まずい、と思ったのは、イタリアがそれを飲み干した後だった。 軽い夕食をとった後、持ち寄ったワインやビールを開けて飲み会を始めるのは、特に珍しいことではなかった。 日本酒や日本のビール、うまいおつまみを持参してやってくる日本を交えて三人で。 珍しいワインやいいビールが手に入ったときは、オーストリアが参加することもある。 けれど、だいたいはイタリアと二人、だ。 今日は、いい地酒が手に入ったので、ビールと一緒にそれを出すと、イタリアが興味を示して、飲みたい、と言い出したからグラスに注いでやった。気に入ったのか、あっと言う間に飲んでしまって。 おいしいね、とうれしそうに言われて、嫌な気がするはずもなく、これに合うつまみを作ってやろう、と席を立ったのは、数分前のこと。 忠告するのを忘れていたことに気づいて慌てて戻ったときには、すっかり出来上がったイタリアがいた。 この酒、口当たりはいいのだが、意外と強いのだ。 あまり酒に強くないイタリアが、何杯も飲むような酒ではない。 「…イタリア」 顔を赤くしたイタリアから、とりあえず飲むのをやめさせようとグラスをとる。 「う?あ〜、ドイツだ〜。」 おかえり〜ハグして〜?となにが楽しいやらにへら、と笑ったイタリアが抱きついてくるので、グラスを机に戻してため息をついて抱き寄せる。 酔っぱらい特有のぐにゃん、と曲がる体を支え、そのままソファに座る。 「ねーどいつ」 怪しい呂律で名前を呼ばれ、なんだ、と返事を返す 「どうして俺のこと抱いてくれないの?」 「なっ…!?」 思わず息を飲んだ。な、なんだ、抱く!?何をだ何を、と混乱していると、ねぇ、何で?と潤んだ目が見上げてきた。 う、と一瞬固まって、思わず手を離して後退りすると、彼はじわぁ、と泣き出して。 「ほら、また!ドイツ最近ハグしてくれないし、キスもしてくれないじゃんか!」 「うわ!」 上にのしかかられて、ソファに倒れ込む。 「ちょ、待っ、イタリア、」 不安定な体勢をどうにかしようと背もたれに手をかけるが、間近の涙に濡れた瞳に、動けなくなった。 「ねえ何で?なんでしてくれないの?好き、も言ってくれないし、俺のこと嫌いになった?」 「っ…そんなわけ、」 「じゃあ何で?」 慌てて否定すると、間髪入れずに尋ねられ、深くため息をついた。 「…おまえを、傷つけたくないからだ。」 恋人になってほしいと告白したのは自分から。それから、まあ当たり前だが、ハグやらキスやら一緒にいる時間やらが増えて。 イタリアの気持ちを無視してすることなどできない、と押しとどめていた理性も、その理由がなくなってはどうしようもなかった。 何度、押し倒しそうになったことだろう。 それは、もう自分にはどうにもできない感情で、それが暴れ出してイタリアを傷つけるのが何より怖くて。 ハグしてキスして〜と抱きついてくるイタリアを、避けてしまうようになっていた。 「…ねー、どいつ。」 する、と熱い指先が、首から胸を辿る。 思わず息を飲むと、イタリアはじっとこっちを見つめていた。 「俺、ドイツになら何されても大丈夫だよ?」 「…い、たり、」 その立ち上るような色香と、言葉の内容に頭がくらくらする。 「それに、俺弱いけど、男だから。ね、ドイツ、簡単に傷ついたりしないよ。」 それから、と、笑う。悪戯っ子のような笑みなのに、上気した頬がひどく扇情的で、胸が高鳴った。 「あんまり待たせると、襲っちゃうよ〜?」 俺だって男の子だもん。そう言って、首元に顔を埋めてきて、 しばらく経ったあと、すう、と穏やかな寝息が聞こえてきた。 無意識につめていた息を、はああああ、と長く吐き出す。思わず顔を手で覆った。 助かったと喜ぶべきか、悲しむべきか。 けれど、思わぬ収穫も、あった。 「…そんな風に、思っていたのか。」 抱きついてくるのを避けても、なんでもない、そう、少し寂しげに笑うだけで、あとはふつうに振る舞っていたイタリアだから。 『俺のこと、嫌いになった?』 不安げな表情で、そう言われるまで気づかなかった。 俺もまだまだだな、と思いながらため息をついて、イタリアを落としたりしないよう支えながら、起きあがる。 華奢な体を抱き上げて、向かう先は、寝室。彼が風邪を引かないように。後かたづけは…明日、起きてからだ。 ふぁ、とあくびを一つして、とりあえず、明日は。と考える。アルコールが回ってきたのか、急に眠くなってきた。イタリアを抱え直して、開けっ放しの寝室(ちなみに犯人はイタリアだ。)に入る。 明日は、片付けと、ああ、そうだ。イタリアと話そう。今日のことを、覚えていても、いなくても。どちらでもいい。覚えていなかったら、もう一度話せばいいだけだ。自分の気持ちを。 そっとイタリアをベッドに寝かせ、隣に寝ころんで暖かいイタリアの体を抱き寄せる。 …とりあえず。明日起きたら、一番に、イタリアに、愛していると伝えよう… 騒がしくなること必須の明日を前に、ドイツの家の夜は静かにふけていった。 戻る どちらかが酔っぱらう話、というリクだったので、イタにしてみました。 