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「ドイツ!」
声と同時に背後からがばっと抱きつかれ、少しだけよろめいて、はぁあと一つため息。
「…何だ、イタリア」
まったく毎度毎度、とぼやくが、イタリアがいつものようにパスターとか言い出さず、ただ背中に頭をすり付けてくるだけなので、怪訝に思ってイタリア?と名前を呼ぶ
「ドイツ〜…」
ぎゅ、としがみついてくるだけでいつもにくらべるとずっとずっと静かなイタリアに、両手を握り、自分から離させて振り返り、うつむいたままの顔をのぞき込む。
「どうしたんだ、イタリア。誰かに何かされたのか?」

またイタリア兄に何か言われたのか、はたまたフランスかイギリスか。
見当をつけながら尋ねるが、イタリアはなぜか腕を伸ばしてきた。
手を離してやると、首に腕を回してぎゅうう、と抱きつかれて。

こんなことは初めてで、どうしていいやらわからなくて、とりあえずあやすように頭を撫でる。

「…あの、ね、」

小さな声に、言ってみろ、とうながすと。
「フランス兄ちゃんが、」
フランスか。どうやって仕返ししてやろうか。眉をひそめて、頭の中でシミュレートしていると、あの、とまだイタリアが何か言いたげなのに気づいて現実に戻った。
黙って、言葉の続きを待つ。

「…うらやましかった、んだ」
「……は?」

思いも寄らない台詞に眉を寄せて、詳しく話を聞くと、恋人と甘い雰囲気のところにばーんと入っていったらしく、それでも二人の空気で、べたべたな二人に、あてられたらしい。

「ものすごくドイツに会いたくなったの!」
ドイツ〜と抱きつかれて、はぁあとため息。心配して損をした気分だ。

「ねぇ、ドイツ。愛してるって言って?」
「は!?」
「フランス兄ちゃんみたいに」
…無理だ、それは。
はぁはぁ言ってるフランスを思い浮かべて眉を寄せる。
「じゃあ、フランス兄ちゃんみたいじゃなくていいから、お願い〜」
きらきらとした目で見上げられて、仕方ないなと思ってしまうあたり、甘いなぁと苦笑。

咳払いして、彼の耳元で、愛している、と呟くと、自分の声がひどく甘くて、思わず口を手で塞いだ。


「ヴェ〜!」
こっちがうろたえているにも関わらず、お気に召したらしい彼はすりすりと頭をすり寄せてきて。


「俺も、愛してる。」
上目遣いに甘い声、が脳天をクリーンヒット!

ドイツー、メロメロ?う、うるさぁい!なんて会話を交わして、あとは、言葉なんかいらない世界に。


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イタリアは、感情表現が豊かだ。よく笑い、よく泣き。あまり怒ることはしないが、彼の代わりに、イタリア兄がよく怒っている。
いつでも、ヴェー、ドイツーと、訳の分からない声を上げながら、はしゃいで、元気で。
そんなイタリアを、時々はうるさいと感じることもあるのだが、もうすでにいないと落ち着かない。生活するのに欠かせないものとなっている。

「ヴェー、ドイツー」
いつもの気の抜ける声に、続くセリフを予想しながら、何だ、と顔を上げる。
「ハグしてー?」
「はいはい」
読んでいた本を一端閉じ、イタリアを膝の上に座らせて、片手で腰を引き寄せる。
昔は本当に恥ずかしかったが、今では慣れたものだ。
「えへへ〜」
すぐそばのうれしそうな笑顔に、こっちまで笑顔になってしまう。

本を読むのを諦め、テーブルに置く。
そして、腕はイタリアの頭に。
柔らかい髪をなでて、その感触を楽しんだ。髪を一房引き寄せて、口づけを送る。
「ドイツ、今日はなんか、優しいね。」
「それは、いつもは優しくないということか?」
ひどいな、と耳元で囁くと、びく、と細い肩が跳ねた。そんな一挙手一投足が、愛おしくてたまらない。

耳にキスを落として、柔らかい皮膚を甘く噛む。…そんなわけはないのに、どうして甘く感じるんだろうか。
「ん…そう、じゃなくて、なんて、いうか、いつもも優しいけど、それよりも、今日は。」
振り返ったイタリアの、美しい瞳のすぐ下にキス。
「今日は?」
優しく先を促すと、イタリアは少し頬を赤く染めた。
ああ、おいしそうだ。そう思うままに、かぷ、と頬にかぶりつく。痕が残らないように、傷つかないように、優しく。

「…!なんか、優しいっていうか、変…?あと、」
いぶかしげに、あつ、い?と呟いたイタリアの声が、届くか届かないか。

イタリアの首筋に、顔を埋めた。

………。

「え、わ、ど、ドイツ!?うわすっごい熱い!風邪!?ど、どうしよ、お、オーストリアさぁん!日本〜!」


その後数日、ドイツは熱が下がらずベッドの住人と化していた。

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感情という奴は、本気でやっかいだと思うのだ。
特に、こいつに対する感情は。

「……イタリア…」
仕事部屋に来て、構えなくて悪いな、と言ったら、天気がいいから外で絵描いてくる。と出て行ったまま帰ってこないイタリアを探しに、外に出てみると、奇跡的に公園の木の下で眠っているイタリアを発見した。
見つけられるわけがないのだ、本来ならば。
眠っている彼を、どこにいるかわからない彼を、見つけられるわけがない。

