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「あ、あの、イギリスさん、」
ぐい、と腕を引かれ、呼ぶ。
それでも、前を行く金色の髪は、振り返らないし、止まらない。
「イギリス、さん」
困惑しながら、その美しい金糸を見つめていた。

欧米の方々は、ジョークでもなかなかとんでもないことを言う。
けれど私は、かっと頭に血が上ってしまうようなことを言われても、今後の関係とか。そういうことを思うと、何も言い返せなくて。
さっきもそうだった。口ごもって、何を言っていいやらわからなくて、外見上では取り繕いながらも、内心は醜い感情が暴れたくっていて。
そのとき、ぱ、と視界を覆った、金。
『おまえら、やめろよ!日本はそういうの慣れてないんだからな。』
イギリスさんだった。

強い言葉に、周りにいた人たちはすぐに謝ってくれて、いえ、と返していたら、腕をつかまれて、行くぞ、と一言。
そして今に至る。

腕を引かれて、歩く。歩調は、彼にしては遅く、私にしてはちょうどいいくらい。
紳士の国である彼らしい、気遣い。でもちょっと、掴まれた手首が痛い。
もう一度だけ呼ぶと、彼はやっと立ち止まった。

ほっとため息をついていると、がちゃ、とドアを開けて中に入っていって。
「イギリスさん!いったいどうしたんですか?」
手を捕まれたままなので自然彼と一緒に部屋に入って、振り返った彼を見上げる。
エメラルドの瞳に、まっすぐに射られて、思わずたじろいだ。
「…イギリス、さん?」
「…日本。」
呼ばれて、はい、と返事をすると、俺は、日本の恋人だよな?と真剣な声。
質問の意図がわからなくて、私はそのつもりですけど、と首を傾げながら返すと、だったら。と言われた。
引き寄せられる体。近い距離。

「もっと、頼れよ」
「…え。」
「日本は、何でも一人でしようってしすぎだ。」

一人は、そりゃ慣れたら楽だけど、何でも一人で、なんてできるわけないんだ。俺にできること、なんて、少ないかもしれないけど、それでも。さっきみたいに守ったり、そばにいることくらいはできるから。だから。

「…頼れよ。1人じゃないんだ。…恋人、なんだから。」

真剣に、まっすぐに伝えられる言葉に、きゅう、と胸が締め付けられた。苦しくて息を吐く。

そうか。と思った。だって、ずっと一人で。引きこもっていた時期が長かったし、欧米の方達とは、もういろんなことが違いすぎたから。だから、私ががんばらなくては、と思っていた。ずっと、ずっと。

でも。
ひとりじゃ、ないんだ。今は。
こんなに真剣に、私のことを思ってくれる人がいる。

つ、と頬に濡れた感触。慌てて手をやると、涙があふれてきていた。
「あ、あれ、どうしたんでしょう」
何でも、ないんですけど。そう、笑ってみせると、強く抱きしめられた。笑うな。泣いていいんだ、俺の前なら。小さな声。小さいけれど、強い、声。

ああ、この人は。本当に。

そっと背中に腕を回す。ありがとう、ございます。かすれた声で囁いて、胸に顔を埋めてきゅう、と抱きついた。強く抱き返される。

私の恋人がこの人でよかった、と心から思った。


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29292キリ番リク、樫屋様からのリクエストで、「いつもより男前の英に勝てない日」でした。
…男前ですか?(聞くな)
なんかこう、自分も気づいてなかった悩みに気づいてくれる人って、かっこいいと思うんですよ。そんな感じで。

遅くなりましたが、少しでも気に入っていただけるとうれしいです
リクエストありがとうございました!
































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※親分が後天性女体化なお話ですのでご注意を







いつか、こいつは。俺を置いてどこか手の届かない遠くに行ってしまうんだろう。
じゃあ、と戦場に旅立つあいつを見送る度に、幼い心にずっと思っていた。寂しくて、辛くて。だけど、背中にしがみつくことすらできなくて。
それを思い出した。

ある日突然、何や知らんけど女の子になってもうたーとか言って長髪の美女が現れたときは何の冗談かと思ったけれど、本当にスペイン、のようで。
それに、その事実に俺が慣れる前に馬鹿弟やらフランスの野郎やら、他にも、山のような男ども(と書いてバカどもと読む)が、からかったり本気か冗談かわからない愛の告白したり。

妬く、より前に、ぞっとした。
…へらへらとまんざらでもなさそうにもてもてや〜なんて笑ってるあいつが、怖かった。
知っているから。俺なんかよりいい男はたくさんいる。ちゃんと好きだと言ってくれる、素直でいいやつなんか。それこそヴェネチアーノだってそうだ。
俺は、女性だけど、やっぱりスペインだからか、ダメだった。いつもの態度しかとれなくて。
怖かった。ごめんロマーノ。他に好きなやつできてん、なんて言われたら。俺はどうすればいい?

