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ら、ら、ら、とメロディが聞こえてくる。…歌っている声の主はわかっている。このあいだパートナーになったばかりのイタリアだ。…まったく。
「静かに待っていることもできんのかあいつは…。」
眉をしかめて呟いたら、それがイタリアくんなんですよ、と日本が笑った。

「それに、こんなにいい天気で明るい日なんです。…イタリアくんでなくても、鼻歌くらい歌いたくなります。」
…それは確かに、そうかもしれない。
平和で穏やかな午後の街は、活気と明るい声に満ち溢れている。歌くらい歌いたくなる気持ちも、わかるかもしれない。
そう思って、ふ、と息を吐いて耳を澄ませる。らら、ら、と続く歌声。
香ばしい匂いのするパン屋の角を曲がると、縁石に腰掛けた茶色の髪の持ち主。
「あ、ドイツー!」
歌声が止んで、ぱたた、と走ってくる。きらきら光る瞳。…こいつには世界全部が輝いて見えているんだろうか。

「仕事終わり?」
「ああ。」
「やったー!じゃあ今日はお買い物してパスタつくろー!ひゃっほー!」
また歌いだすイタリアに、思わず苦笑する。
「騒ぎすぎだ。…それにおまえ、昨日からその曲しか歌ってないぞ?」
一昨日までは統一のないメロディを聞いていたのに、なぜか昨日からはそれ一曲だ。
「そういえばそうですね。どうかしたんですか?イタリアくん。」
日本が首を傾げると、それがね!聞いて!日本〜!と両手を万歳。
びくり、と日本が一歩引いて、ハグしようとした手はすか、と空を切った。
「ヴェー…。」
「ええと、それで?話の続きは?」
「そう!あのねあのね!」
落ち込んだイタリアをすぐに復帰させられる手腕はさすがだと思う。
「ドイツが俺の歌褒めてくれたの!」
「…っ、は!?」
いきなり出た自分の名前に目を白黒させていると、だって、褒めてくれたじゃん、ときょとんとした瞳。

「その歌は綺麗だなって。昨日。」
答えに窮していたら、言ったよね?と潤んだ瞳で見上げられた。思わずうっと息が止まる。
「…言ったな。」
ため息と共にそう答えるとわはー!だよね!わあいドイツに褒められたー!と昨日と同じ騒ぎがはじまるから、とりあえずそのばたばた走り回る体をしっかりと捕まえた。
「ばたばたはしゃぐな!」
「ヴェー!!」
「まあまあ…。」
そう日本にたしなめられて、手を放す。


するとまたうれしそうにまた、ら、ら、らと歌を歌いだした。
澄んだ声が、青い空に響く。
「…綺麗ですね。」
「……そうだな。まるで。」
祈り歌のようだ。そう言ったら、がばっと日本が振り返った。

「な、なんだ?」
「…祈り歌?」
ああとうなずくと、聖歌とはだいぶ違いますけど、と言われて、そうじゃなくてと返す。
「ほら、なかったか?小さい頃…精霊、というかそういうのに祈るための歌。」
雨乞いとか、と言うと、考え込んでしまって。
「日本?」
「ヴェ?どかしたの?」
歌い終わったのかちょこちょことイタリアも寄って来て。
「…イタリアくん!」
「ヴェ、は、はい!いえすさー!」
「さっきの歌、もう一度最初から、ゆっくり正確に歌ってください。」
「ヴェー…?」
「早く!」

その剣幕にふぁい!と返して、イタリアがまた歌いだす。息を吸って、目を閉じて。ら、ら、と流れる旋律。
ふ、と何かが動いた気配がして、振り返る。…誰もいない。…風、か?
そう思ったときに気付いた。風の巡りがおかしい。ふわふわと、まるで円を描く様に吹いている。…こんなのは見たことがない。
思わず剣に手を伸ばすと、大丈夫、と日本の小さな声がした。
歌が少し盛り上がる。それにあわせて、ごう、と風が舞いだした。螺旋を描くように、風の壁をつくるように。その中心は…イタリアだ。
「な、んだ…。」
なんだこれは。思わず口に出したら、静かに、と言われた。
ららら!と歌い終わって、たん!とイタリアが足を鳴らした。と同時に風が霧散する。
「日本、これは…。」
「ヴェ?何?」
歌った本人はまったく気付かなかったらしい。
「…風の精への舞踏の誘い…イタリアくんにこんな才能があったなんて…」
「ヴェー?」
ぱちぱち、とイタリアは瞬いた。




