「ドイツなんて嫌い、大っきらい!」 もう別れる! と、びーびー泣きながら言う弟に、少々うんざりした。 「言ったのか。」 「い、言っちゃった…どうしよう、兄ちゃん…!」 またびーびー泣き出す。謝りに行けばいいだろうが、ちくしょー。そう言えば、だ、だって、怖い、としゃくりあげながら言われた。 「謝っても、許してくれなかったら…?怖い、やだ、ドイツに会えない…!」 「でも会いたい、んだろうが」 「…会いたいよう…」 ぐずぐず泣く弟が面倒くさくて仕方がなかったが、まあ気持ちはわかる。痛いほどに。 けれどやっぱり面倒くさいのは面倒くさかった。 ヴェネチアーノが考えているほどに、ことは深刻なんかではまったくない。知っている。 ここ数日、家の前まで来ては、ノックも呼び鈴も鳴らさず帰って行く大きな金髪の誰かさんの姿があるのを。 玄関先まで来るならさっさと謝ってけよあの根性なし… むかむかしながら、泣き疲れて眠り始めた弟を眺める。 まったく、このバカップル… 「何で俺が協力なんかしてやらないといけないんだ…」 面倒くさい。この上なく。 だけれど、泣きはらした表情のこいつを、これ以上見ていることなんかできなかった。わかるのだ、気持ちは。俺だって、言ってしまったことはよくある。それで、もうだめだって思って、それでも。今もあいつと恋人、という立場でいられるのは、謝っておいでよ、と何度も言ってくれたこのバカ弟のおかげでもあるのだ。 まったく、とため息。仕方がないと苦笑して、電話を手にとった。 ああわかった。もういい。 別れてやる! 「言ったんですか…」 無言でうなずくドイツに、馬鹿ですねぇ…と呆れた。 「その上、毎日のようにイタリアの家の玄関先まで行って何もせずに帰ってくるなんて…大馬鹿、ですね。」 「ぐ、う…」 何も言い返さない。当たり前だ。本当にそうだからだ。 言ったことも馬鹿だし、謝れないことも馬鹿だ。 まったく、この子たちは…。頭を押さえてため息。 一度別れて、それでもまた出会い、こうして側にいられるほどに強い絆を持っているはずなのに、こうやってくだらないことでケンカする。別れる?そんなこと微塵にも思っていないくせに。ため息。 「早く謝ってしまいなさい。」 「…けど…もしも、別れるって言われたら…?」 別れる?まさか。イタリアがそんなことを本気で思っているはずがないのに!そんなこと、誰が見ても明らかなのに! 恋は盲目とは、よく言ったものだ。 わかりやすすぎる相手の気持ちさえ、見えなくなっている。深くため息。 それから、謝りなさい、ともう一度諭してから、電話をしに立った。 ああは言ったが、不器用な彼が、何もなしで謝れるわけがないと知っていたからだ。 まったく世話の焼ける。そう苦笑して、一番頼れそうな人物へ、電話をかけた。 日本に、ちょっと用事があるんです、と呼び出された。珍しい。 「どうしたの?」 「少々見せたいものがありまして。」 いつもの笑顔を浮かべる彼に、ふうん、と呟いて、後ろを歩く。 この部屋で待っていてください。そう示され、うん、とうなずいて、中に入る。 と、すぐ後ろで障子がぴしゃんと閉められた。 驚いて振り向くと、部屋の中から、日本か?と聞き覚えのある声がして。 まさか、と思いながら首を巡らすと、驚いた表情のドイツと目があった。 日本に呼ばれてやってきた、日本の家。すみません、と謝る彼に、いや、と答える。 「この部屋で少し待ってもらってもいいですか?」 急にできてしまった仕事を片づけてきます、という日本に、焦らなくていいからな、と答え、腰を下ろした。 ぱたぱたと日本が駆けていく気配。焦らなくていいと言ったのに。 窓を開け、外を眺める。日本の家は、いつきても落ち着く。 不意に、ぴしゃん、と音がした。 「日本か?」 振り返り、部屋の中へと戻る。 そこには、見覚えのありすぎる、茶色い髪。 振り返る、その人物は間違いようもなく、イタリアだった。 謝らなければ。そう思った。口を開く。けれど、なんと謝ればいいのかわからなくて、声が、出なくて。 視線をうろつかせていると、彼はうつむいて。 やはり、許してはくれないか。そう思いながら、それでも、そうだ、すまない、と。それだけでも伝えようと。 いったん目を閉じ、深呼吸。 その瞬間、体に衝撃。 「うおっ!?」 「ドイツ…っ!」 目を開けると、間近に茶色い髪。イタリアだ。イタリアが抱きついてきている。 「イタ、リア?」 「ご、ごめんなさ、ごめんなさい…!」 謝るから。だから。お願い。別れないで…! しゃくりあげながらの言葉に、安堵と愛しさで胸が満ちて、強く強く抱きしめた。 「…俺の方こそ、悪かった…許してくれるか?」 こくこくうなずいて、離さないとばかりにしがみついてくる彼が、愛しくて仕方がない! イタリア、そう名前を呼んだ。 名前を呼ばれて、顔を上げる。 優しく細められた、蒼い瞳。綺麗な金色の髪。ああ、好きって気持ちがあふれてくる!