パスタ、ピッツァ、かわいい女の子、晴れた日の青空、干したシーツのにおい、活気のある市場! それが俺の好きなもの! …なんだけど。 「…つまんない、なー…」 呟いて、頭の後ろで手を組む。 好きなものはみんなある! なのに、なんかつまらない。どうしてかはわからないけど。 「…ヴェー…」 呟いて、ゆっくり俺の町を歩く。 本当にいい天気だ!久しぶりの快晴! なのに、なんとなぁく、気分が乗らなくて。 どうしたんだろ、と思いながら、歩く。 と、ぽんぽん、と肩を叩かれた。 「?」 くるりと振り返る。と、ものすごい怖いドイツの顔! 「ヴェっ」 「イタリア…会議の開始時間はとうの昔にすぎているんだが…?」 ひくつく頬。怒りを耐えるような、低い声。 「え、え、え?」 会議?そんな、の……あっ!そういえば朝なんか言われた気がする! 「忘れてた…ごめんなさい…」 しゅん、として答えると、彼はもう慣れた、とため息を一つ。 「行くぞ。」 くしゃり、と頭を撫でて、少し優しい声で言ってくれた。 後を追おうとして、あれ、と思って振り返る。 さっきと同じはずの、空、街、風。 …さっきより、ずっとずっと鮮やかに色づいて見えるのは、どうして? 「イタリア!」 置いていくぞ、と遠くから呼ばれて、置いてかないで、と大慌てで駆け出した。 戻る . ゆきー!と走り出したイタリアを、ドイツは呆れて見送った。 別に雪なんか珍しくはない。あいつだってそうだろうに。 毎年同じ反応。イタリアは元気だ。雪ー!と駆け回っている。…よくやる、とは思うが、その明るい表情には、苦笑するしかなく。 「…やれやれ。」 これで毎年霜焼けで手がかゆいだのはしゃぎすぎて風邪引いただのやかましいのだから、放ってはおけない。 ため息をついていたら、どいつーと呼ばれた。何だ、と顔を上げたら。 べしゃっ 「ぶっ!?」 「命中ー」 あはは!と笑い声に引きつった笑みを浮かべて、顔にぶつけられた雪のかたまりを手で払う。 「…イ、タ、リ、ア?」 「ヴェっ…お、怒った?」 「……いいや?」 そう答えて、雪を集めてぎゅ、と固く固める。何個か、作って。 「ただ、自分がやったことは自分に帰ってくるということを勉強したほうがいいな!」 びゅ、と渾身の力をこめて投げるが、イタリアの逃げ足の方が速い。が、逃げ道さえ予測できれば、当てるのは難しい芸当じゃない。 「ヴェー!怖い怖い怖い!」 「黙れ!」 ひとしきり騒いで、すっかり二人ともぐっしょりと濡れてしまった。 「うへー…。」 「誰のせいだ…。」 まったく…とため息。 「…ほら。帰るぞ。」 「帰るー。あったかいもの食べようよー。」 「…そうだな。」 自然とつながれる手。…まあ、いいか。こんな寒い日には誰も外にいないし。とそのままにしておいたら、にこにこにことうれしそうな顔。 「何だ?」 「べっつにー。」 そんなことを言いながらにこにこと上機嫌なイタリアに、手をつなぐくらいなら、できるだけしてやろうか、と思った。 「どいつー。」 「何だ。」 「大好きー。」 「っ!!…。」 何も言わずにぐい、と軽い体を引き寄せて、こめかみにキスをした。 戻る . ※伊が後天性女体化ですのでご注意ください 「お手をどうぞ、お嬢さん。」 そんなセリフをドイツに(あの口下手で恥ずかしがりのドイツに!)言われて、何だかもうくらくらした。 そりゃあ、女の子にいきなり変えられちゃったときはびっくりした。すごくびっくりした。 だけど、フランス兄ちゃんに、チャンスだぞって言われてどきっとした。 ドイツは、外では手をつないでくれない。ハグは、突撃したときだけ。後はすぐこら離れろって。キスなんてもってのほか。男同士でそんなことできるかって。(その後で、別におまえのことが嫌いになったわけじゃないんだ、と落ち込んだ俺よりずっと傷ついた顔で言うから、わかった、としかいえなくて。)一回でいいから、映画のヒロインみたいな、甘いデートをしてみたいなあ、なんて。思ってて。