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「おまえあいつのことどう思う?」
目の前に座るオーストリアにそう尋ねると。
「正真正銘今まで会った中で一番の御馬鹿さんですが。」
「最悪だなそのレッテル…」
即答に呆れれば、まあ、いろいろと見所のある御馬鹿さんですけどね、と言われてまあな、と呟いた。窓の外に視線をやる。
顔を真っ赤にしてロマーノを口説く、真摯な青春真っ盛りの青年の姿を見て、かつて武闘大会を荒らし回り三強と呼ばれた猛者の一人だと、連勝記録を伸ばすだけ伸ばして、ふらりと姿を消した三強を、今だに追いかけるものも多いという伝説の戦士だと、誰が思うだろうか?
けれど、それは事実だ。イギリスもオーストリアも、その姿をその目で見ている。
荒くれ者だらけの武闘大会の決勝の大舞台を、戦斧一閃で自分ひとりのオンステージに変えてしまった姿を。

「それにしても。彼は一体、なんのためにこの街へ来たんでしょうね?」
武者修行、なら、もっと向く街があるでしょうに。そうオーストリアが呟く。
確かに、この街は平和そのもの。…ロマーノにぞっこんだからで街に来た、わけではなく、二人が出会ったのは彼が街にやってきてからだ。
何のために。そう言われて、考えて、やっぱりあれしかないだろうな、とイギリスは呟いた。

「はい?」
「俺がいるから、だろ。」
「は?」
眉を寄せるオーストリアに、肩をすくめてみせた。
「王都にいたときに、あいつ吹き飛ばしたことあるんだよ。…にらむなよ、仕方なかった。あそこで止めないと店の中で大喧嘩はじまるとこだったんだ。」
まあ、彼の方は、絡まれて困っていた店の女の子をごろつきから守ろうとしただけなのだが…喧嘩両成敗。あれは正しい対応だったと思っている。
「おかげで勝手にライバル認定されたらしくてな。」
おまえいつかぶっとばす!と怒鳴っていたのを思いだす。
「…なるほど。正義感は強いがすぐに周りが見えなくなるタイプ、と。」
「そういうことだな。」
そこまで言って、二人同時に紅茶を口に運ぶ。
ちら、と相手を伺う視線が、ばっちり合って。

「…それで?」
「引きずり込むか?」
「引きずり込む、なんて人聞きの悪い。…ギルドに『協力』、していただくんですよ。なんせ人手が足りませんから。」
私とハンガリー、あなたと日本、そしてイタリアとロマーノは、いることはいますが戦力にはなりませんからね。後一人、呼んではみてますけど来るかどうか。指折り数えるオーストリアに、イギリスはうなずいた。
「戦力面では申し分ない。性格面は…まあ熱しやすいが、それはそれで扱いやすいしな。」
「ええ。ロマーノを介せばすぐに入ると言うでしょうし。」
「スペイン。…三強の一人が入ったとなると、ちょっとやかましくなるかもしれないが。」
「それはそれで町おこしになりますよ。」
二人同時にうなずいて、机に置かれた、勝手に作ったスペインの履歴書に、ぺたん、とはんこが押された。

「後は本人を引きずりこむだけですね。」
「おまえだって言ってるじゃないか。」
気まずそうに咳払いするオーストリアに、イギリスは笑った。


(スペイン、本人の知らないうちにギルド参入。)

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「しょうがないから、採用。」
深くため息をついてフランスは言った。
「けどさー、カナダを危険にさらすのはちょっとお兄さん納得いかない…」
「かといって、イタリアやロマーノでは本当に危ないだろ。日本に無理させるわけにはいかないし、ハンガリー一人じゃ、犯人が罠にかかる確率が低い。」

隣町で、女の子が相次いで誘拐される、という事件が発生したのだ。
それで、軍の方からの依頼は、囮による犯人集団の本部特定と、うまくいけば犯人確保。
そのため、囮を誰がするのか、という話になったのだ。

