誕生日おめでとう、イタリア。と花束を渡すと、ありがとー!とうれしそうに笑った。 考えたんだが、何がいいのかわからなくて、結局本人に誕生日プレゼント、何が欲しい?と尋ねると、花束。と返ってきた。 「そう、薔薇の花束がいいな。いろんな色の!」 「…それだけ、か?」 「後は一緒にいてくれたらそれでいいよ。」 ごちそうも何もいらない。にこにこと笑う彼に本人がそう言うなら、と大きな花束を用意してきたわけで。 受け取ったイタリアは、とても、とてもうれしそうだ。 「…きれい」 「好きだったか?薔薇。」 確かに、植物が好きなのは知っているけれど。どうして薔薇、なんだろう? 首を傾げると、気付かない?と彼は笑った。目を輝かせるのが、かわいい。 「…わからん。何に気付くんだ?」 素直に負けを認めると、イタリアは、花束から一本、薔薇を引き抜いた。 鮮やかな真紅の、それを。 「ドイツから『赤い』バラをもらうってところが重要なんだよ。」 「っ!」 それは、つまり。その、意味は。 俺のところでは、赤いバラは、愛の証だから。つまり。 「ドイツ、好きって言って?って言ったって恥ずかしがって言ってくれないじゃん。だから。」 ちゅ、と赤い花弁に唇を落とす彼が、ありがと。と笑う、その表情が。 あまりに愛しげ、で。 思わず、抱きしめて口付けていた。ヴェとかドイツ、と慌てた声は聞こえない! つぶさないように抱きしめて、その頭を自分の肩に押しつける。 「ど、どい…?」 もごもごこもった呼びかけを聞きながら、深呼吸。 「好きだ。」 「!」 緊張した声で告げれば、もぞもぞ抵抗していた体がぴたり、と止まる。 そして、ゆっくりと腕を背中に回してきて。 「薔薇で…満足するな。今日、なら、何度でも、言うから。」 誕生日だからな。付け足すと、彼が小さくうなずいたのがわかった。 「…俺も好きだよ、ドイツ」 甘い声がそう言うのを聞いて、その体を抱きしめた。 戻る . ドイツが好き。震える声でそう言ったら、顔を真っ赤にして、ドイツはうなずいてくれた。俺もだ。そう言う声が信じられなくて、でもすっごくうれしくて! 一緒に帰る途中で、手袋を外したドイツの手に自分の指を絡ませてつなぐと、俺よりずっと熱かった。どきどき、してるんだ。そう思ったらこっちまでそれがうつって。 好き、好き。募っていた思いが、さらに大きくなる。 ねえドイツ、好きだよ、大好き。何度もそう言うと、照れるのかうううるさい!と怒鳴って先に行ってしまうから、ああ、またハグし損ねた、と残念に思う。でも、そんなときに限って。 「イタリア。」 何してる、置いていくぞ。って…そんなことしないくせにね。少し先でちゃんと待ってくれるドイツに、飛びつきにいくんだ。 好き、大好き。ドイツが、好き。 ねえドイツは?尋ねると、好きだ、って言ってくれる。たまーにだけど。そんなところも好き。 仕事をしてる横顔をじいっと見つめる。集中してるドイツは全然気付いてもくれないんだ。でも。一段落ついたのは、息をついた彼が、ぱっとこっちを見て。 真っ赤に染まる頬がかわいいなあと思いながら、ちゅーしてって言ったら仕事中だ!って怒られた。むう… でも、仕事が終わった後で、ちゃんと額にしてくれた。 ずっと一緒にいてよ、ねえドイツ。運命の人だって、そう思ってるんだから。お願い。 …こんなこと、寝てる間にしか言えないんだけど、さ。 笑って、仕事に疲れてソファで眠る彼の髪をぐしゃぐしゃかき回す。お休みモードー。 と思っていたら、その腕を強く引かれた。焦る暇もなく、ヴェっと声を上げて、彼の上に倒れ込む。 「Ja.」 約束しよう。ずっと、一緒だ。 耳元で言われた言葉に、慌てて顔を上げると、青い瞳がじっとこっちを見ていて。 