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家に帰ると、すばらしいタイミングでハンガリーが訪ねてきた。
二人で、お茶の用意をして、リビングに運ぶ。


「…ずるい。」
はぁ、とため息をついたハンガリーにそういわれて、な、何がですか、と彼女を見る。
ずるい、というのは、お菓子を食べていう感想ではないだろう。

むう、と膨れるハンガリーの手には、さきほどドイツの家で作ったレープクーヘン。
「ほんとにずるいですよ、オーストリアさん!」
…主張されても。
けれど、手に持ったレープクーヘンを食べて、二つ目に手を伸ばしていたので、別に不味かったわけではないらしい。

「いったいどうしたんですか…?」
眉をひそめると、だって!とにらまれた。

「だってずるいですよ!どうしてこんなに私好みのおいしいお菓子作れるんですか!?」

よほど…おいしかったらしい。
「そう、なんですか?」
「そうなんです!」
もー、こんなの作られたら、女の子の立つ瀬がないじゃないですかー
膨れながらも、ぱくぱくとレープクーヘンを食べるハンガリーを、苦笑しながらながめる。
何かしてしまったか、と不安に思ってしまったが、そうではなかったようだ。…よかった。

「もー…オーストリアさんて料理上手だから、私料理するときいっつも困っちゃうんですからねー…?」
そう呟くハンガリーにくす、と笑いながら、紅茶を口に運ぶ。広がる香りと味は、ため息をついてしまうほど、自分好みで。

「…ずるいのは、ハンガリー、あなたの方でしょう。」

そう告げると、へ、とハンガリーが頭を上げた。
深緑の瞳に、軽くティーカップを上げてみせる。

「どうしてこんなに私好みの紅茶が入れられるんですか?」
あなたがいないと、紅茶をおいしいと感じないんですよ。どうしてくれるんですか?

笑いながらそう告げると、彼女は目を丸くして。

「…っ、呼んでくれたら、紅茶くらいいつでも入れにきます!」

顔を赤くしたハンガリーに、微笑んで、ありがとうございます、と返した。

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「はぁ…すっかり当てられちゃったねぇ…」
イタリアの家から、自分の家へと歩いて帰る。
食事中も、スペインとロマーノのバカップルはいちゃいちゃしていた。ラブラブだねえ、と茶化すと、ロマーノがんなことねーよ!と真っ赤になって反論して。
そんな様子にロマーノかわええとスペインが抱きついたりして、…あー…まぁ…仲がいいのはいいことなんだけどな?うん。

少し、イタリアが寂しそうにしていたのが心配ではあったが、まぁドイツは日本に呼んできてもらってるし、大丈夫だろう。

それよりも。

はぁあ、とため息をつきながら、まだ空を見上げる。
いい天気だ。美しい青空。…遠い、彼の上にもきっと、つながっている、空。
「カナダ…」
会いたいなぁ、と呟く。長いこと会えていない。
…彼は、自分から会いに来る、ということをあまり(というか全然)しない子だから、自分の仕事が忙しい最近は、会いにいくことも呼ぶこともできなくて。
はぁあ、とため息をつくと、らしくないなー、愛の国のお兄さんが、と苦笑。

このまま仕事も何も全て放り出して、愛しい愛しい恋人のところへ、行ってしまおうか!

「そーいう訳にも行かないのがつらいとこだよなぁ…」
やれやれ、とため息をついて、んー、とのびをして、近くなってきた我が家を見やる。
「…ん?」
誰かが、家の前に立っている。
少し長い金髪。
…まさか、そんな。
頭が否定する前に、走り出していた。
いるはずがない。だけど、見間違いようもない。
あの、やわらかい光のような、美しい金髪は!

家の前に立つ後ろ姿に、何も考えずにがばっと抱きついた!

「うわぁ!」
「カナダ!」
やっぱりそうだ。カナダだ。漂う甘い香り、抱き心地のいい柔らかな肌。
「わ、フランスさん?」
腕の中で、カナダが振り返る。美しい瞳が、自分を見るのがたまらなくうれしくて。
「そ。かっこいいお兄さんだよ。」
茶化すのは、情けなく顔が緩んでしまうから。ああ、本当にうれしい。カナダだ。カナダがいる!

