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最初は、ぐち大会だった。
スペインのぐち言ったり、ほかのやつのぐち聞いたり。
たぶん、それがおかしくなったのは、日本がお酒出してきたから。

「…そもそも、イギリスさんよりかっこいい人なんかいないと思うんですけど。」
いきなり日本がそんなことを言い出した。
瞬いて、酔ってるのか?とひそひそと弟に尋ねる。
「そう…みたい。」
珍しい。むしろ初めて見る。日本はいつも冷静で、止める方だから。
「そこ!何か異議でも?」
びしっと指さされて、びくっとしてしまう。
「え、あ、な、何が?」
弟がへら、と笑うと、日本は据わった目で、言った。
「イギリスさんが世界で一番かっこいいということについてです」
「え、えー!違うよ一番かっこいいのはドイツだもん!」
いきなり隣で立ち上がるから、うるせーと思いながら自分のコップを持って退避。

「ドイツはね、仕事してるときもかっこいいけど、俺に愛してるって言ってくれてるときがほんとにかっこいいんだから!」
「イギリスさんだって、真剣な表情をされるとぞくぞくするほどかっこいいんです!」

言い合いをするヴェネチアーノと日本、という世にも珍しいものを見ながら、コップを口に運ぶ。珍しいが結構どうでもいい。だって、俺にとっての世界一はスペインだ。これは誰がなんと言おうと揺るがない。…まあ、言えやしないんだけど。
「ドイツかっこいいだけじゃなくて世界で一番優しいよ!」
そう馬鹿弟が言ったら、優しいのはフランスさんです!と声が上がった。カナダだ。さっきまで静かだったのに、と思いながら、立ち上がった三人を眺める。

「優しいのはフランスさんです!頼めばどんな料理でも作ってくれるし、いつでも僕のこと優先してくれるし!」
それに僕、世界で一番愛されてる自信ありますよ!なんて続けられて。
ちょっと待て、と思わず腰を浮かせた。
「世界一愛されてるのは俺だぞ!」
これだけは譲れない。スペインに世界一愛される自信がある!
「スペインは、俺がどんなわがまま言ったって許してくれるし、もういいって言っても何度でも愛してるって言ってくれるしそれに」
あれ、何言ってるんだろう俺、とちょっと思ったが、止まらなかった。酒のせいだ仕方がない。そう思うことにしておく。
「それに、一回シだしたら、俺の愛はこんなもんやないとか言って朝まで離してくれないんだからな!」
いやでもイギリスさんが、だからドイツだってば、フランスさんなんです、スペインだって言ってるだろ。
ぎゃいぎゃいと論争は、長時間続いて。



「うわあ…何これ」
死屍累々とはこのことだろうか。ぐったりと倒れ込んだ四人。辺りに漂う酒の匂い。そして山のような空の酒瓶。
ひどい状況を乗り越えて、突っ伏したロマーノの元に向かう。
「ロマーノ?」
しゃがみこんで呼びかけると、顔が上がった。
「スペイン〜」
満面の笑みにぴし、と固まると、がばっと抱きつかれた。

「スペインだ〜」
かわいらしくすり寄ってくるロマーノ…え、ちょっと待ってこれロマーノやんな?イタちゃんちゃうやんな?

初めて見る、デレモード全開のロマーノにおろおろしていると、スペイン、と呼ばれた。
まっすぐに見上げてきて、それから。
「…だいすき」
心底うれしそうに笑って言われて、もう耐えられるわけもなく、ろぉまぁのぉと叫んで力一杯抱きしめた。



「うわぁ…」
ひどいな、と酒のにおいが色濃く残る部屋を横断する。
ロマーノを抱きしめてるスペインの隣を通って、眠っているカナダを抱き上げようと肩と腰に手を回す。
途端、ぴくり、とまぶたが動いた。
「あ。悪い、起こした?」
ゆっくりと目を開くカナダに、そう声をかけると、潤んだ瞳がこっちを見る。
突然、頭の後ろに手が回った。
「か、な…」
名前を紡ぐ唇を、ぺろ、と舐められて。
「!」
「ん、ふ…」
唇を重ねられ、くちゅ、と絡まる舌。
驚いている間に、腕が背中に回される。ただ回されるだけでなくて、服の間から、入り込んで、まさぐるように。
ぞくん、としながら、けれど負けるわけにはいかないから、ぐ、と腰を引き寄せて、主導権を奪う。
長いキスから彼を解放したら、とろんとした瞳で見上げられた。その瞳のなんて艶めかしいこと!
思わず、ごくり、とのどを鳴らした。
「フランス、さん」
「…何?カナダ」
ぎゅ、と抱きつかれた。耳に触れる吐息。
ほしい。シて?
吐息混じりのそんな言葉に耐えられるはずもなく、喜んで、と囁いて、抱き上げた。



