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※ギルド設立直後くらい



この街はいいところ、なのだけれど、ある兄弟だけは苦手、だ。本当に。
一人では自分の身も守れないくらいに弱いくせに(逃げ足だけは異常に早いが)、狩人を名乗り、始めたばかりのギルドの依頼でもすでに、何度も捜索願が出ていて(逃げてる途中で迷うな!まったく…)。

叱れば泣くし、怯えるし。そんな姿を見せられたら、本気で怒れなくなってくる!その上日本やハンガリーが甘やかすし!
ここ数日でオーストリアさえだいぶ懐柔されたのか諦めたのか、怒る側には回らなくなっていて。
…俺には無理だ。あいつらとは合わない。効率悪い方法しかとらないし。料理の腕とか手先の器用さは、素直に感嘆するけれど。
まあ、俺を見ただけで逃げ出すあいつらと、仲良く、なんて不可能に近いのかもしれないが。


「こう、か!」
「えー違うよ兄ちゃん、だってここ合わないもん」
「あ。…もー…わっかんねー…」
「うーん…」

頭を突き合わせて悩んでいる兄弟を、事務所として借りた家のリビングで発見して、何を悩んでいるのかと見れば、机の真っ白なジグソーパズル!
それに、どう考えても大きさの合わないピースばかり持ち寄せて、いて!

「やっぱこっちじゃない?」
「それだって変だろ〜、ほら…」
延々と、入るはずもないピースを拾って合わせている2人に深くため息。というか、中央から始めるか、普通!
「でもさあ」
「違うって」
「あーもう!バカしかいないのか!」
思わず怒鳴ると、びく、と2人は怯えたように体をすくめた。


「ほら!こうやって端から作っていけば…」
ぱちぱち、とはめていくと、おー!と向かい側に座った二人から、歓声。
「あ、その隣これだ、」
「で、次がこれだろ…」
手を伸ばして、ぱちぱちとはめていく2人に、なんだ、と思う。
聞き分けはいい。しっかり教えれば、一度で飲み込める。…これなら、弟達(主に一人だが)相手にするより楽かもしれない。そう、気づいて。
ああそうか、俺が、何言っても無駄だっていう色眼鏡で見てて、ちゃんと2人を見てなかったのか、と、気づいて。
仲良くなんてなれない、とか言う前に、もう少し、ちゃんと向き合おう。そう思って、苦笑して。

「できた!」
2人の声がそろって、お。と思った瞬間に、白かったはずのジグソーパズルに、紋が現れ始めて。
「ん?」
「ヴェ?」
「お、い…!」
その紋を読み解いて、それが召喚系の魔法であることに気づく!
光を放ち出すそれに、離れろ!と怒鳴り、剣を手にとって解呪を、間に合うか、と始めて!

部屋が、光に包まれる…!



数分後、帰ってきた日本、オーストリア、ハンガリーの目に入ったのは、イタリア、ロマーノの兄弟が、イギリスの前で正座させられて怒られている姿だった。



(じいちゃんのコレクションから魔法道具を使ってみちゃった園児2人と、怒る保父さん、みたいな)



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フランスが、セクハラまがいのことをするのは、いつものこと。
そして、やりすぎてハンガリーを怒らせるのも、いつものことだ。

「待ちなさい今日こそしとめる!」
「待って待ってハンガリーさんハンガリー様ごめんなさい!」

追いかけっこがはじまると、誰にも止められない。ただ一人、オーストリアを除いて。
今日も今日とて、ほかのメンバーは二階やらカウンターの下やらに隠れて、救世主の到着を待つ。

からん、とドアベルが、鳴った。
「ただいま戻りました」
オーストリアと、同行していたスペイン、ロマーノが姿を現す。

「うっわ、こらまた派手に…」
「…いなくてよかった…」
「…はあ。ハンガリー?」
オーストリアが呼ぶと、誰が呼ぼうと叫ぼうと聞く耳を持たなかったハンガリーが、ぴたり。と止まった。

「…お、オーストリアさん…お帰りなさい」
「ただいま戻りました。…机の上に足を振り上げるのは、ちょっとどうかと思いますよ。」
言われて、すみません!と振り上げていた足をわたわた、と下ろして、服の裾を直したりして。…すでに遅い気もするが。
オーストリアはため息一つ。そして、杖を掴みなおして、さて。と一言。

「覚悟はいいですか、フランス。」
「ちょ!被害者は俺だ!」
「どうせあなたが何かやったんでしょう。責任をとりなさい。」
「待って、待って、マジで!」

ぎゃあぎゃあと、終わらない騒ぎに、ギルドリーダーはため息一つ。

「外でやれ!」



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静かに、怒りのオーラを漂わせ、拳を細かく震わせるバディの姿に、いやあの、ねっ?とイタリアは意味もなく彼の方へ伸ばした手を振った。
「ほら、ほらほら、ね。あの、」
何だっけえーと、と言う間にも彼は目も開けずにただそこに佇んで、いるだけなのにオーラがすごかった。

「そう!フカコウリョクってやつですよ!」
「どこがだ!」
怒鳴り声とともに、拳骨が落ちた。


「痛い…本気で殴らなくてもいーじゃんか…」
「これくらいしないとおまえはわからないんだろ。…ほら、腕出せ。」
まだ怒った口調で彼は言う。イタリアが手を出すと、服をまくりあげて、傷がないか調べてるみたいだ。
「平気だよ?怪我してたら俺痛くて泣くし。」
「…崖から落ちて、頬にひっかき傷ひとつ、か。」

