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「うぎゃあああごめんなさいー!何でもするから食べないでー!!」
情けない悲鳴が森中に響き渡る。
それでも、その言葉は届かない。
ぐるる、と低くうなる魔獣には。

一人でうろちょろするな!というバディの忠告を聞いていなかった彼はすっかり迷子になってしまって。
そしてうっかりと、立ち入り禁止の魔獣の巣に、足を踏み入れてしまって。
自分の背より大きい魔獣に追い詰められて、がたがたと震える。
「やだよー!食べてもおいしくないよー!だから」
目の前でがばあ、と大きな口を開かれて、ぎゃああ!とさらに悲鳴が上がって。

「助けてドイツーっ!!」
叫ばれた名前と同時に、ぐぎゃあ!と声が上がった。…イタリアではない。目の前の魔獣からだ。
「ヴェ…?」
のたうって、自分から離れていく魔獣を見て、ぱちぱちと瞬く。

「…まったくおまえは…仮にも狩人だろう。悲鳴上げてないでしとめたらどうだ…。」
呆れ果てた、聞き慣れた声が、聞こえて。
イタリアはぱあ!と表情を輝かせた。
「ドイツ!」
魔獣の向こう側から姿を現したその人に、駆け寄って飛びつく。
と、ごん!と頭にげんこつが降って来た。
「いたいー!」
「こんの馬鹿!一人でどうにかできないなら俺から離れるな!…心配したぞ。」
「うう…ごめんなさい…。」
しゅん、として謝ると、けど、無事でよかった、とそう頭を撫でられた。
そのとき、ぎゃう!と鳴き声。

さっきの魔獣が、ぐるぐるとうなって、こっちをにらみつけていて。
「…一撃ではしとめられなかった、か…イタリア、下がってろ。」
「う、うん。」
背中に差した剣を抜くドイツから、イタリアは離れて。
「手伝おうか?」
「いや、……そうだな、フォローを。加速だけでいい。」
その言葉に、弓を肩から下ろそうとしていたイタリアはうなずいて、弓を元に戻し、手を組んだ。
唇を開き、深呼吸。そして。
ドイツが走り出すのと同時に、澄んだ歌声が、あたりに響き渡る。
歌声に反応したように、ふわり、と風が巻いて。ドイツの背中を押す。勢いが、さらに増して。

「いくぞ!」
片足で踏み切って、たん、と高く跳んだ。



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「ただいまーロマーノー。」
その声が自分の部屋の窓から聞こえて、なっ!と声を上げた。
「どこから入ってるんだちくしょーっ!!」
「えー?やってこっちの方が近い。」
「近いとかそういう問題じゃ…!」
何ー?ロマーノやっていつもこっち使うやん。そういいながら、すぐ傍の二階の入り口の方から入ってくるスペインに、ちくしょー計算外だ…!と慌てる。

「あ。武器の整備しとったん?」
ひょい、と部屋を覗き込んでくるスペインに、お、まえが遅いから…と呟く。
意味もなく銃弾をいじくって、後少しで組みあがるそれを、組み立てようとするのに、他のことに気をとられて慣れたはずの作業が進まない。
「そっか、ごめんなー遅くなって。」
へらへら笑って、じゃあ昼ごはんすぐ作るわー、なんて背負っていた斧を下ろしながら、下へと降りていくから。

……計算外だ。完璧に。
いつもなら、普通にただいまーロマーノーって玄関から入って、リビングには見向きもせずに自分の部屋に着替えにいくから、だからその間に準備すればどうにかって、思ってたのに。…スペインが遅いから、武器の整備始めたのは本当だ。それでも、帰ってきたら声かけてくるし、それからでも遅くないって思って。
だから、ええと。その。

きっとあいつは、もう見つけてる。…当番でもないのに俺が作った昼飯を。…結構、気合い入れて作ったそれを。…あっやっべ、ちゃんと言えるようにってメモった紙机におきっぱなしじゃねーか!!

はっと気付いて立ち上がった瞬間、だんだんだん、と駆け上がってくる音が聞こえた。
「ロマーノーっ!!!!!」
喜色満面な、顔を見なくてもわかるその声に、なんだかもう恥ずかしくていたたまれなくなって、思わず外に逃げ出した。

「何で逃げるんー!?」
「うっせええ!追いかけてくんな馬鹿!」
「やってあんな、もうかわええええ!俺のバディはほんま世界一やで!」
「知るかこのやろおー!」
「やって、『スペイン、いつもありがとう、あと武闘大会優勝おめでとう』って!」
「大声で読むんじゃねーよちくしょーーっ!!!!」

大声で叫びながらの追いかけっこは、いつもどおりやかましいですよ!とオーストリアに怒鳴られて終わる。


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