(イタリアはコマンド歌うが使えるようになった!とか入れたい感じ…)

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「深く、暗い大地の底、その場所にただ在るものよ、」
ふわり、ロマーノの髪が浮く。光をまとって、動く。その手に持つ銃に刻まれた聖印が輝き出す。
「門は開く、その音にて眠りから目覚めよ、激しく強きもの、」
長い呪文を唱え出す。…時間がかかるのだ、この技は。逆に言えば、その時間さえ耐えきれば、勝利は確定するほどの大技。

がきん、と重い機械のアームを受けて、弾き飛ばす。
「あーもうやっぱ機械兵とか苦手や!」
がん、と斬りつけても叩きつけるに近い…打撃ダメージに腕がびりびりする。
眉をひそめて足で蹴り飛ばす。
周りを見回せば、うようよといる機械兵…やはり、マザーを倒して全部の動きを止めるしか、方法はなさそうだ。
大技のために全神経を注ぐロマーノを守るために、斧を振るう。
「…はっ!っと」
ふい、とロマーノの方を振り返る。
その向こうに、腕を振り上げる機械兵の姿…っ!
「ロマーノ!」
思わず呼んで、大地を蹴った。邪魔する奴らをかいくぐり、守りたいたった一人に、腕を伸ばすけれど、だめだ、間に合わない…っ!!
ざぁ、と全身の血の気が引いた瞬間。

「光よ盾となりて我らを守らん!」

強く美しい歌声が朗々と響いた。
ずん、と大地が揺れる。
白いレースのような壁に阻まれて、機械兵の腕はロマーノに届かない!
走った勢いをそのままに、そいつに跳び蹴りを食らわせ、弱い関節に戦斧をたたき込む。

振り返ると、歌声が響く。
明るい、歌。喜びを歌い上げる歌。
歌うのは、他でもない、イタリアだ。
楽しげに歌い溢れるその力を、前に立つドイツが大地に注ぐ。
それで現れるヴェールは、敵の攻撃を微塵にも通さない鉄壁の壁だ。…これでロマーノに誰も手出しできない。

は、と息を吐いて、戦斧を担ぎ直す。
「持つべきものは信頼できる仲間、ってやつやな!」
「スペイン!」
呼ばれて、いつでもええで!と返す。
戦斧を握りなおして、大地を踏みしめる。

「来たれ浄化の炎、その力を開放せよ!」
声とともに、どん、と撃たれた。
その勢いに乗って、前へ足を踏み出し、走り出す。
戦斧が炎をまとって熱い。けれど気にもとめず、走り続ける。
目指すはひときわ大きいマザーロボット!

全身の筋肉を使って、踏み切る。飛び上がって、その装甲の上に、戦斧を叩きつける!
「はああああっ!」
叩きつけたそこから炎が噴き出し舞い上がっていく。
地面に降り立った瞬間、どん!と派手な音を立ててロボットが爆発した。
それにつれて、ロボット達ががくん、と動きが止める。

「よっしゃ、俺とロマの愛の勝利!」
ピースして笑うと、おまえ何言ってんだ馬鹿!と怒鳴られた。
「やってほんまやん」
「んなわけないだろこのやろー!」
「おまえら気を抜くな!まだ動き出す可能性だって、」
「ドイツー…俺もう動けない〜…」
「…運んでやるから座ってろ」
「わーい」
「ドイツイタちゃんには甘いよなぁ…」
「ったくじゃがいも野郎が…」
「……。」
どん、と爆発するロボットをバックに、にぎやかにやかましく会話は続く。

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