「スペイン、…前から、聞きたかったんだが、」 「え、何?」 仕事でやってきたスペインに、ふと質問をする。 「…プライベートなことなんだが、いいか?」 「いいけど?」 何ー?と明るい声で尋ねられ、その、と口ごもってから、けろんとしているスペインに、言った。 「どうしてイタリア兄とつき合えるんだ?」 これが疑問だった。ずっと。 ロマーノの被害を一番こうむっている自分だから、かもしれない。 乱暴な口癖、攻撃的な性格。お世辞にもかわいいとは言いづらい。特に、弟が、あれだし。(恋人としてのひいき目抜きにしても、かわいいと思う。彼は。へたれではあるが、そんなところも。) その言葉を聞いたスペインは、恋人をけなされているようなものなのに、でれ〜っとにやけた。この上なく嬉しそうなその表情に、眉をひそめる。 「そう思うやろ〜?何で好きになったんか、わかれへんやろ?」 「あ、ああ…」 えへへ〜教えて欲しい〜?と上機嫌なスペインに、困惑しながらもうなずくと、彼はこう言った。 「ひみつ〜」 「はぁ!?」 「そんなん教えてロマーノに惚れられても困るし。」 「…いや、それはない」 思わずつっこむが、スペインは聞いてもおらず。 「ロマーノのいいとこは俺だけ知ってれば十分!そりゃあ、あんま悪く言って欲しくはないけど、でも、悪い子やないのはわかるやろ?」 それには素直にうなずく。 イタリアと不仲だとは言うが、弟のことをいつも気にかけているのはわかるし、自分につっかかってくるのも、イタリアを心配するあまり、だということはよくよくわかっている。 「やったらそれで十分や。あとのいいとこは全部俺だけのもんなんです〜!」 にこにこと笑うスペインに、なるほど、独占欲、か、と納得する。自分にももちろんそれはある。イタリアが、助けを呼ぶのは自分だけだ、という自負。それのもたらす、幸せ。それを求める、欲。 「それにしてもドイツは、いい目持っとるよな〜、何てったってイタちゃんかわいいもんな!」 いきなり自分の話に変わって、思い切り飲みかけていたコーヒーにむせた。 「い、いきなり何を…!」 「え?イタちゃんはかわいいなって話。」 いや、まあ。それは認める。 柔らかい茶色の髪に、琥珀色の瞳。うれしそうに笑ってドイツ〜なんて呼ばれたらもう! 「そうやんな、もう、子供の頃からかわいかったわ〜」 オーストリアん家に居たときなんかなーと、言われて、少々むっとしてしまった。 自分が知らない恋人の話を他人が知っている、というのは、あまり気分のいいことではない。 そのうえ、スペインには前科がある。 イタリアに(自分より先に)結婚してくれなんて言ったという前科が! ドイツの機嫌が急降下しているのに気づきもせず、スペインは俺が遊びに行ったときもな〜と話を続ける。 何故か、一瞬、どこかの家の情景が浮かんだが、関係ないだろう、と頭を振って、ため息を一つ。 「イタちゃん、ほんまにもうかわいくってな〜!もう結婚してって言うしかないってかんじで!あーもう、やっぱ欲しい!ドイツイタちゃんちょうだい!」 「誰がやるか!」 フランスを思い起こさせるような反応に、半目になりながら、小さくつぶやく。 「そんなことをしているから、イタリア兄がああいうことを言うんだろうが…」 「は?何の話?」 それは、もうだいぶ前になる。 イタリアから突然電話がかかってきて、突然切れて、なにごとかと駆けつけてみれば特徴あるくせ毛が絡まってとれなくなっていたということがあった。 ドイツーほどいてーふざけんななんでジャガイモ野郎なんかに!とやいのやいのうるさかったが、とにかく解けばいいんだろう、と、見事に絡まった(何をしたらこうなるんだか)くせ毛に触れると、その途端に二人は大人しくなって。 それでも、イタリア兄の悪口は止まず、ちくしょー、とかあんま触んなとかうるさいので、だったらおまえの知り合いを呼んだらどうだ、と言ったのだ。例えば元宗主国のスペインとか、と。 