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かちゃかちゃと、パーティーの後片付けをしながら、ドイツはふと手を止め、

「はああああああああぁぁぁ…」
深すぎるため息を、ついた。

その原因は、今、ドイツが一人でいること、だ。

そう、たった一人。
今日12月24日と明日25日は、ただ恋人と過ごすためだけに空けてあったと、いうのに!

『ごめんねー用事あるから俺帰るね!』
イタリアは先ほど、あっさり帰ってしまったのだ…。

家族と過ごすのか、とも思ったがそれはない。だってスペインがでれでれになりながらクリスマスはロマーノお泊まりやねん!と自慢してきたから。昨日。
そのときは自分も、今日はイタリアと一緒のつもりだったのに…現実は…

またため息。…まさか誰か、ほかにクリスマスを過ごしたい好きな人、でも、いや!いやそれはない。ないはず、だ!

「恋人を信じられないでどうす…ん?」
何か聞こえた気がして、顔を上げる。
かたん。ほらまた。風の音では、ない。眉をひそめ、息を殺して、音の発生源を探す。今家には一人だけ、のはずだ。愛犬たちは、2人きりのクリスマス、のために兄さんに預けているし。なのに。

誰か、いる。確信めいたそれに、足音を殺して、廊下へ出る。

静かに音を追うと、いきついたのは自分の寝室だった。かたかた。まだ音は続いている。こちらには気付いていないようだ。…兄さんのいたずら、くらいならいいんだが。最悪のパターンも想定しながら、そのまま気付かれないようにドアの前に立ち、ノブをつかむ。

深呼吸一度。一気にドアを開け、部屋の電気をつけた!
「動くな!」
「ヴェっ!?」

そこにいたのは、赤と白の、固まり。
「……何をやってるんだイタリア…」
サンタクロースの衣装に身を包んで、ご丁寧にひげまでつけた、イタリアだった…

「…え、えっと、サンタクロースじゃよー、みたいな…」
えへ、と笑ってみせる彼に、深く、ふかああくため息。このいたずらのためにさっさと帰って行ったのかこいつは…
ああもうさっきまで落ち込んでいた時間を返せ!
「…お、こった?」
だって、びっくりさせたかったんだもん…そうしょげる彼。
しばし眺めて、ああ、怒っている。そう返せば、うつむいてしまって。
「ごめんなさい…」
「だから、つき合え。朝まで。」
それで許してやる。そう言いながら、イタリアの目の前に歩み寄る。怖々と見上げてくる、涙のにじんだ瞳。
にやりと、ドイツその顔怖いと常々言われてい笑顔を浮かべ、彼を、ベッドに引き倒した。

「ヴェ!?あ、あのドイツ、」
「サンタクロースはプレゼントを運んでくるんだろう?」
ああ、確かに俺が一番ほしいものを運んでくれたな。そう言いながら、彼に覆い被さると、イタリアは頬をひくつかせて。

「欲しいもの…って…?」
「淫らに乱れながら俺を欲しがるイタリア。」
はっきり口にすると、びくんと怯えるように肩が揺れた。…けれど、妖しい期待の光が、瞳に宿る。

「さあ、朝までたっぷり楽しませてもらおうか。なあ、イタリア?」
そう囁いて、愛しい恋人に深くキスをした。

プレゼントは君


「愛している、俺のサンタクロース」
「う…お手柔らかにオネガイシマス」
「それは無理な相談だな」
「うー…」

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「ろまー、あれ?」

風呂から上がって寝室をのぞくが、ロマーノの姿がない。なんでー?せっかくのクリスマスなのに。久しぶりの明日も休日の夜、なのに。いっっぱいいちゃいちゃしたろーと思ってたのに。
別に怒らしたりもしてないと思うから…照れて自分の部屋に行ってしまったのかもしれない。

『今日はロマーノが嫌って言うても離さへんから。どろどろになるまでするから。覚悟しといてな。』
そんな風に言ったのがまずかったのかもしれない。本心だけど。
「しゃーないなあ、お姫さん迎えに…ん?」
きょとんと振り返る。なんか違和感を感じた。…別にいつも通りの部屋…あ、違う。

何だこれ?ベッドに引っかけられた真っ赤な袋…いやこれ、靴下、だ。
靴下。中に何か、入ってる。で、クリスマス。
「サンタさんのプレゼント…?」
いぶかしみながら外して、中をのぞき込む。
と。
入っていたのは、ワインレッドの毛糸で編まれた…マフラー。

売り物とは思えない。ところどころ、穴あるし。目の大きさもまちまちだし。…ということは、手作り。
手作り?誰の。
そりゃあ…今家にいるのはロマーノだけなんだから彼の。
……手作り?ロマーノ、の?