…でも、だめってわかってて。 でも。 今みたいに、女の子の間、だったら? そう思って、ドイツの家に行ってみた。 驚いて、警戒心の塊みたいになったドイツを、納得させるのに1時間(最終的に俺イタリアだもんーと本気で泣いたらわかってくれた。) 次に、元に戻る方法を調べ始めたドイツに付き合わされて図書館で2時間(暇だった。ものすごく暇だった。) その後、各国引っ張りまわされて、元に戻る方法を聞いてまわって1時間(いつもより体力がもたなくて、もうくたくた) 気づいたときには、もう日も暮れかけてた。 その後で、俺をこうした張本人のイギリス(あまりのドイツの剣幕に隠れてたみたい)が引っ張り出されてきて、明日になったら元に戻るってわかって、やっとドイツが止まってくれて、疲れた、とため息をついていたら、騒ぎにやってきたハンガリーさんと、イギリスと仕事だったらしい日本とフランス兄ちゃんにドイツが捕まって、なんかすごい怖い顔で話してて、今日これで終わっちゃうのかなあ。せっかくのチャンスだったのに、と思っていたら、ハンガリーさんにこっちいらっしゃい、と言われてついていったら、きらきらしたドレスがたくさん売っているところにつれていかれて、さあ好きなのを選んで、と言われたから、じゃあこれ、と明るい水色のドレスを選んだらさあ着替えろと服脱がされて着せられて、何、何、と思っていたら、仕上げとばかりにメイクと髪のセットまでされて、で、店の外に出たら。 タキシード姿の、ドイツがいた。うわーうわー普段よりずっとかっこいいと見惚れていたら。顔を赤くしたドイツが、言ったのだ。 「お手をどうぞ、お嬢さん。」 差し出された手と、ドイツの顔を交互で見ることしかできなく、なって。 「…イタリア。」 あーそのなんだ。ダメならダメと、言ってほしいんだが。 そんなことを言うドイツの口調がいつもどおりで、あ、これ現実だ、とやっと頭が戻ってきて、その手を取ろうと足を踏み出して。 慣れないヒールにつんのめって、ドイツの胸の中に倒れこんでしまった。 「わ!」 「っ!…大丈夫、か?」 「ご、ごめん、だい、じょう…。」 ドイツの顔を見上げて、その蒼い瞳に、思わず息を飲んだ。 いつもより、少し遠い瞳。女の子だから、ちょっと身長が低いみたいで。 だけど、そこから見上げた、彼の瞳の美しさ…ううん、瞳だけじゃない。ドイツは、本当に綺麗だ。そのきっちり固められた金髪も、白い肌も、がっしりとした男らしい体つき、も。本当に、かっこいい。 どきどきと心臓が高鳴る。かあっと体中に血液が駆け巡って、動けなくて。 何も言えないでいたら、ケガは、と聞かれた。慌てて首を横に振る。 「…そうか。…じゃあ、行くぞ。」 そう言って、背中を向けて歩き出そうとしてしまうのが惜しくて、待って、と声をかけようとしたら、ぐい、と腕を引かれた。 …え。 手をつなぐ、よりずっと、近い距離。…俺今、ドイツと腕組んで歩いてる…? 「ど、ドイツ…?」 「…腹減った、だろう。」 今日は歩き詰めだったからな。おごってやる。 そんなことを、振り向かないままに言うから。 「…デート、みたい…。」 「みたい、なんじゃない。…デートだろう。」 思わず、声を失くして。 少し走って、追いついて、その腕に、しがみつくように腕を回した。 「おいしい!」 そうか。そう言われた。呆れたような笑顔。…あれ俺食べすぎ? 思いながら首を傾げて、運ばれてくるパスタを口に運ぶ。…おいしい。ほんとうにおいしい。どうしてこんなに俺の好み知ってるんだろうってくらい、おいしい! 「ドイツもう食べないの?」 「おまえは少し控えろ。…まだ、デザートも残ってるんだぞ。」 「デザート!!」 目をきらきらさせたら、苦笑された。ほら、ついてる。布で拭われる頬。 「そうだ。だから…。」 「大丈夫、デザートはベツバラだから。」 そう言って、食べるのを再開する。目の前からため息。