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※西とロマ出会い編1


「兄ちゃんお願い!」
「関係ないだろ俺は!」
眉をひそめてロマーノは、弟のお願いを絶対嫌だと拒否した。

「兄ちゃん〜」
「嫌だ!何で俺が女装なんか、」
「決まってるじゃない、優勝したいからよ。」
声に、振り返る。そこには笑顔で、真っ赤な踊り子の衣装持ったハンガリーと、化粧道具抱えた日本の姿!
「今年の仮装コンクールの優勝商品は絶対逃せないの。だから、ロマーノも協力して?絶世の美女にしてあげるから。」
にこにこと近づいてくるハンガリーに、いやだ、と言いかけたら、そのまえにあら!と声を上げられた。
「女の子の頼みごと断っちゃうなんて、そんなことしないわよねえ?」
ねー、ロマーノちゃん。お願い。

超至近距離で目だけ笑ってないスマイルをされて、うなずかないでいられるやつがいたら、是非お目にかかりたい。

「よっし!オーストリアさんのコンサートチケットのため!本気でかわいくしてあげるわ!特別賞も準優勝もいらない、目指すは優勝のみ!」
爛々と目を輝かせるハンガリーに、あーあ、これは祭の間はナンパできそうにない、とため息をついた。


(→こんばんはそしてさようなら に続く)


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※伊女装注意



「は?」
「だから、護衛の仕事だってば。」

ふわりと広がったドレスを着て、イタリアははっきりと言った。
その髪は(もちろんかつらだが)長く、高く結い上げられていて、かわいらしいピンクの唇に大きな瞳。
…これでは、元の姿を知らない人間が見たら完璧に女だと勘違いされそうだ。

男女ペアでなければ入れないパーティでの護衛依頼?
「…聞いてない聞いてない。」
思わずそういうと、だってオーストリアさんがぎりぎりまで言うなって、とイタリアが言った。
それを聞いて思わず後ろをにらむ。
おや、そんなこと言いました?ってそれでごまかされるとでも思ってるのか!
「オーストリア…。」
「だって、あなた絶対に反対するでしょう?」
「当たり前だ!」
護衛任務、はまあいい。仕事だ。けれど、それにイタリアを連れて行かなければいけないとなると、彼のフォローでいっぱいいっぱいになってしまうのが目に見えている。
その上、イタリアが女装!?

「大丈夫だよー。」
「その自信はどこから来るんだ…。」
頼むから今までの自分の行いを省みてから発言してくれ。そう、能天気な声にため息とともに返すと、だってほら、とばさっとドレスの裾を持ち上げた。
「っ!?バカ、何やって!」
「ほら、ちゃんと武器持ってるし、」
「わかった、わかったから早く下ろせ!」
「おや、わかったそうですよ、ハンガリー。」
「はい。じゃあ依頼受諾ということで。」
「違うそっちじゃない!」
イタリアにスカートを下ろさせている間に、ぺたん、と受付の判子を押されてしまった。

「受けた仕事は断らない、があなたのモットーでしょう?」
にっこり、とオーストリアに笑われて、がっくりと肩を落とした。


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「…やっかいな依頼になってきましたね…」
「しっ、静かに」
ひそひそと話しながら、隣の応接室の様子をのぞき見る。
ここには穴があって、本棚の隙間から、中が見えるとギルドの全員が知っている。

だから、雲行きの怪しい打ち合わせや危なそうなときに、この応接室は使われるのだ。この部屋でやってるときは、誰かが隣で非常時の護衛として待機する、という暗黙の了解。
…まぁ、今日はそのもしもの護衛も必要なさそうだけど…。
ちょうど、向かい合う二組を真ん中から見るようなこの位置からは、双方の顔がよく見える。
うちのギルド側のイギリスさんは不機嫌そうな顔、打って変わって隣のオーストリアさんはにっこりと笑顔だ。
普通に見れば逆に見えるけれど、本当に怖いのはオーストリアさんの方。

「黒い…オーラがどす黒い…」
「そうですね…」
笑っているのは表情だけ。それに気づいているやらいないやら、依頼者側はまだつらつらと自分の自慢話を続けている。
なんか、それなりに偉い人らしい、というのはわかったけど、それ以外はどうでもいい。
依頼は、精霊を捕まえること…ってそれ思いっきり違法なんだけど…。
片田舎のギルドなんて金積めばなんでもするだろう感が全身から出てて、すごい腹が立つ。

「というかどうなんですか?偉いんですか?あれ」
フランスさんに聞いてみれば、現役時代のイギリスのが上、らしい。なるほど。大したことないんだ。
「いい加減にしてくれないですかね〜…」
「本当にな…あ。」
「…あ。」
思わず、声が出た。
イギリスさんが立ち上がり、入れ替わりに日本さんが座ったのだ。