何だか、つまりはラブラブなんだろちくしょー!と叫びたくなるようなならないようなのができあがった気がしますが…とりあえず。こんな感じでいかがでしょうか? リクエストありがとうございました! . 「じゃあ、直接聞いてみればいいんじゃない?」 ハンガリーさんの言葉に、そっか、と思った。 「神聖ローマ!」 廊下で見つけた彼に、ぱたぱたと駆け寄る。 「な…何か用か?」 振り返った神聖ローマに、手に持ったノートをぎゅ、と握りしめて、えへへ、と笑った。 「え…俺のこと、知りたい?」 庭に二人で座って、うん!と答える。 一番年の近い神聖ローマともっと仲良くなりたいな、と思って、ハンガリーさんに神聖ローマってどんな人って聞いたら、本人に聞いたら?と言われたのだ。 「それでね、ハンガリーさんと、質問も考えてきたんだよ!」 忘れないようにメモをしたノートを広げる。 「答えてくれる?」 「あ、ああ…あ!」 突然、大きな声を出すからびっくりしてな、なに?と聞くと、神聖ローマは赤くなった。 「こ、答えるから、イタリアのことも教えてくれないか?」 「ボクのこと?」 きょとん、と尋ねると、お、俺も、イタリアと仲良くなりたい、から…と、小さな声で言ってくれたので、うれしくなっていいよ!とうなずいた。 「んと、一個目、好きな食べ物はなんですか?」 メモを読み上げると、んん、と真剣に考えてから、 「…甘いもの。」 と、答えをくれた。 「おやつ?おいしいよね!特にオーストリアさんの作ったの!いくらでも食べれるよ!でも、あんまり食べると怒られちゃうんだよね…」 その味を思い出したら、その後で怒られたことまで思い出してしまって、しゅん、とする。 「ああ。俺も怒られた。」 「神聖ローマも?」 こくん、とうなずく彼に、そうなんだ、とちょっとびっくりした。 神聖ローマは、ボクより大人だから、怒られたりしないんだと思ってたのに。 なんだか、親近感がわいて、えへへ、と微笑む。 「…今度、一緒に食べよう。」 「うん!ボクね、一昨日のおやつに出たクッキーが一番好きなんだ〜。」 あれおいしかったなあ、と思い出していると、神聖ローマが、小さな声で、ほ、ほんとうか?と呟いた。 ほんとうだよ?と首を傾げると、うつむいてしまった神聖ローマが、あ、あれ!と何だか怒っているような口調で言った。 「あれ!俺が…作った!」 「え、ほ、ほんと!?神聖ローマすごいねぇ!」 すっごくおいしかったよ、ありがと、と笑ったら、いきなり立ち上がった神聖ローマが、だだだ、とどこかに走っていってしまった。 「し…神聖ローマ…?」 怒らせた、のかな。ひとりになってしまって、しゅん、と落ち込んだ。 「あら、イタちゃん。どうだった?」 とぼとぼ廊下を歩いていると、声をかけられ、見上げると、そこにはハンガリーさんがいた。 「…怒らせちゃったみたい、です。」 しょぼん、と答えると、そうなの…と呟いてから、手を握ってくれた。 「じゃあ、次会ったとき謝りましょう?」 ね、と優しい笑顔に、はい、とうなずいて、絵描いて遊ぼうか、と手を引いてくれるハンガリーさんと、ハンガリーさんの部屋に行った。 絵を描いて遊んでいると、こんこん、とノックの音。 はい、とドアを開けるハンガリーさんの後ろ姿を見る。 相手は、ハンガリーさんに隠れて見えない。 すると、あ、ちょっと!といきなりハンガリーさんが大きな声をあげた。 びっくりしていると、困った表情のハンガリーさんが振り向いて、その手には、袋が抱えられていて。 「怒らせたわけじゃなかったみたいよ?イタちゃん。」 「へ?」 「神聖ローマ!」 見つけた姿に声をかけると、足を止めてくれた。 がんばって追いついて、落としたりしないようしっかり抱えていた袋を、あの、これ、と差し出す。 「…いらないなら、捨ててくれていい」 「そうじゃないよ!」 慌てて言って、袋の中から、一つ取り出す。 甘くて香ばしいにおいのする、クッキー。 ちょっと不格好なそれは、一昨日のおやつと同じもの。神聖ローマの作った、クッキーで。 怒ったわけじゃなくて、神聖ローマは、これを作りにいってくれたんだ。 両手に抱えないといけないくらい、たくさん。 ボクが、好きだって言ったから。 それがわかったとき、うれしくてうれしくて仕方がなかった。 そして、神聖ローマに会いたくなった。 だから、中から一つだけハンガリーさんにあげて、クッキーを持ったまま神聖ローマを探していたのだ。 「一緒に食べよう?」 約束したでしょ?とはい、と渡すと、そうだったな、と、笑って受け取ってくれた。 二人で一緒に食べたクッキーの味は、忘れられないくらいおいしかった。 戻る キリ番1818のリクエストで「ほのぼの神羅伊」でした。 リクエストをもらって、神羅伊か!と本家にエネルギー補給に行って、あ、無理。このかわいさは、私には書けない。と思ったのですが、できるかぎりで書いてみました。ど、どうでしょうか…? 少しでも気に入っていただけたら光栄です。 リクエストありがとうございました! |