「じゃ、会議の準備せな。」
そう言って立ち上がったスペインが、背を向けるのを見て、思わず、しがみつくように抱きしめていた。
「わ!?」
俺より少し、小さな体を抱きしめる。
「ろ、ロマーノ?」
「…行くな。」
小さく呟く。怖い。こいつがいなくなったら、俺はどうなってしまうか自分でもわからない。


「ロマーノ?」
「行くなよ、スペイン…!」
俺を置いていくな。そう、思わず言っていた。
「…、いや、ロマ」
「なあ、俺、自信あるから。世界で一番、おまえのこと、す、好きな、自信。だから、置いていくなよ。俺のこと。なあ」
「ロマーノ」
「うるせー!なんだよさっきから!」
こっちは真剣なんだぞ、とついに我慢できなくて怒鳴ったら、置いて行くもなにもロマーノも一緒に会議やんか。と呆れたような声。思わず力が抜けた。このKY!そういう話じゃねぇよ馬鹿!
「…もういい。」
手を離してため息をつくと、でもな、と手を取られた。つながれる手。
「何だよ?」
「こうやってつないでたらええやん。俺が、ロマーノのこと見失わへんように。」
そうしたら、置いていったりせえへんやろ?そう笑う。
「…人前でできるか、馬鹿。」
絶対からかわれる。そんなのごめんだ。手をほどいて離れる。
「ええー。人前とかそんなんえーやん別に〜。こいつは俺のみたいに主張したって罰あたらへんで?むしろ大歓迎や!」
ぶーぶー言ってたが、ほら会議だろうが準備、と言えば、着替えに行って。

『こいつは俺のみたいに主張したって罰あたらへんで?むしろ大歓迎や!』
あたらないらしい。大歓迎、らしい。
…一回頑張ったら、害虫も減る、か。
そっと、ある決意をした。


世界会議の部屋まで歩く。
よく見る顔や久しぶりの顔を見ながら、隣でにこにこと手を振るスペインを見る。
「あ、フランスや。」
おーい、なんて面倒くさい害虫No.1に気軽に手を振って近づいていこうとするから。
ぐい、と肩を抱いて、自分の近くに引き寄せた。
「!…ロマーノ?」
「…おまえは俺のだろ」
ぼそ、と呟いたら、スペインは楽しそうに笑って。
「ロマーノ焼き餅?かわええ〜!」
「っうるせーよ、ちくしょー…」
呟いて、真っ赤な顔もわかっていて、それでも。
引き寄せた体を、離すことだけはしなかった。

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56765hitリクエストで、「西後天性女体化の西ロマ」でした。こ、こんな感じでいかがでしょうか…?ロマは女の子相手ならがんばると思います。そして女体化西がなんか伊みたいです。あれ…?

こんなですが、少しでも気に入っていただけたらうれしいです。
ありがとうございました!
























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「好きにしてていいよ」
「そう言われてもな…」
「じゃあ、本とか読んでて?」
…それなら。
この間買ったばかりの本を広げる。…落ち着かない。
そもそもこんなことになったのは、やはりイタリアのせいだ。

「ドイツの絵かきたい。」
突然言われて、は?と答えた。
二人とも休みの日。普通に過ごしている中で、唐突なことを言うのはまあいつものことだが、今日は特に唐突だった。
「かきたい、って…」
「かきたい。ダメ、かきたい!ドイツ!俺んち行こう!」
そんな急に言われても…
「なんか用事?」
「……ないな。」

じゃあ行こうすぐ行こうと、準備させられてやってきたイタリア宅。…アトリエに入るのは、初めてだ。
座らされて、イタリアがキャンバスの前に座って、今に至る。
ぱら、と本をめくる。内容が全然頭に入ってこない。
ためいきをついて、ちら、とイタリアの方を見た。
見たことがないほど真剣な表情でキャンバスに向かうイタリア。…その表情をほかのところでも見せて欲しいものだ。ため息ひとつ。それから、また本に目を落とした。動いたらダメだろうから、おとなしくしている方がいいだろう。あきらめれば、文章がやっと頭に入ってきて。


没頭して読んでいたらしい。読み終わってため息。腕時計を見る。一時間、強、か。
ちら、と視線をやる。まだ真剣に描き続けるイタリア。…もう少しつきあうしかなさそうだ。今日は帰れないかもしれない。
問題ないよな、と今後の予定を思い出しながら、イタリアの顔を眺める。こんな表情、滅多にみれるものじゃ、ない。


ふ、と、目があった。


「…っ!!」
一気に体温が上がった。
目を離せなく、なる。ああ、こいつは、わかってるのか!?いや、わかってない。無意識だ。わかる。わかっている。だが、ほらまた!
この上なくまっすぐで、熱い視線が、身を焦がす。まるで、俺の全てを見通すように、求めるように、熱くて、強い、視線が!

