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がさり、と音を立てて、座り込む。
幼い頃から繰り返してきたこと。成長してないな、とため息を一つ。
「…わかってるつもりなのにな…」
こうやって逃げてきて畑に隠れるのも、逃げてきた理由さえも、まったく変わっていない。
…周りを囲む環境や、立場や、身長なんかはだいぶ変わったはずなのに。

「イタちゃんかわええなあ。」
そう、ヴェネチアーノの頭をなでるスペインを見ていられなくなって、どこ行くの兄ちゃん、というヴェネチアーノの呼びかけにも、おまえに関係ないだろちくしょー!と怒鳴って、こうやって畑に走ってきてしまった。
…本当に変わっていない。小さなころもずっとずっと同じことを繰り返していた。オーストリアの家からあいつが遊びに来るたびに、スペインの家の畑へ逃げ込んで。やっぱり、あいつもヴェネチアーノがいいんだ。俺はやっぱりいらないんだ。そう、泣いた。

それから、変わった。場所はスペインの家から、俺の家になったし、スペインとの関係も、親分と子分から、恋人、になった。
それでも、どうしても、見ていられなかった。あいつを信じていないわけじゃない。ヴェネチアーノだってあのむかつくジャガイモ野郎に夢中なのは知ってる。だけど。どうしても。
見ていると、つらくて仕方がなくなってしまう。幼い頃と同じ思いが、奥底に欠片だけ残っていた、くすぶる火のような感情が、胸を支配する。

やっぱり、あいつもヴェネチアーノがいいんだ。俺はやっぱりいらないんだ。

違う、はずだ。ロマーノはロマーノやで。俺の大好きな、大事な恋人。そう言ってもらったのを信じているはずなのに。どうしても、不安で仕方なくなってしまう。

ごめん、ロマーノ。やっぱり。
そんなことをいつか告げられるんじゃないか。そう、思ってしまう!

こんな自分が嫌だった。嫌いで嫌いで仕方なかった。ぎりぎりと、自分の体に爪を立てる。

突然その手を引き剥がされた。
「傷になるやろ、ロマーノ。」
穏やかな声がした。顔を上げると、困ったように笑ったスペインの姿。
「…なんだよ、おまえなんかヴェネチアーノと一緒にいたらいいだろ!」
ああ、違う。こんなことが言いたいんじゃないのに。
自分の発した言葉に泣きそうになる。
「…ごめん、ロマーノ。」
そう、言われて、凍りついた。
まさか。
さっき想像していた言葉が、頭を占める。
「ごめんな、ロマーノ。」
嫌だ、そんな。何か言いたいけど、声が出ない。続く言葉を、聞くことしか…!

「…俺、うれしいって、思ってまうわ。」

「…は?」
予想していたのと違う言葉を言われ、顔をあげると、スペインはどないしよ、と言いながら、笑っていて。
「だって、ロマーノ、ヤキモチ妬いてくれてるんやろ?…イタちゃんと、俺が一緒にいるのが、嫌で嫌で仕方ないんやろ?」
小さくうなずくと、彼は、あー、あかんわ、にやける、と手で口を覆った。
「な、なんなんだちくしょー…。」
わけがわからなくて見上げると、やって、とスペインが言った。

「それだけ、俺のこと好きで好きで仕方ないってことやろ?」

「………!!?」
あかんわー、うれしいわー、ごめんなロマーノ。ロマーノが苦しんでるのわかってんねんけど、あーもう!
ぎゅう、と抱きしめられた。大好き、愛してるでロマーノ。そう、囁かれて、あれだけささくれ立っていた心が、収まっていく。
そんな風に、喜ばれるなんて、思いもしなかった。
ほら、帰るで、何怒っとんの。そう、困らせるだけだと思っていたのに。
「ごめんな、ロマーノ。…これからは、恋人優先の時間やから。」
上機嫌なスペインにキスをされて、当たり前だこのやろーと小さく呟いた。

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3000hit記念リクエストより「伊にデレてる西を見て嫉妬して落ち込むロマ」でした
遅くなって申し訳ありません…いちゃいちゃさせたかったので、こんな感じになりました。
少しでも気に入っていただけたらうれしいです
リクエストありがとうございました!















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「うわあ、いい景色!」
そう、歓声が上がった。
そのまま駆け出そうとするイタリアの腰に腕を回して、引き止める
「ヴェ」
「走るな、転けるぞ」
声をかけると、はあい、といい返事。

ここは、日本おすすめの温泉旅館。
日本に行きませんか、と誘われたのだが、当の本人は本日不在。急に用事が入ったらしい。
繰り返し謝りながら、車に乗ってどこかへと走り去っていった。

まあ、急用は誰にだってあるもの。残念だ、とは思うが、仕方がない。
そして、日本が絶賛していたとおり、素晴らしいところだった。
イタリアが言ったとおり、景色も美しい。露天風呂になっているここは、少し高台にあるらしく、美しい山々と小さく町並みが見えた。夕暮れの、赤く染まったそれは実に綺麗だ。
イタリアはよほど気に入ったらしく、先に体洗え、と引き止め、髪を洗ってやる間も、景色の方を見ていて、いいぞ、と声をかけるとばしゃばしゃと温泉の中に入って、より向こうの方へ近づいていった。
苦笑しながら、に自分も体を洗い、泡を流してゆっくりと後を追う。
「すごーい、綺麗!」
日本の言ってたとおりだ、とうれしそうな笑顔になる彼を見て、そうだな、と返す。
「描きたいなぁ…」
真剣な表情になる。…相変わらず、得意分野だけには熱心なことだ。
「後で、同じような場所を旅館の中を探してみるか?」
さすがにここでは描けないだろう?と尋ねると、うん!と元気にうなずいた。
景色と、周りの様子を覚え、部屋で見た旅館の見取り図と照らし合わせてだいたいの位置を予測しながら、ヴェ〜気持ちいい〜と声を上げるイタリアに目を戻す。
「来て良かったね〜」
うれしそうな声に、ああ、と言って、残念だったな、日本は。とため息をついた。
「…まあ、仕事なら仕方がないが。」
「仕事じゃないよ。」
声に、そうなのか?と尋ねながら、見る。