「…なんだこれは」
思わず呟いた。
眉を寄せ、部屋から出ていくフランス(に抱き上げられたカナダもいた)と入れ違いに中に入る。…ひどい酒の匂いだ。ざ、と部屋の中を見渡す。
部屋の隅に、見慣れた後ろ姿。
「…イタリア?」
どうした。そう呼びかけ、足を進める。
肩に手をかけると、くる、と振り返った。

「どいつ…」
呟いたイタリアの目にぶわあと涙が浮いて。
「ドイツ〜っ!」
「な、何だどうした!」
ヴェー!と抱きつかれて、体を支える。耳元で大声で泣くイタリア。…こんな状態、最近ではめったにない。
「どうしたんだ。」
いじめられた、とかではないはずだ。メンバー的に。イタリア兄にいろいろ言われても、最近は泣かなくなっていたし。
肩に埋められる頭をぽんぽんと撫でて、あやす。

「…ドイツは世界一なんだもん」
「は?」
俺の恋人は世界一なんだもん、なのにみんなわかってくれないんだもん〜
ヴェーと泣きながら、顔をすり寄せてくるイタリアが愛しくて、そっと抱き寄せ、わかったからもう泣くな、と頭にキスを落とした。



「…日本、素面だろ。」
行儀よく寝転んだ日本に、声をかけると、バレました?と悪戯っぽく笑って体を起こした。

「どうしてわかったんですか?」
「わかるさ。…第一、日本滅多なことではつぶれないだろ。」
わかった理由は、なんとなく、なんだけど。日本のことならだいたいわかる自信はある。
「まあ、そうですねぇ。」
「だろう。…なんか三人くらいつぶれてたけど。」
どれだけ飲ませたんだ?と辺りに散らばる日本酒の瓶を見渡す。

「ちょっと強めのお酒をたくさん。…楽しかったですよ。」
みなさんの本音が聞けて。
そうくすくす笑う彼に、本音が聞きたかったのか?と首を傾げる。
「いいえ。…自慢したかったんですよ。たまには。」
「何を?」
そう尋ねると、彼はくすくす笑った。
それから、耳貸してください、と言うから、耳を寄せると。

「あなたが好きだということを。」
甘く、囁かれた。

「!!?」
思わず真っ赤になって飛び退くと、日本は声を上げて笑った。



「ってことがあったみたいですよ」
「まったく…あのお馬鹿さんたちは…」
ため息をついたオーストリアさんにくすくす笑う。

「でも、ちょっと参加したかったかも。」
私だって、オーストリアさんの自慢したいことたくさんありますもん。
そう笑ったら、オーストリアさんは少し赤くなった頬で咳払い一回。
「…行かせなかったと思いますけどね。」
「え?」
どうしてですか?と首を傾げると、こほん、とまた咳払い。

「いくらあの子たちとはいえ、男性がたくさんいる酒の席にあなたを行かせるのは、…許せませんから。」

視線を逸らして、それでも結構きっぱりと言われて、かあ、と顔が熱くなってしまった。オーストリアさんの顔が見れなくなって、うつむく。

「あ、…ありがとうございます…」
「いいえ。」

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企画リクエストで、「受け四人の恋人の惚気」でした
惚気と言うより、自慢大会な感じになってしまいましたが、どうでしょうか…?
楽しんでる日を書いてるのが楽しかったです
その後は趣味です。すみません。

遅くなりましたが、いかがでしょうか?
少しでも気に入っていただけるとうれしいです。
ありがとうございました!



















