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このお話は現代パロなのでご注意ください。

設定
イタリア A会社社長令嬢。でも一人称俺。ドイツに片想い
ドイツ B会社社長子息。兄がいる。イタリアに片想い
プロイセン ドイツの兄。イタリアの婚約者
見てやるぜーって方は、どうぞ





幼い頃から、ずっと好きな人がいる。
幼なじみで、小さい頃からずっと知ってた。初めてあった頃は、ちょっと怖くて。
でも、優しい彼に、すぐに懐いて、ちょこちょこ後ろをついて回って。
で、びたんとこけてびーと泣いたら、すぐ戻ってきてくれて。
『ほら』
差し出される、ハンカチ。困ったような表情。
『俺が、そばにいるから。だから、泣くな。』
そう、言ってくれた、優しい人。
ドイツ。
今でもずっと、好きな人。

幼い頃から、ずっと好きな人がいる。
幼なじみで、小さい頃からずっと知っていた。初めて会った頃は何でこんなに泣くんだこいつはと当惑したが、泣きやんだ後に見せる笑顔に、どんどん惹かれて。
後ろでびたんと転けて泣き出すから、大慌てで駆け寄って、すっかり持ち歩く癖のできたハンカチを差し出して。
『ありがと、ドイツ』
泣きながら笑うのが、世界で一番美しいと思えた。
イタリア。
今も、今でも、想い続ける人。



結婚の話が決まった。と、そう言われた。
よくわからなかった。婚約者、が、いる、というのは、聞いたことがある、気がした。でも、俺にはよくわかってなくて。あの会社とは今後も。そうなんか言ってるお父さんの声が頭の上を素通りする。
結婚?誰が?…俺が?
呆然としている間に、決められていて。もう変更は効かないみたいで。式は一週間後。そう、言われて。

…ドイツじゃ、ない人と、結婚…?

くら、と世界が回った。


「…今日、結婚式の日程、決まった。」
いきなりやってきた兄にそう言われて、そうなのか。おめでとう。と呟く。
「…止めないのか。」
「…決まってるん、だろう。」
止められない。いくら止めたくても。婚約が決まったときだって、止めようとした。けれど、どうにもできなかった。どうにも、できなかった!

兄の結婚相手が、あのイタリアだったとしても!

「…来いよ、ヴェスト。」
イタちゃんの晴れ姿、見に来い。そう、招待状を置いていった兄の顔など、一度も見ることができなかった。



気がついたら、部屋に寝かされていた。
…そうか。倒れたのか、俺。思って、それから。

結婚。だって。

うわあ、と涙があふれてくる。大慌てで、あたりをさぐって、携帯をとりだした。
電話帳を探して、一番よくかける番号へ、電話をかける。声が聞きたかった。そうしないと、壊れてしまいそう!
コール音を聞きながら、必死で涙をぬぐう。困らせちゃ、いけない。だから。泣かないように。
『…はい。』
「ドイツ…!」
低い声。聞いただけで、また泣きそうになってしまう。ああ、好きだ。大好きだ。イタリア。
どうした?こんな時間に。そう、落ち着いた声。胸がきゅうっと苦しくなる。
「あ、あの、あの、あのね…。」
何を言ったらいいんだろう。何も言えないで、口をあけたり閉じたりする。
そうしたら、そういえば、兄から聞いたが、と言われた。

『結婚、するんだってな。おめでとう』
そう、言われた。
心臓が、凍りついたような気が、した。

「…うん、そう、なんだ。ありがと、ドイツ。」
冷静な声がそういうのを、どこか遠くで聞く。おめでとう、だって。そうか。ドイツにとって
はおめでとう、なことなんだ。携帯を握る指先が、どんどんと冷えていく。
「じゃあ、それ報告したかっただけ、だから。こんな時間にごめんね?」
ぷつ、と通話を切って。ばた、と倒れた。

