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「はっ!」
振り下ろされた刃を、走りながら左手に持った剣で受け流して、あっれー?とフランスは呟いた。
「俺の敵は前にいるんじゃないのかな?なのにどうして後ろから切りかかられないといけないのかな?」
「あっはっは悪いな手が滑ったんだよっ!」
同じく走りながら、イギリスの右腕がまっすぐにフランスに向けられる。短く口の中で唱えられる呪文。
かっ!と、手のひらから火の玉が撃ち出されるが、フランスはひょい、と身をかがめる。
そうすると、火の玉はそのまま直進し、その向こうにいた魔獣に直撃する。

「あっれー?今のは手が滑ったうちに入るのかなあ?」
「たらたらしてっからだよばーか!」
声に、さすがにかちんときたのか、フランスが振り向き様に右腕を大きく振った。
その手に握られた剣は、決してイギリスの体を捕らえることはなく、代わりに一瞬前までイギリスがいたところに跳んで来た魔獣を切り裂いた。
「あー悪い悪い手が滑ったー。」
「棒読みすぎるんだよ馬鹿!だいたいおまえはなあ!出会い頭に日本口説くとか本気でありえないんだよ!」
「かわいらしい子には声かけておかないと。男として当然だろ?あ、安心しろ、おまえにはかけないから。」
「当たり前だ!というかそろそろカナダから離れろ変態!」
「嫌だね。あんまりそういうこと言うと、あの子に嫌われるぞ?僕が選んだことですってこないだ怒鳴られたとこのくせに。」
「ぐ…っ!…もとはと言えばおまえがたぶらかしたんだろーが!」

会話の間に、剣やら火の玉やらが走る二人の間を飛び交うが、どれも互いには当たらず、回りにいて隙をうかがっていた魔獣達をばたばたと倒していく。
「あーやだねえこんな野蛮なやつと組むの。カナがいればなあ。」
「それはこっちのセリフだ!…っ手が空いてるのがこんなやつとオーストリアしかいないなんて…!」

『貴方たち。』
走っていた二人に、声が届く。オーストリアの声、だ。遠くに声を飛ばす、闇属性の魔法。
『避けないと当てます。』
冷静に告げられた言葉に、二人は視線も合わさず、声もかけずに、左右に分かれて飛んだ。
次の瞬間、二人の間を氷の槍が何本も高速で飛んでいく。
それは、的確にその場にいた魔獣たちを貫き、氷漬けにして砕けて。
気付けば、回りに大量にいたはずの魔獣の姿はすべて無く。

「ありゃ。もう終わりか?」
「みたいだな。…ったく…オーストリア、終わりだ!」
『そうですか。では早く帰りますよ。』
「おまえが命令すんなっつの…。」
「じゃあ、カナたちの方手助けにでも行くか!」
「……ま。いらないだろうけどな。」
『そうでしょうね。』


(組ませてはいけない組み合わせ…後独とロマの二人きりとかもダメです。)


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どさ、と倒れこんで、ドイツは敵をにらみあげた。
一対多数、とはいえど、ドイツの実力からいけばそんなに強敵ではない。
問題は、敵が呼び出した召喚獣。建物より大きい、影のような、実体のない黒い狼。
その強さは、尋常ではなかった。
「まったく…大したことなかったな。」
「それにしても、おまえの相棒は最初逃げたっきり本当に帰ってこないなあ。」
周りを囲まれ、それでもドイツは、剣を握る手を緩めない。
「最悪だな、おまえの相棒。」

言われて、ドイツは一度、目を閉じた。
「いや。」
それから、に、と笑う。
「最高のバディだが?」

その言葉に怪訝そうに眉をしかめた途端、耳をつんざくような鳴き声が上がった。
上げたのは召喚獣だ。その額を輝く矢が貫いている。
そして、それはどこからともなく飛んできて、二つ、三つ、と刺さり、その姿が光に包まれ、ぱあん!と砕けた。

「…!!な、」
それをあんぐり見上げていたひとりの首に、冷たい、金属の感触。
「他所を向く余裕があるとは、な。」
冷静で冷徹な声が、後ろから、響く。

「さて。…今すぐに投降しなければ、少々痛い目にあってもらうことになるが。…ああ、それと、俺のバディに対する侮辱も取り消してもらわないとな。」
鋭い刃に、酷薄な笑みが、映る。
「覚悟は、いいか。」


全員を軍に引渡し、はあ、とドイツはため息をついた。
途端に、どーいーつーーー!!とよく通る大きな声!
「がんばったー!俺すっげーがんばったよー!!褒めてー!!」
ねえドイツってばきーてるー!?
そう町中に響き渡るような大声で言われて、ドイツは片頬をひくつかせて、すう、と息を吸った。

「力の限り叫ぶな近所迷惑だ!!」

にらみあげた先は、街で一番高い塔。そこには、木でできた手すりの上に立って両手をぶんぶん振るイタリアの姿。
召喚獣を倒したのは、彼の矢だ。それはわかっている。あそこに行けと言ったのは、ドイツ自身だ。でも、ドイツ一人じゃ、と渋る彼を、お前の矢だけがあれを倒せるんだ。…信じているから、とそう言って行かせた。

