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…このまま、腕の中に閉じこめていたいと思ってしまうのは、いけないことだろうか。
「イタリア…」
意識を飛ばすまで抱いて、ぐったりとした体を綺麗にして、ベッドに寝かせる。
…やばい、と言う自覚はある。このままでは本当に、閉じこめてしまいかねない。好きで好きで好きで、感情の制御がきかない。何をしでかすか、わからない。
世界で一番、守りたい人がいる。
世界で一番、壊してしまいたい人がいる。
…それが同一人物だという、矛盾。

「…イタリア。」
名前を呼んで、頭を撫でると、ぴくり、とまぶたが動いた。
「ん…」
「起こしたか?」
すまない。そう言うと、眠たげな瞳がこっちを見る。むう、と眉を寄せて不機嫌な顔になる。
「…ひどいよ、ドイツ…俺もう無理って言ったのに…」
かすれた声でそう言われて、ひどい、か。と小さく呟く。
「…そうだな。」
すまない。謝って、抱きしめる。
「それでもきっと、次も同じことをしてしまう。嫌だと言われても、無理だと言われても。」
…この手を離すことすら出来はしないだろう。
すまない。もう一度だけ謝って。
「…ひどいよね、ドイツは。」
声に、また謝ろうとしたら、伸びてきた手に口を塞がれた。
「…?」
なんだ?と見ると、イタリアは優しく、柔らかく微笑んで。
「そんなこと言われたら、俺余計にドイツから離れられなくなるじゃんか。」
ひどいよ、ドイツ。そう詰る声の、甘く優しいこと!

「責任、とってね」
口に当てられていた手が頬に添えられる。包み込む暖かい体温。
「…どうすればいい?」
尋ねると、ずうっと俺と一緒にいて!と笑った。明るくて華やかな、大輪の笑顔に、胸の中まで暖かくなって。
お安い御用だ、と笑って、抱き寄せた。


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イタリアに言えない秘密があるか?…そう問われれば、答えはJaだ。

もちろん、互いに国という立場なのだから、仕事に関することは言えないことがある。…そう言う話ではなく、プライベートなこと、でもだ。

趣味?といっても隠す前に長いつきあいだ…知られている。というか勝手に部屋を探すなと言いたい。しかも他人に話すな。誰がどSだ、誰が。…まぁそういうのが嫌いではないのは事実だが…。


ならば何を言えないかというと。

「ドイツ〜…」
擦りよってくる頭を、仕事中だと押し返す。
「やだよーはぐしてはぐ」
「イタリア…」
「お願い、」

例えば、そんな上目遣いにに甘えられると弱いだとか。

「…ドイツ疲れてる?」
「……いや、」
「嘘。」
自分の肩に俺の顔押しつけるように抱きしめられて、よしよしーと頭を撫でられて苦笑した。

例えば、そんな風に甘やかされると本当に安心してしまうとか

「一人でがんばらないでよ…」
俺がいるから、と額にキス。
「イタリア…」
「俺だって、一緒に悩むことくらいはできるよ」

例えば、へにゃと笑ったその笑顔に泣きそうになったとか。


そう言うことは、どうしても言えない。…言わなくて、いいと思う。俺だけの、イタリアの好きなところデータベースがどんどん更新されていくだけだ。

もちろん、最初からイタリアの好きなところなんて存在から何から全部、が前提に決まっているし。



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おまえにとって強いっていうのはどういうことだ。
と、ジェラートーと幸せそうに食べるイタリアに聞いてみた。

イタリアが弱いのには、強さの定義から間違っているのではないかとふと思ったわけで。(つまり目指すものが間違っていれば正解の場所に辿り付けるわけがないということだ。)

「ヴェ?強い?強い人?んー…ハンガリーさん。」
…うん。まあ。強いが。なんとなく意味が違う気がするのは気のせいか。
他には?と促すと、んんー。と考え込む。

「あっ、スイス!」
おお。それは納得だ。ただ、強いと知っているなら家を通るのはやめて欲しいが。
「後ねー、アメリカとか…あっ、シカとかも強いよね!」
……それは同列でいいのか。後シカって何だ。
けれどまあ、強い、という意味を取り違えてはいないようだ。うん。つまりは単純にこいつが弱いだけか。そうか。
それだけであそこまで弱くなるものなのか、と小さくため息。

それとー日本とー、ポーランド…は強いとは違うかなー。歌うように呟く彼を見て。
ふと気がついた。…俺の名前が出ていない。
「…?」
けれど、俺は?何て聞けなくて、上がっていく名前を黙って聞いていると、下からのぞきこむような視線と目があった。

