでに被害はでている。広場のパン屋は半壊、宿屋も、かなり。 このままでは、街全体を壊されてしまうかもしれない。 けれど、打つ手が、ない。 どうしようもない、それだけだ。 「…っ、なんとか、ならないのか、手は、本当にもう、」 「…無理です。倒すなんて、」 「倒さなくてもいい!…ここから、いなくなればそれで、」 「ドラゴンを元来いなければいけない世界に送還しろと?ですが、準備に時間がかかりすぎます。街一杯のサイズの魔法陣が必要なんですから。」 けれど、そんな量の材料も人数も。うつむいたオーストリアのつぶやきを聞きながら、眉を寄せる。 「…魔法陣?」 「言っておきますが、日本であっても条件は同じだと、」 街一杯のサイズの、魔法陣。送還魔法ならば、属性は、風。 …なら! 「あるぞ!魔法陣!」 「はい?」 「イタリア兄弟!『狩人』!」 単語を並べてやると、彼ははっと目を見張った。 そうだ。この街には、魔獣たちの世界へつながる、ゲートがある。魔法陣。そうだ。魔法陣そのものだ。古いものではあるが。 その起動方法は、代々それを守ってきた、『狩人』の一族であるイタリア兄弟が知っている! 送還する、のは技術的に厳しくても、そっちは日本やオーストリアがフォローすればいい! 「どうだ!?」 「…イタリア兄弟を両方貸していただければ。…おそらくいけます。」 「無理はすんなよ」 「そちらがどれだけ時間を稼げるかにかかっていますが。」 「まかせとけ!」 一度、息を吸い込んで。 さあ、反撃のための作戦を、全員に! →ああ、平和だなあ、に続く 戻る |