そこまで見て、目を離す。もう大丈夫。
オーストリアさんと日本さんのタッグに、口論で勝てる人なんているわけがない。しかも、その後ろにイギリスさんとハンガリーさんが控えているから、あのごつそうなSPがかかってきても、敵わない。敵うわけがない。
元神殿護衛兵長で、今も神殿にこねを持つイギリスさんと、自由の身になったけれど、神殿特別御意見番の肩書きを持つ日本さん。
元軍部の中央幹部のオーストリアさんと、その補佐だったハンガリーさん。
うちのギルド最強の大人なバディ二組に喧嘩を売る方が間違っているのだ。

「日本、目笑ってなかったな…」
「はい。荒れそうですよね…あ、疲労には甘いものでもどうでしょう?」
「それは名案。」
笑いあって、30分後にはすべてを終わらせ、疲れ果てているであろう、隣でブリザードを吹かせ始めた四人の為に、甘いお菓子を用意することにした。


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「ハンガリー!ごめんってちょっとしたじょうだ…っ!」
「問答無用!」
フランスがよけた空間にかかか、と刺さるのはナイフだ。

彼を追ってひらりと、重力を感じさせない動きでハンガリーが跳ぶ。

「ハンガリーさんつよーい」
「本当に。…諜報部にいたって話本当なんですかね。」
「フランス兄ちゃんもよくよけるよねー」
「そうですねえ…。サーカスにいたことがあるって本人言ってましたけど、冗談じゃないんですか?カナダさん。」
「さあ…本人が話してくれないからわからないですけど…」

カウンターの後ろに座り込む四人。立っていると、様々なものが飛んできて危険だからだ。
頭の上すれすれを何かがひゅん!と飛んでいった。…黒い凶器は日本の文鎮だ。だん!と壁にぶつかる音に四人は無言で下にずり下がる。
「…とにかく…ケンカはいいけど巻き込むな!」
事後処理が進まない!と今まで黙っていたイギリスが怒鳴り、他の三人は曖昧に笑った。

「やー…無理でしょう。」
「諦めた方がいいですよ?」
「オーストリアさんと探しに行ったドイツ、早く帰ってこないかなー…」
ハンガリーの暴走を唯一止められる人の名前をつぶやいて、それに4人のため息が重なった。


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「じゃあな、また明日」
「ええ。お疲れさまです。」
振り返って挨拶しながらギルドを出て、前を見たら目の前にあった笑顔に、

「こんばんはそしてさようなら!」
思わず逃げ出した。けれど、そんな動きなんてお見通しだったのかすぐに腕を捕まれる。
「逃げんといて!」
「このやろ、何でまだいるんだよ!」
思わず怒鳴る。会いたくなかった。この焦げ茶色の髪の青年には。


忘れたい、今年の祭の日。ハンガリーに頼まれ仕方なく、女装で参加していた俺にむかって、こいつは顔を真っ赤にして、
『君は俺の天使や、付き合って!』
とのたまった。
即頭突きで逃走、その日はなんとか乗り切ったが、かつらを使わなかったのが悪かったらしい。次の日に会った時は手を捕まれてずらずらと歯の浮くようなセリフを並べられて。

軽そうなやつならまだいい。ふざけんなの一言で済む。…なのにこいつは。
真剣なのだ。冗談、と一蹴なんてできない、むしろこっちまで赤くなってしまうくらいに。好きや、付き合って、なんて。
けれど、OKするわけにもいかない。
だって、こいつは俺のことを女だと思っていたのだから!俺は男だ!と怒鳴って、驚いた顔になったこいつの前から逃げ出したのが、昨日のこと。

…会いたく、なかった。だって、向こうにもう会う理由なんて、騙した恨みとかしか、ない。
怯えて体を小さくしていたら、まっすぐに見つめられた。…苦手だ、この目。まっすぐすぎて、怖い。
「な、んだよ、」
このやろー、となんとか声を出した。
強がっていないと泣いてしまいそうだ。怖い。

「…好きやねん」
囁くように言われた言葉に、一瞬わけがわからなくて、は?と呆れた声が出た。
「男か女かなんて関係ない。…好き。君が、好き」
まっすぐな言葉が、真剣な声色で耳に届けられて。
かああ、と顔が熱くなった。
「な、」
「俺の天使や、君は。…こんなに綺麗な子は見たこと無い。」
さら、と髪を撫でる手。心底愛おしいものを見る視線に、心臓が暴れ出して、慌てて腕を振り払って逃げ出した。
「!待って!」
呼び止める声に、足を、止めた。振り返る。…こっちに腕を伸ばしたまま、きょとんとした彼の姿。

「…ロマーノ。」
「へ?」
「君とか言われるの嫌いなんだよ!」
それだけ言い捨ててまた走り出した。
…恥ずかしい、恥ずかしい恥ずかしい!何言ってんだ俺!
別にあいつが好きなわけじゃない。気持ちに応えてやるつもりなんかない!
ただ、そう、あいつがあまりに真剣だからちょっとほだされただけだ!
そう自分に言い聞かせて、嬉しそうにロマーノ!と呼んでくるスペインとかいう馬鹿を振り切るためにスピードを上げた。

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