それでも、こうして見つけられるのは、どうしてなのか。やはり、俺たちが『国』だからなのか、何故なのか。
理由は不明だ。けれど、起きたらイタリアは、ドイツだからだよ、と笑うのだろう。簡単に予想がついた。ドイツだから、見つけられるんだよ。と。
それは、結果論としては正しい。けれど、いつもそうとは限らないだろう、と思うのだ。そう言って怒るのだ。イタリアはあまり聞かないけれど。
ドイツだからだよ、という言葉は、うれしい。俺が信頼されている証。それを表した、言葉。うれしくないわけがない。
けれど、危険でもある。その言葉どおりに、いつもうまくいくとは、限らないのだから。自衛の精神を持ってほしい、のだ。
信頼してくれるのはうれしい。けれど、強くはなってほしいのだ。自分を守れるように。


もしも、もしも。
俺が助けに行けないそのときのために。


…そんなときが、来ないことを、祈っているのだが。

さらり、と髪をなでる。細い、触り心地のいい、髪。そっと口付ける。自分だけに許されている(はず)の、行動。
ずっとこうしていられるなら、彼が強くなどならなければいいと思う、恋人としての俺がいる。
強くなってもらわなければ、困る。そう考える、同盟国としての俺がいる。
同時に成立し得ない二律背反。どちらも、俺の願いには違いなくて。
どちらか、なんて選べはしない。選べるわけがない。どちらも大事な、俺の願い。

はぁ、とため息をついて、空を見上げる。
んん、という声が聞こえて、見下ろすと、瞼を震わせるイタリアが見えた。
頭をなでてやると、ゆっくりと目が開いていく。

ーまぁ、結局は、こいつが笑顔になれる選択をしてしまうんだろうけど。

苦笑して、そっと額にキスを落とした。
あ、ドイツだ〜、そう、イタリアが笑うのは、そう遠くない未来のこと。


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「ドイツー。」
ぎゅう、とそのムキムキな腕に抱きついて、擦り寄る。
「なんだ。」
苦笑して、頭をなでてくれる、そんな優しいところが、好き。
「好きだよー、ドイツ。」
「、ああ、俺も。」
返事の前に一拍あくのはいつものこと。どうしても慣れない、と、少し顔を赤くしてしまうのも。そんなところも、かわいくて大好き。

あと、愛しげに髪にキスをくれるとことか、抱きしめるときには、俺が苦しくないようにそっと力をいれてくれるとことか、俺が作った料理、ちょっと作りすぎちゃった、ってときでも残さず食べてくれるとことか、買い物に行くとき、人が多いときは、恥ずかしそうに、それでもしっかり手を握ってくれるとことか、俺が転びかけたら絶対助けてくれるとことか、眠たくなって目をこすると、赤くなるから、と止めてくれるとことか、寝るときに額に優しくキスをくれて、おやすみ、イタリア、と言ってくれるとことか、あとあと、

続けようとしたら、口を手でふさがれた。

「む?」
見上げると、向こうを向いたドイツの、真っ赤に染まった耳が見えた。
「いい…もう、いいから。」
「えー、何で!?俺まだ全然言い終わってないよ!ドイツの好きなとこ!あとね、えーと、」
「頼むから止めてくれ!」

そこまで言われたら、止めるしかない。
でも、不満で、ふくれてみせる。
「俺、まだほんのちょっとしか言ってないのに…ドイツのすきなとこ、まだまだたくさんあるのに…。」
「…わかったから、」
「わかってない!」
もっともっともーっと、たくさんあるんだからね!と両手を大きく広げて表現すると、彼は、疲れたように笑って、はいはい、と抱きしめてきた。
ドイツの膝の上に座るのは、あんまり座り心地はよくないけど、暖かくて、ドイツをいっぱい感じれるから好き。

「ドイツ、ドイツは、俺のどこが好き?」
思いついて聞いてみると、ドイツは、あー…と呟いて、考え始めた。
ドイツは生真面目だから、些細な質問にも、しっかり答えを考えてくれる。そういうとこも、俺大好き。


……にしても、長いんじゃないかなあ?ドイツ。
うーん、と考え始めて、だいぶ経った気がする。
もしかして、俺の好きなとこって、そんなに考えないと出てこないの!?

「ど、ドイツー!」
泣きそうになりながらそう訴えると、ああいや、そうじゃなくて、とドイツは慌てて言って。
人差し指で頬をかきながら、ちら、とこっちを見て、またどこか遠くを見て。

「…全部、というのは、ありきたりすぎる気がするんだが。」

そうとしか言いようがないんだ。照れくさそうに笑ったドイツに、もう何にも言えなくなって、ぎゅうううっと抱きついた!

ああもう!もうどうしたらいいんだろう俺!
「ドイツ好き好き大好きーっ!!」

言葉じゃ全然足りないけど、顔中に降らせるキスでも全然足りないけど、それしか今の気持ちを表現することができなくて、もどかしく思いながらそれでも首に腕を回してキスをたくさんすると、…俺もだ。と優しい腕に強く抱きしめられた。


キスして抱きしめて


(ドイツ、俺、 お、おい、イタリア!? お、俺、う、うぇ、し、しあわせだよーっうえええっ! …なら、いい。)


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