…呆れられたって、おいしいものは食べたいんだもん! くるくる、とフォークに巻いて、食べようとして、ふと気づいた。 「…この、トマト、」 「?トマトが、どうした?」 ううん、なんでもない。そう答えて、口に運ぶ。やっぱりおいしい。そして、どこかで確信する。…やっぱり、そうだ。 小さく笑ったら、そんなにおいしいか?と言われて、うん!とうなずいた。 「とっても、おいしいよ!」 つれてきてくれて、ありがとう、ドイツ。そう笑ったら、よかった、と柔らかく笑った。 「おなかいっっっぱい!」 食べたーといいながら、街を歩く。 「それはよかった。」 あの後に出てきたデザートがこれまたほんとにおいしくて、ドイツの分ももらって食べちゃった。それだけ満足したなら、またつれてきてやる。そう言って笑ったドイツに、うん。笑って。 …でもね、ドイツ。俺、わかっちゃったんだ。 「ありがとうドイツ。とっても楽しかったよ?」 「…そう、か。なら。」 また来よう。絶対に。…そんなこと約束したら、さ。ドイツ。 「困るんじゃないの?」 からかうように言って、後ろを歩くドイツを振り向く。ぎくって肩が揺れたの、見逃してないよ、ドーイツ。 「な、何の話を、」 「あのパスタ。…作ったの、兄ちゃんでしょ。」 目を見開いたドイツに、あたりだ。と笑う。 「前菜は、フランス兄ちゃんだよね。で、デザートは、オーストリアさん。」 「…どうして。」 わかった。心底不思議そうなドイツに、ふふん、と胸を張ってみせる。料理に関してはそこそこ自信があるんだから! 「じゃあ、デート自体を仕組んだのは日本かな?みんな、ぐるだったんでしょ。」 ハンガリーさんは俺を着替えさせるかかりでーと、言ってみせると、…いつ、わかった。と聞かれた。 「最初は、何か、ドイツ怒ってるときの日本がなんかたくらんでるときの顔してたからかな?」 きらきらというか、爛々と輝いていた。たまーに見る策士の表情に、何たくらんでるんだろーと思ってた。 「その次は、トマト。」 「トマト?」 うん。とうなずく。兄ちゃん、トマトでパスタ作る時に、切り方に癖あるんだよね。…スペイン兄ちゃんと、おんなじ癖。あと、味も。俺が好きな味あんなによく知ってるのは、家族である兄ちゃんくらいしかいない。 その後ででてきたデザートは、繊細な味をした、俺が昔大好きだったケーキで。あれが作れるのはオーストリアさんしかいないし。 そう考えたら、前菜のフランス料理は、こないだフランス兄ちゃんにご馳走してもらったときに俺がおいしいって言ったやつだし。 そこまでわかったら、ドイツがいきなりデートしようと言い出したのも、…腕、組んで歩いてくれたのも、誰かが言って、それで仕組んだことだって、簡単にわかったから。 ほんとは、ドイツが自分から、デートしようって言ってくれたんだったら、うれしかった、けど。…でも、とっても楽しかったのは本当! 「だから、ありがと、ドイツ。」 そう笑ったら、手を差し出された。 「…お手をどうぞ、お嬢さん。」 「…?」 さっきと同じセリフに首を傾げて、けれど手を乗せたら、す、と片膝をついたドイツに、手の甲にキスをされた。 「!!」 驚いているうちに、立ち上がったドイツにぐ、と腕を引かれて、抱きしめられる。強いハグに、目をぱちくりさせて。 「ど…どい、つ?」 「今度は。…今度は。ちゃんと、俺が計画して、誘う、から。…二人きりで。デート。…約束する。」 低くて、体中に響く声でそう言われて、微笑んで、ちいさく、うん、とうなずいた。 「絶対だよ?」 「ああ。絶対だ。」 「…みんなに、お礼、言わなきゃ。」 「……そうだな。」 その前に、イタリア。 呼ばれて、顔を見上げる。ドイツの瞳の中に、俺の姿が映りこんでいた。その姿が、少しずつ大きくなってくる。 「…目を、閉じてくれないか。」 「ドイツこそ。」 吐息が触れ合うくらいの距離でそう言いあって、二人して小さく噴き出して、触れるだけのキスをした。 今までしたどのキスより、一番気持ちいいキスだった。 戻る |