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はあああ。とため息。
目の前に広がるパーティの用意。…無駄だったかなあ、無駄になっちゃうのかなあ。
…やだなあ…思いながら、机につっぷしてまた、ため息。

…油断、してた。確かに。
だって、クリスマスは二人で、二人きりじゃないときもあったけれど、とりあえず彼と、オーストリアさんと過ごすのは例年のことで。
もう長年にわたる行事だからきっと、何も言わなくてもいいと思っていたのだ。
だから、はっきりとした約束を、しなかった。

…だから今、クリスマスイブが終わろうとしている今、一人でいる、という状況になってしまっているわけだけど…
…待ってますねって、一応言ったんだけどなあ。…あのとき忙しそうだったし、聞こえなかったのかな…
ああ、もう。でも忙しいからって、一言確認するだけじゃない!今年も一緒にいてくれますか?って!それをつい、タイミングのがしてしまって言えなくて!

「……あーあ……」
ほんと泣きそう。そう思って、朝からはりきって作ってしまった、明らかに二人分の料理達を見つめて。

そのとき、こんこん、とノックの音がした、気がした。
はっと体を起こし、いやでもさっきまでも何回もあった幻聴かも、と一瞬固まった耳に、ほら、また!
大慌てで玄関へと駆け出した。

焦っていろんなものにつまづきそうになりながら、玄関にたどり着いて、ドアノブを掴んで、深呼吸一度。
それから、ぐ、と開いて。
そこにいた、見間違うはずもない待ち人の姿に、思わず抱きついた!

「…っ、遅く、なって、すみません、ハンガリー。」
「っ!お、おそ過ぎます……!」
ああやだ、涙声になってしまう。視界が潤んでくる。ああ、本当に!
「もう、来てくれないかと…!」
「………すみません。迷いました。」
本当に申し訳ないです。そう告げる彼に、はっと顔を上げる。…よく見れば、髪はぐちゃぐちゃだし、汗だく、だし。

「れ、連絡してもらえたら、迎えに、」
「…携帯を家に…。」
すみません、焦って出て来てしまったものですから。
オーストリアさんは情けなさそうに微笑んで。
「貴女をこんなに待たせてしまうなんて…本当に、申し訳ありません。」
髪を撫でる、手。冷たい。って、手袋もしてないじゃないですか!

「と、とりあえずオーストリアさん、中に、」
「ハンガリー。」
とにかく、彼を暖かい家の中に、と思ったら、く、と腕を引かれた。
何ですか?問いかける、前に。
目の前に、広がる、赤と緑。

「…メリークリスマス。遅くなってすみません。」
大きなポインセチアだ。
…これを毎年送ってくれるのも、いつもの、こと。それでじわじわと、実感が広がる。ああ、そうだ。いつも通り、彼は、やっぱり来てくれたんだ!
「…ありがとう、ございます。」
へにゃり、と笑った拍子に、ぽろり、と涙がこぼれ落ちた。

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12月25日。クリスマス。
世の人は家族、恋人、または友人と仲良く過ごしているのだろう。
まあ、俺様には関係ないけどな!

「はー…一人楽しすぎるぜー…」
ぼそりと呟いたら、答えるようにあがる、元気な声。
見れば、はたはたと尻尾を振る、三匹の犬たち。…弟が恋人と二人っきりのクリスマスを過ごすために預けていったのだ。
その目はきらきらしていて、遊んで構って、と訴えていて。俺に。…俺に!

「…ちくしょー、おまえらあ!」
1人じゃないな今年は!と三匹を抱きしめてぐしゃぐしゃ撫で回して、よしおまえら散歩に行くぞ!と声を上げると、律儀にわん!と返事を返してくれた。危うく泣きそうになった。

「はー…さみーな…」
三匹をつれて外に出る。寒い。けれどこいつらは元気だ。楽しそうに、三匹じゃれ合いながら歩いていく。

…まあ寒いのは冬だからで、俺もその季節を嫌いじゃない。日差しがある分まだ暖かいし。
青く深い空。…晴れ渡る空に、視線をやって、緩く微笑んだ。
こんな日に、弟のように愛しい人と過ごせたらいいとは思うが。…まだ自分はその権利を持たないし、家族を大事にする彼女は、会ってくれないだろう。きっと。
太陽の光で染めたような金髪と春の息吹のような瞳を思いだし、苦笑。
「第一告白なんかできるかっつーの…」
柔らかく俺に笑ってくれる、それだけで十分だ。
丸くなったよなあ俺も、と思い返していると。
「あ、プロイセンさん!」
こんにちわ。いきなりかけられた声に、驚きながら振り向く。今考えていた、彼女の声、だ!
そこには、もこもこの耳当てや帽子をつけて、はにかんだように笑うリヒテンシュタインが、やはり、いて。
「お、おう、」
「あっ、今日はクリスマスだから、メリークリスマス、の方がいいですかね?」
「おう…」
うわ、うわあ、び、びびった。
まさか会えると思っていなかったから、何を話していいやらさっぱりわからない。
表情には出さないように内心大混乱に陥っていると、あら?とリヒテンが俺の後ろをのぞきこんだ。
「かわいいわんちゃんですね、プロイセンさんの家族ですか?」
「え、あ、いや、弟の…」
「まあ、ドイツさんの。」
触っても?にこにこ笑う彼女にうなずくと、しゃがみこんで、優しく頭を撫でだす。
気持ちよさそうに目を細めるベルリッツがうらやまし…いやいや。うらやましくなんかないぞ、まさか犬に嫉妬とかそんな。
「犬、好きなのか?」
「はい。」
かわいいですよね、とほころぶような笑顔。くらりと、めまいに似た感覚を覚えて。
びゅう、と駆け抜けた風に、思わずさむ、とつぶやいた。
…このまま外で話すには、寒すぎるよな…
「あー…よかったら、うち寄っていくか?ここじゃ寒いだろ。」
もし予定ないなら。そう誘ってみる。まあ、あの厳しいお兄ちゃんと予定あるだろうけど。

なのに、彼女はぱっと顔を上げて。
「いいんですか!?」
「お、おう。」
「じゃあ是非!」
私とお話ししてください。かわいい笑顔に、内心、ガッツポーズした。


サプライズプレゼント!