「絶対イヤだ!」 「は?」 「スペインなんか呼んだらイタちゃんかわえーとかハーレムや〜とか言って変なことするに決まってる!!」 変なことって何だ、と尋ねる前に、タイミング良く髪がほどけたので、それ以上は聞かなかったが。 あれが性感帯だと知ったのは、つい最近のことだったが、そんなところを触られるのは、やはり恋人等でないとイヤなんじゃないか、と思うのに、イタリア兄にあそこまではっきり拒否させたというのはいかがなものか。 「ち、ちょ、待った!」 「何だ?」 「…性感帯、なん?あのくるん」 何だ、知らなかったのか。驚いた表情のスペインに、うなずく。 「イタリアがそうだと言っていたが…おい、どうした?」 いきなり立ち上がったスペインを見上げる。 心なしか、怒りのオーラが漂ってくるのは気のせいだろうか。 「つまり何…?ドイツはロマーノが目潤ませて顔赤らめて喘ぎ声出すの見たん…?」 …そういえばそうなるのか。声は聞かなかったが。 「しかしあの時は非常事態だったし、それに俺もあれがそういうものだと知ったのは最近のことで…」 言い訳に聞こえるかもしれないが、と弁解するが、許さへん、と低い声。そして。 「俺もイタちゃんのくるん触ってくる!」 「何でそうなる!」 「ずるいやんドイツだけそんなん!」 「ずるいとかそういう問題か!」 「うるさいなぁ、俺がイタちゃんの見たらそれでおあいこやろーが!」 「それは…」 一瞬言葉につまったすきに、ずかずかと玄関へと向かい始めたスペインの前に慌てて立ちふさがる。 「どこへ行く。」 「イタちゃんとこ」 「行かせると思うのか?」 にらみつけると、スペインは楽しげににいいと笑って。 「なら、強行突破やな」 させるものか、と低く、つぶやいて、両足を軽く開いて、腰を少し落として。 がちゃ「ドイツドイツー!遊びに来」 いきなり玄関を開いて現れたイタリアを、即座の判断で自分の後ろに引きずり込む。 「イタちゃーん、ちょおこっちおいで?」にっこり笑ったスペインの言葉。 「ヴェ?スペイン兄ちゃん?」 後ろで動く気配に、しっかりと肩を押さえる 「行くな、イタリア。隠れてろ」 「え、ど、ドイツ?」 「ほぉ、俺とケンカする気なん?いっとくけどこれでも世界一を誇ったこともあるんやで?」 素手でも強いねんから、とぱき、と手を鳴らすスペインに、は、と鼻で笑って見せる 「ふん、過去の栄光にすがりついて楽しいか?」 「なんやとこら」 安い挑発に乗ったスペインをにらみつける。確かに大国だったのは昔のことだが、イタリアを守りながら戦うことを考えると…いや。不利であろうが勝てる見込みがなかろうが、やることは同じだ。 イタリアは俺が守る。絶対に。 「ヴェ〜??二人ともどうしたの?」 困惑した声が後ろから聞こえるが、今は答える余裕がない。 「イタちゃんをこっちに渡せ言うてるねん」 「断る」 「じゃあしゃーないなぁ。」 す、と両腕をファイティングポーズに構えたスペインに、次の行動をシミュレートして。 「行くで?」 「いつでも来い。」 「ヴェ、け、ケンカはやめてよ〜!」 がちゃ「おいこらヴェネチアーノ!ジャガイモなんかのと、こに…?」 玄関を勢いよく開けたのは、今度はイタリア兄だった。 そして、開けたまま驚いたような表情で固まっている。 …そりゃあそうだろう。弟は嫌いな奴に守られていて何故かそれに敵対するのは自分の恋人。わけがわからない。 しん、と静まりかえった後、一番に動き出したのはスペインだった。 ぱっと身を翻し、イタリア兄のところへ行って、その体を軽々と抱き上げた。 「うわ!?な、なにしやがる、てか何でスペインがいるんだよ!」 「ロマーノ〜、ちょっと話あるんやけど〜、あ、イタちゃん、ちょっとこの子借りるで?」 「ヴェ!?う、うん…?」 「おろせー!」 「じゃな〜」 …ばたん。 「…何だったの?」 「…さぁな。」 はぁぁと深くため息。