今日は、世界会議の日だ。 いつもなら、あんまり好きじゃない(みんなと会えるのはうれしいんだけどじっとしてないと怒られるしおなかすくし…)んだけど、今日は別! だって、久しぶりに、本当に久しぶりにドイツに会えるんだもん! ドイツがロシアのとこ行ってたり俺がアメリカのとこに出張だったりしてて、もうずっとずっと、半月くらい会ってない。 今日は、世界会議。ドイツの家の近くでするから、会議の間は、ドイツの家に泊まるって兄ちゃんにも言ってある(ちなみに、兄ちゃんは昨日さぼったせいで今日は家でお仕事。)、ドイツとパスタ食べて、ハグしてキスして、とにかくずっとずっと一緒にいるんだ! 会場まで走っていって、ばん!と扉を開く! 目に入るのは、オールバックにまとめられた金髪と空よりも蒼い蒼い瞳、それ以外は目に入らなくて! 「ドイツーっ!!」 両手を開いてハグしに走る。 がば、と抱きしめる!… はずの腕は、何故かスカ、と空を切って。 「ヴェ?」 理由は簡単、ドイツが寸前で避けたからだ。 なんで、と見上げようとすると、遅い!と怒声がふってきて、ひゃあ、と首をすくめた。 「遅刻者が来た所で、さっそく会議をはじめるぞ。…早く席につけ。」 そう言われてまわりを見渡すと、すでに全員が席に着いていた。 「ご、ごめん…。」 ぱたぱたと自分の席へと行くと、日本やフランス兄ちゃんやスペイン兄ちゃんがおはよう、と挨拶をくれた。おはよー!と返事をする。 がた、と座ると、目の前に(でも遠いなあ…)テーブルの向かい側で立つドイツがいて、その姿をじいいっと見る。 てきぱきと会議を進め(ようとす)る姿がとってもかっこよくて、でも会議が進まないのは、いつものことだから、全然ドイツのせいじゃないよ! またいつもの喧嘩が始まって、会議は一端休止になって、昼休みにはいってすぐに、ドイツ!と叫びながらドイツに駆け寄ろうとするけれど、ドイツはなにやらオーストリアさんと真剣に話していて。 オーストリアさん怒らせると怖いしなあと待っていると、イタリア君、と呼びかけられた。 そう呼ぶのは世界に一人しかいない。振り返ると、ほら。 穏やかに微笑む、黒髪の青年の姿。 「日本!久しぶり!」 「お久しぶりです、イタリア君。お元気そうでなにより。」 「日本も。あ!綺麗に咲いたよ〜ありがとう!」 「え…ああ、この間差し上げた花の苗ですか?」 「うん!」 しばらく日本と話をしていると、不意に日本が、あ、と呟いた。 その視線を追って振り向くと、ぱたん、と閉じるドア。 さっきまでいたはずの、ドイツもオーストリアさんもいなくて。 「ドイツ!」 「…お忙しい、ようですね…イタリアくん、昼食は私とでどうですか?」 日本の声に、ドイツと一緒にご飯食べたかったな、と残念に思いながら、パスタがいい!と明るく手を上げた。 午後からの会議が始まって、はああ、とため息をつく。 昼休み中、どこを探してもドイツは見つからなくて、会議が始まる直前になってやっと戻ってきた。 ううう、ハグしたいようキスしたいよう、テーブルに顎をのっけて、またじい、とドイツを見る。いつものケンカを(ドイツの怒声で)終えて、満足したらしく、みんな真面目に聞いているため会議はちゃんと進みはじめている。 資料を読み上げるドイツの声。…ちょっと、かれてる?目の下にはクマができているし、前よりも、少しだけど、痩せた、ような気がする。 仕事、ずっとしてたんだろうな。俺が行ったときだって、無理矢理連れ出さないと、仕事をやめてくれなかった。止める人がいなかった、間は。きっと、寝る間も惜しんで仕事をしていたんだろう。 …今日、行くのも、ダメかな。もしかして。言ってないけど。邪魔、かな。帰れって言われたら、どうしよう。 そう考えていると、だんだん悲しくなってきて。 うつむいて、はあ、とまたため息をついて、ドイツをまた見て、あ。と小さく呟いてしまった。 気づいてしまった。 いつもなら、会議中でもたまにこっち見てくれて、手を振ったら仕方ないな、と笑ってくれるくらいしてくれるのに。 今日、全然目、合わない。 朝から、ついてないんだと思ってた。ドイツとしゃべったりハグしたりキスしたりできないのは、運が悪かっただけだって。 でも、もしかして、わざと? 俺、ドイツに避けられてた? 