「あのね、それでドイツが、」 はいはい、と聞きながらくすくす笑う。 ドイツさんのことを話しているときのイタリアくんは、本当に楽しそうだ。 明るい表情で、身振り手振りをくわえながら話す彼がにぎやかなのはいつものことだけれど、ドイツさんのことを話している時は、明るい、というか、甘い表情をしている。あと、ドイツさんがいるときも、そんな顔をしていることが多い。 まあ、話している内容は、ドイツさん本人がいたら真っ赤になって怒り出しそうなものだが、本人いないしまあいいだろう。ここは、ドイツさんの家だけれど。 ドイツさんがいないのは、私が資料を取りに来たから。書庫にあるはずだから、探してくる、そのあいだこいつ頼む、といつものようにドイツさんの家にいたイタリアくんを任されたのは、ずいぶん前のこと。…そういえば、なかなか帰ってこないけれど、どうかしたんだろうか。 「日本、どうかした?」 イタリアくんの声に、考えにふけっていた自分に気がついた。 すみません、ちょっと考え事を、と言うと、彼は何故かうれしそうに笑って。 「わかった!」 「何がですか?」 「イギリスのこと考えてたでしょ!」 突然出た名前にかっと頬が紅潮する。 「な、な…っ!」 「あたり?」 やったーと喜ぶイタリアくんに、違います!と主張しても、照れない照れないとにこにこ言われるだけで。 「そういえば、日本の口からイギリスの話って聞いたことないかも。」 ねえねえ、『恋人』のイギリスって、どんなかんじ?と無邪気に聞かれても。そんなきらきらした目で見られても。 「…そんなに、普段と変わらないと思いますよ?」 困りながらそう言うと、普段ってどんな?と聞き返されて。 「ええと…優しくて、紳士的で…」 ツンデレで、可愛らしくて、は心の中だけで呟く。 するとイタリアくんは、目をまん丸に見開いた。 「そんなの日本の前だけでだよ!」 俺が知ってるイギリスは、怖くて容赦なくて、フランス兄ちゃんといつもケンカしてて、ドイツと仲悪くて、と言われて、瞬く。 昔、海賊まがいのことをしていた、というのは話に聞いている。 それを考えると、すごく丸くなったんだなぁと思っていたのに、今も、そうだ、なんて。 「そう、なんですか?」 「そうだよ!…やっぱり恋人の前じゃかっこつけたがるんだね。」 今度から、イギリスが来る会議の時は日本のとこ行こうかな、なんて言われながら、本当にそうなのかな、と不安になる。 気を使わせているだけ、なんじゃないだろうか。素を出せないだけなんじゃないだろうか。 …私なんかと一緒にいるのは、しんどいんじゃないだろうか。 「愛されてるね、日本。」 「…そう、なんでしょうか」 思わず呟くと、イタリアくんは、笑って、そうだよ、と言う。 「イギリス、日本がいると穏やかになるけど、すごいうれしそうな顔するもん。…俺が、ドイツに会うとうれしくなるのと、一緒だよ。」 そう言われて、思い出す。イギリスさんの笑顔。きゅう、と胸が締め付けられて。 何度もつっかえながら、愛してるんだ、日本、と言われたときの、真剣な声が、蘇る。人も国も、嘘をつく。疑り深くなったのは、いつからか。 それでも、その言葉だけは、何を置いても信じてみよう、と思えたのだ。 「…そう、ですね。」 もう一度信じてもいいと思う。それでもぬぐいきれない不安は、直接彼に聞けばいいのだ。そうすれば、彼は怒るかもしれないが、きっと答えをくれるだろう。愛している、と。また、ぶっきらぼうに。 「…ヴェ〜」 はっと顔を上げると、楽しそうなイタリアくんがいて、どうしたんだろうと首を傾げると、うれしいなあ、と呟いた。 「俺うれしいな。日本が幸せそうで。」 「…幸せ、そう?」 「うん!だって、すごく優しい顔で笑ってたよ。」 自覚がなかった。目をぱちぱちと瞬いて、そうなんですか、と頬を押さえる。 「大好きなんでしょ?イギリスのこと。」 「…はい。」 はっきりと答えると、あれ?赤くならない、と首を傾げられた。 「イギリスさんを好きだと思う気持ちは、誇ることはあってもいいかもしれませんが、恥じるものではないでしょう?」 「あ、そっか。」 俺も、ドイツのこと世界で一番好きって誇れるよ!とイタリアくんが笑ったところで、ごほん、と咳払い一回が聞こえた。 視線を向けると、少し頬を赤くしたドイツさんの姿。 「何の話をしてるんだ、まったく…」 「あ、おかえりドイツー」 「おかえりなさい。遅かったですね。」 「ああ。資料をまとめていたんだ。」 これでいいはずだ、と渡された資料は、ぱらぱらとめくるだけでわかるほど見やすくて。 