落ちる、って思った瞬間、とっさに歌ったのは、強風を呼ぶ歌。短いフレーズを歌い終わるのと、足が空中に浮くのは同時で。上昇気流でだいぶ、勢いは削がれたし。
あと、運良く、下が蔦みたいな植物がたくさん生えててクッションになってくれて。怪我らしい怪我もほぼなく。
…だって一番痛かったの、さっきの拳骨だもん…。

「俺運だけはいいんだ。」
「…頼むからもしもの時を考えてくれ…」
深くため息をつかれた。こっちまで回ってくる間の俺の気持ちも、考えてくれないか。心臓が止まるかと…。疲れ果てた声に、申し訳なくなってくる。心配かけた、のかな。
「あ、あの…ごめん…」
「いくら依頼を完遂せるためとはいえ、無茶はなしだ。」
イタリア。呼ばれてはい。と答える。手に握りっぱなしだったそれは、手を開くとアクセサリーの形に戻っていたけれど、崖の上で見つけたときは、魔法が発動していたから蝶の姿だった。崖すれすれを飛ぶそれを捕まえようとして、落ちたんだ。


「ほら、帰るぞ。」
向けられた背中。しゃがんで、向けられたそれにぱちぱち瞬くと、もう一回落ちられたらたまらないからな、だって!もう落ちないってば!
でも、おんぶは魅力的だから、何も言わずにその背中におぶさった。軽々と持ち上げられ、ひゃ、と声を上げる。手添えないで立ち上がらないでほしいなびっくりするから!
「大丈夫か?」
すぐに添えられる手。慣れた手つきに、それだけ迷惑かけてるんだなと思った。最初はいつ落とされるかとひやひやしたのに。
「うん。…あの、ほんとにごめん、ね。」
迷惑かけっぱなしで。とそう言ったら、今更だな。と言われた。
「う。」
「気にするな。…バディなんだから、俺は。お前の。」
「!…うん!」
勢いよくうなずいたら、彼が笑ったのが、見えてないけどわかった。


「ところでさ」
「ん?」
「フカコウリョクって、何?」
「………。」



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「いや、あのなロマーノ、別にわざとやなくて、」
「へーほーふーん」
興味なさげなロマーノの声に、スペインは慌てた。

興味がない、というか聞く気がないのだ。…怒ってる、のだ。
依頼主の女性に誘われて、断りきれずに夕食を食べにいって帰ってきたら、きっちり料理作って待ってたロマーノが機嫌悪いですって顔して座っていたわけで。

「いいよなあ、美人とディナー。」
「いや、その…」
だめだ、言い訳したって許してくれなさそうだ!
「ご、ごめんなさい…」
素直に謝ると、やっと、ずっと背中を向けていたロマーノが振り返った。

「同じ店。おごりな。」
「…夕食?」
「仕方ねーから昼飯でかんべんしてやる。」
よかったあ…ディナー、って言われたらちょっとほんとに払えない。あそこほんとに高いって有名だから。

「昼飯、でもしばらくは連日仕事せななあ…」
…て言ったって、きっとロマーノはついてくれないし。自分で稼げとか言って。そうなると、受けられる依頼数減るんだよなあ…。
けれどそれより何より。
ロマーノと一緒にいられる時間が、減る。

明日からの苦労を思って、ため息。
ダメ元でロマーノ仕事ついてきてくれる?と聞いてみる。
「…仕方ないから、つきあって、やるよ。」
「あ、やっぱあかん……今なんて?」
びっくりして見ると、ロマーノはまた背中を向けていた。
「おまえ一人じゃ昼飯食いに行けるの、遅くなるし!」
「え、えの?ほんまに?」
「、だからおまえのフォローできるのなんか、俺くらいしかいないだろ!」

だから仕方なく、だ!そう彼は背中越しに怒鳴ってきて。
…でも、一緒についてきてくれるようだ。なんて珍しい!

「…ありがとう、ロマーノ大好きやで!」
「っ、言ってろ、このやろー…」
抱きついて言ったら、ぶっきらぼうな、でも優しい声が帰ってきた。



(美人と西が歩いてるとこ見ちゃって、好きって言ってほしかっただけなロマ。全然気づいてない西。)





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※ドイツ参入すぐくらい


「わあああ!」
悲鳴に日本が振り返ると、そこには。
「イタリアくん!」
魔獣に襲いかかられている姿に駆け出そうとして。
ぐい、と腕を後ろに引かれた。

「待て日本、」
「どうして!?」
見ろ、と示されて、とりあえず振り返る。ぱん、とイタリアがすぐそばの魔獣に矢を放つ。
それに魔獣がたじろぐ間に、イタリアくんの前にドイツさんが割り込んで。

「っドイツ、」
「よくやった。下がってろ。」
それだけ告げ、魔獣に向かっていくドイツさん。
その二人の姿は、立派にバディのもので。

「ほらみろ。」
「…組んだばかりとは思えませんね…」
「合ったんだろ。」
気が、なのか、相性が、なのか。
「『魂の片割れ』ですか…」
「だろうな。」
そう言われるほど、合う、一生のパートナーはいるものだ。
出会えることは、少ないけれど。
…逃げるしかできない恐がりのイタリアに、戦おうという勇気を与えるほど、ドイツさんの存在は大きかったらしい。

「…将来有望ですね」
「ああ。」
ばりばり働いてもらわないとな。そういうリーダーの姿に、これは鬼上司になりそうですねと苦笑した。
そう会話をしながら、倒していく魔獣の数は彼らの倍。
「じゃあ、ま。将来有望な二人の未来を祝って」
「派手にいきます?」
「いくか。」
そう言って、剣を、杖を、構えて、魔力を走らせる。

「よけろよてめえら!」
「いきます!」

その場に、光が、満ちた。


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