「ヴェ…怒られた…。」
そんな怒んなくてもいいじゃんか俺がんばったのに〜ドイツのばかー…。

あの塔はもともと、火事などを知らせる役目を負っている。だから、あそこでしゃべることは全部町中に筒抜けになる、そうなるように作られているということをわかってるのかあいつは!
ひくつきながら、それにさ、とドイツの悪いところをどんどん口にするイタリアをとにかく引きずり下ろさなければと塔へ向かって走り出して。

「昨日だって、俺ハグしてーって言ったのにハグしてくれないし、え、わ、わ!?」

突然上がった声に、ぎょっと上を向くと、手すりの上でバランスを崩したのか体をふらつかせるイタリアの姿!おいおいっ、と速度を最大に上げる!

「わ、うわ、わああ!」

足を滑らせたイタリアが落ちてくる下に、間に合え!とずざあ!とスライディング!


なんとか、イタリアを受け止めたドイツは、まず涙目のイタリアが無事であることを確認した後、その頭をがっしり固定して、こめかみに拳を押し付けてぐりぐりした。
「…い、た、り、あ…っ!あれだけ状況を把握して安全な行動を取れと…っ!」
「ヴェ、ヴェー!いたいいたいよドイツーっ!」
「俺の方が痛いぞこんの馬鹿!」
「痛い痛い痛いごめんなさいー!」
だいたいおまえはだなあ、とその状態のままの説教は、街の住民達を避難させていたメンバーが戻ってくるまで続けられた。




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※スペイン参入後すぐくらい


あ、やべ、と小さな声が隣からして、どうかしました?とイギリスさんに声をかける。
「オーストリアに手紙渡してくるの忘れてた…」
すぐ戻ってくるから待っててくれ。言われて、いってらっしゃい、と見送る。

今朝会った市長さんから、だろう。さっきまでギルドにいたのに。…おそらく、魔獣が出たという話を聞いたらそれでいっぱいになってしまったんだろうなあ。
「まったく…本当に。」
もう少し人手がほしい。ロマーノくんと、このあいだ入ったスペインさんのペアのおかげでだいぶ仕事は減ったけれど。…今までが無茶だったのだと思う。

せめて後一組。欲を言えば二組。退治の方に回れる人員が増えれば。最近軍とかからの要請も増えたし。魔獣退治依頼も近隣の町からも来るようになったし。
ため息。回すとばきばき音の鳴る首を回して、ちょっと今日は暴れてもいいですかねぇストレス発散に。とか思っていると。
目の前に深紅のバラの花。

「…え。」
「どうぞ、かわいらしい人。…二人が出会った記念に。」
声に、少し顔を上げると、にこりと笑った金髪の男性の姿。
知らない。旅人だろうか。肩に背負われた荷物。剣士らしく、両腰に短めの剣が一本ずつ。二刀流って初めて見たかも。思いながら、こっそりと杖を握っていつでも対応できるようにする。念のため、だけれど。
「そんなに警戒しないで。」
さらっと言われて、驚いた。…バレるほど外に感情を出したつもりはないのに。
ふむ。軽そうに見えるけれど意外にできる人なのかも。思いながら、何かご用ですか?と尋ねる。
「こんなところで一人?」
「いえ、人を待っています」
「レディをこんなところで待たせるなんて最低なやつだな。そんなの放って置いて俺とデートしない?」
「………あの…私男なんですが…」
「大丈夫。お兄さんそんなの気にしないから。」
あなたが気にしなくても私が気にするんですが。

どうしようかなあと思っていたら、てめえ!と怒鳴り声が聞こえてほっとした。
視線を向ける。やっぱり。イギリスさんだ。
「日本に何してやがる!」
「…へえ。神殿関係者、か。」
小声で呟かれた一言に、この人、と視線を向ける。
飄々とした表情。…けれど青い瞳は、的確に人を見る力を持っている。
そうとうの手練れだ。思いながら、日本、と差し出されたイギリスさんの手に手を伸ばす。
あっという間に抱き寄せられて、イギリスさんの後ろ。

「日本になんかしたらただじゃおかないぞ」
低い声。剣の柄にかけられた手。…完全に臨戦態勢だ。
「ふーん。何されるんだろうねぇ。…ま、今日は忙しいからこれくらいで。どこ行ったんだろうなあの子は…」
じゃあ、また。と投げキッスして遠ざかっていく姿を、瞬いて見送る。
「…次会ったら容赦しねえ。」
「旅人、ですかね?」
見ない人ですけど、と言えば、スペインの関係者だ。と返ってきた。
「三強の一人でフランス。ったく余計なのまで呼び込んだか…」
「へえ…」
なるほど。武闘大会の覇者か。それは相当の手練れだ。
「ま、旅の途中ならすぐこの町から出て行くだろ。」
行こう、日本。そう声をかけられ、うなずいた。


