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久しぶりに、風邪を引いた。
はぁあ、とため息をつく。
頭は痛いし体はだるいし息はしづらいしああ。いいことなんかなんにもない。

「ドイツ、大丈夫?」
額に冷たい感触。目を開けると、そこには、心配そうな表情のイタリア。
「…ああ。」
何とか返すと、水飲む?と聞かれた。イタリアの手が、棚に置かれた水差しにのびる。

目が覚めたときに、一番にこいつの顔が見えた時は、ああ、風邪引いてるのに。と、無事ではすまなそうだ、と覚悟をしたものだが、意外にもこいつは、てきぱきと世話を焼いてくれた。失敗してない、とは言わない(風邪引きにピッツァ持ってきたり)が、想定していたことよりは遙かにましで、というかむしろ、助かるくらいで。

夢か幻か、と最初は思ったが、二日目に突入した今では、現実だとわかっている。
額に乗せられたタオルも、イタリアが水に浸して、温くなったら換えてくれて。

「あと、リゾット作ってあるけど……ドイツ何笑ってるの?」
不審そうな声に、いや、と呟く。
「まさか、おまえに頼りがいを感じる日が来るとは思わなかった。」
素直に言うと、むう、とイタリアは膨れて。
「何それ〜、まるで俺がいっつも……頼りないけど。」
「自覚があって何よりだ。」
くす、と笑って、目を閉じて答える。すると、ひたり、と首筋に触れられた。

「ヴェ、だいぶ熱下がってきたんじゃない?」
「ああ、だいぶ体も楽になった。明日には、もう熱も引くだろう。」
「無理はだめだよ?あ、リゾット、食べる?」
「…そうだな、もらおうか。その前に、」

水を、と伸ばした手にコップは渡されず、代わりに。

「…イタリア……口移し、は、どうかと思うんだが…」
「え?だって病気のときはこうするのが普通なんでしょ?」
「…フランスか。」
「ううん、スペイン兄ちゃん」

……くそ、そっちか。
思わず、深くため息をつく。

「…もうするなよ。」
「でも、スペイン兄ちゃんが、俺が風邪引いたときはイタちゃんよろしくな〜って…」
「…その話、イタリア兄に話しておけ。」
「う、うん…?」
たぶん、それだけで予防策になるはずだ。

何でまわりのやつらはこんなんばっかなんだろうか、ともう一度ため息をつくと、それじゃ、リゾット温めてくるね、とイタリアが立ち上がった。
「あまり、量はいらないからな」
「了解でありま〜す」

ぱたん、と(イタリアにしては)静かに閉じられたドアを見、ほう、と息をついた。
…楽、だったな。
いつもより、ずっと楽だった。
そりゃあ、風邪を引いている状態は辛いが、いつもに比べたら、ずっとましだった。治りも早いし。昨日、日本が買ってきてくれた薬のおかげだろうか。それとも、仕事の件はなんとかしてきましたよ、と今朝オーストリアが報告をくれたから、落ち着いて治すことに専念できたからだろうか。
もしくは、二日間世話をしてくれたイタリアのおかげ、か?
苦笑して、ゆっくり目を閉じる。
その途端、たゆたう眠気に引き込まれて。

ああ、しまったな。
イタリアにちゃんと礼を言っていない…



ぱたん、とドアを閉めたイタリアは、はああ、と目の前に広がる惨状に思わずため息をついた。

机の上から床へ散らばる本、開けたままの棚、ばらまかれた大量のタオル。
元がきっちりと整えられた、ドイツの家のリビングだなんて、誰が信じるだろうか。

あまりのひどさに、日本は、ひく、と頬を引きつらせただけで何も言わなくなり、オーストリアさんは、ここまでいくと芸術ですね、と額を押さえていた。(そして二人とも片づけを手伝ってはくれなかった。)

ドイツの世話をしようとがんばって、そのがんばりが見事に空回りした結果だ。
まだドイツにはばれてないけど。明日、ドイツが起きてきたら、ぴし、と石化しそうだ。
…それで、イタリアアァ!!って怒鳴るんだろう。それから、
そこまで考えて、きょとん、とイタリアは顔を触った。
「何で俺わらってるんだろ…?」
首を傾げるが、答えてくれる人はだれもいなくて。
…まあ、いいか。そうだ。明日だ。明日になったら、ドイツに怒られて、それからため息ついたドイツと一緒に片づけして、それから、ご飯一緒に食べて、それから。
とにかく、ずっとドイツと一緒にいるんだ。だから。
「…早く、よくなってね、ドイツ。」

小さく呟いて、よし、リゾットだ!とキッチンに向かって足を踏み出して、落ちていたタオルを踏みつけて、ずべしゃあっと転んだ。



次の日。体調の戻ったドイツが、イタリアの予想通り朝から怒鳴って、お礼を言うタイミングを逃すのは、言うまでもない。


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1000hit記念リクエストより
琴平様からのリクエストで、
「風邪ひいた独を看病する伊、なほのぼの系なお話」
だったのですが…ほのぼのですか、これ?(聞くな)

とりあえず、がんばってるイタが書きたくなって、こんなのになりました…少しでも気に入っていただければ何よりです。
リクエストありがとうございました!




