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※学生パロですので、苦手な方はご注意ください。







「もう十二月だねえ」
はやいなあ一年って。
何気ない弟の言葉に思いのほか落ち込んだ自分がいて、少し驚いた。

スペイン、という恋人がいる。男だ。このへんは不本意だが仕方がない。あいつが男なのが悪い。
幼なじみで、…小さい頃から、ずっと、好きだったのだけれど、俺の素直じゃない性格と、あいつの、わざとか、わざとなのかと疑いたくなるほどの空気の読めなさのせいで、告白して、恋人同士になったのは、あいつが高3、俺が高2の夏…たった四ヶ月前だ。
それで、まあ。四ヶ月なんか、あっという間に過ぎていって、今俺の心にずっしりのしかかっているのは。

卒業、だった。あいつの。
あと3ヶ月、いや、試験勉強のため3年は三学期なんかもうほとんど来ないだろうから、もう本当に時間がない。
きっかけは、スペインと、仲のいい二人がしゃべっているのを聞いたから。
『大学行ったらきれいなお姉さん捕まえないとな』なんて笑うフランスの馬鹿に、スペインのやつ、あろうことか『そやなぁ』なんて答えてやがった!
ふざけんなよおまえ、俺というものがいながら。そう怒鳴ろうと思っていた。

…できなかった。できるはずがなかった。だって、俺は男、で。告白したのも俺からで、あいつだって、『ええで、付き合おか』て言っただけで。だから。
幼なじみだから、昔からよく知ってるから、今だけのつもりで付き合おうと思ったのかな。卒業したら、もう俺のことなんか忘れて、年上の美人と付き合ったり、するのかな。そんなことを考え出したら止まらなくて。

今では、スペインに会うのも怖くて、部活だ何だと嘘ついて、会うのを先延ばしにしていた。
馬鹿弟は、クリスマスはドイツと(日本と)過ごすんだーなんてにこにこしている。
兄ちゃんはスペイン兄ちゃんと過ごすんだよね?なんて無邪気に言われても。会ってすらいないのだから約束なんてあるはずもなく。
最近は、あいつも忙しいらしい。メールも途切れがちで。
…もう、ダメなのかな。
そう、思って、一人ベッドで泣いて眠ることも多かった。
そんなある日、廊下を歩いていたら、突然肩をつかまれた。
誰だちくしょー。フランスとかイギリスだったら即逃げる、じゃがいもだったら怒鳴る、とある程度相手で反応を決めて振り返って。

凍り付いた。
「ロマーノ、ちょっとまじめな話あるんやけど。」
スペイン、だった。

逃げた。引き止める手を払いのけて、とにかく走った。足の速さには自信がある。ロマーノ!と呼ぶ声を振り切って、ぱっと目に付いた教室に飛び込んで、ぴしゃん!とドアを閉じる。
「ヴェ?兄ちゃん?」
「どうか、しました?」
ああ、こここいつらの部室か。弟と日本の姿を見ながらそう思って。

『ロマーノ、ちょっとまじめな話あるんやけど。』
スペインの、真剣な表情を、思い出した。
真面目な話?真面目な話ってなんだ?まさか。

別れよう、とか。

「おーい、兄ちゃ…えっ、わ、わ!兄ちゃん何で泣いてるの!?」
「ロマーノくん!?」
慌てて駆け寄ってくる二人を払いのけて、その場に泣き崩れた。

だって、本当はずっと好きだったんだ。素っ気ない振りとか、したけど。素直に甘えられたことなんか一度もないけど。本当に好きなんだ。そんなの微塵にも見せないようにしてたけど、スペインが付き合おうって言ってくれて、うれしくてうれしくて仕方がなかったんだ。だって。本当に。本当は。


一度も言ったことなかったけど、心の底から、スペインのこと愛してるんだ。


心配してくれてる二人に、泣きじゃくりながら話をして、やっとのことで泣きやんでも、ひどい顔で、授業なんか出る気も失せたから、早退することにした。
送っていく、とヴェネチアーノは言ってくれたけど、別にいいから、と授業に行かせた。一人に、なりたかった。