…本当は、止めて欲しかった。結婚なんかするな。俺はおまえがって。
……そんなの、ドラマ、だけだよね。そうだ。そうなんだ。ドイツは、俺なんかのこと。

世界が、崩れていく音が、聞こえた気が、した。




切れた携帯を放り出して、机をだん!と殴りつける。
おめでとう、だって?そんなこと微塵にも思っていないくせに。
本当は、結婚なんかするな、と。愛しているんだ、イタリア、とそう告げたくて仕方がなかったくせに!
「…っくそ…!」
ぎり、と歯を食いしばる。どうにかなってしまいそうだった。狂ってしまいそうだ!このまま、イタリアを失うなんて、そんなこと…!
「イタリア…!」
好きだ。好きだ好きだ、愛している!この世で一番、愛している!

…けれど。だから、こそ。
「…幸せに、なって、欲しいんだ…!」
たとえそれが、自分でない誰かとのハッピーエンドであったとしても。
どうしても、どうあっても、あいつには幸せになって欲しいんだ。
そのためだったら、自分がどうなろうが、それは、構わない。構わないんだ!

だから。
「…イタリア…。」
この想いは、封印するから。だから。
笑っていてくれ、イタリア。俺は、おまえの笑顔が好きなんだ。




あっという間に迎えた式当日。
本当に、早かった。少し遠い世界から、ぼーっと見ている間に、場所が、段取りが決まって、ドレスを、決めて。
ドイツには、会っていない。会えなかった。どんな顔して会えばいいのか、わからない。
それに、合う時間もなかった。忙しくて。
ドレスに着替えて、ひとり、式の時間を待つ。
俺の婚約者、は、ドイツのお兄さんだった。あんまりよく知らないけどでも、知ってる。優しくしてもらったこともある。…大丈夫。きっと、やっていける。

ぼんやりと、鏡を見る。
ウェディングドレス姿の俺。
ドイツの、隣で、着たかったな。
そんなことを思っても、心は動かない。まるで、壊れてしまったように。
笑ってみる。…笑える。大丈夫。問題ない。大丈夫、だ。

こんこん、とノックの音が、響いた。
「はい?」
そう返事をすると、ドアが、開いて。そこには。
「…ど、いつ…。」
久しぶりに会う姿に、壊れたはずの心が、どくん、と動いた。


小さくため息をついて、そしてこぶしを握る。
大丈夫だ。笑える。あいつに、おめでとうと、そう言ってやるんだろう?ドイツ。
そう、自分に言い聞かせる。心の中で渦巻く欲望は、深くに押しやって、もう一度だけ深呼吸。
ノックを、した。
『はい?』
返事に、ドアを、ゆっくりと、開く。

白。

ふわりと美しい白いウェディングドレス姿のイタリアが、目を丸くしてこっちを見ていた。
「…ド、イツ…。」
「…久しぶり、だな。」
笑ってみせる。大丈夫。大丈夫だ。できる。だから。
暴れる激情を抑え込んで、久しぶり、とそう呟くイタリアを、見る。
美しかった。世界一。まるで大輪の花のように、きらきらして。
「参加、するんだ?式。」
「…ああ。」
そううなずくと、そっか。と返ってきた。
「…イタリア。」
名前を呼んで、より一層暴れだす獣を内側に閉じ込めたまま、笑う。

「おめでとう。」

おめでとう。そういわれた。
ああ、ありがとうって言わなきゃ。そう思って、口を開いて。
つ、と、頬を何かが伝った。
なんだろ、と触ると、涙が流れていて。
「あ、あれ?何で泣いてるんだろう俺。大丈夫なんだよ。大丈夫、なんだけど。」
笑って見せる。涙は、何故かわからないけど後から後から止まらない。やだな、ドイツびっくりしてる。困らせたいわけじゃ、ないのに!
必死に涙を拭っていると、突然、抱きしめられた。
強い力。息が止まった。
「え…?」
「…笑うな。」
低い声で、言われる。
「そんな、つらそうに、笑うな…!」