「よかった、前からずっと、プロイセンさんとお話してみたかったんです。」
「!!そそそーか!」(やべえ心臓もたねえ!)

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わがまま姫は今日も絶好調だ。
「リトー、やっぱそれやめ」
「はあ!?ポーが食べたいって言ったんだろ!」

ああもう、ほんと絶好調過ぎて泣きたくなる。
平然と言ったお姫様は、バルシュキ食べてるし。…ってか、朝からもう呆れて注意もする気起こらなかったんだけど、サンタ服ピンクってどーなの!?しかもスカートだし!

朝は別のことに怒鳴った。昨日言っていたのとまったく違うメニューを言うから。そのせいで朝から下拵えからやり直し。
それでやっとできてきたと思ったら、それやめ、って!怒っていいよね、そろそろ?

「んーやめっていうかー追加?」
「…言ってみて。」
「キビナイ。」
…ミートパイ、だ。そんな面倒くさいものじゃなくてよかったかもしれない。オーブンももうすぐ空くし。

結局、はいはい。と答え、準備をはじめてしまう俺は、とことんポーに弱いと思う。
…ポーがここまで甘えるの、俺に対してだけだって、知ってるからなあ…くそう。かわいい顔でこっちながめやがって。…てか、ん?なんか言いたげ?

「…何?」
「見てるだけやし。」
即答に、はああ、と息を吐いて、暇なら手伝ってよー…と呟いた。無理だとわかっていても、つい言ってしまうものだ。
しかし。今日に限って。

「よおし、仕方ないから手伝ってやるし!」
「…へ?」
嬉々としてキッチンに入ってきて、これまたピンクのエプロンつけて、ほら詰めて詰めて、と俺の隣を陣取って。
「…ポー、できるの?」
「生地くらいは作れるし!」
…それは嘘や見栄ではないだろう。面倒くさがるけれどおいしいもの好きなポーは、料理も、滅多にしないができるのだ。

隣で小麦粉を楽しそうに量りはじめた彼を、不思議なものを見る目で見てしまう。…うーん、珍しすぎて何かをたくらんでいるんじゃないかと考えてしまう。
「いったいどういう風の吹き回し?」
「…だって、リト、全然遊んでくれんし。」
「それはポーがわがまま言うから…」
自業自得でしょ。言い掛けて、みつけた。
…何、耳真っ赤なんだけど。ポー。

「…もしかして、寂しかった?」
1人で放っておかれたと思っていたのだろうか。
指摘するが、彼は何も答えてくれなくて。
けれど、雄弁すぎる耳が、さらに赤くなった。

「…ふふ」
「笑うなやし!」
しゃあ、と威嚇する子猫みたいに怒鳴られてもぜんぜん怖くない。
「ごめんね、ポー。せっかくのクリスマスなのに1人にして。」
できるだけ優しい声でそう告げると、彼は、何も言わずに、肩に頭を擦り寄せてきた。

ああ、これだから、我が儘お姫様のお世話はやめられないんだ。

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「あれ…スーさん?」
クリスマスの仕事を終え、家に帰り着いて、驚いた。…電気、消えてる。
どんなに遅くなっても毎年待っててくれるのに、珍しい。

そっと玄関を開け、電気をつける。…リビングにはいない。
じゃあやっぱり、寝室かなあ。閉じたドアに視線を向ける。
…そろそろ、近づいて、音を立てないよう開く。…あ。
金色の、後ろ姿に、なんだか少し、ほっとした。いた。

…そうだよなあ、最近忙しそうだもんなあ。あんまり寝る時間もないみたいだったし。…僕は寝ないと仕事できないから、先に寝ちゃってたけど。
静かに眠る後ろ姿に、そっと近づく。

「…お疲れさまです。」
出たままの肩を隠すために、布団に手を伸ばして。
がし、と、その手を捕まれた。

「へ?」
「偉い?」
低い声がぼそり、呟く。起きてたんだ…!っていうか、偉いって、何が?
「何が、ですか?」
尋ねると、もぞもぞこちらを向く、鋭い瞳。いまだにびくっとしてしまうのは、もう反射だ。

「おめ、『いい子』、にプレゼント配んだろ?」
は?…ああ。さっきしてきた仕事の話。そりゃあそうですけど。返事を仕掛けて、気付いた。…夜、ぐっすり眠る子供へのプレゼント。いつもと違って、眠っていたスーさん。…だから、『偉い』?

「…プレゼント、欲しいんですか?」
だから、いい子で寝て俺待ってたんですか?
思わず吹き出しながら、尋ねる。こくん。うなずく彼。
「そりゃあ僕にあげられるものなら何でもあげますけど…何が、わあ!」
いきなり、視界が回った。ぱちぱち、瞬いて。

あれ。僕いつの間に、押し倒された、の?

「フィン、が、欲しい。」
くれ。全部。

真っ直ぐに、誤魔化しようもなく見つめられてしまって。
そんなのずるい、とか、それじゃあ僕へのプレゼントじゃないですか、とか、全部、…何も言えなくなって、真っ赤になった、まま。…こくん、とうなずいた。
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