「っ!!ロマーノーっ!!!」
声の限りに叫んで、恥ずかしがりの恋人を探して部屋を飛び出した!


靴下の中の幸せ


「ロマーノ見っけーー!」
「っ、う、うるせーよ!!」
「ロマーノ、ロマーノロマーノロマーノ!」
「何だよちくしょうが!聞こえてるっつーの!」
「大っ好きやで!」
「っ!…知ってるぞ、このやろ…」

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…機嫌のよさそうな鼻歌が聞こえる。
珍しいなあと思いながら、縁側から家の中をのぞきこむ。
あ…いや!玄関から何度か声かけたんだが日本が気付いてないみたいだからこっちに回ってきただけであって!
べべべ別に早く会いたくて飛行機早くしてきたとかそういうわけじゃないからな!

「いるなら返事しろよ、日本…」
ぼそりと、文句を言うようにつぶやいて。
声をかけようと息を吸って。
「恋人はサンタクロース…」
その瞬間、目の前の部屋に、歌いながら日本が入ってきて。
思わず固まった俺には気付かないまま、歌いながらなにやら片づけて。
かなり俺に近い位置にあるタンスを閉め、振り返ろうとした瞬間に、ばっちり、目が、あった。
目をまん丸にした彼と、しばし見つめ合って。
彼の耳から、イヤホンが落ちる。

「…おはよう。」
「お、おはよう、ございます…は、早かった、ですね、」
「あー、一本早いので来たから…悪い、こんなとこから。返事無かったから…」
…で。その格好には、触れない方が、いいのか…?
普段の日本ならあり得ない、色。
真っ赤な、柔らかそうな生地を、白いもこもこが縁取っている、服。
頭に同じ色の、ぼんぼんのついた帽子。
…サンタクロース、だ。まごうことなき、サンタクロース。

「…ええと…着替えてきますね!」
「あ、いや、そのままでいい!」
慌てて声をかけたら、焦りすぎたのか足を滑らせた体が倒れ込んでくる。両手を伸ばして抱き留めて。

「す、すみませ、」
そう言って見上げてくる顔が真っ赤で。もこもこしたサンタの衣装が、意外にもかなり似合っていて。…ずきゅんと、きた。
思わずその肩に、顔を埋める。ああやばい、頬が熱い!

「イギリス、さん…?」
「い、いいから…もう少し、だけ、このまま…」
頼む。そう呟いて、抱きしめ直す。
困惑している日本の声が聞こえるが、しばらく顔なんか見れそうになかった。

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ふわりと柔らかいホットケーキ。とろりと流れるシロップに、とけかけのバター。

「わわ、わ…!」
家に帰ってくると待っていた光景に、目を輝かせる。
でも、なんで?
家には誰もいなかったはず。…ほんとは、フランスさんとデートだったんだけど、急な仕事でそれもなくなったし。
…玄関に靴も、なかったしなあ…
誰が用意してくれたんだろう?イギリスさん?…いやない。アメリカもない。だってこんなおいしそうなもの作れる訳ないし。じゃあ…?

首を傾げてうんうん考えこんでいると、こんこん、とノックの音。玄関からじゃない。…窓の方から?首を向けると、ひらひらと笑顔で手を振る美丈夫の姿!

「フランスさん!」
慌てて窓を開けると、よ。と明るい笑顔。どうしたんですか、っていうか、何ですかそのおっきな袋!
白いそれを肩に担いだ彼は、いやーうっかり取りに行くの忘れててさ。って。…何だろう…?

「カナダが帰ってくるまでには戻ってるつもりだったんだけどな。あ、ホットケーキ食べたか?」
「いえ、僕も帰ってきたとこで…あれ、フランスさんが?」
「もちろん。」
カナの好みの味にしてあるから、冷めないうちに食べなさい。にこりと笑った彼はそう言って、ここからじゃ入れないからと、玄関の方に回っていった。

…その後ろ姿。白い大きな袋を背負って歩く彼は、まるでサンタさんみたいだ。
…僕が欲しいなあって思ってたもの、全部用意してくれちゃう、僕だけのサンタさん。
「…ふふ」
玄関から入ってきたら、メリークリスマスって抱きついてみよう。
きっと喜んでくれるはず。
わくわくしながら、彼の到着を待った。

袋の中身は、僕と彼だけの、秘密。

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