「それとね、ドイツは、強くないと思うんだ。」
「…そうか。」
少し落胆してしまうのは、…いや。確かに自分がまだまだ強いといえる実力でないのはわかっている。もっと上がいるのだ。だから、もっと努力しなければ。
そう自分で思っていると、だってさ、とイタリアは言う。
「だってドイツ、いっつもがんばってるじゃない。俺知ってるよ。強くあろうって、いつもがんばってるの、知ってる。」
「!」
「だからね、俺のそばでは、強いドイツ、じゃないドイツでいて欲しいなって。努力してなった、んじゃなくて、んー…自然?なドイツで、いて欲しいなって。」
だから、ドイツは強くない。
にこにこ笑ってそう言うイタリアが。…本当に。

「…おまえは、本当に。」
「ヴェ?」
「弱いな。」
「ヴェー…ひどい…。」
「ひどくない。…ほら、食い終わったら訓練に戻るぞ。」
「ええー!」
やだー!とだだをこねるイタリアの腕を捕まえながら、こっそり、思う。

…本当は、嘘だ。弱くなんてない。強い。俺より、ずっと。
こういうことをさらりと言えてしまう心の強さは、誰よりも持っていると思う。
…まあ、それを差し引いても余りあるくらいに弱いのも、事実だが。

「ほら、行くぞ!」
「ヴェ〜…。」
…だからこそ、こいつの分まで強くならなければと思うのだ。


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イタリアが作った夕食を一緒に食べ、後片付けをドイツがして、終わった後にイタリアがドイツの腕の中に飛び込んで(ときどきは、ドイツがイタリアを抱き上げて)他愛のない話をするのは、いつものことだ。

ほとんどイタリアが話すのをドイツが聞いているだけなのだけれど、ドイツははしゃぐイタリアのかわいらしい声が紡ぐ言葉を聞くのが好きだし、イタリアはドイツがちゃんと話を聞いてくれるのがうれしいので何ら問題はなかった。

その声がぱたりとやんで、沈黙が降りるのもめずらしいことではない。
のどが渇いただったり、はぐして、だったり、イタリアからキスをしかけたり、逆にドイツからだったり。理由はいつも様々だ。けれどその沈黙も、とても心地のよいもので。

今日もあのねーとそれでねーを繰り返していたイタリアの声がふつ、とやんだ。
目の前の茶色い頭を撫で、首をかしげる。
すると、はあ、とため息。
「ど、うした?」
悩んでます、と言わんばかりのそのため息に、声をかける。
イタリアは答えずにもぞもぞ動いて、背中を向けていた体勢から逆に、向かい合うように膝の上に座って、ぎゅう、と抱きついてきた。
「イタリア?」
腰に手を回して支えながら、わけのわからない行動をとる彼に問いかける。まあ、わけがわからないのはいつものことだが。
頭を撫でて、言葉を待つ。
「…助けて、ドイツ…」
弱々しい声に、どっ、どうした!?と思わず声を荒げた。
どうした何があった、誰かにいじめられたか泣かされたか、イタリア兄かフランスかスイスかイギリスか、いやしかしさっきまで楽しそうに話していたのに、いや、もしかしたらそう振る舞っていただけかもしれない。
ざあ、と脳内を憶測が飛び交う。けれどそれは結局、憶測でしかない。
真実を知る唯一の人物は、顔を肩に擦り寄せ、ため息。本当に弱っているようなその様子に、とにかくその犯人をただではおかないことを心に決め、彼のあの、ね、としゃべりだした声を聞く。

「…溺れそうなの…」
…現在のイタリアのいる場所を確認しよう。いつもの俺の家、リビング。ソファの上(さらに言うならソファに座った俺の膝の上)。
…どこに溺れる要素があるのだろうか。思いながら、口には出さずに、続きを待つ。首に回された腕に力が入る。もう息ができなくなりそうだよ、そんな言葉にこっちの息が止まりそうだ。

「ドイツに溺れそう」
「…はあ?」
思わず変な声がでた。
擦りよってくるイタリアを見下ろす。
茶色い頭は柔らかで…相変わらず何を考えているかわからない。

「だから、ドイツが好きすぎて、恋に溺れそうなの!」
わかってよ、もう。ほんとに苦しいんだよ!

そんな風に頭をぐりぐりと擦り寄せてくる彼に何も言えなくなった。
言葉の代わりに、体が勝手に動いて彼をしっかりと抱きしめていた。
「ヴェっ!ど、ドイツ…痛い…」
「…うるさい」

手加減なんてできそうにない。なんだ、これは。このかわいらしい生き物は!
あふれる愛しさをそのまま腕の力に変えて抱きしめると痛い痛い!とうるさいので、少し、腕の力を緩めた。後頭部に回していた手をはずすと、上がる顔。泣き出す寸前の琥珀。
その色が、好奇心のようなきらきらした感情に染まっていく。

「ドイツドイツ」
「…うるさい」
「顔真っ赤だよー?」
「…っ、うるさい!」
あまりにうるさいから、そのおしゃべりな口を口付けで塞いでおいた。


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