「…すごいですね。」 「わー、細かいねー」 後ろから、ひょこ、とイタリアくんがのぞき込んでくる。 「まあ、俺の方でもまとめておくべきだと思ってな。」 「…私、これをまとめるのに明日一日かかる予定だったんですけど」 暇になっちゃいましたね、と呟いて、資料を鞄にしまう。 「だったら、イギリスのところにでも行ってきたらどうだ?」 さらっと言われて、せっかく収まっていた顔の熱が、また一気に上がった。思わずソファから立ち上がる。 「な、あ…っ、ど、ドイツさんまでなにを言うんですか!」 「な、何だ、どうした」 「ヴェ〜、また日本赤くなった〜」 あ、イギリスんち行くんだったら俺なんかおみやげ作ってあげる〜、と、イタリアくんは、走り出して。 「…あー、何かよけいなことを言ったか?」 「…いいえ。」 やれやれと、ため息をついて、座り込む。会いたくなかったわけじゃないし、二人ともよかれと思ってしていることだとわかっている。 「ところでドイツさん。」 「何だ?」 「イタリアくんは、あなたのことを世界で一番好きだと誇れるらしいですが、あなたは?」 しれっと聞くと、かっとドイツさんの顔が赤くなった。 「に、日本!?な、何を」 うろたえるドイツさんに笑ってみせる。…これくらいの意趣返し、許されるでしょう? 「…日本には敵わないな…」 「年の功、ですよ」 顔を覆ってため息をついたドイツさんにそう返せば、彼は小さく苦笑して。 「…愛しているさ、世界で一番、な」 そう告げたドイツさんの優しい顔と、その後ろで真っ赤になった顔で目をまん丸にしたイタリアくんの顔に、一瞬先の未来が見えて、くす、と笑った。 戻る 3000hit記念リクエストより 「仲良し枢軸のほのぼのした話」でした。 …ほのぼの、を、一生懸命目指した感じ、です。これをほのぼのと呼ぶのかどうかはわかりませんが。どっちかっていうと甘甘…?あれ? ええと、こんなかんじですが、少しでも気に入っていただけるとうれしいです。 リクエストありがとうございました! . 加が先天性女体です。苦手な方はご注意ください。 また、リクのMarry me?続きとなっておりますので、よろしければそちらもどうぞ。 どんとこい!という方はどうぞ いいなあ。心から呟いた。 恥ずかしそうに笑う友人の左手の薬指に、光る銀色。先週もらったところだ、という、エンゲージリング。 来た途端に、結婚するのだ、と打ち明けられたときは驚いたけれど、ずっと、思い焦がれていた彼女の想いを知っていたから、心の底からおめでとう、と伝えた。 「カナダだって、もらえる相手いるじゃない。」 あんなど変態でいいなら、だけど。笑いながら言われて、少しだけ落ち込んでしまう。 「…どうかした?」 「…きっと、フランスさんは、私にはくれないと思う。」 あげるなら、そう。もっと綺麗で大人な女性。彼につりあう人。 「え、でも。」 「…たくさんいる恋人のうちの一人、私みたいなのと、結婚、なんて、そんな。」 うつむいて、呟く。私なんか、と。結婚してくれるわけが、ないのだ。告白を、受け入れてくれただけで十分。そう思わなきゃ。わかっているのに、どうしてこう、欲っていうのはきりがないんだろう。もし、もしも、あの人の隣でウェディングドレスを着れたら、ああ! 「か、カナダ。新作パイがあるんだけど、食べていかない?」 声をかけられて、顔を上げる。何故だか、少し引きつった笑顔。うなずくと、ちょっと待ってて、用意してくるから、と早足に部屋を出て行って。 数秒後、入れてもらったコーヒーを飲んで待っていると、遠くからあんた何やってんのよ馬鹿ー!!と怒鳴り声が聞こえた。びっくりして見ていると、しばらくしてから、笑顔を浮かべたロマーノが戻ってきて。 「はい!」 勢いよく置かれたお盆に、上にのっていた皿ががちゃりと揺れた。 「あの、どうかした?」 「何が?」 さっき声が、と言うと、ああ、ちょっと電話をね。と答え。はあ。と言いながら、パイを口に運ぶ。 「…おいしい。」 思わず、頬がほころんでしまう。 「当然!」 勝ち誇ったような笑顔が、実に彼女らしくて、くすくす笑った。 他愛も無いことを話していると、来客を告げるベルが鳴った。 ちょっと待ってて、と言われて、気にしないで、と、部屋を出ていくロマーノを見送る。 さっきの電話といい、来客といい、忙しかったのかな、今日。 話があるから、いつでもいいから来て、と言われて今日を選んだけれど、迷惑だったんだろうか。だったら申し訳ないことをしたなあと思いながら、彼女を待つ。 