こんなに好きなのに、好きで好きでたまらないのに、どうして別れるなんて言っちゃったんだろう。大嫌いなんて言っちゃったんだろう! 「ドイツ、好き、大好き」 「ああ、俺もだ。…愛しているよ、イタリア。世界中の誰よりも。」 それを聞いて、また涙がこぼれてきた。好きだ。大好きだ。ドイツも愛してるって言ってくれた。別れなくていいんだ。これからもずっと、ドイツと一緒にいられるんだ! 胸にしがみついたら、また名前を呼ばれた。顔を上げると、ドイツの顔が近づいてきていて。 目を閉じて、唇を重ねた。何度も。その首にすがりつくように手を回して。 つい耐えきれなくて舌を伸ばしたら、後頭部を抱え込まれて、深い深いキスを交わした。 「愛してる、イタリア…」 唇を触れさせたままそう囁かれて、俺も、と小さく呟いた。 「仲直り、できたみたいですね」 「ですね。」 「はー、ったくあのバカップル…」 障子の外にいた日本、オーストリア、ロマーノは同時にため息をついた。 「すみません、日本。巻き込んでしまって…」 「いえいえ。気にしないでください。」 にこ、と笑った日本。と、その瞬間、三人の耳に甘い声。 『愛してる、イタリア…』 『俺も…ん、ふ…』 「…逃げましょうか」 「だな。」 こそこそと部屋の前を離れる。 「まったく…これで、もう大丈夫だよな。俺帰るから。」 じゃあな、とそそくさと帰って行くロマーノを見送って、二人は顔を見合わせる。 「『家に』帰るんですかね?」 「『誰かさんの家に』帰るんじゃないですか?」 くすくす笑いあって、けれど、オーストリアは家で待つ人のことを思っていたし、日本は電話してみようと思っていた。 つまりはまあ、ラブラブな二人に当てられたのだ。 戻る 14000hitリク小羽様より「独伊で大喧嘩のお話」でした。 なんか、大喧嘩があってその後、みたいになってしまいましたが…ど、どうでしょうか? ちなみにケンカの原因は非常にくだらないことだといいなと思います。理由も覚えてないような。 こんな感じで、しかもだいぶ遅れてしまいましたが、少しでも気に入っていただけたらうれしいです。 ありがとうございました! . 昨日は仕事で遅くなって、泊まっていきなさい、というオーストリアの言葉に甘えることになった。(まあ渋ったのは俺だけだったが。イタリアはわーいお泊まりーと最初から泊まる気だったし、ハンガリーは、女性を遅い時間に帰すわけにはいかなかったし。) そして、一夜明けて朝食の席。 「ハンガリー。」 「はい、どうぞ。」 目の前で受け渡しされるミルク。 オーストリアは、何も言っていないのに、どうして名前を呼ばれただけで? 「ありがとうございます。」 オーストリアも平然とそれを受け取って。 「ヴェ?何で欲しいものわかったのー?」 ハンガリーさんすごい、と隣でイタリアが声を上げる。確かに気になる。今、何が欲しいとか、オーストリアはまったく言わなかったのに。 「え。何で、って…」 ぱちぱちと瞬いて、ハンガリーは困ったように笑った。 「慣れ…かな?」 「すごーい!」 ぱっと立ち上がったイタリアに、こら、イタリア、という俺の声と食事中くらい大人しくなさい、とオーストリアのたしなめる声が同時にかかる。 「はぁい…」 しゅん、とイタリアは座り込んで。…しまった、言い過ぎたか。 「ほら、イタちゃん。」 イタちゃんの好きなジャム。と差し出されてぱああ、て表情を輝かせるイタリア。…ハンガリーのこういう気遣いは、さすがだと思う。 「ありがとーハンガリーさん!」 にこにこうれしそうなイタリアに、よかったな、と声をかけた。 「あら。オーストリアさん」 食事の途中で声を上げたハンガリーに、視線をあげる。 「はい?」 何ですか、と顔を上げるオーストリアに、口の端に、とハンガリーは手を伸ばして、口についていたパンくずをとり、平然と自分の口に運んだ。 「ああ…すみません。」 「いいえ。」 二人の、見たことないくらい優しい笑顔。恋人だけに見せる表情なのだろう。 柔らかく笑いあう、甘い雰囲気。 まるで二人だけがそこにいるような、そんな雰囲気に、つい居心地が悪くなって、咳払い一回。 はっとした二人は、少し顔を赤くして。 「いいなあ…オーストリアさんとハンガリーさんラブラブ…」 隣からきらきらした声がした。 「イタリア、」 小さくたしなめるが、すでに遅くて。 「な、何を言い出すんですか!」 「ら、ラブラブなんて、そんな…」 余計に顔を赤くした二人に、いいなあ、二人みたいになりたいな、とイタリアが追い打ちをかけるから、口をふさいでおいた。 戻る 15800キリリクるな様のリクエストで、 「無意識のうちにいちゃいちゃしてる墺洪」でした。遅くなってすみません しまった、いちゃいちゃというよりほのぼのしている気がする…! こ、こんな感じでいかがでしょうか? 少しでも気に入っていただけたらうれしいです。 ありがとうございました! |