唯一の女子であり、ギルド内でも上位に入る戦闘派なハンガリーは即決定、できればもう一人くらい、となって、つまり女装しなければいけないわけで、まずドイツ、イギリス、フランス、スペインが候補から落ち、続いて、イタリア、ロマーノ、オーストリアが除かれた。
後半は、いざという時の近接戦闘能力の低さ、前半は…まあ、うん。ハンガリーの言った「嫌よ見たくない」というのが大きいだろうか。

そして残ったのが日本とカナダ。日本は、先日の戦闘で負った足の傷が完治していないため、結局カナダ、ということになった。

最後までフランスが反論していたのだが、まあ仕方がない。がんばります、と、本人も乗り気なのだし。
「第一フランス兄ちゃんは心配しすぎだよ。カナダ結構強いのに。」
「そんなことないですよ…まだまだです。」
イタリアの言葉に首を横に振るカナダに、それに、俺とオーストリアで防御魔法は常にかけとくから大丈夫だ、とイギリスが頭を撫でた。

「さあ!そうと決まればメイクよ!おしとやかなお嬢様に見えるようにしないとね!作戦の成功のために!」
ハンガリーがわくわくとした表情を隠さずに叫んで、はい!とカナダが返事をした。

→脳天にハイキックを に続く



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「キリギリス」
「す、す、すきやき!」
「煙管」
「る!?るー…る…」
あーうー、と考えながら何かないかな、とあたりをきょろきょろしていたら、視界の端に黒い頭が見えた。
「あ。日本来たよ?」
「そうか。」
今日の仕事は、日本とイギリスの護衛。盗賊集団退治しにいく二人の護衛。
今いるこの倉庫街が、そのたまり場らしい。

「でもさ、日本もイギリスも強いから、いらないんじゃない?護衛なんて…」
日本から目を離してドイツを見ると、デコピンされた。…痛い。
「何〜?」
「おまえな…話はちゃんと聞け。誰があの二人の護衛だと言った。」
「ヴェ?」
わからなくて首を傾げると、あのな、と言われた。
「あいつら、昨日作戦読まれて馬鹿にされて激怒してただろ。」
「うん。怖かった〜」
空気がぴりぴりしてるんだもん〜そう訴えると、だからこその護衛だ、と言われた。
「んん?」
「冷静な判断力を失った二人が犯罪をおこさないように、の護衛だ。」
「犯罪?」
「二人が本気で魔法使ったりしたらどうなる?」
「ヴェっ!?」
言われて気づいた。…そんなの、避けられないし強力だし。
「つまりは、犯人側の護衛ということだ。」
もしくは二人のストッパーとも言うな。さら、と言うドイツに、慌てて日本に目を戻す。…まだ、何も起こってない、みたい。

けれど、倉庫に入っていこうとする姿に、追いかけないと、と立ち上がると、腕をつかまれた。
「放っておけ」
「でも行かないと!」
「構わん」
「かまうってば!」
動こうとしないドイツに、どうしちゃったのドイツ、と尋ねると、する、とつかまれた腕を撫でられた。腕というか、巻かれた、包帯を。
「…おまえに傷を負わせたやつらだ。自業自得だろ。」
さらっと言ったドイツに、…もしかしなくてもドイツ怒ってる…?と気づいて、さあ、と青ざめた。



(犯人グループは完全にノックダウンした後でようやっと止めに入ったドイツと半泣きのイタリアが連行し、捕まりました。主犯格曰く、地獄を見たそうです。)



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「あ。おるおる。」
「ほら、行ってこい!」
「急かすな押すな無理無理無理!」
小声でドアの外で繰り広げられる会話を、ばっちり全部聞きながら、日本はお茶を一口。

「何だよもう…約束破ったのおまえだろ?ならさっさと謝るしかないだろうが…」
「そんなこと言ったってな!怒った日本本当に怖いんだからな!しゃれにならないんだからな!」
「あーもう…それでも悪いのはおまえなんやろ?」
「そ、…うだけど…」
「うじうじしてへんと早よせえ」
「そうそう」
「う…」

終わりそうにない会話にため息。イギリスさん?と声をかける。びくっと震える気配。
「お二人に迷惑かけてないで。入ってきてください。」
淡々と告げれば、そうっ、と開く扉。不安げなエメラルドが、のぞいて。
にこ、と微笑んでみせる。