「ど、どいつ、」 「イタリア、愛してる」 その甘い声と内容に。こてん、と熱くなった顔をその大きくて固い胸板にあてた。 コイスルオトメ byいきものがかり 戻る . 風呂に入ってとりあえずの傷の手当を終わらせて、寝室に来ると、ふらふらしていたイタリアがばたん、とベッドに倒れ込んだ。 「ばたんきゅー…。」 「おまえが言うな!」 怒鳴って、けれど自分の体を支えるその力もなくて、イタリアの隣に座り込んだ。 疲れた。本当に疲れた! 「…ほんっとーにおまえときたら…!!!」 迷惑をかけるなとはもう言わない。とうの昔に諦めた。 ただ、せめてその頻度を減らしてくれというのは、無茶振りなのか、それさえも不可能なのか!? ヴェー、ご、ごめんなさい、とシーツの中にもぞもぞ入っていくイタリア、のせいで、簡単で日帰り、のはずの仕事は何故か、帰宅が夜が明けてからになってしまっている。何故だ。何故失せもの探しが本格的な魔獣退治になる!? はああ、と深くため息。もう過ぎたことだ。諦めるしかないんだが。…依頼は、こなせたし。明日…もう今日か。朝一で届けにいけば終わり、だ。 「………そうか、もう、今日なのか。」 「?何が?」 眠そうな声で尋ねられ、迷う。今言うべきか、それとも。 「なあに?ドイツ。」 目をこすりながら体を起こす彼に、これは言うべき、か。と判断してうなずいた。 棚に隠していたそれを取り出す。 「なにそれ?」 「誕生日おめでとう。」 一瞬わけがわからない、とばかりにきょとん、として。 それから、とても、…心からうれしそうな笑顔! 「ありがとう!」 なになに、プレゼント?と完全に眠気の吹き飛んだ表情で目をきらきらさせる彼に苦笑。 「開けていい?」 「もちろんだ。」 包みをわたしてやると、子供みたいにわーい!と声を上げ、がさがさと開け始めた。 「あー…気に入るかどうか、わからないが…。」 言い訳がましく呟いてしまうのは、らしくないものを送っている、という自覚があるから、だろうか。 「わ…マント?」 ばさり、と広げるそれは、うぐいす色の短いマント、だ。今イタリアが使っているものととても、似たデザイン。 けれど、胸の留め具が、違う。描かれたのは、ギルドのマークと彼の家のシンボル、だ。 …俺が作った、なんてこと。言えないけれど。 「もうぼろぼろになっているから、な。…守護の魔法をかけてある。」 だから、デザインはあまりよくないかもしれないが…。そう続ける前に、イタリアはばさ、とそれを羽織った。 「似合う?」 にこにこ。うれしそうな顔。…その顔が見れただけで、疲れがふっとぶ気がするのは何故だろう? 「ああ。」 「えへへ。ありがとドイツ!大事にするよ!」 ありがとうのはぐーと抱きついてきた彼を抱えて、寝よう、とそう声をかけてベッドにもぐりこむ。 お祭り好きの多いうちのギルドのことだ。今日は…いや、きっと、今日も、騒がしい。 戻る . 彼女を待つ、のはいつものことだ、けれど。 今日ほど緊張したときも、………いやあった。二回目のデートのとき。 一回目は、これってデート、か?って気づいたのがデートの途中だったから。 代わりに二回目ががちがちだった。 それから、まだ数えるほどしか、…デートと呼べるようなものはしていないのだけれど。 付き合い始めて初の、彼女の誕生日。 喜ばせたい、と思うのは当たり前。 「ドイツー!」 大きな声に、顔を上げると、ぱたぱた走ってくる人影。ああ。今日もまたかわいらしい。 「おはよう、イタリア。」 「おはよ!えへへー早いねえ。」 「待ち合わせ時間は過ぎているが?」 「えっ!?…うあちゃー…時計止まってた…。」 今日は間に合ったと思ったのに。ごめんね?