だだ、と足音がした。帰ってきたかな、と入り口の方を振り返る。 けれど、そこに現れたのは予想もしない人で。 「カナダ!」 すらっと高い身長、きらきら輝く金髪、鮮やかな青い瞳。 「ふ、フランスさん!?」 なんで、と目をぱちぱちしている間に、すたすたと歩いてきたフランスさんは、なぜか息が上がっていた。 「あの、どうし、」 そこまで言ったところで、横抱きに抱き上げられた。 ひゃ、と声を上げると、ロマーノ、この子もらってくから。と頭の上で声。 「悲しませたら承知しないんだからね。」 いつのまにか入り口にもたれかかるように立っていたロマーノが、にらみつけている。しないよ。そんなこと。そう、彼は笑って。 「ふ、フランスさん?ロマーノ?」 おろおろして名前を呼ぶのに、二人とも答えてくれなくて、フランスさんはそのまま歩いてどこかに向かいだした。 「え、あの、お、降ろして…。」 「ダメだ。」 強く言われた。そんなこと初めてで、どうしていいのかわからなくて、ただされるがままになるしかなかった。 やっと降ろしてもらえたのは、フランスさんの家についてから。 一人掛けのソファに座らされて、目の前に膝をついた彼に、手をとられて、身動きが取れなくなる。 「あ、あの。」 「カナダ。」 強く名前を呼ばれた。はい、と返事をすると、真剣な瞳で見上げられて。 「たくさんの恋人の中の一人って、どういう意味。」 「な、それは…!」 それは、今日、ロマーノに言った言葉だ。 「どういう意味。」 真剣に、ちょっと怒ってるみたいに、言われても。 「…そのままの、意味です。」 「俺に、カナダの他にたくさん恋人がいるって?」 小さくうなずく。だって本当だ。この間だって、綺麗な女の人と歩いてて。 言ったら、はああと深く息を吐かれた。…何なんだろう。 「…日頃の行いが悪いからか…いや、悪いけどこんなのないだろ…。」 何か、すごくつらそうな表情。私が悪い、のかな? ごめんなさい、と謝ると、どうして謝るんだ、と見上げられた。 「だ、だって、フランスさんを悲しませたみたいだし、それに、…いつも、迷惑かけてばっかりだし…。」 そうだ。考えてみれば、フランスさんの役に立てたことなんか一度もない。いつもいつも、迷惑ばっかり。苦笑して彼は許してくれるけれど。 悲しくなってきて、じわ、と涙がにじみだした。必死で堪えるけど、ぱた、と一筋頬を流れてしまう。 こんな私が、彼のそばにいちゃいけない。やっと気がついた。遅い。遅すぎた。もっと早く気づいていなければいけなかったのに。 そう思ったら、いたたまれなくなってきて、帰ろう、と立ち上がろうとするのに、彼にぐい、と押し戻されて。 「カナダ。」 呼ばれた。それから、優しい、キス。 けれど、それがつらくてたまらなくて、嫌、と首を横に振る。 「カナダ、見て。」 そう言われて、目をあけた。けれど、涙で何も見えない。 「ほら。」 フランスさんが、涙を拭ってくれた。それで、見えてきたのは、彼が手に持った、銀色の、…え? 「スペインの真似みたいでちょっと悔しいんだけどな。」 「ふ、フランスさん…?」 だって、それは、ロマーノがつけていたものだ。それよりも、細かい模様が刻まれているけれど、でも。 指輪、に見えた。シルバーリング。泣きすぎで目がおかしくなっていなければ、それは。 「カナダ、これ、もらってくれるか?」 俺の世界でただ一人の恋人。そう、言われた。確かに言われた! ふえ、と変な声が出て、またぼろぼろと涙が流れ出す。 「他にあげる人なんて、いない。カナダだけだ。」 だから、信じて。キスが額にひとつ。こないだ歩いてたのは、仕事の関係者だよ。そんな真実を告げられる。 止まらない涙を拭って、カナは昔から泣き虫なんだから。とそう笑われた。それにつられて笑って、泣き笑いみたいになってしまう。 「なあ、カナダ。俺と、世界で一番幸せになってくれないか?」 顔をのぞきこむようにそう言われて、その言葉だけでもう、絶対私は今世界一幸せ! 何度もうなずくと、唇をふさがれた。 ふさがれる瞬間に小さな声で囁かれた、震えたありがとう、は。私だけの秘密。 戻る 6000ヒットキリリクから、 稜伊碧奈様からのリクエストで、「仏加♀でMarry me?続き」でした。 女の子加は絶対自分に自信がないタイプだよな!と思ってたらこうなりました。 きっと兄ちゃんの日頃の行いが悪いせいだと思います! こんなですが、少しでも気に入っていただけたらうれしいです。 リクエストありがとうございました! |