気づいてしまったことにすごいショックを受けて、会議の内容も全然耳に入らなくて(まあそれはいつものことだけど)、しょぼんとしたまま、今日は帰ろう、と終わりを告げられたと同時に立ち上がり、ドアを目指して。 ぐい、と襟首を強くつかまれた。 「ヴェ!」 一瞬息がつまって、その次の瞬間には、世界が回った。 何が起こったのかさっぱりわからなくて、ただただ瞬きする。 ふに、と手が柔らかいものにあたる、なんだか覚えのある感覚に、ようやっと、ドイツに肩に担ぎ上げられている、と気がついた。 「ど、ドイツ?」 声を掛けるけれど、答えは返ってこない。 なんだか、怒っているようなオーラを発しながら、俺を担いでいるにもかかわらずすごいスピードでどこかへ向かっている。 「ね、ねえ、ドイツ、ドイツってば!」 だんだん不安になってきて、呼ぶのにやっぱり答えはなくて、ああ、怒ってるんだ、と怖くなってくる。 「ドイツ、ごめん、ごめんなさい、謝るから、怒らないで」 何に怒っているのかわからないけれど、謝る。でも、ドイツは何も言わない。 じわ、と涙がにじんできた。ドイツが、俺が泣き虫なの好きじゃないの知ってるけど、止まらない。 涙で、視界がさえぎられる。ここがどこかもうわからない。 がちゃんばたん、と何か音がするけれど、なにかはわからない。 ドイツは、何も言わない。 涙が、頬をつたった。 「…謝るから、嫌いにならな、わっ!」 いきなり、放り投げられた。 背中から倒れこむけれど、痛くはなくて、ぼふん、とした感触に、そこがベットの上だと気がつく。ここ、寝室だ。ドイツのうちの。 ぎし、と音をたてて、ドイツが顔の両隣に手をついた。 「ど、ドイツ?」 やはり返事はない。 けれど、代わりに。 頬に、温かい、柔らかい感触。 びくっと身をすくめると、涙をたどるように、頬をしめった、ざらざらしたものがなぞって。 舐められ、てる? 気づいて、え、なんで、とか思ってるうちに、もう片方もなめられて、それから、額に、瞼に、頬に、鼻に、たくさんキスが降ってくる。 何が起こっているのかわからなくて、どいつ、と名前を呼ぶと、開いた下唇を食まれた。 それから、唇にもキスが降ってきて、勢いが強くてがち、と歯と歯がぶつかって、痛!と上げた声はドイツの口の中。ぬる、とからんでくる舌。ちょっと鉄の味がする。 でも、そんなこと、久しぶりの感覚の前に吹き飛んで。 腕をのばして、ドイツの首にしがみついて、呼吸をするのも忘れるくらい夢中でキスを交わして。 はあ、と口を離すと、大好きな蒼い瞳がまっすぐにこっちを見ていた。 その色に見入っていると、ぼす、とその顔が、というか、ドイツの全身がベットに寝っ転がってる俺の上に落ちてきて、思わずドイツ重い〜!と悲鳴を上げた。 すると、ドイツに抱き寄せられて、そのまま転がって、ベッドに横向きに寝る形で落ち着いて。 すり寄せられる、整えられていた前髪が、俺の肩でぐしゃぐしゃになっていく。 「…ど、いつ?」 「…イタリア。」 やっと、呼ばれた。俺の名前を呼ぶ、低くて世界一かっこいい、ドイツの声! それだけでまた、止まっていた涙があふれだしてきた。 「ドイツ…っ!」 ぎゅ、とたくましい腕に顔をうめる。 ああ、ドイツの匂いがする。ドイツのぬくもりがする。 なんて幸せなんだろう! ドイツがはああ、と盛大なため息をついて、泣かせてしまってすまない、と言うので、首を横に振る。そして、自分の考えていたことを思い出してしまった。 「…あの、ドイツ、今日俺のこと避けてた?」 怖かったけど、顔を上げて聞いてみると、ドイツは気まずそうに顔をそらして、また、すまない、と呟いて。 「どうして!?」 俺すごい悲しかったんだよ!と、訴える。 すると、ドイツは何も言わず、また、俺の上に覆いかぶさって。 「…ドイツ?」 何故か目を瞑ったドイツに声をかける。 「…自信が、なかったんだ。」 自信?と首をかしげると、ゆっくりと、目を開いた。 蒼い瞳が、何故かひどく熱くて、まるで炎を宿しているよう! 「会議が終わるまで、耐え切る自信が、だ。」 低い声でそう告げられて、何に耐えるのかわからなくてヴェ?と逆方向に首をかしげると、頬に手が触れて、また深く口付けられた。 今度はその間に、手が耳やら首やら腰やらくるんやら、怪しい動きでなでるので、やっと何の話かわかって、いいよ、という代わりにドイツにぎゅうう、と抱きついた。 戻る |