と見上げてくる顔に、仕方ないな、と苦笑して。 「怒らないの?」 「誕生日だからな。」 言えば、だよねー!よーし今日は誕生日を堪能するぞー!って両手を突き上げる。 「じゃあ、まずは時計屋か?」 「うー…そうだね。」 確かあっちに、そう、歩き出そうとするイタリアを、なんとか呼び止めて。 「なあに?」 「…つなぐ、か?」 手を、伸ばすと、ぱあ!と輝く表情。 そんな顔をしてくれるなら、がんばったかいはあった、と思う。 …しかしまあ、だいたいの行動に置いて俺の想定を覆してくれるイタリアが、ただ手をつなぐだけでまんぞくするわけもなく。 するり、と伸ばしたままの腕に絡まる、白くて細い腕。 「な…!」 腕組んで歩けって言うのか!? 「ダメ?」 けれど、きらきらした瞳で見上げられたら、断れるはずも、なく。 「…今日だけだからな…。」 「えへへやった!」 きゅうきゅうと抱きついてくるイタリアは、この上なく幸せそうで。 いろいろ、と。…本当にいろいろと言いたいことはあったのだが!(例えば胸が、とか、たとえば顔近い、とか) …そんな顔されたら、言えるわけもなく。 暴れる心臓を気合いと理性でなんとか、押さえて。 「それで?何が欲しいんだ?」 「やっぱりアクセサリーかなあ。」 かわいいのあるといいなー。言いながら、ぐいぐい腕を引っ張って歩く彼女について歩く。 …本当は、何か考えてプレゼントを送りたかったのだけれど。 何がいいのかなんてさっぱりわからなくて、三日三晩悩み抜いた末、当日に本人に選んでもらうという手を使うことにしたのだ。 「でも、本当になんでもよかったんだよ?」 「…それが一番やっかいなんだ…。」 なんでも、の範囲が広すぎて!困り果てた表情を浮かべると、くすくす笑い声。 「これかわいいなあ。」 手にとるのは、一つのネックレス。羽をかたどった、シルバーのそれはとてもかわいらしくて。 「それにするか?」 「んんー…似合うかな?」 「ああ。」 イタリアにはなんでも似合うと思うけれど。かわいらしいこれは、きっととても、似合う。 そう思いを込めてうなずくと、じゃあこれにしよー、と彼女はうれしそうに笑った。 会計して、つけて帰ります!と宣言したイタリアのために、店員の人はタグを切ってくれた。 「ドイツ、」 呼ばれて、渡されれば、はいはい。と受け取るしかないのを知ってる。 買ったばかりのそれを、彼女の首につけて。 「ありがと、ドイツ!」 「…いや。」 似合うー?とにこにこ笑う彼女に、とても。と返すと、何故かイタリアはくる、と目を丸くして、頬を赤く染めてしまった。 「イタリア?」 「…うー…かっこよすぎだようドイツー…。」 ぐりぐりと額を押し付けてくる彼女の方がかわいすぎ、だと思うのだが。 苦笑して、頭をぽんぽん、とたたいて、行くぞ。と声をかける。 「今日は誕生日を堪能するんだろう?」 「!うん!」 行こう。と今度は、…俺から手をつないで。 彼女のペースに合わせて、歩き出した。 戻る . 友達にメールを送り、携帯をベッドに投げ出すと、おそろいで買ってもらったストラップが揺れる。 「…へへ。」 拾い上げて眺める。先週末に、ドイツさんとデートしたときに買ってもらったんだ! ほんとは誕生日明日なんだけど、出張だからって。悪い。って謝られたけど、気にしてない。だって、ちゃんと覚えててくれたもん! 「そりゃあそばにいてくれるのが一番いいけどさ。」 でも、仕方ないものは仕方ない。我慢できないほど子供でもない。 そういう区別はちゃんとしようって、ドイツさんと約束したし。 大丈夫、うん。とうなずいていたら、ぴりりりり、といきなり鋭い電子音。電話かかってきた! わわ、わ、と慌てながら、ディスプレイを確認。 「!