たっぷりとカナダの存在を堪能して、それからやっと、ドアを開けて家の中に入った。
そのあいだも、カナダを離すことはなく、腰に腕を回したまま。

「どうしたの、カナ?」
自分から来るなんて珍しいな、と、尋ねると、彼は迷惑、でしたか?と自信なさげな声を出す。
「まさか!とってもうれしいよ。」
会いたくて仕方がなかったんだ、と囁くと、赤くなりながら、彼はうれしそうに笑う(ああもうかわいい!)
「あの、ね?」
「うん?」
もじもじするカナダを優しく見守る。
「これ…」
差し出されたのは、最近フランスの家にも常備されているメイプルシロップ。
「その…これでフランスさんにお菓子作ってほしいなって思って…」
かわいらしいお願いを、拒めるはずもなく。
「いいよ。…とびきりおいしいのを作ってあげる」
ちゅ、と額にキスをして、メイプルシロップを受け取る。

ありがとうございます、と微笑むカナダが可愛くて、ああ、お菓子より先に食べちゃいたいなぁ、と甘い匂いのする体を抱きしめた。

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(フランスを喜ばせるのは腹立たしいがかわいい弟のためだ)カナダをユーロスターの駅まで見送ってから、帰宅してしばらく仕事をしていると、玄関の呼び鈴が鳴った。
まさかフランスの野郎、カナダを追い返したんじゃないだろうな。眉をひそめながら、がちゃ、とドアを開ける。

予想していた金髪はそこにはいなかった。かわりに、黒。
予想したより、低い身長。

幻を見ているのか、はたまた妖精たちのいたずらか、と考えていると、あの、と形の整った唇が動いた。

「イギリス、さん、」
「………にほん?」
呆然と呼ぶと、彼ははい、と頷いて。

………あれ?…ん!??


「日本!?」
やっと、目の前にいるのが日本だと認識できた。
いや、見間違うわけはないんだけど、ただ、会いたいと思っていたら現れたそのタイミングのよさが信じられなくて。
「は、はい。」
な、何でここに…と尋ねるとこれ、と箱を掲げた。
「ケーキ、なんですけど、一人で食べるのには多くて。」
一緒にどうですか、と言われて断れるはずもなく。

速攻でとっておきの紅茶を用意して、入れる。自慢じゃないが、これは本当においしい。日本と飲もう、と置いておいたものだ。となりで、日本が箱からケーキを取り出している。のを、ちら、とながめて。
「…なんでザッハトルテなんだ…」
思わず、眉を寄せてしまった。ドイツや、オーストリアのケーキだ。少しテンションが下がる。
「ドイツさんとオーストリアさんと作りましたから。」
その一言に、一瞬機嫌が急降下し、ふと気づいた。

「え…これ、日本の手作りなのか!?」
「あ、はい。」
下がっていたテンションが急上昇!
手作りだ、とついにやにやしてしまう。
「初めて作ったので、味に自信はないんですが…」
「いや!日本の作ったものなら大丈夫だ!」
それには心の底から自信がある。
そうですか?と困ったように笑う日本に、ああ!と自信を持ってうなずいて、紅茶をカップにそそぐ。…ああ、いい香りだ。
「いい香りですね。」
隣からのぞき込んでいた日本が、微笑みながら見上げてきて、ああ、なんて幸せなんだろう!

日本の作ったケーキは、本当においしくて、うまいうまいと何度も言うと、大げさですよ、と日本は苦笑。それから、紅茶を飲んで、ほう、とため息をついた。
「どうした?」
「いえ、なんだか、イギリスさんがいるなぁ、と思ってしまって。」
「は?」
瞬くと、小さく微笑まれる。
「こんなにおいしい紅茶を飲めるのは、イギリスさんといるときだけですから。」


穏やかな笑顔で、そんなこと言われたら、ああ、もう!


