イタリア、あなたはどんな大人になるんでしょうね。 そう、オーストリアさんは笑った。少し寂しそうに。 「…何を、描いてるんだ?」 「あ、神聖ローマ。」 声に振り返ると、神聖ローマがいて、ボクの手元を覗き込んでいた。 「これは…?」 見たことないやつだな、イタリアの知り合いか? そう言われて、キャンバスを見る。 そこに描いたのは、昔絵で見たことがある、若い頃のおじいちゃんの姿。 「ローマおじいちゃんだよ。」 「へえ…。」 昔こんなだったんだって、と言うと、そうなのか、と神聖ローマはまじまじと見つめて。 「けど、急にどうしたんだ?」 どうして、こんな絵を?と尋ねられて、そうだ、神聖ローマにも聞いてみようと、思いついた。 「あのさ、神聖ローマ。ボクって、大きくなったら、どんな人になると思う?」 「…イタリア、が?」 オーストリアさんが言った言葉が、気になったんだ。 ボクは、どんな大人になるんだろう? オーストリアさんみたいな?でも、やっぱり、おじいちゃんの孫なんだから、おじいちゃんみたいな? でも、描いてみても、全然ボクっぽくはならない。これは、やっぱりローマおじいちゃんで。 「…そう、だな…。」 美しい、だろうな。そう、神聖ローマは言って、何故か真っ赤になった。 「美しい、って、どんなかんじ?」 「う…そ、そう、だな…。」 考えこんで、神聖ローマはこう言った。 「あまり、今と変わらなくて、けど、腕や足は細くて、胸は……いや、その、そう!それで、いつも笑っているんだ。」 「笑ってるの?」 「ああ!」 真っ赤な顔のままうなずく神聖ローマに、んー、とそんな大人のボクを想像してみるけれど、出てこなくて、首をかしげる。 わ、わかりずらいか、じゃあ、とまた考えてくれてる神聖ローマを見て、神聖ローマはどんな大人になるんだろう、と考えた。 髪の毛はこのままで、青い目がとっても綺麗で、そう、凛とした顔をしてて、すごくかっこよくて、おじいちゃんの若いころほどじゃないけど、筋肉があって、きっとすっごく強くて。 あふれ出すイメージに、ぱっと新しいキャンバスに向かう。 さっきまでの疑問は吹き飛んで、今は、とにかく、神聖ローマを描きたかった。 「…金髪…?イタリア、これは?」 不思議そうな神聖ローマの声がするけど、答えている余裕なんてなくて、とにかくと、かき上げる。 「できた!」 やっと納得いくものが描けて、ほう、と息を吐くと、イタリア、これは?と待っててくれたらしい神聖ローマが尋ねてくる。 「これは神聖ローマが、大人になったときの絵。」 「これが、俺?」 神聖ローマは、驚いたように瞬いてから、小さくちょっと弱そうだ、と呟いた。 「そんなことない、きっとすっごく強いよ。」 世界で一番強いんだよ!とにこにこ笑う。 「それでね、ボクと一緒に、たくさん遊んでくれるんだよ。」 「…おまえも、一緒にいるのか。」 びっくりしたようにボクを見るから、そうだよ?ときょとん、と返すと、そうなのか…と、また絵に見入っていた。 「…もしかして、ボクが一緒にいるの、イヤ?」 おそるおそる聞いてみると、そんなことない!と強く言ってくれた。 よかった、とため息をついていると、じっと絵を見ていた神聖ローマが、頼みがある、と言うから、なあに、と尋ねた。 「…隣に、大人のおまえを描いてくれないか?」 「ボクを?」 「二人が一緒のところを見てみたい。」 そう言われても、大人のボクが描けないんだけど…。 ちょっと困って、さっき描いた神聖ローマの絵を見る。 『それで、いつも笑っているんだ。』 さっきの、神聖ローマの言葉が、頭をよぎって、あ!と思いついた。 「いいよ。描いてみる!」 もう一度、キャンバスに向かう。 髪の長さとかはあんまり変わらなくて、顔は、ローマおじいちゃんの若い頃よりずっと、優しいかんじ。筋肉とかは全然ないけれど、ずっと、にこにこ笑っている。 それは、毎日が楽しいからだ。神聖ローマがいて、ハンガリーさんがいて、オーストリアさんがいて。 楽しくて楽しくて仕方が無くて、いつも笑っている。そんな、幸せな絵! 描きあがった、大人の神聖ローマと手を繋いだ、大人のボクの絵をあげたら、すごくいい、と神聖ローマは喜んでくれたけれど、ただ、どうして男物の服を着てるんだ?と不思議がっていた。当たり前なのに。変な神聖ローマ。 戻る アンケートリクより、神羅ちび伊でした。 実は、独=神羅設定の、あの日の欠片、が先に浮かんで、それの過去設定だったりします。単体でも読めますが、そっちも読んでいただけると二度おいしいかも? ちなみに裏設定では、神羅が出て行くほんの少し前の話、です。神羅は、伊と一緒にはいれないことを知っているんですね!だから、大人になっても一緒にいる、といわれてびっくりしてるんですね!説明しないとわからないという! こんなんですが、少しでも気に入っていただけたらうれしいです。 リクエストありがとうございました! . 倉庫の整理、というやつは、なんだか昔のことを思い出してしまって、進まないものだ。 はあ、とため息をついて、多くの記憶にあいつがいることに気づいて苦笑した。 ドイツーと元気にやってきてはやっかいごとを巻き起こすあいつとも、もう長い付き合いになる。 「…しかし、ここから先には、いないはず、か。」 倉庫の奥へ進んで、小さく呟く。 ここから先は、まだイタリアと出会う前のものが置いてある。 