ドイツさん!?」 あわわ、と出る。ももももしもし、ってああもう、どもりすぎ! 『こんばんは、イタリア。起こしたか?』 「ううん、起きてた。」 どうしたの?尋ねると、あーいや、と口ごもる彼。首を傾げる。見える訳ないんだけど。 「ドイツさん?」 一向に帰ってこない返事に、呼ぶと、またあーって。 『もう少し。……よし。誕生日、おめでとう。』 イタリア。優しい声にきょとんと見上げると、時計の針が二本重なっていて。 「あ…」 『どうしても、一番に言いたくて、な。』 照れくさそうな声。夜遅くに悪いって。 「…ううん、ありがとう。すっごくうれしい!」 ありがとう。そうもう一度言うと、そうか、なら、よかった。って。 優しい声。ドイツさんだ。そう思うだけでどきどきしてしまう。 でも。 『今日はパーティーか?』 「うん。毎年そうだから。お姉ちゃんも帰ってくるから、二人分。」 『そうか。…そういえば、日本がプレゼント送ったと言っていたぞ?』 「えっ日本さんが!?わあ、なんだろう〜」 うきうきと話して、ふ、ともう一度、時計を見上げた。 …ドイツさん今日も仕事だよね… 『イタリア?どうかしたのか?』 「…あ、の、あんまり遅くまで電話してたら迷惑、かなって…」 でももう少し、あと少しでいいから。 『…おまえの声を、聞いていたい』 「えっ」 だめか?聞かれて、びっくりした。 むずむずと頬が緩んでいく! 「…今、」 『ん?』 「おんなじこと、考えてた。」 あなたの、その優しい声を聞いてたいなあって。 『…そうか。』 よかった。甘い声が耳に届く。 このまま時間が止まっちゃえばいいのに ああ、でもそれじゃダメだ。だって会いたいもん!だから。 『じゃあ、後少し。』 「うん、後少しだけ。」 君の声を聞かせて。 戻る . ふわりふわり。明るくてきらきらした白。鮮やかな黄色。 シフォンケーキ、みたいな。そういう服が好きなの、知ってる。 あと、スカート短いのはダメ。長いのか、そうでなかったらレギンス装備。タイツはアウト。 日差しの強い日はちゃんと帽子。日傘は、あんまり近づけなくなるからダメ。 メイクはできるだけ薄い方がいい。色は…ピンクかオレンジ。 もちろん、黒とか原色な感じの服も好きだし、ミニスカにブーツもかわいいと思うし、メイクだって、青とか、緑とか寒色系も似合わないわけじゃない。けど。 世界で一番好きな人、に、よく見られたいっていうのは、…恋する乙女みんな一緒の想い、かもね。 くすくす笑って、鏡で笑顔のチェックをしたらよし、オッケー! 「ルーイ!」 後ろから走っていって抱きつくとフェリシアーナ、と優しい声。 柔らかい瞳。お父さんモードじゃなくて、恋人モード。もちろんどっちも大好きなんだけど、やっぱりこっちの方がどきどきしちゃうなあ。 「待った?」 「いつものことだ。」 「ヴェー…」 ちろ、と見上げて、ごめんね、と言えばくしゃくしゃ撫でられて。 「行こう。」 手を繋いでくれるようになったのも、最近のことだ。 誕生日デート、しようか。そう誘われたのは昨日のこと。晩御飯はマリアとガヴィが腕を振るってくれるらしいから、それまで、二人きり。 見上げると、楽しげな笑み。楽しい?聞くと、当たり前だろう?と頭を撫でられた。 「愛しい恋人と一緒なんだから。」 「恋人?」 「今は、恋人。…それじゃ不満か?」 「ううん!」 大好き。そう笑ってみせると、彼は楽しげに笑った。 「どこに行きたい?」 「んー、んー…公園行こうよ。のんびりしたいな。」 「買い物は?」 「最後!」 腕を引いて走り出して。 「ねえルーイ」 「ん?」 「だあいすき!」 腕を引いて、頬にキスをすると、彼は誕生日、おめでとうと甘く囁いてくれた。 戻る |