家に帰って布団に潜り込むと、まだ涙が出た。ぼろぼろ止まらないそれが枕に染み込んでいく。このまま、俺っていう存在も溶けて染み込んでしまえばいいのに。…スペインに別れる、なんて言われるより、そっちの方がずっとましだった。
ぐず、と鼻をすすったら、ピンポン、と玄関のチャイムが鳴った。…ヴェネチアーノか?あいつ、授業行けって言ったのに。
泣きすぎでふらふらする体をなんとか起こして、玄関に向かう。ひどい顔なのは知っていたが、まあ、学校ですでに見せたし。
せめて、と頬を流れる涙をどうにかして、鼻をかんで、玄関のドアをがちゃ、と開ける。

「おまえ授業、い、け…」
そこにいたのは、ヴェネチアーノじゃなかった。
目をまん丸にした、スペインの姿。
ざあ、と全身の血の気が引いた。

「ロマーノ、」
「な、何のようだ、ちくしょーが!」
怒鳴って、や、あの、と口ごもるから、用がないなら帰れ!と怒鳴ってドアを引いた。顔を見ていたら、泣いてすがってしまいそうだった。

途端、ぐい、と強い力でドアを引かれて、つんのめったところを、ぐ、と後ろに押されて。
ばたん、とドアが閉まる音がした。

けれどそれどころじゃなかった。
抱きしめられていた。強い力で。

「ロマーノ」
ぎゅうう、と力の限り抱きしめられて、混乱してしまう。何が起こっている?わからない。何で抱きしめられてる?
「…す、スペイン…?」
呼んだら、ぐ、と体を離された。
見上げると、真剣なスペインの顔。
もう一度呼ぼうとした名前は、噛みつくようにされたキスに、飲み込まれて。
ぐちゅり、と深くまで絡められる舌。逃げようとしても、後頭部に回った手に引き戻されて、口の中を隅から隅まで這わされて、それにぞくぞくしてしまって、体から力が抜けていく。すがりつくように、胸を掴んだら、腰を引き寄せられる。

離される顔。スペイン、そう呼ぼうとした途端、体が浮いた。抱き上げられて、邪魔するで、と中に入っていく。
「す、スペイン、」
お、降ろせ、とじたばたしたら、暴れたら危ないやろ。なんて引き戻されて。
おろおろしていたら、ぎし、と座った。ここ俺のベッドだ。
そう思っていたら、体を起こされて、またぎゅう、と抱きしめられる。
もう一度だけ名前を呼んだら、腕の力が強くなった。

「…イタちゃんに聞いた。」
何を、なんて聞く必要なかった。
大泣きしたあれを、だ。か、と顔が熱くなって。

「やから。ロマーノのこと愛しに来た。」

「…はあ?」
何だよそれ、と呟くと、やって、俺が別れるって言い出すって思うほど、俺からの愛が足りひんかったんやろ?そんなことを言われた。
わけがわからない。困惑して、力の緩くなった腕の中で、体を離して、見上げる。
優しい瞳。頬を撫でられる。
「ごめんな、ロマーノ。俺、ほんまはロマーノに告白されたときほんまにうれしかってん。やけど、俺年上やし、ちょっと大人っぽいとこ見せなあかんかなあって思ってん。やからちょっとそっけない態度とか、とってみたけど、やっぱあかんな。慣れない事するもんやないな。これからは我慢せえへんから。好きやで、ロマーノ。愛してる。世界で一番。」

ちゅ、ちゅ、と何度もキスをされる。それが、うれしかった。
うれしくてうれしくて、仕方がなかった!
「…っスペイン…!」
ぎゅうう、と抱きしめる。別れなくていいんだ。愛してるって言ってくれた、好きだって、世界で一番!

すきだ、俺も。あいしてる。そう、小さな、かすれた声で言ったら、ん。ありがと。とちゃんと聞き取ってくれた。肩に擦り寄って、背中にしがみつく。
「なあ、もう俺から離れていかんといて。ロマーノと会えへん間俺もう寂しくてつらくて仕方がなかってんから。そうや、一緒に住もう。俺一人暮らしはじめるんや。やから、そこで一緒に暮らそう。」
ロマーノ。どう?そう囁かれて、何も言えなくなったから、返事代わりにキスをした。


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25000ヒットリク、ハルヤ様からのリクエストで「西ロマで学生パロ」でした
ぐるぐると思い悩むロマは、私の中ではこんな感じです。周りから見るとどう見ても相思相愛なのに本人不安だらけっていう。

遅くなりましたが、少しでも気に入っていただけるとうれしいです
リクエストありがとうございました!