イタリアと出会う前に、自分が何をしていたか。あまりその記憶がないのは、イタリアのいるやかましくてうるさい日常に押しやられているから、ともう一つ理由がある。 ドイツには、幼少時代の記憶がないのだ。 それを、悲しいだとかつらいだとか、考えたことはないけれど。 少しだけ立ち止まって、それでも、奥へと歩きだした。 昔の本や、報告書なんかをいるものといらないものに分けながら倉庫を棚を見回していると、ふと、一番下の段になにかがしまってあるのを見つけた。 「これは…キャンバス?」 何故こんなところに、と思いながら取り出して、包装されている布をとる。 現れたのは、絵だった。 描かれているのは、金髪の、青い瞳の青年。その隣に、手をつないで並んで立っているのは、茶色い髪の、笑顔の、青年。…これは、イタリア? ならば。隣に立っているのは、俺、か? 描いたのは、俺ではない。こんな絵をもらった記憶は、ない。なんなんだ、と隅々まで調べると、サイン代わりに、年月日が書いてあった。それと、『大切な人へ』というメッセージ。 コレを描いた日か、もしくは、あげた(もらった?)日なのだろう、と見て、余計にわからなくなった。 そこに書いてあった年は、俺がイタリアと出会う遥か遥か昔のものだった。 「…どういうことだ?」 もう一度、よく絵を見てみる。 今の俺とイタリアを思い出してみると、この絵は、何箇所かおかしいところがある。 まず、身長。茶髪の青年が、金髪の青年と同じくらいに描かれているが、イタリアの方が俺より8cm身長は低い。 それに、金髪の青年は、俺を書いたにしては、体格が華奢だ。オーストリアと同じくらいだろうか。明らかに、俺とは違う。 それに、二人の着ている服も違う。これは、確かオーストリアのところの、昔の衣装じゃないだろうか。 「…これ、は…。」 わけがわからない絵だった。 けれど、何故だか、捨てるような気にはなれなかった。 幸せそうな、茶髪の青年の表情。 並ぶ金髪の青年も、一見仏頂面に見えるのだが、どうしてか、微笑んでいるのがわかって。 ながめていると、何だか幸せなような、懐かしいような、切ないような感情が、胸に流れ込んでくる。 『これは……が、大人になったときの絵。』 記憶の断片が、誰かのセリフを囁く。 俺が、ちょっと弱そうだ、と言ったら、そんなことないよ、きっとすっごく強いよ、と笑って。 『それでね、ボクと一緒に、たくさん遊んでくれるんだよ。』 そんなことを言うから、じゃあ、大人のお前を描いてくれ、と頼んだのだ。 『ボクを?』 二人が一緒のところを見てみたい、と、そう言ったらいいよ、と笑って。 …あれは、誰だ? ずきん、と痛みだした頭に、手をやって。 「ドイツーっ!」 いきなり勢いよく飛びつかれて、バランスをとりきれなくて、後ろの棚にこれでもかというくらい後頭部を強打した。 「……っ!イタリアーっ!!」 「ヴェっ!ご、ごめんなさいドイツーっ!」 がんがんと痛む頭に、思わず怒鳴ると、いつもの泣き声が響いた。 倉庫を出て、リビングに行って、ごめんねドイツ、痛いよね、とおろおろするイタリアに言って持ってきてもらった氷を入れた袋で患部を冷やす。 じんじんと痛むが、まあ支障はなさそうで。 「…状況を判断してから行動しろよ。」 言っても無駄そうな忠告をして、ごめんなさい、と落ち込むイタリアに、もう怒ってないから、と空いている手で頭をなでる。 「…ドイツ、それ何?」 イタリアの視線が、自分の隣に移るので、見ると、さっきの絵があった。 このどたばたで倉庫から持ち出してしまって、今、イタリアをなでるために、ソファに立てかけて置いたのだ。 「…倉庫で、見つけた。」 見せて、というイタリアに、ああ、と渡す。 両手で受け取って、その絵を見た途端。 ぱたり、と、イタリアの目から涙が零れ落ちた。 「イタリア!?」 「…これ、そうこ、に、あったの?」 涙もぬぐわず、ただ絵を見つめながら、イタリアがそう言うので、あ、ああ、と答える。 「誰が描いたかわからないんだが…、お、おい、イタリア?」 イタリアは、絵を離して、ぎゅうう、と強い力で抱きついてきた。 抱きつく、というよりは、しがみつく、の方が正しいような、力の入れ方。 顔を押し付けられた部分が、濡れていくのがわかる。…まだ、泣いている。 イタリア?と呼んでも、ひっく、と肩を震わせながら泣くばかりなので、困り果てて、頭をなでた。 優しくなでていると、ず、と鼻をすすりながら、ドイツ、と呼ばれた。 「何だ?」 「ずっと、一緒にいてね。」 顔をうずめたまま、言うのでこもった声。まるで懇願のような言葉。 それに、ずっと、とはいつまでだとか、そんな理論的な答えを求めることなどできなくて。 「……ああ。」 ずっと一緒にいる。そう囁いて、イタリアを強く抱きしめた。 戻る アンケートリクより、「神羅=独な独伊」でした。 実は、神羅伊の、「未来予想図」の続きだったりします。 独が覚えてない記憶を、伊は全部持っていて、言えないんだけど、こうやって時折思い出して泣くんでしょう。 そして、それも全部全部ひっくるめてドイツ大好きって言うんでしょう。わーい、けなげな子大好き! 伊は深く考えないかわりに、感じて行動していると思います。 そんなこんなですが、少しでも気に入っていただけるとうれしいです。 リクエストありがとうございました! |