(帰ってきたギルドの受付でフランスと再会して、即抜刀しての喧嘩が始まったりしそうです。)



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だん、と机の上に足を振り下ろし、ハンガリーさんは低く言った。
「てめえなめんなよ?」
それを聞いて、こそこそ、と隣の日本さんに話しかける。
「ハンガリーさん機嫌悪そうですねぇ…」
「デート、の予定だったらしいですよ。」
返ってきた答えに、なるほど、とうなずく。彼女は、オーストリアさんとの時間を何より大事にしているから。

「もしかして…僕たちあんまり手出さない方がいいですか…?」
「まあその方が安全でしょうねぇ。巻き添えになりたくなかったら…けれど。」
ちら、と後ろを見る日本さんに、視線の先を追う。…庭でがさり、と動く不審な影。
思わず隣に立てかけた、剣の入ったケースに手を伸ばす。
「まだですよ。」
言われて、ぴたり、と動きを止める。
「向こうが手を出してこない限り、こちらが戦えることに気づかせてはいけません。」
「…はい。」
答えて、手を戻す。危ない危ない…危うくバラすところだった。せっかく神父さんにお願いして衣装を借りてきたのに、意味がなくなってしまう。剣も、楽器のケースに入れてきたのに。
ハンガリーさんは別働隊、として、SPとして動いていたからいいんだけど。

「しかし…他にも胡散臭い影5、6くらい見かけてますし…少々牽制しておきましょうか。」
「まだそんなにいるんですか…」
目の前でハンガリーさんに一方的にやられているので既に3グループいるのに。
「敵多いですね…ここの当主さんは…」
「まあ、いい人、なタイプではありませんからね。」
言われて、納得。

「とりあえず屋敷周りに風吹かせてあぶり出してみます。…詠唱の間、護衛お願いします。」
「任せてください。」
うなずいて、周りを見回す。
ハンガリーさんの方は、任せておけば大丈夫。だから、窓とドア、に警戒。
小さく、響きだした声を聞きながら、意識を研ぎ澄ませた。


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はああ、と二人はベンチに腰掛けて、ため息をついた。
「…疲れた…。」
「何であんなに元気なんだろ…。」
がっくりとうなだれた二人。元来魔法剣士で体力面で少し不安のあるイギリスはともかく、ばりばりと前衛で大剣を振り回しても長時間戦う体力を持つカナダまで、疲れ果てているのはとても珍しいことだ。

その原因は、イギリスの弟にしてカナダの兄。

「…ったく…来るなら連絡寄越せっつーの…アメリカはいつもいつも…。」
「あはは…そんな気遣いできるわけないじゃないですか…。」
自称勇者の、金髪蒼眼の青年は、唐突に朝っぱらからやってきて、わああれはなんだい?こっちのおもしろそうだぞ!と兄弟を引っ張りまわして振り回していた。
昔からああじゃないですか、とカナダが言うとおり、気まぐれで他人に気遣いをしない彼は、昔から、突然とんでもないことを思いついては、常識ある兄弟を振り回していた。

「ま…ちょっと懐かしいけど、な…。」
兄弟、とはいえど、三人で暮らしていたのはあまり長い期間ではなかった。神殿兵に選ばれたイギリスが家を空けるようになり、俺は勇者になるんだ!とアメリカが家を飛び出し。その後、すぐにその家は、事情あってなくなってしまったから。
「小さかったころはまだ、マシだったと思いますけど?」
「力づくでなんとかなる部分あったからなあ…。」
小さい彼が駆けていくのは、首根っこ引っつかめばなんとかなったのだ。
そのまま怒って。カナダとも手をつないで一緒に帰って、イギリスのご飯まずいぞ!とか言いながら夕食にして。

…昔の、思い出だ。
それをまぶたの裏に映し出していたイギリスは、ふ、と目をあけて、言った。
「ところで、あいつは?」
しん、と落ちる沈黙。
「…え、あ、あれ…?イギリスさんご存知じゃ…?」
「いや、俺はてっきりカナダが…。」
顔を見合わせて、さああ、と青くなっていく二人のもとに、わぁお!すごい眺めだなあ!という大声が聞こえた。
一箇所、から聞こえているようでない、いくつもの場所から同時に、街中に響く、不思議な声。…それは、仕掛けられた魔法だ。もし何かあった時に、街中にすぐに知らせる用に、イギリスと日本とオーストリアが仕掛けた。
二人がはっとしてその場所を見上げると、見張り塔の上に、見覚えのありすぎる金髪!
『お、お?何だい、このボタン?』
「う、うわあああああ!」
「押すなアメリカー!」
二人が大慌てで駆け出したが、時既に遅すぎて。

ジリリリリリリ!とけたたましいベルの音が、穏やかな街の昼間に、響き渡った。


(この後もちろん、イギリスとカナダが一軒一軒謝ってまわるはめに。)


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