「うん!」
あのねあのね、と話す顔はなんだかとても楽しそうで。
「イギリスと、デートなんだって!」
最近全然会えてなくてね、今日なら空いてるってイギリスから連絡あったんだって〜
へえ、とうなずくと、いきなりあ!と声を上げた。さっと血の気が引いていくのに、ど、どうした?と声をかける。
「…ドイツには秘密って約束だった…」
ど、どうしよう、とおろおろして見上げてくるイタリアに苦笑。
「言わなければバレないだろ」
「あ、そか、い、言わないでね、ドイツ!」
「はいはい。」
答えながら、きっとこうなることを日本は見越していたんだろうな、と思った。
イタリアに、秘密を守る、なんて器用なこと、できるとは思えない。
「…しかし、そんな理由なら、一緒に来ればよかったんじゃないか?イギリスも」
「ヴェ、ドイツ、嫌じゃないの?」
「別に。…向こうは嫌ってるみたいだが。」
喧嘩を仕掛けられればやりかえすが、別にイギリスが嫌いとか、そういうのはないのだ。
「そうなんだ。」
「ああ。」
うなずくと、俺は?と輝いた目。
一瞬詰まってから、好きだ、と告げる。うれしそうなイタリアに抱きつかれた。

「ほら、そろそろ上がるぞ」
「えーもうちょっと」
しがみついてくるイタリアに苦笑して、そろそろ夕飯の時間だぞ、と言ってやる。
「ごはん!」
即立ち上がった彼に引きずられて、立ち上がる。
「日本が絶品ですよって言ってたんだよね!」
すごい楽しみ!と嬉しそうな顔で先を行くイタリアに、慌てなくても食事は逃げないぞ、と笑った。


廊下で、困ったような顔をした日本と、か、勘違いするなよ!おまえらに会いに来たんじゃないからな!とそっぽを向いたイギリスの二人に会うのは、後数分後のこと。


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3000hitリクより、ゆあ様からのリクエストで「独伊で温泉旅行」でした
勝手に英日を加えてすみません…このあと一緒にご飯食べたり、近くのお祭りに行って受け同士攻め同士喋ったりするんでしょうね!

こんなですが、気に入っていただけたらうれしいです
リクエストありがとうございました!



















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ひ、としゃくりあげる声だけが、響く。
「イタリア…。」
目の前には、こんもりとできあがった布団の山。
帰ってきたらもう、この状態だった。事情を聞くと、なんとか返事だけは返ってきて。
どうやら、俺が仕事で女性と歩いていたのを目撃して、嫉妬したらしい。
『俺、ドイツが、その人と歩いてるのすごく嫌で。隣にいるのは、俺じゃなきゃいけないのにって。その人のことすごい嫌いになっちゃって、胸が痛くて、そんな俺が、ヤで、』
やだよう、ドイツ。そう泣くイタリアは、出て来い、と声を何度かけても、できないの、ドイツの顔見れない、と出てこなくて。
ため息をつきながら、ぎしり、とベッドを軋ませて腰掛ける。
「イタリア。」
呼んだだけなのに、やだ、と言われた。
だいぶパニックに陥っているらしい。こんな気持ち、初めて。胸が焼けるみたいで、重くて、どろどろしてて、やだ。そう、言っていた。

嫉妬。誰かを妬んだり、ということは、たしかにイタリアは少なそうだ。妬むよりは、羨む。いなあ、と言って、それだけですませるだろう。いつもなら。
だけれど、初めて。嫉妬をしたということは、それは。
嫉妬をする、ということは、それを欲している、ということだと思う。それを、譲るわけにはいかないのに、なのに、そこに誰かがいる。だから、嫉妬する。
この場合、誰か、はあの女性で、それ、は。
…俺、か。

うれしかった。イタリアは、あまり独占したり、ということがないから(というか、俺がイタリアを最優先にさせるからか。)、そういう感情は持っていないんだと思っていた。少なくとも、俺に対しては。

けれど、今、彼は確かに俺に、独占欲を感じている。
隣にいるのは、自分でないといけない、と、そう、感じてくれている。
だから、隣にいた女性に嫉妬して、妬んで、そんなどろどろした感情についていけなくて、わけがわからなくなって、泣いている。
いとおしい。そう思わないわけがなかった。
もう一度だけ、名前を呼んだ。抱き寄せて、強く抱きしめて、キスをしたい。心からそう思うのに、彼は出てこない。
ふ、と視線を落とすと、布団の端から、足先が覗いているのが見えた。
何の気なしに、足の爪にキスを落とした。
「ひゃっ!?」
慌ててひっこめられる足。
代わりに、ゆっくりと布団が下げられ、顔がのぞいた。
「イタリア。」
手を広げて、名前を呼ぶと、少し赤くなった目が、また泣きそうにゆがんで。
「…ドイツ…っ!」
体を起こして抱きついてくるイタリアをしっかりと抱きしめて、すがるように見上げられ、その唇にキスをした。


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3000ヒットリクより、ヨクト様からのリクエストで、「ヤキモチで泣く伊と足にキスする独」でした。
えと、私が書くとこんな感じになりましたが、どうでしょうか?ちょっと、リクエストから離れてしまった気がしてます…

こんなですが、少しでも気に入っていただければ幸いです。
リクエストありがとうございました!