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(悪友三人がつるんでた時代のお話)





ぶん、と斧を一振り。
…それだけで十二分、だ。
武闘大会を征するには。
それを体現してみせて、青年は楽しそうに笑う。



「強いねえ、スペインは。」
「ま、俺様には負けるけどな。」
言うねえ。笑いながら隣を見ると、プロイセンの手にはいつのまにか、アイスが握られていて。
「いつのまに。」
「準決勝終わるあたり」
「いいのか?見てなくて。負けるかもしれないぞ?」
「準決勝で?スペインが?」
わかってるか?と念を押すように言われ、ま、そりゃそうだけど。と肩をすくめる。

全勝記録は、絶賛更新中、のスペインだ。まさに負けなし。
今もほら。決勝の相手を、からかう余裕さえある。
「ま、神殿兵の隊長レベルとか、軍の長官レベルとか出てきたら、厳しいだろうけど。そうでなきゃな。」
あいつがそう簡単に倒されるもんか。その声に、たしかに。とうなずいて。

「…けど、あいつの強さは。」
「危うい。って?」
そのとおり、だ。
強さだけを純粋に求め、ほかに何もないスペインは。…精神的には、負ける可能性がある。

「これのために戦ってる、っていえる何かが、ないとなあ。」
あいつはあれ以上にはなれない。冷静な言葉に、ふうん。と見やる。
「…何だよ。」
「おまえにはある、って?」
「ま。俺様が負けるわけにはいかないからな!」
…その、『負けるわけにはいかない』理由を聞いたんだけどな。
明確な答えを返してこないプロイセンに、まあいいか。と息をついて。

「フランスは?」
「俺?んー…とりあえず、この会場にいる美しい姫君たちにかっこわるいとこ見せるわけにはいかないでしょ。」
笑ってみせると、あ、そ。と興味のなさそうな返事。そっちが聞いたくせに。
「…いつか。」
「ん?」
「そんなものが、できたり、するのかも、な。」
そしたら、…俺たちが逃げてるものにも、立ち向かえるだけの力を、手に入れられんのかな。
小さなつぶやきに、…さあなあ。と返して。

「お。終わったっぽいぞ。」
目を離していた試合を見れば、どん、と相手の巨体が倒されたところで。
「あーくそ、五分十八秒。」
「よし俺の勝ち!」
ガッツポーズすると、賭けだれの勝ちー?と大きな声。今大会の優勝がたった今決定した、スペインだ。
「俺ー」
手を挙げると、なんやー今日こそ勝ったと思ったのにーと残念そうな声。…優勝者が出す声じゃ、ないな。思いながら笑って。

「じゃ、迎えに行きますか。チャンピオンを」
「だな。」
言って、歩き出す。
…俺たちはまだ、こんなもんで十分だ。



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