のどを鳴らす。体の奥から焼き尽くしていくような炎。今すぐこの腕の中に抱きしめて、口付けて、それから。考える、だけに必死で留める。イタリアがまだ描いているから。まだ、動いてはいけないから。それだけで、途切れそうな理性を保つ。

どれだけの時間が経ったかわからない。イタリアが、終わった〜と声を上げた。
「とりあえずできたよ〜もうちょっと修正するけど、それはまた後で!ドイツごめん、こんな遅くまで…」
イタリアの言葉を聞きながら、立ち上がる。つかつか、と歩み寄って。
「ヴェ…か、顔怖いよ?あの、ごめんなさい、謝るから…んっ」
力一杯抱きしめて、唇を奪う。理性をかろうじて繋いでいたものはもうなくなって、耐えられるわけがなかった。
柔らかい口の中に舌を這わせて、舌を絡める。
「ん…ふ、う…」
力の抜けていくイタリアの体を支え、より深く、求める。
閉じた瞼の奥が見たくて、唐突に唇を離した。

「ど、いつ…?」
見上げてくる琥珀。潤んだその色に、煽られて。抱き上げる。さすがに、ここで、というわけにはいかない。
「寝室に行くぞ」
「い、いいけど、どうしたの…?」
困惑した声に、あんな目をしたおまえが悪い、と囁いて、歩き出した。
「あ、あんな目、って、なに?」
「今度鏡でも描いてみろ。」
そう呟いて、さっきの視線を思い出して、足を早めた。


数日後。
突然ヴェネチアーノに呼ばれたロマーノは、なんだよ、と弟を見た。
「ごめんね。…でも、あれ見せれるの兄ちゃんくらいしか思いつかなくて…お、怒らないでね?」
「だから何なんだって聞いてるんだよ!」
「怒らないでねって言ったのにー!」
泣きそうになっている弟に頬が引くついて。
「あーもううるせー!用があるなら早くしろ!」

連れてこられたのは、アトリエだった。こいつのアトリエに入るのはいつぶりだろう?
「で?」
けれどまあそんなこと考えていても先に進まないので、話を進めようと弟に見て欲しい絵は?と尋ねる。
「あ、それ、なんだけど。」
指さす方向を見て、すぐに目をそらした。とりあえず、弟の頭にチョップを落とす。
「いたっ」
「じゃがいもの絵なんか描いてるんじゃねーよ馬鹿!」
「ヴェ〜…」
怒らないでねって言ったのにー、なんて呟く弟に、ため息をついて、もう一度視線を絵に向けて、またすぐに視線を逸らす。ずっとなんて見ていられない。だって、なんかもう恥ずかしい。

ヴェネチアーノの絵は、描いているときの感情が表れる。楽しんで描いた絵は見ていて楽しくなるし、辛いと思いながら描いた絵はこっちまで辛くなってくる。
これは。この絵は。なんていうか。
弟風に言うなら『ドイツ好き好き大好き〜』っていう、絵だ。直球過ぎる感情が、わかりやすすぎるモデル(あのじゃがいも)への愛情が、見てるこっちにまで伝染してくる。好きで好きで、キスしてハグしてそれ以上も、って。そういう絵だ。恥ずかしい奴。なんて絵を描くんだ。これなら目の前でいちゃつかれた方がまだましだ。当たり散らせるから。

「…これ、ドイツに見せないほうがいいかな…?」
ほんとはあげるつもりだったんだけど…と呟く弟に、やめとけ、と忠告する。
「おまえ、ベッドから出してもらえなくなるぞ。」
「……えへへ」
なんかいきなり笑い出すから、なんだ気持ち悪い、と言ったら。
「それはそれで、いいかなあって…」
幸せそうな笑顔を浮かべやがった弟の頭に、もう一発チョップをお見舞いした。




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60000hitキリリクで「真剣な伊の独伊」でした〜
真剣な伊が絵描いてるときくらいしか浮かばなかったという。

こんなですが、気に入っていただけたらうれしいです。
ありがとうございました!