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だって、俺なんか。役にも立たないし。
気に入らなかったら、捨てるだろ。そう思ってたのに。なんで。

スペインは変なヤツだ。

「ロマーノ、悪いことしたら、どうせなあかんの?」

まっすぐに向けられる瞳。
ただ、じっと待ち続ける、その態度。居心地の悪い、その視線。
けれど、逃げるにも、ドアはスペインのうしろにあって、できなくて。
どうしていいか、わからない。

いつも、諦められて、もういい。と言われるのを、待っていた(わけじゃ、ないけど。だって、みんな、すぐに、そう言う、から。)俺は、どうしていいかわからなくなって。

「ロマーノ。何か言わなあかんこと、あるやろ。」

怒っているような、強い言葉。なのに、それで強制するわけじゃなくて、スペインはただただ俺の言葉を待っていて。
向き合っている。しゃがみこんで、俺みたいな小さいのに、目線を合わせて。

…知っている。わかってる。言わないといけないこと。
だけど、そんなの言わなくたって、別に。気に入らないなら、他のやつみたいに、俺をどっかよそにやればいいんだ。だから、別に。なのに、どうして。

「知らんわけやないんやろ?」
そう、言われて、やっと決心がついた。赤ん坊じゃないんだから、それくらい知ってるぞ、このやろー。だから、スペインに知ってるって教えてやらないといけないんだ。心の中のだれかに、そう言って、頭の奥底にしまいこんだ、こないだ教わったことを思い出す。
そして、また、口を開きかけたスペインより先に、ろ、と声を出す。
「ん?」
「ろ…Lo siento…。」
うつむいて、たどたどしく、スペインの家の言葉でごめんなさい、と言った。言えてる、と思う。こないだ教わったばっかりだから。

そうしたら、ひょい、と抱き上げられた。
驚いて見上げると、さっきまでのちょっと怒ったみたいな、真剣な顔はどこへやら。にこ、とうれしそうに笑ったスペインがいる。
「そうやで。悪いことしたり、約束破ったりしたら、謝らなあかん。なんや、ちゃんとできるやんか。」
ええ子やね、と言われて、わ、悪いことしたのに、か?と聞き返す。

だって。食べたあかんで、という約束破って、あの赤い実を食べて、そこを通りかかったスペインが、大慌てで飛んで来て、大丈夫かおなか痛くないかとか聞かれて、その勢いに驚いてこくこくうなずいたら、今度はその眉がつりあがってこのアホ!と思いっきり怒鳴られて。怒られて。
スペインの家にきて、まだちょっとしか経ってないけど、こんな風に怒られたのは初めてで、ああ、これでここにもいられなくなるのかな、って思っていたのに。

「してもうたことは、しゃーない。時間はもどらへんし。やから、その後、ちゃんと悪いことしたって反省して、ごめんなさいって謝れることが大事なんやで。」
まあ、悪いことはせえへんのが一番ええんやけどな?
そう、いつもどおり笑うスペインが、なんだかわからないけれど。

ああ、こいつは、じいちゃんの遺産を持ったイタリア、ではなくて。
イタリア=ロマーノ、を、俺を、見てるんだな、って思って。
…ちょっとくらいなら、信用してもいいか、と思った。


「けどほんまに、体おかしくないんか?ロマーノ。トマトには毒が…。」
まだ心配そうにするスペインに、きっぱり答える。
「なんともないぞちくしょー。…それに、すっぱいけど、うまかったし。」
本当だ。だから、スペインが通りかかったとき、すでに三つ目を食べていた。
「そうなん?ほんまに?」
信じられない、という表情にむかむかして、くそう、じゃああの実のタネよこせ!と言った。
「種?ええけど…。」
「俺が育てて、うまい実作ってやるぞ、ちくしょー!」
育てる、ということは知っている。じいちゃんが、教えてくれた、数少ないことの一つ。
生きていくのに必要なこと。大事なこと。
「お、それええなあ!楽しみにしてるで、ロマーノ!」
にこにこと太陽みたいに笑って、スペインが言うから、気分がよくなって、びっくりするくらいうまくしてやるからな!と笑ってやった。


ロマーノが、とまと、という言葉と、タネをもらい、ロマーノの日課にとまとの世話、が追加されて、それが、スペインとの二人の日課になるのは、彼らにとっては遠くない未来のこと。


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1000hit記念リクより「怒ってる親分と、どうやって謝るか考え中子分、悪いことをしたら謝る、をしつけ中の西ロマ」
の、はずだったんですが…スペイン怒ってます?(だから聞くな)

でも、スペインって怒っても怖くなさそうな気がします。
ただマジギレは、トラウマになるくらい怖そうだけど。帝国降臨、みたいな。

そんなこんなで、こんなですが、少しでも気に入っていただけたらうれしいです。
リクエストありがとうございました!