はああ、と真っ白な息を吐く 「寒い〜…」 「そうですね…」 こんなに冷え込むとは、そう呟くオーストリアさんに、早く帰りましょう、と声をかける。 歩いて五分もかからない、オーストリアさんの家。早くたどり着きたい。体の芯まで冷え込んでいくようだ。 ぱたん、とドアを閉め、冷たい風を感じなくなって、やっと一息ついた。 「はぁぁ…もう、顔が冷たいですよ…」 風を防ぐものがなかった頬が、冷え切っている。手袋をはずして、その頬を少しでも、と思ってまだ体温を保っている手で温めていると、す、と暖かいものが頬に触れた。 「え、」 「本当に冷たいですね…」 「え、あの、オーストリアさん…?」 驚いているうちに、冷たい両頬を、暖かいオーストリアさんの手に包み込まれてしまった。 自然、近い距離で向かい合うことになってしまって、どきどきと胸が高鳴ってくる。 オーストリアさんは、ただ冷たいから暖めようと、それだけなんだろう、きっと。 でも、こっちはそれだけじゃすまない。 片想い。もうずっと、長いこと。長く一緒にいすぎてもう、言い出せないくらいに。この関係を壊せない。けれど、つのる思いは大きく膨らんで、息さえできないくらい! 「暖まってきましたね。」 そう言って離れていく手に、すがりついてしまいそうになって、慌てて笑って誤魔化した。 「寒かったですね…」 「風が冷たい分余計にそう感じますよね。」 家に帰って、オーストリアさんの手から荷物を受け取る。 風ががたがたと窓を揺らしている。ため息をついて、外の寒さを思い出す。しばらく外出したくない感じだ。 振り返り、オーストリアさんを見る。頬が冷え切っているようで、いつもより真っ白だ。はあ、と指先を温めている姿に、えい、と手を伸ばした。 「え、」 「暖かいですか?」 冷たい頬を、手袋の中で暖まっていた手で撫で、包み込む。それから、片手でオーストリアさんの冷えた手に触れ、そっと息を吹きかけた。 少しでも私の熱が移るように。 「…ええ。ありがとうございます。」 優しい笑顔に、少しうれしくなった。 「ねえ、オーストリアさん、覚えてます?昔、こうやって私の頬暖めてくれたの」 「ええ。覚えてますよ」 片想いだったころの話だ。近い距離に、オーストリアさんに触れられているという事実にどきどきしっぱなしだった。 「もう、どきどきしすぎて心臓壊れるかと思ったんですから。」 知ってました?と見上げると、それはすみません、と苦笑された。 「でも、ハンガリー。」 「はい?」 「私があのとき、こうしたいのを必死に我慢していたこと、知ってました?」 こう、って何ですか?開こうとした唇に。 オーストリアさんの唇が、触れた。 「!!」 「知ってました?」 至近距離で微笑まれ、頬を優しく包み込まれる。 名前を呼ぶ甘い声に、かああっと真っ赤になってしまった。 「ハンガリー、熱いですよ。」 「っもう、誰のせいですか!」 戻る . 「寒い〜!」 そう声を上げると、そうだな、と玄関のドアを閉めたドイツが呟いた。 「待ってろ、今暖房を…」 そう言ってとなりを通り過ぎようとしたドイツに、ぎゅむ、と抱きつく。 「おい、イタリア…」 「ハグして」 「は?」 わけがわからない。そう言わんばかりの声に、にへら、と笑う。 「だって〜、暖房つけたって、あったかくなるまで時間かかるでしょ?ハグだったら、すぐあったまるし。」 だからハグー。そう言いながら、抱きつく。寒いよ、ドイツ。そう言ってみせる。本当は嘘だ。寒くなんかない。どきどきしている。どきどきしすぎで体は熱い。汗をかいているくらいだ。 「しかし、」 「お願い!」 あ。しまった。こんなに強く言うつもりなかったのに。ドイツちょっと驚いてる。慌ててへら、と笑ってみせる。 「…わかった。」 背中に回される手。包み込まれる体。 わはーあったかい〜そう言いながら、ドイツの胸に顔をすり付ける。コートもマフラーも邪魔だ。もっとドイツを感じたいのに。 挨拶のハグは、一瞬。ぎゅ、としたら、すぐ離れてしまう。 そうじゃなくて、抱きしめてほしかったのだ。寒いとかなんとかは、ドラマでヒロインがやってた、口実。ドラマでは、恋人だったけど。俺のは、片想いだけど。 息を吸い込む。ドイツの匂いがした。なんだか泣きそうになって、顔を押し付ける。 「ほら、もう暖まっただろう…」 「…すきだよ、ドイツ」 「ん?何か言ったか?」 何でもないよーと誤魔化して、名残惜しく思いながら、愛しい人から手を離した。 「寒い〜!」 ばたん、と玄関のドアを閉めて、早く暖房つけて、手や足をあっためようと、荷物を放り出してブーツを脱ぐ。 脱ぎ終わって、歩きだそうとした瞬間に、後ろから抱き寄せられた。 倒れ込む先は、当然のことながらドイツの体で、ヴェ?とそのまま見上げる。少し赤いドイツの顔。 「どうしたのドイツ?」 「…さ、寒いん、だろ」 そう言って、抱きしめられた。暖かくて、がっしりした、信頼できる体。 もう一度見上げると、ドイツの耳が見えた。真っ赤な、耳が。 小さく吹き出して、腕の中でもぞもぞ動いてドイツと向かい合い、抱きしめる。 強く、だけど苦しくないように抱きしめられるのは、いつものこと。 すりよると、ドイツの匂いがした。落ち着く匂い。安心できる、大好きな場所。 「…もう、寒くないだろ」 言われて、うなずく。あんなに寒かったのに、今はむしろ、ちょっと暑い。それでも、離れたくなくて、ぎゅ、と抱きついてもうちょっと、と言ったら、いくらでも。と優しい声。 「ドイツ、大好き。」 小さく呟く。思っていたよりずっと甘い声が出た。 「…俺もだ、イタリア。」 そう答えたドイツの声も、すごく甘くて、それから、甘い甘いキスがついてきた。 戻る |