「さあて、イギリスさん。連絡なく晩御飯を外で食べ、さらに私との約束を破ってお酒を飲み周りの方々に多大な迷惑をかけ、その上市長さんの家に泊めていただいたそうではないですか?…経緯と言い訳を、お伺いしましょう?」
「う、」
「嘘偽りは聞きたくありませんので。」

こっちが何件謝罪に伺ったと思ってるんですか。そう先手を打つと、イギリスさんは即すみませんでしたあ!と額を床につけた。



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※独と伊の初対面


「ヴェ〜〜〜!」
情けなく響く声に、怒鳴りつける。
「そこをどけ!」
ぱっと横に転がったそいつを振り返らずに走り寄り、大剣を勢いよく振り下ろす。
一撃で倒れる魔獣。…そんなに強い種類じゃない。

息を吐いて、大丈夫か、と振り返る。茶色い頭。背中に弓を背負った、目をまん丸にした男の姿。
「ヴェ〜…ありがとー…いきなり襲われたからびっくりしちゃって…」
へにゃ、と表情が崩れた。情けない顔だ、と思ってしまうのは、軍部に長く居すぎるからだろうか。

「いや。怪我は?」
「平気。擦り傷くらいだよ」
そう言う彼に手を差しだし、掴んできた彼を立たせる。膝についた土を、手で払ってやって。
「ヴェ、ありがと」
「いいから、ほら。ちゃんと立て。」
はあい、と言って落ちていた弓を担いだ彼は、自分よりも身長が低かった。あどけない表情が、余計に幼く見せる。
「俺はイタリア!パスタが好きなお茶目さんだよ!」
にこ、と笑顔で差し出された、さっき離したばかりの手を、ため息とともにとる。

「…ドイツだ。」
「ドイツーわはードイツドイツ!ドイツは、旅人さん?」
連呼するな。そう思いながら、いや、人に会いに来た、と答える。
「人?」
「オーストリア、というんだが…知っているか?」
「オーストリアさん?オーストリアさんのお客さんなんだ!」
じゃあじゃあ、助けてくれたお礼に街まで案内するよー。そう笑うイタリアに、なら頼む、と小さく笑った。

「遠いのか?」
「遠くないよ〜、すぐそこ。山の麓だから、帰りは下りだから早いし。」
そうなのか。呟いて、周りを見回す。…森の木々以外に、何も見えない。街への道も、何も。
そんなに小さな街ではないですよ、と言っていたが、と思い出す。
「街道は?」
「街道通ると、すごい遠回りになるんだよね。山迂回してるからさ。だから、隣町からなら、山越えのルートで正解だよ。」
なるほど。隣町で聞いたときに言われた、急ぎだろ?という一言は、そういうことか。
「それに、こっちの方が景色がいいんだ。…たまに魔獣出るけど」
「そりゃ山の中だからな」
そうなんだよねー。困ったようにそう言う彼の、茶色い頭を追いかける。
道のない道。…けれど、よく見れば、彼が歩くのは踏み固められた場所だ。…近道として利用されているのは本当らしい。
「ほらほら、こっち!」
急に走り出した彼に、何だ、と追いかける。がさり、と茂みを抜けると。

「……!」
一気に視界が開けた。そこそこ急な緑色の芝生の坂の下、眼下に広がる、街並み。
古いが、美しい街だ。暖かさと、どこか懐かしさを感じる、昔ながらの家々。
「きれいなとこでしょ?」
「…ああ。綺麗だ。」
素直に返すと、えへへ、とうれしそうに彼は笑った。

「ようこそ、俺たちの街へ!」
両手を広げた彼が、楽しげに言った。


その後すぐに、バランスをくずして背中から倒れそうになるから、大慌てでその腕を引き戻す。
「ヴェ、あ、ありがとドイツ…」
「…いや。」


すでに2度目のこのやりとりを、街に着くまでにあと三回繰り返し、次の日からもう日常になってしまうなんていうことは…二人ともまだ知りもしないこと。

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