思いの外緊張していたようだ。どさ、とソファに座り込む。 「スペイン兄ちゃんと、ケンカ?」 隣にイタリアがやってくる。 心配そうな表情に、いや、大丈夫だ、と頭をなでて。 「悪いのは……たぶん、俺だからな」 「そうなの?」 じゃあ謝らなきゃね〜、というのほほんとした声に、心の底から安堵する。 「謝りに行くとき、ついてってあげるね!」 「…それは、いい。」 というか、しばらくスペインに行くな。 そう付け足すと、ヴェ?と訳が分からなそうにイタリアは首を傾げた。 後日、ドイツの家には段ボールいっぱいのトマトが、送られてきた。それと、あのあとどれだけロマーノがかわいかったかを延々語るスペインからの国際電話。 電話は、あまりに長くなるからと、三時間ずつ、今日までの一週間毎日かかってきている。 「最近ドイツスペイン兄ちゃんと仲いいね」 「……そう、見えるのか」 ドイツにとっては、頭痛の種が増えただけだったが。 おまけ ※注:全年齢対象、とは言い難い表現がありますのでご注意ください 「おろせ、こら、おろせーっ!!」 じたばたじたばたと腕の中で暴れるロマーノに、あーもう、と辟易しながら、下ろしはしなかった。 離したくない、と、思ってしまう。さっきのドイツの話を聞いたから、だろうか。 「誰かに見られたらどうするんだよ!」 「別にええやん。」 むしろ見せたい。俺のものだって主張したい。俺のロマーノ。大事な大事な俺の恋人。 「な…っ、と、とにかく!下ろせって言ってんだよちくしょーが!」 顔をあかくするのはかわいいのに、見事に顔や肩にヒットする腕や足はかわいくない。 「いたたた痛いって〜」 「うっせぇ下ろせ!」 「いやや!」 ぎゅ、と抱きしめると、目の前にぴろんと揺れるくるんとしたくせっ毛。 ドイツの話では、ここが性感帯、な、らしい。 「…暴れるような悪い子は、こうやっ」 両手は空いてないし、ちょうどいいところにあるので、ぱくん、と、それを口の中に入れてみる。 「ひっ!?」 その途端、ロマーノは静かになった。 というか。 口に入れたまま、ちら、と見下ろすと、真っ赤に染まった頬、うるんだ瞳。それはまさしく、情欲に濡れたそれで。 「や、やめろ、離せ…っ」 ぺしぺしと顔を叩かれるが、その勢いはさっきと同一人物とは思えないくらい弱くて。 口の中で、細い髪の毛をくちゅくちゅと転がすと、その弱い抵抗さえ、なくなって。 代わりに、手は口に当てられて、ぎゅ、と目をつむり、顔を真っ赤にして。 「ん、んん…っひぅっ!」 漏れ聞こえる声が、背筋にぞくっと来るほど艶っぽい。 「ろ、ロマーノ…」 「…っばかスペイン…っ」 こん、なの、外で、と完全に息が上がっている。もう今にも涙がこぼれそうな瞳で、見上げられて。 正気でいられるやつなんかおるわけないやろ! 「ロマーノ、あの、」 お伺いをたてようとすると、ぎゅうう、と首に腕が巻き付いてきた。締まる…!と思ったのもつかの間。ばかやろ、と小さな声がする。 「は、やく、家、つれてけちくしょー…っ」 「そんなかわいくおねだりされたら、聞いたるしかないやん!なあ!」 そう思わへん?と電話の向こうに主張すると、スペイン、と少々あきれたような声。 『ロマーノのいいところはひみつ、だったんじゃなかったのか?』 「こういうのは、自慢っていうねんで?」 覚えときや〜ドイツ、と笑って言えば、ため息が返ってきた。 「よくよく考えたら、イタちゃん命のドイツがロマーノに手出すわけないしなぁ。」 いや、まあ、そうなんだが、とため息を含んだ声に、あれー否定せーへんのや、イタちゃん命ってとこ、と指摘すると、沈黙が返ってきた。まだまだ若いなぁと、にやけてしまう。 「のろけやったら聞くで?」 イタちゃんのかわいいとことかーと、笑いながらそう言えば、恥ずかしいのか咳払い一つ。 『…ひみつ、だ。』 知ってるのは、俺だけでいい。 電話越しの強い言葉に、思わず吹き出してしまった。 戻る |