「悪い、日本。」
「へ?」
(行儀が悪いが)机を乗り越え日本の座っているソファに腰掛け、日本をぎゅう、と抱きしめ、つむじにキスを落とした。
「い、イギリス、さん?」
「なぁ、日本、今日泊まっていかないか?というか、いくよな?泊まるよな?」
「は、え、え?」
「だめだ、もう。離せない、から。な、諦めてくれ。」

え、え、と慌てる日本を気遣ってやる余裕もなくて、額を合わせて、ただ許可が欲しくて(さすがに同意なしというわけには)、日本、と名前を呼んだ。
真っ赤に染まった顔で、視線をうろつかせていた日本は、小さく、小さくはい、と呟いて。

その言葉が消えるか消えないか。耐えきれなくなって、後頭部に手を回して、口をふさいだ。

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呼び鈴の音に、はいはいー、と兄ちゃんの隣にいたスペイン兄ちゃんが、でてくれた。

いいな、とそっと兄ちゃんをながめる。わかりずらいけれど、朝に比べると、うれしそうな表情。さっきだって、スペイン兄ちゃんとわいわい言いながら、不機嫌そうな顔をつくってはいたけれど、スペイン兄ちゃんが見ていないときの表情は、本当に、ほんとーにうれしそうで、愛おしそうで!(俺が見てることに気づくと、すぐ不機嫌な顔になっちゃったけど。)

いいな、いいなぁ。俺もドイツに会いたいなぁ。
でも、ドイツも忙しいし。あんまり来れないのも知ってるんだけど。
はぁあ、と書類の上に(ぐしゃってしないよう気をつけながら)つっぷしてため息。

そんなことをしていると、部屋のドアを開けて、スペイン兄ちゃんが顔を出した。
「イタちゃーん、お客さんやで。」
「え、俺?」
「そ。イタちゃんが、今一番会いたい人。」
そういうスペイン兄ちゃんの顔がすごくうれしそうで、え!と慌てて部屋を飛び出した。


ばたばたと向かったリビングには、夢にまで見た背の高い金髪の後ろ姿!
「ドイツ!!」
思いっきり後ろから抱きついて、ぎゅうう、と抱きしめる。
すると、低い声が、背中越しに聞こえた。
「…イタリア。」
少し離してくれ、と言われて、やだ、と即答する。ちょっと、でも離れたくなんかない!
「そうじゃなくて。」
優しい声で、顔が見たい、なんて言われたから、俺もドイツの顔が見たくなって、手の力を緩め、振り返ったドイツの胸に飛び込んだ。
「ドイツ〜…」
「久しぶり、だな」
頭をなでる手の感触も、背中を抱き寄せてくれる力強い腕も、耳元で囁かれる声も、夢なんかよりずっとずっといい!

「少し、痩せたか?」
「ヴェ、そう?でもちゃんとご飯食べてたよ?」
顔を見上げる。柔らかく細められた、綺麗なブルー。
頬をなでられて、大きな手にすり寄る。
「そうか、偉いな」
「えへへー」
褒められたらうれしくなって、ぎゅう、と抱きついて、ドイツの胸に頬を押しつけた。
すると、視界に入った。机の上の大きなバスケット。
「ヴェ?ドイツー、あれなに?」
昼御飯を食べていたときにはなかったそれは、たぶんドイツの持ち物で。
「ああ、そうだ。あれがあったな。」
重そうなそれを、ドイツは片手で持ち上げて、ほら、おまえにだ、と差し出してきた。

開けていい?と聞くとうなずいたので、バスケットのふたを持ち上げる。


とたんに広がる甘い香り。

そこには、大量の、お菓子、お菓子、お菓子!
シュトーレンからレープクーヘンから、見たことないくらいの量のお菓子が詰め込まれていて。

思わず絶句すると、おまえと食べようと思って、と、暖かい笑顔でドイツが微笑む。
「〜〜〜っ、ドイツ大好き〜っ!!」
首に手を回して抱きついて、その頬にキスをした。
「…俺もだ、イタリア。」
ドイツもキスを返してくれて、なんだか泣きそうになってしまって、ドイツの胸に顔を埋めた。

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