笑って欲しいとは思っていた。けれど、こんな、辛そうな、我慢したような笑顔を見たいわけじゃない!
つ、と頬を伝った涙を見た瞬間に、もう、だめだった。獣を飼いならすことなど、もうできない。

「おまえが幸せになるなら、いいと思っていた。けれど、イタリア。ダメだ。もうダメだ。おまえが、そんな風に泣くのを、俺は見てなんかいられない!」
え、あの、と困惑した表情を浮かべるイタリアの腰に手を回して、抱き上げる。
「きゃ!え、ど、ドイツ?」
「連れて行く。…あんなやつにおまえを渡せない。」
愛しているんだ、イタリア。
そう、まっすぐに伝えた。

愛してるって、そう、言われた。
信じられない。嘘、でも、抱き上げられたドイツの体温とか、運ばれて、歩いていく振動とか、本物で、信じられない!これが、現実!
「ちょ、ドイツ!おまえ何やって…」
「うるさい、どけ!」
低く一喝。
それだけで、廊下にいた人たちをどけたドイツは、しっかりと俺を抱きしめていて、離さなくて、それで。

…愛してるって、そう、言われた…!

「ドイツ…!」
首にすがりつく。俺も、俺も好き。大好き。そう伝えて。ああもう、絶対離さない!何があっても離したりしない!
「…そのまま、しがみついてろ。」
甘い声で言われて、うなずく。途端、ドイツは走り出して。
揺れる視界。でも、怖くなんかない。だって、ドイツだもん!


走って教会の入り口へと近づいて、ドイツは急に、足を止めた。
「…ドイツ?」
顔を上げて、ドイツが難しい顔で見ている方を見る。
「…!プロイ、セン…。」
俺が、結婚するはずだった、人。
その人が、ドアを背に、立っていて。
ぎゅう、とドイツにしがみつく。

「…は。」
けれど、プロイセンは、苦笑して、後ろのドアを開け放った。まぶしい外の光。
「行けよ、馬鹿弟。」
「おい…?」
「遅いんだよ。もうちょっと早く来いよな。後の処理とか大変なんだぞ?ヴェスト。」
そう、何かを諦めたように、けれど晴れ晴れと、彼は笑った。
「優しいお兄ちゃんがあとはどうにかしてやる。だから。…行け。」
「…すまない、兄さん。」
横を通り過ぎるときに、ごめんなさい、と小さく謝った。
「幸せになれよ!イタちゃん!」
後ろからの声にはい!と答えて。


集まった人たちのびっくりした顔が見える。
けど、次第に笑い声になる。拍手で迎えられて、ぱちぱちと瞬く。
「ドイツさん!」
車、回しておきました、なんて日本がにっこりしてる。ドイツと顔を見合わせて、噴き出して。
幸せで、涙がこぼれた。

車に乗り込んで、一端手を離す。運転席にドイツが乗り込んで、何かがさごそしてからほら、と差し出した。
「泣くな。俺が、一緒にいるから。」
差し出されるハンカチ。優しい笑顔!
抱きついて、ありがと、ドイツ、と囁いた。




「おーおー、大歓迎ムードだな。」
「そりゃみんな知ってたしなあ。あの二人のラブラブっぷりは。」
明るい声に、座り込んだまま、ちら、と見上げる。
「何の用だよ…」
「いやあ。ふられた男の泣き顔見に?」
「見事にふられたなぁ。」
によによと笑う悪友二人に、プロイセンはくそ、とつぶやいて。
「…本気、だったんだろ。」
「…そうだよ、悪いかよ、ああああもう!」
叫びだした彼に、フランスとスペインは笑って。
「ま、ヤケ酒なら付き合ってやるよ。朝まで飲み明かすか?」
「おまえの奢りでな〜」
ばんばんと明るく背中を叩く友人に、言えないが感謝しながら、ちくしょー飲むぞー!と叫んだ。

ああ、どうか。
愛しいあのこが幸せになりますように!


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